二酸化炭素

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二酸化炭素
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識別情報
CAS登録番号 124-38-9
EC番号 204-696-9
E番号 E290 (防腐剤)
RTECS番号 FF6400000
特性
化学式 CO2
モル質量 44.01 g/mol
外観 無色気体
密度 1.562 g/cm3 (固体, 1 atm, −78.5 °C)
0.770 g/cm3 (液体, 56 atm, 20 °C)
0.001977 g/cm3 (気体, 1 atm, 0 °C)
融点

−56.6 °C, 216.6 K (5.2 atm[1])

沸点

−78.5 °C, 194.7 K (760 mmHg[1], 昇華)

への溶解度 0.145 g/100cm3 (25 °C, 100 kPa)
酸解離定数 pKa 6.35
構造
結晶構造 立方晶系(ドライアイス)
分子の形 直線型
双極子モーメント 0 D
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −393.509 kJ mol−1
標準モルエントロピー So 213.74 J mol−1K−1
標準定圧モル比熱, Cpo 37.11 J mol−1K−1
危険性
引火点 不燃性
関連する物質
その他の陰イオン 二硫化炭素
その他の陽イオン 二酸化ケイ素
二酸化ゲルマニウム
二酸化スズ
二酸化鉛
関連する化合物 一酸化炭素
炭酸
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

二酸化炭素(にさんかたんそ、: carbon dioxide)は、化学式CO2 と表される無機化合物である。最近では、化学式から「シーオーツー」と呼ばれる事も多い。

地球上で最も代表的な炭素酸化物であり、炭素単体や有機化合物燃焼によって容易に生じる。気体炭酸ガス固体ドライアイス液体は液体二酸化炭素、水溶液炭酸炭酸水と呼ばれる。

多方面の産業で幅広く使われる(後述)。日本では高圧ガス保安法容器保安規則第十条により、二酸化炭素(液化炭酸ガス)の容器(ボンベ)の色は緑色と定められている。

性質

二酸化炭素の状態図 1:固体、2:液体、3:気体、4:超臨界状態、A:三重点、B:臨界点

常温常圧では無色無臭の気体。常圧では液体にならず、-79 °C昇華して固体(ドライアイス)となる。水に比較的よく溶け、水溶液(炭酸)は弱酸性を示す。このためアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液および固体は二酸化炭素を吸収して、炭酸塩または炭酸水素塩を生ずる。高圧で二酸化炭素の飽和水溶液を冷却すると八水和物 CO2·8H2O を生ずる。

アルカリ金属など反応性の強い物質を除いて助燃性はない。炭素を含む物質(石油石炭木材など)の燃焼、動植物の呼吸微生物による有機物の分解、火山活動などによって発生する。反対に植物光合成によって二酸化炭素は様々な有機化合物へと固定される。

また、三重点 (-56.6 °C、0.52 MPa) 以上の温度と圧力条件下では、二酸化炭素は液体化する。さらに温度と圧力が臨界点 (31.1 °C、7.4 MPa) を超えると超臨界状態となり、気体と液体の特徴を兼ね備えるようになる。これらの状態の二酸化炭素は圧縮二酸化炭素または高密度二酸化炭素と呼ばれている。

毒性

二酸化炭素は環境中にごくありふれた物質で、その有毒性が問題となることはまずない。しかし、空気中の二酸化炭素濃度が高くなると、人間は危険な状態に置かれる。濃度が 3~4 % を超えると頭痛めまい・吐き気などを催し、7 % を超えると炭酸ガスナルコーシスのため数分で意識を失う。この状態が継続すると麻酔作用による呼吸中枢の抑制のため呼吸が停止しに至る(二酸化炭素中毒)[2]

ストレスや疲労で、呼吸(換気)をし過ぎたり、呼吸(換気)が速くなり過ぎたりして、人体の血中の二酸化炭素濃度が異常に低くなることがあり、これを過呼吸、あるいは過換気症候群(過呼吸症候群)と呼ぶ。過換気症候群の病態自体が命に関わる事は無いが、背景に身体疾患が隠れていることがあるので注意を要する。

反応性

二酸化炭素は非常に安定な化合物であるが、塩基性あるいは求核性を持つ物質と反応しやすく、グリニャール試薬アルキルリチウムなどの試薬に対しては、高い反応性を示しカルボン酸を与える。

R-MgBr + CO2 → R-COOH (加水分解後)

また、金属マグネシウムは二酸化炭素中でも燃焼し、二酸化炭素は還元されて炭素の粉末になる。炭素、亜鉛および鉄でさえ、高温では反応し一酸化炭素を生成する。

CO2 + 2Mg → C + 2MgO

高温では可逆的に分解して、一酸化炭素および酸素となる。

2CO2 2CO + O2

水素とも高温で以下のような平衡を生ずるが、触媒の存在など条件次第では、メタンおよびメタノールを生成することもある。

CO2 + H2 CO + H2O

なお、学校教育の理科実験などで二酸化炭素を石灰水に通すと白濁する性質は広く知られている。これは炭酸カルシウムを生成するために白濁するものである。

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O

さらに、白濁した石灰水に二酸化炭素を通し続けると反応が進み液体は透明に変化する。これは水溶性の炭酸水素カルシウムを生成するためである。

CaCO3 + CO2 + H2O Ca(HCO3)2

生産

工業原料としての炭酸ガスは、石油化学プラントなどから排出されたものを回収し、洗浄・精製を繰り返すことで生産される[3]。工業製品としての炭酸ガスの 2004 年度日本国内生産量は 759,189 t、工業消費量は 143,788 t である[4]。実験室レベルでは石灰石に薄い塩酸を加えるか、炭酸水素ナトリウムを加熱することで発生させる。清涼飲料水で使用する炭酸ガスも石油由来のものを回収して使用している。

用途

二酸化炭素は炭酸飲料入浴剤、消火剤などの発泡用ガスとして、または冷却用ドライアイスとして広く用いられている。最近では自転車の緊急補充用エアーとしても使われるようになった。また、超臨界状態の二酸化炭素はカフェイン抽出溶媒として、コーヒーデカフェなどに利用されている。

工業で加工に使用するレーザーとして炭酸ガスレーザーが一般的である。炭酸ガスレーザーは医療用レーザーメスとしても使用されている。造船など鋼構造物の溶接作業には炭酸ガスアーク溶接が一般的である。またフロン冷媒の代替として、CO2 冷媒コンプレッサが主に自動販売機などで実用化されつつあるが、高圧にする必要があるためコスト面での課題が残る。またエネルギー効率も悪い。

農業においては、イチゴ促成栽培、観賞用水槽の水草など、植物の成長を加速させる二酸化炭素施肥に使用されている。鮮農産物のCA貯蔵(controlled atomosphere storage)にも二酸化炭素が使用される。

動物を殺処分する方法にも使われるが二酸化炭素単独では長時間苦しみ続ける窒息死になり安楽死にならない[要出典]

他に、ドライアイスは昇華時に白煙を生じることから、舞台演出などでも用いられる。これを放送業界などでは俗に『炭ガス』と呼ぶ。ちなみにこの白煙は二酸化炭素そのものではない(二酸化炭素そのものは無色)。温度の低下に伴い空気中の水分が氷結して見えるものである。

生産工場に於ける冷却用ドライアイスの新しい利用方法として、ドライアイス洗浄にも使用されている。

温室効果

ハワイ島マウナロア火山で観測された二酸化炭素の大気中濃度(Y軸が 310 ppm から始まっていることに注意。また周期的に濃度が上下しているのは、冬と夏とで植物が吸収する二酸化炭素の量が異なるためである。植物が枯れる冬は、夏に比べ植物の二酸化炭素の吸収量は低下する)。

二酸化炭素は赤外線の 2.5 - 3 μm、4 - 5 μm の波長帯域に強い吸収帯を持つため、地上からの熱が宇宙へと拡散することを防ぐ、いわゆる温室効果ガスとして働く。

二酸化炭素の温室効果は、同じ体積あたりではメタンフロンにくらべ小さいものの、排出量が莫大であることから、地球温暖化の最大の原因とされる(地球温暖化の原因参照)。

2006年現在の大気中にはおよそ381 ppm(0.038 %)ほどの濃度で二酸化炭素が含まれるが、氷床コアなどの分析から産業革命以前は、およそ280 ppm(0.028 %)の濃度であったと推定されている。濃度増加の要因は、主に化石燃料の大量消費と考えられている(IPCC第4次評価報告書参照)。

また、二酸化炭素そのものの海水中への溶存量が増えることによって海水が酸性化し、生態系に悪影響を与える海洋酸性化も懸念されている(地球温暖化の影響も参照)。

1997年には京都議定書によって二酸化炭素を含めた各国の温室効果ガス排出量の削減目標が示され、各国でその削減を努力することを締結した。

その手法は多岐に亘る。エネルギー農業畜産業など人為起源の二酸化炭素の排出量を抑制する努力、および森林の維持・育成や二酸化炭素回収貯留 (CCS) 技術の開発など、二酸化炭素を固定する努力が進められている。また排出権取引などを活用して、世界的に二酸化炭素の排出量を削減を促進する努力も行われている。(地球温暖化への対策参照)

しかし、氷床コアから推定される過去数十万年間の気温変動と二酸化炭素濃度データでは、気温の変化の後に二酸化炭素濃度が上昇しており、この点についての十分な説明がないなど、様々な観点から批判する意見もある(地球温暖化に対する懐疑論参照)。

このような様々な見地からの検証を排斥する態度から、二酸化炭素の地球温暖化への影響は実際には小さく、政治・経済の取引に利用されているだけだという見解もある。

2013年5月、ハワイ州マウナロア観測所サンディエゴのスクリップス海洋研究所の観測で日間平均二酸化炭素量が人類史上初めて400ppmを突破したことが発表された[5]

有機合成反応の開発

東京工業大学岩澤伸治教授らは、二酸化炭素を炭化水素と反応させる有機合成反応を開発した。触媒としてロジウムを用い、炭素と水素の結合を弱めて反応させる。大気圧で反応が進むが、特定の化合物やアルミニウムが必要になるなどの実用化に向けた課題もある。[6]

関連項目

参考文献

  1. ^ a b Merck Index 12th ed., 1857.
  2. ^ http://www.fri.go.jp/suppression/co2.html
  3. ^ 昭和電工ガスプロダクツによる解説または日本液炭による解説
  4. ^ 日本国 経済産業省・化学工業統計月報
  5. ^ 大気中のCO2量が歴史的水準を突破、専門家らが行動を呼びかけ”. AFP (2013年5月11日). 2013年5月11日閲覧。
  6. ^ 2011年1月25日の朝日新聞朝刊22面

外部リンク