スバルグローバルプラットフォーム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Anakabot (会話 | 投稿記録) による 2022年11月16日 (水) 11:58個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (セクションリンク修正)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

スバルグローバルプラットフォーム
5代目スバル・インプレッサ・ハッチバック。スバルグローバルプラットフォームを使用した最初の車両
概要
製造会社 SUBARU
製造期間 2016年 - 現在
時系列
前身 SIシャシー[1]

スバルグローバルプラットフォーム: Subaru Global Platform、略称: SGP)は、SUBARUによって製造されるほぼ全てのモデルで使われるモジュール式ユニボディ英語版自動車プラットフォームである。2016年に5代目スバル・インプレッサから使われ始めた[2]。それ以前のスバルのプラットフォームと比較したSGPの主な動的恩恵は強度の向上、剛性の増大、重心の低下である。加えて、共通プラットフォームへの移行により生産がより柔軟かつより効率的となる。つまり、既存の生産ラインが大幅な再構成なしに別モデルの生産要求に応えることができ、共通部品はモデル間で再使用できる。

2021年現在、SGPはSUBARUによって製造、販売されているほぼ全ての車両を支えている。2021年に2代目WRXが発表されたことで、SGPへの移行が完了した。他メーカーによって製造されるSUBARUブランドのモデル(ジャスティ軽自動車モデル)および共同開発されたスバル・BRZ/トヨタ・86はSGPを使用していない。

設計

SGPは1980年代末の初代レガシィ英語版の開発以降では初の完全に新規なスバル車用プラットフォームである。それまでは、元のレガシィのプラットフォームの派生プラットフォームを使用しており[3]、大幅に刷新されたのは2000年代初頭の4代目レガシィが最後であった[4]レガシィ派生プラットフォームは2007年にSIシャシー(SUBARU Intelligent-Chassis)という名称を与えられた[5][6]。「SIシャシー」は完全独立懸架(サスペンション)を備えていた(前はストラット式、後ろはダブルウィッシュボーン式)。SGPはSIシャシーと同じく前部ストラット式/後部ダブルウィッシュボーン式サスペンションを維持しつつ、剛性を向上するために改良を行った[7]:4

4代目インプレッサプロジェクトの開発責任者、阿部一博はSGPへの移行はレオーネからレガシィへの転換に匹敵する世代交代であったと述べた[8]5代目インプレッサは4年をかけて開発された。開発費は10億ドルがかけられ、その大部分がSGPの開発に費やされた[9]。SGPは、「床下骨格をトラス状に配置し、前から後ろまでサイドメンバーの断点を作らずボディを貫通させることで、前後サスペンションの荷重伝達や前後衝突荷重の合理的な支持を実現。フロアトンネルの強化や、リヤフロアまわりに配置された骨盤のような骨格によって、旧プラットフォーム比で剛性を約2倍に高めた」[10]。構造用接着剤が床パネルと側面保護補強材(サイドメンバー)を接合するために使われている。590 MPa級の引っ張り強度を持つ熱延鋼板がサイドメンバー、サイドシル、およびピラーに使われ、乗員室を保護するために1470 MPa級の鋼材で強化されている[7]:2。SUBARUは、SGPが車両の「動的質感」を向上させ、以下のような特定の利益をもたらす、と主張している[11][12]

  1. まっすぐ走れる(直進安定性)— 剛性の改善と重心の低下による
  2. 不快な振動騒音がない — ねじれ剛性を高めるためのフレーム強度と接合工程の改善による
  3. 快適な乗り心地 — リヤスタビライザーをボディ直付けにすることによるロール量の低減による

加えて、パッシブセーフティ(予防安全)およびアクティブセーフティ(衝突安全)機能の両方がSGPへの移行によって改善されている。これは、重心の低下と高張力鋼の使用による。これらによってそれ以前のモデルと比較して衝撃エネルギーを40%多く吸収する構造が可能となった[11]。SGPは歩行者保護エアバッグも装備している[4]。SGPを使用した最新モデルの衝突試験ユーロNCAPでは、インプレッサおよびXV(2016年、2017年、小型ファミリーカー)、ならびにフォレスター(2018年、小型オフロード/MPV)がその年に試験された全ての自動車の中で各クラスで最高の衝突安全性能を持つ、と評価された[13][14]JNCAPもインプレッサ、XV、およびフォレスターに衝突安全性能評価で最高の5つ星を与えた[15]

SGPは、従来型の内燃機関ハイブリッドバッテリー電気駆動などの異なる駆動系に適合するように設計された[11]。当初の計画には将来的にSGPを使った電気自動車の開発が盛り込まれていたものの[16]、スバルとトヨタは2019年6月に新たなプラットフォームでCセグメントバッテリー電動SUVを共同開発することを発表した[17]。2020年12月、スバルは次期SUV(2021年に発表されたトヨタ・bZ4X/スバル・ソルテラ)がSGPではなくトヨタのe-TNGAプラットフォームに基づくことを追認した[18]

適用

トヨタと共同開発された2代目スバル・BRZ/トヨタ・GR86はSGPとトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)プラットフォームのどちらも使用せず、初代BRZ/86のSIシャシー派生プラットフォームを引き継いでいる[27]一方でスバルグローバルプラットフォームの開発から得た知識と技能を取り入れ、さらにインナーフレーム構造や構造用接着剤などの採用によりボディを再構築している[28]

出典

  1. ^ “最近よく聞く「グローバルプラットフォーム」 何がいいの? 賞味期限は? [What do you like about the 'global platform' that you often hear these days? Best before?]”. Best Car. (2020年4月29日). https://bestcarweb.jp/news/entame/148180?prd=3 2021年4月8日閲覧。 
  2. ^ Stoklosa, Alexander (2016年3月7日). “Subaru Global Platform Debuts, Will Underpin All Future Subarus”. Car and Driver. https://www.caranddriver.com/news/a15349746/subaru-global-platform-debuts-will-underpin-all-future-subarus/ 2021年4月8日閲覧。 
  3. ^ 開発ストーリー|スバルグローバルプラットフォーム 篇” [Development Story | Subaru Global Platform]. Subaru of Japan. 2021年4月8日閲覧。
  4. ^ a b 井上正彦 (15 August 2017). "【インタビュー】スバル新型「XV」にSUV初採用したSGPのメリットとは?". Car Watch (Interview). Interviewed by 谷川 潔. 2021年4月9日閲覧
  5. ^ "スバル フォレスターをフルモデルチェンジ ~新世代クロスオーバー「NEW フォレスター」を発売~" (Press release). 富士重工業. 25 December 2007. 2021年5月6日閲覧
  6. ^ 松田秀士 (2015年7月1日). “スバル「インプレッサ スポーツ」「インプレッサ G4」(2014年モデル)”. Car Watch. https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/709354.html 2021年4月8日閲覧。 
  7. ^ a b “スバル・インプレッサのメカニズムを徹底解説!-スバルグローバルプラットフォーム(SGP)”. Motor Fan. (2018年9月8日). https://motor-fan.jp/article/10005431 2021年4月9日閲覧。 
  8. ^ 阿部一博 (31 March 2016). "【インタビュー】スバル 新型「インプレッサ」開発主査 阿部氏に聞く". Car Watch (Interview). Interviewed by 真鍋裕行. 2021年4月8日閲覧
  9. ^ Lyon, Peter (2016年9月21日). “Subaru's New Impreza Cost $1B -- Was It Worth It?”. Forbes. https://www.forbes.com/sites/peterlyon/2016/09/21/subarus-new-impreza-cost-1b-was-it-worth-it/ 2021年4月9日閲覧。 
  10. ^ MotorFan編集部 (2020年8月21日). “俊敏な走りの秘密はボディ&シャシーにあり! フルインナーフレーム構造と電子制御ダンパーを採用【スバル新型レヴォーグ詳密解説】”. 2021年5月5日閲覧。
  11. ^ a b c "FHI Unveils the 'Subaru Global Platform' — Subaru's next-generation platform to achieve significant enhancement in overall vehicle performance" (Press release). Subaru Global Media. 7 March 2016. 2021年4月8日閲覧
  12. ^ "次世代のクルマづくりを支えるスバルグローバルプラットフォームの革新性" (PDF) (Press release). アニュアルレポート2016. 富士重工業. 2021年4月19日閲覧
  13. ^ Best in Class Cars of 2017”. Euro NCAP. 2021年4月8日閲覧。
  14. ^ Best in Class Cars of 2019”. Euro NCAP. 2021年4月8日閲覧。
  15. ^ “All-new Subaru Forester wins Grand Prix award for earning the highest score in 2018-2019 JNCAP collision safety performance assessment”. Automotive World. (2019年5月30日). https://www.automotiveworld.com/news-releases/all-new-subaru-forester-wins-grand-prix-award-for-earning-the-highest-score-in-2018-2019-jncap-collision-safety-performance-assessment/ 2021年4月9日閲覧。 
  16. ^ Walsworth, Jack (2018年9月3日). “Subaru adds models to global platform”. Automotive News. https://www.autonews.com/article/20180903/OEM04/180909979/subaru-adds-models-to-global-platform 2021年4月8日閲覧。 
  17. ^ "Toyota and Subaru Agree to Jointly Develop BEV-dedicated Platform and BEV SUV" (Press release). Toyota Global Newsroom. 6 June 2019. 2021年4月8日閲覧
  18. ^ Raynal, Wes (2020年12月15日). “Subaru Confirms EV for Europe”. Autoweek. https://www.autoweek.com/news/green-cars/a34967618/subaru-confirms-ev-for-europe/ 2021年4月8日閲覧。 
  19. ^ "World Premiere of All-New Subaru Impreza at New York International Auto Show" (Press release). Subaru Global Media. 24 March 2016. 2021年4月8日閲覧
  20. ^ "World Premiere of All-New Subaru XV at 2017 Geneva International Motor Show" (Press release). Subaru Global Media. 7 March 2017. 2021年4月8日閲覧
  21. ^ "Subaru Debuts All-New Ascent 3-Row SUV" (Press release). Subaru Global Media. 29 November 2017. 2021年4月8日閲覧
  22. ^ "World Premiere of All-New 2019 Subaru Forester at New York International Auto Show" (Press release). Subaru Global Media. 29 March 2018. 2021年4月8日閲覧
  23. ^ "World Premiere of All-New 2020 Subaru Legacy Sedan" (Press release). Subaru Global Media. 8 February 2019. 2021年4月8日閲覧
  24. ^ "World Premier of All-New 2020 Subaru Outback" (Press release). Subaru Global Media. 18 April 2019. 2021年4月8日閲覧
  25. ^ "SUBARU 新型「レヴォーグ」を発表" [Subaru Announces New 'Levorg'] (Press release). Subaru Global Media. 15 October 2020. 2021年4月8日閲覧
  26. ^ スバルが新型「WRX」を世界初公開 従来モデルから車両構造を全面刷新”. WebCG (2021年9月10日). 2021年9月12日閲覧。
  27. ^ 真鍋裕行 (2011年3月7日). “【2011ジュネーブショー】スバル、FRスポーツの技術コンセプトモデル「ボクサー スポーツカー アーキテクチャ」”. Car Watch. https://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/2011geneve/431432.html 2021年4月8日閲覧。 
  28. ^ carview! (2021年4月19日). “スバル新型「BRZ」は9年ぶり全面刷新でどう変化? 令和のスポーツカーにふさわしい進化とは”. 2021年4月19日閲覧。

外部リンク