クワイ

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クワイ
クワイの葉
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: オモダカ目 Alismatales
: オモダカ科 Alismataceae
: オモダカ属 Sagittaria
: オモダカ S. trifolia
品種 : クワイ S. t. 'Caerulea'
学名
Sagittaria trifolia L. 'Caerulea'[1]
和名
クワイ
英名
Threeleaf Arrowhead

クワイ慈姑、学名:Sagittaria trifolia L. 'Caerulea')は、オモダカ科オモダカ属の水生多年草であるオモダカ栽培品種である。別名田草燕尾草(えんびそう)、クワエともいう。歴史が古いことや葉の形から、地方では様々な呼び方がされている[2]日本などで食用にされる。

語源

クワイの語源は、収穫した外観が農機具の(クワ)に似ていることから「鍬芋」(くわいも)と呼ばれたのが、転訛してクワイになったという説[3]や、河芋(かわいも)が変化したという説やクワイグリから転じた等の伝承がある。

大陸から伝わった根菜の一つで、ベトナム語では根菜を一般にkhoai[注 1]と表記し、語感的には「くわい」と聞き取れる事から、そのままその呼び名が日本に入って来たと考えられる[要出典]

分布

クワイの原産地は中国とされている[4]アジアをはじめ、ヨーロッパアメリカなど、世界中の温帯から熱帯に広く分布するが、野菜として栽培されているのは中国と日本に限られる[4]

野生種は東南アジア原産とされているが、栽培品種は中国で作られた[2]。日本では、江戸時代から盛んに栽培されていた[5]

形態・生態

単子葉多年生水生植物で、草丈は110 - 125センチメートル (cm) になる[4]。葉は、長さ30 cmの切り欠きがない矢尻形で、葉身の内部は海綿状の組織になっている[4]匍匐茎の各節から発生し、長さ60 - 80 cmまで伸びる[4]。匍匐茎にも節があり、そこから二次匍匐茎が2 - 3本発生する[6]。匍匐茎の先端部には塊茎が着生し、原種のオモダカに比べて、より大きな塊茎がつく。塊茎は青味を帯びて水平に節輪があり、薄い鱗片に包まれて、先端部に長さ5 - 6 cmの頂芽がつく[6]。雌雄異花[6]円錐花序を出して、白い花弁のあるがつく[6]。花後はほとんど結実しない[6]

クワイの発芽は植え付けが行われる7月上旬ごろで、発芽温度は13 - 15度以上である[6]。クワイの生育経過は、発芽から葉数増加期の栄養生長期(7 - 8月)と、匍匐茎発生から塊茎肥大期までの生殖生長期(8月下旬 - 11月中旬)に分けることができる[7]。栄養生長期における生育適温は20 - 30度であるが、葉数の増加する速度は温度に影響され、高温条件で促進される[7]。生殖生長期における匍匐茎の発生は、本葉が14 - 15枚展開した後で行われ、その後茎葉の展開ごとに匍匐茎が1本発生する[7]。匍匐茎の伸長が終わると、2枚の苞に包まれて塊茎を形成するが、日が短くなり15度くらいの低温に遭うことによって肥大が開始される[7]。茎葉は霜に遭うことで枯死するが、水面下では塊茎の肥大が晩秋まで行われる[7]

種類

クワイの栽培品種は青藍色の青クワイ、淡青色の白クワイ、小粒の吹田クワイの3種類があり[8]、いずれも水田で栽培される。植物学者の牧野富太郎は、渡来系とは別に日本で栽培品種化されたオモダカの変種として学名を与えている[9]

青クワイ
日本で栽培されている主流となる品種で、草丈はやや低く、葉は中葉で緑色。塊茎は偏球形で外皮が青色を帯びる[10]。青クワイのうち、塊茎の底が平らな系統を「新田クワイ」、やや腰高で円球系の系統を「京クワイ」という[10]。ほくほくとした食感が特徴である。
白クワイ
中国で多く栽培される品種で、日本ではほとんど見られない。草丈は高く、葉は大型で淡緑色[10]。塊茎は白色を帯び、円球形で、青クワイに比べて肉質がかたく、シャリシャリとした食感が特徴[11]。味は淡泊で苦味が強い[10][8]。中華料理の材料に利用される[10]
吹田クワイ
最もオモダカの野生種に近く、塊茎は小型であるが肉質が緻密で苦味が少なく、食味がよいとされる[10][8]。オモダカの1系統とも言われている[10]

歴史

クワイが日本に渡来した時期は不明であるが、8世紀の奈良時代には、日本にも存在していたと考えられている[4]江戸時代に生産と利用が盛んになり、主産地は京都、大阪、江戸周辺と考えられているが、その実態についてはよくわかっていない[4]。江戸時代中期の天明の大飢饉には、救荒作物としての役割を果たしている[4]

明治時代は、京都、大阪、埼玉、東京、茨城、千葉が主な生産地となる[4]昭和太平洋戦争中は戦時下の統制品の一つになり、クワイ栽培は抑制された[4]。戦後は栽培が復活したが、都市化が発展するとともに、戦前よりも栽培面積は縮小した[4]。1970年(昭和45年)からの稲作転換政策により、転換作物としてクワイの作付面積が一時的に増えたが、その後は少しずつ減少を続けている[4]

栽培

生育期間中の圃場を冠水状態にすることが重要で、水利の便がよいことが条件となる[12]。土壌は泥炭土、細粒グライ土の半湿田が適しており、黒ボク土や砂質土では収量が落ちる[12]。気象条件は、全期間を通して温暖であること、塊茎肥大期に1日の気温の差が大きいほど、充実したよい塊茎ができる[12]。日本では、関東南部以南が栽培適地である[10]

クワイの植え付けは、前年に収穫して冷蔵保存しておいた塊根を使うが、植え付け1週間前に冷蔵庫から取りだして直射日光に当てないで乾燥しないように外気に慣らす[13]。クワイ畑は4月に耕して、6月下旬 - 7月の植え付けの2週間前に水を張り、代かきをして水田のようにしてから塊根が植え込まれる[14]。2週間後には、オモダカに似に葉が出て、7月下旬ごろから9月にかけて、茎葉が旺盛に生長する[14]。この生長期のあいだに、追肥と、茎葉を適度に間引く「葉かき」、地下茎を一部切断する「根回し」を行うことにより、根茎が充実して大きさも揃うようになる[14]。また水の管理も重要で、植え付け直後と秋期は水深5 cmの浅水、生長期の夏場は6 - 9 cmのやや浅水で、水を切らさないように管理が行われる[12]。晩秋に気温が下がって葉が霜枯れするようになると、塊根の肥大が止まって収穫期を迎える[14]

収穫方法はレンコンと同様で、動力ポンプを使った水圧で、水面下の泥の中の根茎を掘り起こして、水面に出てきた根茎を茎から切り離し、芽を傷つけないようにして収穫する[8]。もしくは、水を落として地上部は刈り取り、収穫まで一旦圃場を冠水状態にして、収穫するときに水を完全に落としてから根茎を掘り採る方法が行われる[15]。翌年に植え付けるために確保する種球は、地下穴に貯蔵するむろ貯蔵、または冷蔵庫貯蔵によって行われる[16]

病虫害は、生育中期に発生する赤枯病葉枯病、9月以降のアブラムシなどがあり、収量に大きく影響する[16]。植え付け直後は、カルガモによる食害を受ける場合もある[16]連作障害は少ないが、赤枯病発生の圃場への連作は避けられる[10]

産地

日本における主要な生産地は、広島県と埼玉県の2県で市場の8割以上を占める[14]。生産量日本一は広島県福山市で、昭和初期にイグサの後作として広まり、1955年ごろに特産品として定着した[14]。需要が多い正月に合わせて栽培されるため、11月下旬から12月にかけて出荷のピークを迎える[14]。作型の分化はほとんどみられず、一部で植え付け時期を早めた早熟栽培(9月 - 10月出荷)が行われている[10]

利用

クワイの塊茎。「芽が出る」ということでおせち料理などにおいて縁起物とされる

欧米では観賞用が主である。日本と中国では塊茎を食用とし、特に日本では「芽(目)が出る」につながる縁起の良い食物と評され、煮物にしておせち料理などで食べられる習慣があるため、世界でも日本で最も普及している[2][5]

食材としてのは11月 - 4月で、芽がきれいな形に伸びて、全体にツヤがあるものが市場価値の高い良品とされる[5]。芽が出た姿を活かして、芽は先端を斜めに切って残し、塊茎は底の部分を薄く切って整えたら皮をむいて水にさらし、アクを抜いてから調理する[5]。シュウ酸を含むので特有の苦味があり、これを除くためにのとぎ汁で一度茹でこぼすのがよい[18]クリユリ根に似たほのかな甘味とほろ苦さがあり[8]、含め煮にしてほっくりとした食感を楽しむのが一般的である[5]。ほかに、揚げ物鍋物にも使う[18]。加工品としては、クワイチップスや、クワイ焼酎がある[4]

栄養素は炭水化物が多く、可食部100グラム (g) あたりの熱量は約125キロカロリー (kcal) と、野菜類の中では最も高くサツマイモに匹敵する[8]。炭水化物の他にカリウム葉酸カテキンなどを含む[19]。特にミネラルが豊富に含まれ、体内の余分なナトリウムを排出する働きがあるカリウムが、100 g中に600ミリグラム (mg) と極めて高い[8]リン(100 g中あたり150 mg)と亜鉛(同2.2 mg)も比較的豊富である[8]。ビタミン類では、ビタミンB1ナイアシン(ビタミンB3)、葉酸(ビタミンB9)などのビタミンB群が多い[8]。野菜としてはタンパク質の含有量が少ないのが特徴である[5]。強い灰汁はポリフェノール類で、抗酸化作用が期待できる[8]

加工品

埼玉県は広島県に次ぐ全国2位の生産量[20]を誇っているが、宅地開発などが進み近年は減少方向にある。県内最大の生産地である越谷市では地元の研究会がクワイを使った地ビールを世界で初めて作るなど、クワイの普及活動に努めている[21]。越谷市商店会連合会ではクワイを使った「縁起コロッケ」のご当地グルメ化を図っている[22]

広島県福山市ではスナック菓子「くわいっこ」[23]や、くわい焼酎「福山そだち」[24]が売られている。

大阪府吹田市では吹田くわいを使った、くわい焼酎「芽吹」[25]が売られている。

脚注

注釈

  1. ^ ベトナム語版wikipediaではkhoaiヤム(芋の一種)を指している。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) "Sagittaria trifolia L. 'Caerulea'",「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)、2015年9月20日閲覧。
  2. ^ a b c 原田治『中国料理素材辞典 野菜・果実編』柴田書店、
  3. ^ eヘルシーレシピ:クワイ/慈姑」第一三共株式会社、2015年5月27日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m 農文協編 2004, p. 87.
  5. ^ a b c d e f 主婦の友社編 2011, p. 244.
  6. ^ a b c d e f 農文協編 2004, p. 88.
  7. ^ a b c d e 農文協編 2004, p. 89.
  8. ^ a b c d e f g h i j 講談社編 2013, p. 163.
  9. ^ 吹田くわいの学術研究 吹田にぎわい観光協会
  10. ^ a b c d e f g h i j 農文協編 2004, p. 91.
  11. ^ 講談社編 2004, pp. 58–59.
  12. ^ a b c d 農文協編 2004, p. 90.
  13. ^ 農文協編 2004, p. 92.
  14. ^ a b c d e f g 講談社編 2013, p. 162.
  15. ^ 農文協編 2004, p. 94.
  16. ^ a b c 農文協編 2004, p. 95.
  17. ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 92.
  18. ^ a b 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 127.
  19. ^ 食のはなし クワイ(インターネットアーカイブ2007年12月14日分キャッシュ) - JA津安芸
  20. ^ あたらしいクワイの世界”. 2013年2月11日閲覧。
  21. ^ 越谷の特産品 くわい - 越谷っ子
  22. ^ 「芽出たい」縁起コロッケでホクホク顔に 特産のクワイを使ったコロッケ、越谷で15日から販売『埼玉新聞』2018年1月3日(2018年7月17日閲覧)。
  23. ^ 福山のくわいっこ、正月にお馴染みのクワイがスナックで登場 - 食べタインジャー
  24. ^ お知らせ ふくやま心地セット販売中 - JA福山市
  25. ^ 吹田くわい焼酎『芽吹』 - 吹田にぎわい観光協会

参考文献

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 講談社編『旬の食材:秋・冬の野菜』講談社、2004年。ISBN 4062701367 
  • 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、162 - 163頁。ISBN 978-4-06-218342-0 
  • 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、244頁。ISBN 978-4-07-273608-1 
  • 農文協編『野菜園芸大百科 第2版 20:特産野菜70種』農山漁村文化協会、2004年3月31日、87 - 95頁。ISBN 4-540-04123-1 

関連項目

  • 百川 (落語) - 落語の演目。慈姑の金団(きんとん)が小道具として登場。「具合をぐっと飲み込んで」と頼まれ、勘違いして慈姑の金団を丸呑みしてしまう。

外部リンク