白リン弾

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白リン弾(白燐弾、はくリンだん)は、手榴弾砲弾爆弾の一種で、充填する白リンが大気中で自然燃焼すると吸湿して透過性の極めて悪い五酸化二リンの煙を発生させることを利用した、煙幕発生装置である。限定的な照明効果および焼夷効果を持つ場合もある[1]陸上自衛隊では、白リン弾を発煙弾としてのみ装備している。白リンの英名"White Phosphorus"の頭文字をとってWP発煙弾とも呼ばれる。 英語圏では白リンと黄リンが共に「White Phosphorus」と表記されるため、日本語訳する場合には白リン発煙弾黄リン発煙弾の二種類の訳が存在する。

アメリカ陸軍では WPWilly(ie) Peteウィリー・ピート)または Willy(ie) Peterウィリー・ピーター)と通称される。 発生する煙は赤外線センサーを妨害できないため、先進国では赤リン発煙弾に更新され旧式化している。

構造[編集]

M110 155mm WP弾などを例に取ると、信管が作動すると炸薬が爆発し、白リンを粉砕しながら弾殻を破裂させる。反応が進むとリン酸と水分子が水和したエアロゾルとなり、これが白い煙幕となって視界をさえぎる。

砲弾[編集]

M110 155mm WP弾(en:M110 155mm Cartridge
全長:70cm
重量:44.7kg
充填物:白リン7kg
射撃の動画
外見は通常の砲弾とほぼ同じ形をしているが、通常の砲弾と区別するために白地に黄色い線が引かれている。弾殻は金属製で中空の一体成形で、通常は弾頭信管を装着するネジ穴があけられている。内部には白リンが充填されており、その中心を貫通するように炸薬筒が内蔵されている。炸薬にはTNTが用いられるほか、テトリルオクトーゲンが採用されることもある[2]
M825A1 155mm WP弾
時限信管を使い空中で炸裂させ、白燐をしみこませたフェルト製の子弾116個を放出する発煙弾。子弾は自然発火して煙を発しながら落下する。イスラエル軍ガザ侵攻で使用したのはこの砲弾とされている。子弾には起爆装置などを持たないためクラスター爆弾には分類されない[3]

爆弾[編集]

1921年ウィリアム・ミッチェルによる実験。戦艦アラバマ (BB-8)に対して白リン爆弾を投下している

第一次世界大戦後から、航空機用の焼夷弾や発煙弾として白リンを用いた爆弾が使用されるようになったが、現在は焼夷弾としてはほとんど用いられていない[1]

迫撃砲弾[編集]

中央が81mm迫撃砲のM375A2白リン弾
81mm白リン弾
アメリカ軍では各種迫撃砲弾の発煙弾が第二次世界大戦から現在まで多用されてきた。
煙を見て着弾地点を観測したり、煙幕を張るために使用されるほか、煙幕で心理的な圧迫を与えて(煙で驚かせて)隠れ場所から敵兵士を追い出し、榴弾爆撃による追撃を行う「シェイクンベイク(シェイク・アンド・ベイク)」と呼ばれる戦法に利用される[3]

ロケット弾[編集]

中国製。装薬にアルミニウムを併用し、焼夷兵器としての効果を持つ[4]アフガニスタンの武装勢力などにもライセンス生産などで流通しているとされる[5]
  • 2.75インチ(70mm)白燐ロケット弾
アメリカ軍が保有。広範囲に煙幕を張る目的で連装ロケットランチャーで運用されている。

手榴弾[編集]

発煙手榴弾[編集]

現在アメリカ陸軍で使用されている多目的手榴弾の形状はやや太い円筒状で、若干下部が絞られている。焼夷、発煙両方の目的に使用される。外殻はプラスチックおよびファイバーで作られており、白リンの量は約425g、全体では約680gの重量がある。半径17m程度の範囲に破片を飛散させるが、この手榴弾における平均的な投擲距離は約30mとされ、効果範囲内にいる人員は遮蔽物の陰などに身を隠す必要がある。

M15白リン手榴弾(M15 White Phosphorus Grenade)
第二次世界大戦時に使用されていた。すべて退役してM34に更新されている。
内容物:白リン15オンス
信管:M206A2信管
重量:31オンス
効果半径:17m
燃焼時間:約60秒
M34白リン手榴弾(M34 White Phosphorus Grenade)
ベトナム戦争のころから2014年現在まで使われている。

焼夷手榴弾[編集]

テルミット反応を利用した物が主流で、リンを使用したものは無い。華氏4,000-5,000度の高温で燃焼するとされるのはテルミット弾で、リンの燃焼ではこれほどの高温は発生しない。

発煙弾発射機[編集]

戦車装甲車などに搭載されている発煙弾発射機で使用されている。 陸上自衛隊では74式戦車まで白リン発煙弾を用いていたが、90式戦車からは赤外線誘導兵器への妨害効果のある赤リン発煙弾に変更されている。 陸上自衛隊が毎年実施している総合火力演習でも観客の前で煙幕展開が実施され、観客が煙に巻かれた事例があるが、死者や負傷者は出ていない[3]

歴史[編集]

ガザ侵攻 (2009年)で使用された白リン弾の映像、アルジャジーラニュース.[1]

白リンを充填した砲弾の歴史は第一次世界大戦以前まで遡れるとされる。発煙弾照明弾焼夷弾に使用する目的で開発された。現代でも軍隊から不正規の武装勢力まで普通に運用している兵器であるが、焼夷弾としては、手榴弾を除いてほとんど使用されていない。

黄燐蒸気そのものは有害だが、短時間で五酸化燐と燐酸に変化するため屋外では無害。直接人体に触れた場合に治療困難な火傷を生じる性質や、それによる心理的作用を利用するため日本でも第一次世界大戦後に本格的に研究が行われていた[6]。昭和初期に日本軍が使用していた白燐弾は白リンを溶剤に溶解して散布する方式を採用しており、化学兵器砲弾と同じ容器に溶剤に溶解させたリンを詰めて使用していたとされる。

第一次世界大戦ではリンが空気に触れると自然発火する性質を利用して焼夷弾として使用されたこともあった。 人体に対しては有効な効果があり、理学博士の西澤勇志智は「頭上にこれを撒き散らされると炎の粒子となって降り注ぎ衣服に付着するとこれを振り払い消火することは困難である。大きな物は速やかに衣服を燃焼させ苦痛を伴う火傷を生じ容易に治癒しがたき物である」としているが、「燃焼温度が低く、リンの燃焼によって生じる酸化リンが耐火性保護物質[7]となってしまい燃焼を妨げるため建築物などに対する焼夷効果が低くテルミットなどに劣る」ともしている[6]

1899年ハーグ陸戦条約が採択されたが、白リン弾は制限されるべき兵器とは解釈されていない。 1939年からの第二次世界大戦でも広く使用された。また、アメリカ軍沖縄戦において塹壕やトンネル、洞窟などに潜伏する日本軍に対して、熱と煙で燻り出すという目的に使用している。

1997年4月に化学兵器禁止条約(CWC)が発効したが、白リンは対象に含まれない[8]

2005年イタリアのテレビ局RAIが米元兵士[9]のインタビュー番組において白リンを使用した兵器について触れ、これをBBCが世界的に配信した。RAIは「白リンを使用した兵器は(化学兵器禁止条約が禁止する)化学兵器に該当するのではないか」として国連化学兵器禁止機関(OPCW)を取材した。同機関のスポークスマンであるPeter Kaiserはこれを否定したが「もし白リンの有毒性が明確に兵器利用されているのであれば、もちろん禁止されているものとなります。なぜならば、条約の成立趣旨そのものが適用されるのであれば、どんな化学物質もその化学作用によって人や動物に危害や死を招くものであれば化学兵器とみなされるからです」と述べた。発端となったインタビュー番組に対しては、取材を受けた元兵士本人が、実際には白燐弾の使われた現場におらず被害者の死体も見ていない発言を都合よく編集されたと述べている[3]

イラク戦争においても使用され、アメリカ軍のBarry Venable中佐は白リン弾を焼夷兵器として対人使用したと証言している[10][11]

運用に関する議論[編集]

白リンによるとされる傷跡。化学火傷の一種で、傷口の周囲が黄色くなり、ニンニクのような匂いを伴う[12][13]。燐による化学火傷でなく、付着した燐を除去するため皮膚を抉った傷跡との見解もある[3]

2004年11月イラクファルージャにおけるアメリカ軍の攻勢や、2009年イスラエルによるガザ紛争に際して使用された白リン弾を「激しいやけどをもたらす非人道的兵器だ」として規制を主張する意見、それに対する反論が現れた。 白リン弾に関する情報は誤報も多く、現在の白リン弾の威力はマスコミが威力や効果を著しく誇大化する誤まった情報を伝え、それがネットで増幅された物であるとする意見もある[3]

規制すべきであるとする主張 必要ないとする主張
白リン弾は深刻な火傷をもたらす非人道的兵器である。 通常の化学火傷以上の「深刻な火傷」を発生させるという科学的根拠はない[11]。焼夷手榴弾を除き、白リンを使用した弾薬は発煙弾や照明弾として設計されており、殺傷力は通常の榴弾や他の焼夷兵器に大きく劣る。
白リンが猛毒であることは事実だ 毒性を保ったままの状態で白リンを広範囲へ短時間に散布する方法はない。白リンの粉塵は、空気中ではごく短時間のうちに酸化し五酸化二リンに変化するもので、この性質があるからこそ発煙弾として使われる。
多くの報道機関が「国際的に禁止する動きがある」と報じている。 RAIの報道に対してガーディアンが疑問を呈した例[14]や国際赤十字の例[15]に見られるように、報道の信頼性や中立性には疑問がある。

化学的性質[編集]

白リン
人間の経口摂取による半数致死量は体重1kgあたり0.7mg程度であり、少なくとも150mgを経口摂取すれば死に至る。肝臓、心臓、また、腎臓に危害を及ぼす可能性がある。
白リンは大気中で自然発火する。そのため、焼夷弾として用いられた場合には消火後も再度引火する可能性がある。
五酸化二リン
白リンが酸化されると生じる。強力な脱水作用を有し、工業および実験室において乾燥剤として使用される。固体が人体に付着した場合、脱水作用により酸やアルカリのような腐食性を示すため、閉所での使用には注意が促される。
気体の急性吸入による最低危険レベルは0.02mg/m3とされ、これは燃料石油のガスと同じ程度である。ある程度の濃度であれば眼や鼻を刺激する。濃度の高いものを浴びると酷い咳に見舞われる可能性があるが、開けた場所で発煙弾として使用される濃度では事実上無害とされる。発煙弾の煙が原因で兵士が死亡した例は報告されていない[11]

脚注[編集]

  1. ^ a b アルミニウムと混合することで焼夷弾としての効果を付与したものもある。詳細は「ロケット弾」を参照
  2. ^ 155mm Projectile
  3. ^ a b c d e f ジャパン・ミリタリー・レビュー・軍事研究2009年4月号 軍事評論家 野木恵一の記事
  4. ^ Type 63 107mm Multiple Rocket Launcher - SinoDefence.com
  5. ^ (cache) CNN.co.jp:アフガン武装勢力が白リン弾使用 国際部隊が指摘
  6. ^ a b 「毒ガスと煙」西沢 勇志智著 昭和13年発刊
  7. ^ この作用を利用してリンは難燃化剤としても使用されている
  8. ^ (cache) asahi.com(朝日新聞社):イスラエル軍「白リン弾」使用か ガザの死者885人に - 国際
  9. ^ 司令部護衛を担当した陸軍第一歩兵師団所属の特技兵士。反戦団体のメンバーになっている
  10. ^ US used white phosphorus in Iraq Wednesday, 16 November 2005 BBC 焼夷兵器としての対人使用を取り上げたBBC報道
  11. ^ a b c White Phosphorus (WP)グローバルセキュリティーによる解説。イラクでの運用について触れているほか、効果や治療法なども含む。英文
  12. ^ Video: White phosphorus in Gaza: the victims | World news | guardian.co.uk
  13. ^ Chemical burns follwong Israeli bombings | Flickr - Photo Sharing!
  14. ^ RAI 2005年イギリスの新聞ガーディアンは、RAIが「白リン使用兵器による死者」として放映した遺体が「腐敗による変化であって、(白リンを含む)焼夷兵器による熱傷である証拠ではない」とし、報道の信頼性に対して疑問を投げかけているGeorge Monbiot: Behind the phosphorus clouds are war crimes within war crimes | World news | The Guardian
  15. ^ ハーレツ 2006年10月22日、ハーレツを含むいくつかの報道機関は「国際赤十字が使用を規制するように求めている」と報道したが、この時点では国際赤十字委員会は白リン弾そのものおよびこの報道に対して一切の公式声明を発表していない。AP通信は2009年1月12日「イスラエル軍によるガザでの白リン弾使用を違法と考える理由は無い」と、国際赤十字委員会「武器ユニット」責任者であるピーター・ハービーが語ったと報道した。ただし1月17日、国際赤十字委員会はこの報道の補足として、公式Webページにおいて「国際人道法が特別にリン兵器を禁止していない事実があるからといって、それはリン搭載兵器を何に使っても合法だということを意味しない。使用事例ごとの合法性は、基本法に照らして多角的に検討されねばならない」と表明した

関連項目[編集]