ウィッカ

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ウイッカで宗教的シンボルとして用いられることが多いペンタグラム

ウイッカ[1] (Wicca) は、20世紀に興ったペイガニズムキリスト教以前の古い多神教)の復興運動[2]の一種で、欧州古代の多神教的信仰、特に女神崇拝を復活させたとされる。主に英語圏でみられるが、日本にも存在する。ウイッカを信仰する者をウイッカン (Wiccan) と呼ぶ。日本では、魔女の宗教としてのウイッチクラフトおよびウイッカの訳語として「魔女宗」という言葉も使われている[3]

歴史[編集]

ウイッカはジェラルド・ガードナーen:Gerald Gardner)が1954年に発表した Witchcraft Today (『今日のウイッチクラフト』) から広まった。その書物の中で彼は自分がイニシエイションを受けたウイッチクラフトは欧州のキリスト教以前の多神教が現代に生き延びたものだと主張したのである。同書中でガードナーは 古英語: Wicca に似た綴りの Wica という言葉を用いた。ただし彼はこれを自分のウイッチクラフト伝統の信奉者を表す男性名詞として使ったのであり、魔女の宗教のことはウイッチクラフトと呼んでいた。宗教の呼称としての Wicca は1960年頃より使われるようになったものであり、本来は、現在では「ガードナー派ウイッカ」(Gardnerian Wicca)と呼ばれているガードナーの系列のウイッチクラフトおよびこれとよく似た流派であるアレクサンドリア派のウイッチクラフトを指す言葉であった[3]。以降、魔女の宗教としてのウイッチクラフトはさまざまな形で発展し、派生的なさまざまな流派をも含めた包括的な呼称としてウイッカという言葉が一般化したが、直接ガードナーの系譜を引くウイッチクラフト流派のみをウイッカと呼ぶ向きもある。伝統的なウイッカでは参入のためにイニシエイションが必要だが、「ソロのウイッカン」(Solitary Wiccan)としての立場を主張し、既存のウイッカンからのイニシエイションを必要としないとする立場の者も増えている。それらの「新興ウイッカ」と伝統的なウイッカは、形は似ているが、精神的な部分や思想の理解に違いが出ることが多い。

ウイッカのおこり[編集]

ウイッカの歴史に関しては論議が喧しい。ガードナーの主張では、ウイッカは欧州先史時代の多神教の生き残りである。彼は老ドロシー(Old Dorothy)ことドロシー・クラッターバック (Dorothy Clutterbuck)の導きで魔女の宗教に参入した。 一部の人々はウイッカはガードナーが再構築した宗教だと考えている。その元になったのはマーガレット・マレー[4](Margaret Murray)の説や チャールズ・ゴッドフリー・リーランド(Charles Godfrey Leland)の Aradia, or the Gospel of the Witches(『アラディア、または魔女の福音』)、フリーメーソン儀式魔術といったものであったのだろう。

ガードナーは1939年にニューフォレストにあるクラッターバック運営のカヴンでイニシエイションを受けたことになっており、英国で1951年に廃止された魔女禁止令が解けるまでの数年をそこで過ごしたことになっている。教え(術)が消えてしまうのを恐れて(とガードナーは主張している)、Witchcraft Today(1954年)に着手した。次いで、The Meaning of Witchcraft(1960年)(『ウイッチクラフトの意味』)を著わし、これらの書物がウイッカの表向きな知識を広めるきっかけとなった (本来のウイッカは本では紹介することができない)。

ウイッカの儀式のスタイルがヴィクトリア時代後期のオカルティズムを受け継ぐことには疑いがない (ガードナー派ウイッカに大きな影響を与えたドリーン・ヴァリアンテ en:Doreen Valienteアレイスター・クロウリーらの影響が見られることを認めている)。しかし、その精神的・宗教的な内容は古の多神教の信仰を受け継ぐものである。当時の多神教にたいする理解(昔はこうであったに違いないという考え)に基づき、それを復興しようとした点に古代の多神教との歴史的繋がりがある。

多神教に関する当時の研究[編集]

ガードナーの時代には、原始的な母系信仰については学者の間にも(例えば心理学者エーリッヒ・ノイマン en:Erich Neumann_(psychologist)、マーガレット・マレー)アマチュアの間にも(ロバート・グレイヴスなど)よく知られていた。それは結局の所ヨーハン・ヤーコプ・バハオーフェンの研究に由来するものであった。アカデミックな研究はそれ以降も続いた。例えば心理学者カール・グスタフ・ユング、 考古学者マリヤ・ギンブタスである。さらに後には神話学ジョセフ・キャンベルen:Joseph Campbell)、アシュリー・モンタギュー(en:Ashley Montagu)らが古代欧州における母権制についてのギンブタスの説を支持するようになった。考古学的な記録を母権制的に解釈すること及びそれに対する批判は学術的な議題であり続けている。2003年母権制研究世界学会にみられるように、この領域での研究は継続しているが、批判的な立場にある人々は母権制社会が存在したことは一度もなく、ただマーガレット・マレーらが発明したものに過ぎないという。

イギリス・ヴィクトリア時代エドワード時代の文学においては、偉大なる母なる神という発想は一般的だった。有角神、ことにパンまたはファウヌスに関係した神々は母なる神ほどには一般的でなかったが、それでもなお重要であった(Hutton, pp. 33-51)。母なる神と有角神という二つの考えは当時、アカデミックな文献でも一般の印刷物でも広く受け入れられていた(Hutton, pp. 151-170)。ガードナーはこれらのコンセプトを用いてウイッカの基盤となる教義を形成し、発展させたのであると考えることもできるが、ガードナーの弟子だったヴァリアンテや、多くのガードナー派魔女たち (彼らの中にはアカデミックな立場で活動する者もいる) は、ガードナー派の実践の中には既存の出版物などには見られない独自の要素が含まれていると主張する。つまりガードナーは少なくとも部分的にはクラッターバックから何かの伝統を受け継いだと考える。どちらにせよ、ルーツを完全に解き明かすのは難しい。そしてルーツに関係なく、ウイッカは多くの人々にアピールし続けている。

ウイッカと魔女[編集]

古英語: wiccaは「魔術師」の意味であった。現代英語: witch(魔女 - 本来は男女どちらにも使った)がこの言葉をひいている。また古英語: wicには「曲がる」「ウィット」「賢さ」という意味がある。

ウイッチクラフト(: Witchcraft 魔女術と和訳される)は、宗教としてのものもあれば、宗教と関係のない単なる魔術的な技術の意味で使われることもある。前者の場合はウイッカと同類であるが、後者の場合、ウイッカとは多少異なる。前者は宗教、後者は宗教と関係のない呪術的技術の意味である。事実、宗教に関係なく実践できる。ウイッカは、魔女技術という意味でのウイッチクラフトを含む宗教である。

同様にウイッカはペイガニズムの一形態であり、多くのウイッカンは自分はペイガンであると考えているが、ペイガニズムはウイッカやウイッチクラフトと無関係な諸伝統も含むものである。

ウイッカンは女神を主神として崇拝する。また、ほとんどの場合、女神の子どもであり配偶者になる男神も崇拝の対象となる。ウイッカンは年に8回開かれるウイッカンのSabbat(サバト)とEsbat(エスバット 通常は満月の集会)によって神々を讃える。ウイッカンには倫理規定があり、その点で単なる実践としての意味でのウイッチクラフトとは区別される。ウイッチクラフトはネガティブな印象を持たされてしまった語であるが、呪文、ハーブ、魔術の使用といった実践的な技術なのであって、目的の善悪とは直接関係するものではない。ウイッカンはウイッチクラフトの利用を建設的で善なるものと心得ており、いわゆる黒魔術 (ウイッカンはこの用語を認めないが) はウイッカンの信条及び倫理に悖ると見ている。

信条と実践[編集]

英国エイブベリーで2005年のベルテインに行われた handfasting (結婚式)

ウイッカ信仰はさまざまで、信条を一般化するのは難しい。多くの場合、二柱の神(女神と男神 - 時には有角神)を崇拝する。フェミニスト流派であるダイアニク派 (Dianic Wicca、ディアナ派のウイッカ) では女神を主に信仰する。この場合男神の役割は皆無かあっても少ない。二柱の女神を主神に崇拝するとはいえ、実際は世界中の多くの神々の存在を認め、それらを崇拝することも多い。特に、イギリスのペイガニズムのルーツであるケルト神話ゲルマン神話に言及されることが多い。

(訳註: ケルトでは、春分夏至秋分冬至の quarter day (=四季の分け目になる) の中間に クロスクォータデイ cross-quarter day (=季節の盛りになる) をおき、春分と夏至の中間を Beltane、それ以降同様に Lammas、Samhain、Imbolc と呼ぶ)

典型的なウイッカンは、満月 (場合によっては新月) をエスバトと名付けて、魔法の作業を行う際に重要視する。また、サバトと呼ぶ年8回の祭日を祝う。その内重要な方の4つ (大サバト) は、クロスクォータデイにあたり、古代ケルトの火祭に相応したものである。ハロウィーン の原型である10月31日のソーウィン (Samhain、サーウェンまたはサーウィン)、五月祭の前夜 (May Eve) である4月30日のベルテイン (Beltane、ベルテン、ベルティナ)、7月31日の収穫祭 (Lammas) またはルーナサー (Lughnasad)、聖燭節 (Candlemas) の原型である2月2日のイモルグ (Imbolc、Imborg、Oimelc)。残りの4つ (小サバト) は夏至 (時にはリーザ Litha と呼ばれるが、近年の造語である)、冬至 (ユール Yule)、春分 (オースターラ Ostara、Eostar、Eostre) と秋分 (メイボン Mabon) である。

ウイッカンはカヴン英語版と呼ばれる実践グループで儀式を行い、先輩からの指導を受ける。カヴンに属さず単独で行動するウイッカンもいて、ソロのウイッカン (Solitary Wiccan) と呼ばれる。ソロのウイッカンというのは実践グループに入っていないだけで、親睦のための集会や、既存のグループの儀式集会に不定期に参加したりすることもある。

伝統的に13人のカヴンが理想とされるが、実際はもっと少ない。これを超えてカヴンが育った場合は、複数のカヴンに分離 (hive off、巣をわけること) する。

ウイッカの倫理[編集]

ウイッカンの倫理は、通常 The Wiccan Rede (ウイッカの教訓) と題されている。その中の最大公約数的部分は「誰も害さない限りにおいて、望むことを行え」につきる。

多くのウイッカンは「三倍返しの法」を信じている。自分の行うことは、善意によるものであれ悪意によるものであれ、魔法であれ現実的行為であれ、巡りめぐって3倍になって戻ってくるという信念である(実際に3倍が計れるわけではない。3はあくまでも比喩である)。

後注[編集]

  1. ^ 「イ」は比較的はっきり発音するので「ウィッカ」より「ウイッカ」で統一しようとするのが日本のウイッカンの間での動きである。
  2. ^ ネオ・ペイガニズムと呼ばれるが、「ネオ・キリスト教」などの言い方がないのと同様、本来は不適切である。
  3. ^ a b 楠瀬啓「ウイッカ、クラフト、ウイッチクラフト ~「魔女宗」の混乱~」による。
  4. ^ 本来は「マリー」と発音するのだが、日本ではマレーの名で著作が邦訳されている。ミューレイ、などの語表記もある