ゆとなみ社

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株式会社ゆとなみ社
種類 株式会社
本社所在地 日本の旗 日本
600-8115
京都府京都市下京区木屋町通上ノ口上る岩滝町175
設立 2022年1月7日
業種 サービス業
法人番号 6130001070833
事業内容 銭湯業務、銭湯経営コンサルティング業務など
代表者 湊雄祐
資本金 100万円(2023年11月現在)[1]
従業員数 50人(2023年11月現在)[1]
外部リンク 公式ウェブサイト
特記事項:2015年、個人事業主として梅湯開業
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株式会社ゆとなみ社(ゆとなみしゃ)は、日本の京都府京都市にある企業。「銭湯を日本から消さない」をモットー[2]公衆浴場(銭湯)の継業コンサルティングを主な業務とする。

2024年現在、運営する銭湯は京都・サウナの梅湯をはじめとして、日本全国に9軒[3]

沿革[編集]

2015年、湊三次郎が、銭湯が次々と廃業する現状を憂い、廃業となったサウナの梅湯を引き継ぎ経営者となる[4]。当時20代の若者だった三次郎が銭湯を引き継いだ件は話題を呼び、雑誌やテレビなどさまざまなメディアで取り上げられた[5]

開業当初の赤字運営を改善後、滋賀県の都湯を皮切りに、地方銭湯の再建モデルを目指しつつ、休廃業した銭湯を次々に継業した[6]

2019年、湊三次郎が個人事業主としての屋号を梅湯からゆとなみ社に変更[7]2022年にはゆとなみ社を法人化した[2]

2023年11月、京都新聞が京都府と滋賀県にゆかりがあり、顕著な功績を上げた個人や団体に贈る「京都新聞大賞」を受賞した[8]

特色[編集]

梅湯開業当初は月20万円の赤字で、トラブルの連続する経営を三次郎がワンオペで対応するという厳しい状況であったが、施設の改装(番台式からフロント式への変更など)[9]、燃料をに変更する、営業時間の延長と朝風呂の実施、浴室へのシャンプーボディソープの設置、音楽ライブの開催などの経営改善をして、2019年の時点でスタッフ約20名、年商3000万円までに成長させた[10]。また厄介な常連を出入禁止にするなどの対応も行った[4]

継業する銭湯は老朽化が激しく修繕が必要になるが、ゆとなみ社ではこれを極力自力で行い[11]、費用は自費とともにクラウドファンディングの活用もしている[2]

このほか、基本的な接客を大切にすることや[2]、話題提供のためスタッフの日常などを書いた「梅湯新聞」を浴室に掲示、SNSによる情報の発信[注釈 1]、メディア取材を積極的に受けるなど情報発信に力を入れている[4][10]。三次郎によれば、これらは”ほとんどおカネのかからない努力”を中心に”おカネがかかる努力”を並行し、「考えられることはすべて」やった結果だという[12]

またアーティストもデザインに関わるオリジナルグッズの販売や、クリエイター集団の参加するイベント「Get'湯!」への参加など、若年層取り込みのためにファッション性を重視し、銭湯を通したカルチャーシーン作りもヴィジョンにある[13]

梅湯開業以後には若者層を中心とした銭湯・サウナブームが起こっており、サウナを目的とした顧客も取り込んでいるが、三次郎は銭湯に自然に生まれるコミュニケーションの場を大事にしたいとしている[13]

運営する銭湯一覧[編集]

以下のリストは開業日順。

サウナの梅湯(サウナのうめゆ)
所在地:京都府京都市下京区木屋町通上ノ口上る岩滝町175
2015年5月開業。2018年以降、ゲストハウスなどの再開発が進んだ菊浜エリア(旧五条楽園)に所在。
2階にはタトゥースタジオのテナントが入店している[4]
2021年現在、1日平均250人が来店する[4]人気銭湯となり、京都観光の目的として梅湯を訪れる人々も現れている[5][13]
前述のとおり梅湯の所在する土地はかつて花街であり、暴力団事務所が隣にある地域であったが[4][注釈 2]、「京都五条 菊浜エリア活性化プロジェクト」を推進する山内財団とYamauchi-No.10 Family Office任天堂創業家)は、それらの撤退後の土地を取得して再開発を進めており、2022年、梅湯に隣接して「利用者が長居してくつろげる場所」を建設する予定とのコメントをし、イメージを発表している[16][17]
源湯(みなもとゆ)
所在地:京都府京都市上京区北町580-6
2019年7月19日開業[18][11]大将軍エリアにあり、元は1928年創業だった銭湯を引き継いだレトロ銭湯と称される[11][19]。20和室休憩スペースがあり、各種イベントが行われるほか、2階はテナントとして古書店やギャラリーが入店している[11]
アニメ作品『四畳半タイムマシンブルース』に登場する銭湯・オアシスのモデルである[20]
容輝湯(ようきゆ)
所在地:滋賀県大津市栄町17−10
2019年7月開業[18]。JR石山駅近く。
人参湯(にんじんゆ)
所在地:愛知県豊橋市神明町47
2021年4月開業[18]。元は1950年開業の銭湯であったが、老朽化などで2020年9月に閉店したものを借り受け復活させた[21]
みやの湯(みやのゆ)
所在地:大阪府門真市宮野町13−10
2021年4月開業[18]
一乃湯(いちのゆ)
所在地:三重県伊賀市上野西日南町1762
2023年7月開業[18]。1950年創業の銭湯で、改装等は行わず先代から運営を引き継ぐ形での継業[18]。先代による「一乃湯ワンダーランド構想」の理念実現も目指している[18]
建物は登録有形文化財となっている。
鴨川湯(かもがわゆ)
所在地:京都府京都市左京区下鴨上川原町56
2023年7月開業[18]。営業再開にあたり、クラウドファンディングを活用した[22]
湊河湯(みなとがわゆ)
所在地:兵庫県神戸市兵庫区東山町2-3-5
元は1949年に開業した、東山商店街に近い銭湯。2022年12月からの長期休業後、ゆとなみ社が継業。2023年8月11日より営業再開[23]。鴨川湯同様に、クラウドファンディングを活用した[22]
パール温泉(パールおんせん)
所在地:大阪府大阪市東成区中本3-10-15
2024年3月21日開業[24]。2024年1月8日より休業ののち、ゆとなみ社に事業継承された[25]。別名:パール湯[26]大阪メトロ緑橋駅近く。
家族経営の銭湯だったが設備や人手不足などの問題があり、ゆとなみ社に相談し事業継承となった[25]。経営者は同社社員となってそのまま店長を継続し、リニューアルにあたってサウナなどの老朽化施設を復活させた[25]

関連する銭湯[編集]

都湯(みやこゆ)
所在地:滋賀県大津市馬場3-12-21
2018年11月[18]、2号店として元梅湯スタッフが継業した[6]。2021年以降はゆとなみ社から独立して経営中[2]
JR膳所駅および京阪膳所駅近く。
スケラッコによる銭湯を舞台とした漫画『みゃーこ湯のトタンくん』(ミシマ社)のモデルである[27]
十條湯(じゅうじょうゆ)
所在地:東京都北区十条仲原1丁目14-2
営業委託という形でゆとなみ社スタッフが出向している[6]。喫茶スペースが併設されていたのを生かし、「喫茶深海」としてリニューアルし「売り」のひとつとした[6]

創業者・湊三次郎[編集]

湊 三次郎(みなと さんじろう、1990年 - )は、ゆとなみ社の代表取締役であり創業者。静岡県浜松市生まれ。銭湯文化のPRを担い、メディアなどでは銭湯活動家を名乗る。本名・湊 雄祐(みなと ゆうすけ)[10]。「三次郎」の活動名は曽祖父の名にちなむ[21]

京都外国語大学ブラジルポルトガル語学科卒業[10]。在学中、近所の銭湯に通いはじめたのをきっかけに銭湯に傾倒し、「サウナの梅湯」でもアルバイトを経験した[28]。卒業後アパレル会社に就職するが、仕事を面白く感じられず退職を決めたころに梅湯の経営を任され銭湯業界に入り、個人事業主を経て何件もの老朽化銭湯復活を実現する現在に至る[2]

実弟でお笑い芸人の湊 研雄(みなと けんゆう)もゆとなみ社スタッフかつ同社取締役であり[8]、十條湯の営業委託などを担当した[6][29]

メディア出演[編集]

  • サ道2021 第6話「青春の面影にととのう」(2021年9月11日、テレビ東京)[30]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 2023年現在、ゆとなみ社運営の全ての銭湯でTwitter(現X)とInstagramによる情報発信を行っている[3]
  2. ^ 2019年まで、京都市下京区木屋町通上ノ口上ルには指定暴力団・七代目会津小鉄会の本部事務所が存在した。2017年以降、京都市の指導により事務所の使用が禁止され、2019年には移転、2021年には土地が不動産業者に売却されて同会の所有ではなくなり、建物も解体された[14]。この跡地を取得して再開発を計画したのが山内財団である[15]

出典[編集]

  1. ^ a b ゆとなみ社について、ゆとなみ社、2023年11月26日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 復活する銭湯 vol.5銭湯継業の専門集団ゆとなみ社を率いる、湊三次郎氏”. B-Plus. 国際情報マネジメント有限会社 (2023年3月30日). 2023年9月8日閲覧。
  3. ^ a b 銭湯紹介、ゆとなみ社、2024年3月21日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 五箇公貴 (2021年8月13日). “「ヤクザ風呂と地元で呼ばれていた」 24歳のアパレル職が、京都「梅湯」経営者に“転職”したワケ”. 文春オンライン. 文藝春秋. 2023年9月24日閲覧。
  5. ^ a b 京都暮らしプラス・ワン ♯06ゆとなみ社・湊 三次郎さん”. 京都館. 京都市産業観光局クリエイティブ産業振興室. 2023年9月15日閲覧。
  6. ^ a b c d e 五箇公貴 (2021年8月13日). “東京・京都で7軒の銭湯展開「僕が1年目苦しんだことは味わってほしくない」 マニアの兄弟が目指す“サウナ並み”の未来”. 文春オンライン. 文藝春秋. 2023年9月12日閲覧。
  7. ^ 湊三次郎 (2019年9月11日). “ゆとなみ社とは!?”. note. Note (企業). 2023年9月12日閲覧。
  8. ^ a b 佐々木千奈「地域の人に感動と勇気 京都新聞大賞 2氏1団体に贈呈」『京都新聞』京都新聞社、2023年11月28日、1面。
  9. ^ 湊三次郎率いるゆとなみ社が豊橋市の銭湯・人蔘湯を再生、4月末にリニューアルオープン目指す”. aoもの. aoもの. 2023年9月12日閲覧。
  10. ^ a b c d 湊三次郎 (2019年9月13日). “湊三次郎の年収、結婚、学歴!ゆとなみ社の年収は?”. note. Note (企業). 2023年9月12日閲覧。
  11. ^ a b c d 松本康治 (2022年6月24日). “ニッポン銭湯風土記:レトロ銭湯、手探りルネサンス 挑む若者 京都「源湯」”. &travel. 朝日新聞デジタル. 2023年9月8日閲覧。
  12. ^ 街・町・まち物語(24) 売上げを3倍!老舗の銭湯を復活させた若者=湊 三次郎さん”. 建設ニュース. 株式会社建設ニュース (2018年11月16日). 2023年9月15日閲覧。
  13. ^ a b c 島貫泰介 (2023年7月13日). “ゆとなみ社・湊三次郎が語る、梅湯継業からの8年間。サウナブームの後押しを受けた銭湯の現在地”. CINRA. CINRA Inc.. 2023年9月15日閲覧。
  14. ^ 指定暴力団・会津小鉄会の元本部、売却され解体へ 京都中心部、不動産会社が購入」『京都新聞』京都新聞社、2021年5月13日。2023年9月24日閲覧。
  15. ^ 岸本鉄平、柿木拓洋「京都の暴力団跡地を任天堂創業家が取得 「発祥地」整備、風評リスクも」『京都新聞』京都新聞社、2023年1月1日。2023年9月24日閲覧。
  16. ^ 「任天堂創業家 旧本社付近を開発」『日経MJ日本経済新聞社、2022年5月20日、7面。
  17. ^ Yamauchi-No.10 Family Office (2022年5月13日). “京都五条 菊浜エリア活性化プロジェクトについて”. PR TIMES. PR TIMES. 2023年9月15日閲覧。
  18. ^ a b c d e f g h i 湊三次郎 (2023年9月9日). “怒涛の3軒継業した夏”. note. note. 2023年9月14日閲覧。
  19. ^ 古さもまるごと愛おしい「ただいま」と言いたくなるほど心地いい銭湯『源湯』”. 京都移住計画. 株式会社ツナグム (2020年10月26日). 2023年9月12日閲覧。
  20. ^ 聖地・京都とのコラボを大発表!!”. 『四畳半タイムマシンブルース』公式サイト. アスミック・エース (2022年9月7日). 2023年9月12日閲覧。
  21. ^ a b 崎長敬志「減り続ける銭湯を救え!「無理な商売」自覚しながら老朽6軒を経営」『読売新聞オンライン』、2021年6月14日。2023年9月12日閲覧。
  22. ^ a b 湊三次郎 (2023年7月21日). “鴨川湯と湊河湯のクラファン”. note. note. 2023年9月12日閲覧。
  23. ^ 佐藤賢二郎「阪神大震災で住民支えた老舗銭湯 「湊河湯」が営業再開 神戸」『毎日新聞』、2023年8月11日。2023年9月12日閲覧。
  24. ^ 3/21パール温泉グランドオープン!、ゆとなみ社、2024年3月21日閲覧。
  25. ^ a b c 湊三次郎 (2023年7月21日). “パール湯の事業継承について”. note. note. 2024年3月21日閲覧。
  26. ^ パール湯【東成区】、大阪銭湯(大阪府公衆浴場業生活衛生同業組合)、2023年12月22日閲覧。
  27. ^ スケラッコ新作は銭湯ネコマンガ「みゃーこ湯のトタンくん」、原画展も開催」『コミックナタリー』ナターシャ、2021年12月10日。2023年9月12日閲覧。
  28. ^ 株式会社ゆとなみ社(京都企業紹介)”. 京都府 (2023年7月21日). 2023年9月12日閲覧。
  29. ^ 復活する銭湯 vol.3十條湯・喫茶深海の廃業危機を救った手腕”. B-Plus. 国際情報マネジメント有限会社 (2022年1月26日). 2024年1月31日閲覧。
  30. ^ 大山くまお (2021年8月14日). “「サ道2021」第6話レビュー:そうだ、京都の銭湯サウナに行こう(コロナが落ち着いたら)(※ストーリーネタバレあり)”. CINEMAS+. フォンテーン、ギークピクチュアズ. 2023年11月2日閲覧。

外部リンク[編集]