岸辺の旅

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岸辺の旅
著者 湯本香樹実
発行日 2010年2月25日(単行本)
2012年8月3日(文庫本)
発行元 文藝春秋
日本の旗 日本
言語 日本語
ページ数 210(単行本)
232(文庫本)
公式サイト http://books.bunshun.jp
コード ISBN 978-4163289809(単行本)
ISBN 978-4167838119(文庫本)
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岸辺の旅』(きしべのたび)は、湯本香樹実小説2009年9月号の『文學界』に掲載され[1]、2010年に文藝春秋から単行本が出版され、2012年には文庫化された。

2015年に映画化された(後述)。

あらすじ[編集]

夫である優介が失踪してのち、瑞希はピアノ教師をわずかに続けることで世間との接触を保っていた。そんな彼女の前に、ある日突然に優介が現われる。口調も態度も往時と変わらない彼に、すでに死んだ身だと説明され混乱する瑞希だが、思い出の地をめぐる旅に出ようと持ち掛けられ、そのことばに従う。

電車に乗って辿り着いた街で、ふたりは新聞配達業に携わる老人・島影の店を訪ねる。過去に彼の下で働いていた優介とは話も弾み、家事の助け手として瑞希の存在にも馴染み始めた島影だったが、ある日消え失せてしまう。実は島影もまた死者であり、優介のことばで迷いを振り切って、あの世に旅立ったのだ。

次にふたりは夫婦の経営する食堂の扉をくぐる。店の手伝いをする毎日の中、瑞希は2階に残されたピアノを見つけ、それをめぐる妻・フジエと死別した妹との思い出を聞かされる。現われた妹と対面し、生前弾けなかったピアノの演奏を通じて彼女の微笑を引き出せた瑞希は、この旅の意味を少しずつ悟ってゆく。

だが、優介に宛てた一通の手紙をめぐってふたりは口論になり、瑞希は優介と接触をもっていた女、朋子にひとりで逢いにゆくことを決める。勤務先で朋子を呼び話をはじめた瑞希は、朋子の毅然とした態度を通じて自己嫌悪に打ちのめされ、消えてしまった優介の名を後悔をもって呼ぶ。変わりない姿を見せた優介を抱きしめる瑞希は、最後まで彼の旅につきあう決心を固めていた。

山奥の農村へ向かい、そこの人々に向けて夫が私塾を開いていたことを知った瑞希は、働き手であったタカシを失った妻とその父、息子に出会う。彼らの思いに呼び寄せられたタカシの、この世への妄執を見せつけられたふたりは己を振り返るとともに、この旅のすえに別れねばならないことを思い知らされた。

そして彼らは、旅の終わりの場所にやって来た。

登場人物[編集]

映画[編集]

浅野忠信深津絵里のダブル主演で映画化された[2]。監督は黒沢清[3]。黒沢の映画では初めて、音楽がフルオーケストラで使用されている[4][5]

2015年5月17日(現地時間)、第68回カンヌ国際映画祭・「ある視点」部門に出品され[6][7]、黒沢清が監督賞を受賞した[8]

2015年10月1日に全国90スクリーンで公開された[9]フランスでも日本より1日早く9月30日に約80館で上映され、UGC シネシテ レ・アールでは初日の動員数が上位3位に入るほどの盛況ぶりだった[10]。興行収入は1億2000万円[11]

主なキャスト[編集]

スタッフ[編集]

映画の評価[編集]

ライターの伊藤隆剛は、主演2人の演技力を評価し、「2人の演技力によって、本作はファンタジーのようなストーリーラインに揺るぎないリアリティを埋め込むことに成功している」と述べた[13]。また、音楽についても「一聴するとやや大げさに思えるシーンもあったりするが、何でもないような生活の一場面が、実は多くの奇跡に彩られているという本作の世界観を、力強くバックアップしている」と述べた[13]

受賞[編集]

BD / DVD[編集]

2016年4月20日にBDとDVDがポニーキャニオンから発売される[22]

脚注[編集]

  1. ^ 雑誌|文學界_090901”. 文學界. 文藝春秋. 2015年9月27日閲覧。
  2. ^ 遠藤政樹 (2015年10月1日). “注目映画紹介:「岸辺の旅」浅野忠信と深津絵里が夫婦役でダブル主演 死んだ夫めぐる旅物語”. MANTANWEB. http://mantan-web.jp/2015/10/01/20151001dog00m200050000c.html 2015年10月2日閲覧。 
  3. ^ a b c 深津絵里&浅野忠信が初の夫婦役!「岸辺の旅」を黒沢清監督で映画化”. シネマトゥデイ (2014年6月19日). 2015年5月18日閲覧。
  4. ^ a b 黒沢清(インタビュアー:恩田泰子)「「岸辺の旅」監督、黒沢清…挑戦することで上達」『YOMIURI ONLINE』、2015年9月27日。 オリジナルの2015年9月27日時点におけるアーカイブhttps://archive.is/20150927044523/http://www.yomiuri.co.jp/culture/news/20150925-OYT8T50210.html2016年4月29日閲覧 
  5. ^ a b 黒沢 清監督作品『岸辺の旅』、その音楽について大友良英が製作秘話を語る”. CDJournal (2015年9月10日). 2015年9月27日閲覧。
  6. ^ 黒沢清監督「岸辺の旅」がカンヌ国際映画祭「ある視点部門」に正式招待!”. 映画.com (2015年4月18日). 2015年5月18日閲覧。
  7. ^ 浅野忠信、スキンヘッドでカンヌ登場!美脚披露の深津絵里とレッドカーペットに!【第68回カンヌ国際映画祭】”. シネマトゥデイ (2015年5月18日). 2015年5月18日閲覧。
  8. ^ “カンヌ:黒沢監督「岸辺の旅」が監督賞 「ある視点」部門”. 毎日新聞. (2015年5月24日). オリジナルの2015年5月25日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20150525022158/http://mainichi.jp/enta/news/20150524k0000m040103000c.html 2016年4月29日閲覧。 
  9. ^ 浅野忠信、深津絵里に再共演のラブコール「深津さんに対する愛情と絆が芽生えた」”. 映画.com (2015年10月1日). 2015年10月5日閲覧。
  10. ^ 深津絵里、浅野忠信が主演『岸辺の旅』がフランスで好調な動員”. ぴあ映画生活 (2015年10月8日). 2015年10月12日閲覧。
  11. ^ キネマ旬報」2016年3月下旬号 84頁
  12. ^ a b c 黒沢清監督「岸辺の旅」に小松政夫&蒼井優&柄本明”. 映画.com (2015年5月14日). 2015年5月18日閲覧。
  13. ^ a b “ロードムービー?メロドラマ?『岸辺の旅』を彩る大友良英&江藤直子の楽曲”. 財経新聞. (2015年10月2日). オリジナルの2015年10月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151005001319/http://www.zaikei.co.jp/article/20151002/272101.html 2016年4月29日閲覧。 
  14. ^ キネマ旬報ベスト・テン発表、「恋人たち」「マッドマックス」が1位に輝く”. 映画ナタリー (2016年1月8日). 2016年1月8日閲覧。
  15. ^ 第89回キネマ旬報ベストテン 個人賞”. KINENOTE. 2016年1月8日閲覧。
  16. ^ 毎日映画コンクール 大賞に橋口監督の「恋人たち」”. 毎日新聞 (2016年1月21日). 2016年1月21日閲覧。
  17. ^ 綾瀬はるかや広瀬すずも爆笑!樹木希林の爆笑スピーチ”. Movie Walker (2016年2月7日). 2016年2月8日閲覧。
  18. ^ “浅野忠信、アジアフィルムアワードで最優秀助演男優賞を受賞しガッツポーズ”. 映画ナタリー. (2016年3月18日). https://natalie.mu/eiga/news/180215 2016年3月16日閲覧。 
  19. ^ “「バクマン。」が日本映画プロフェッショナル大賞でベストワン&作品賞”. 映画ナタリー. (2016年3月25日). https://natalie.mu/eiga/news/180925 2016年3月25日閲覧。 
  20. ^ 日本映画批評家大賞 2016公式サイト”. 日本映画批評家大賞. 2016年5月26日閲覧。
  21. ^ “「オーバー・フェンス」「団地」が最優秀作品に、第8回TAMA映画賞結果発表”. 映画ナタリー. (2016年10月6日). https://natalie.mu/eiga/news/204340 2016年10月7日閲覧。 
  22. ^ 深津絵里×浅野忠信共演、黒沢清が夫婦の旅路描く「岸辺の旅」BD/DVD発売”. 映画ナタリー (2016年4月18日). 2016年4月29日閲覧。

外部リンク[編集]