交響曲第35番 (モーツァルト)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
Mozart: Symphony N°35 "Haffner" / OCNE / N. Krauze - ニコラス・クラウゼ指揮新ヨーロッパ室内管弦楽団による演奏。新ヨーロッパ室内管弦楽団公式YouTube。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品 ニ長調 K. 385 は、1782年にハフナー家のために作曲されたセレナードであり、同時期に交響曲へと編曲された楽曲である。旧全集では『交響曲第35番』の通し番号が与えられており、交響曲第35番 ニ長調 K. 385「ハフナー」として知られている。

解説[編集]

本作は通称「ハフナー」(Haffner)と言う。ザルツブルクの元市長の息子であり、モーツァルト自身にとっても幼なじみであったジークムント・ハフナーⅡ世1756年 - 1787年)の姓に由来する。

モーツァルトがハフナー家のために作曲した楽曲は2つあり、ともにセレナードである。1曲目は1776年に作曲されたセレナード第7番K.250(K6.248b)で、今では『ハフナー・セレナード』と呼ばれ親しまれている。2曲目のセレナードはその6年後の1782年7月末に作曲された。ハフナー家が貴族になったことへの祝賀用のセレナードであったが、オリジナル・フォームのセレナードはメヌエット1曲が散逸している。行進曲(K6. 385a)は2曲目のセレナードのための行進曲であるとされている。

モーツァルトは1783年3月23日の予約演奏会のために旧作であるハフナー家への第2セレナードを交響曲に編曲した。編曲に際して行進曲と2つあったメヌエットのうちのひとつ(散逸した方)を削除し、楽器編成に第1と第4楽章にフルートとクラリネットを加えている。モーツァルトは自作のセレナードを交響曲に編曲することは多く、第1、第4、第5、第7『ハフナー・セレナード』第9番『ポスト・ホルン』の各セレナードを交響曲に編曲している。本作もこうした一連の編曲交響曲のひとつである。

この曲以降の6つの交響曲(第1楽章の序奏部以外はミヒャエル・ハイドン作である第37番ト長調 K. 444(425a)を除く)は「モーツァルトの6大交響曲」と呼ばれ、モーツァルト交響曲のなかでも特に人気が高い。

アントン・ライヒャは、『ピアノのための36のフーガ』作品36の第7曲で、本曲第1楽章の第1主題を素材として用いている。

曲の構成[編集]

編成表
木管 金管
フルート 2 ホルン 2 ティンパニ 第1ヴァイオリン
オーボエ 2 トランペット 2 第2ヴァイオリン
クラリネット 2 ヴィオラ
ファゴット 2 チェロ
コントラバス
  • 第1楽章 アレグロ・コン・スピリート
    ニ長調、4分の4拍子(旧全集では2分の2拍子)、副主題を欠く変則的なソナタ形式
    
\relative c' {
  \tempo "Allegro con spirito"
  \key d \major
  \time 2/2
  <<
    { d1\f | } \\
    { d1 | }
  >>
  \appoggiatura { d32[ d'] } d'2~ d4.. d,,16 |
  cis4-. cis''-. r r8. cis,,16 |
  b4 b8. b16 b4.\trill( a16 b) |
  a4-. a''-. r2 |
  g,4\p
}
    いきなり2オクターブも音が跳躍する冒頭のテーマは非常に印象的。その後、行進曲風のリズムが続く。ソナタ形式では、通常で主題が2つあるが、この楽章では第2主題がはっきりと出てこない、これはフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの交響曲にもよく見られる形式で、展開部は転調を重ね陰影に富んだ形に作られている。当時のソナタ形式では珍しく提示部、展開部・再現部とも繰り返しの指示はない。
  • 第2楽章 アンダンテ
    ト長調、4分の2拍子、ソナタ形式。
    非常に優美なアンダンテ。弦楽器を中心とした楽章で、もともとの用途であったセレナードの雰囲気を感じさせる楽章である。この楽章は交響曲への編曲に際してフルートクラリネットは加えられなかった。トランペットティンパニは休止する。
  • 第3楽章 メヌエット
    ニ長調 - イ長調、4分の3拍子、三部形式
    シンフォニックな主部に続き、トリオではオーボエファゴットが優雅な旋律を奏でる。この楽章も第2楽章同様にフルートとクラリネットは加えられていない。
  • 第4楽章 プレスト
    ニ長調、2分の2拍子(旧全集では4分の4拍子)、ロンドソナタ形式
    プレストで演奏されるフィナーレ。形式的にはソナタ形式として解釈できるが、展開部が主調の第一主題で開始されており、ロンド形式の性格も併せ持っている。弦楽器の弱音のユニゾンで始まり、打楽器、管楽器が加わり主題が力強く演奏される。この主題は、そのころ初演された歌劇後宮からの誘拐』K. 384から採られている。

外部リンク[編集]