種実類

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一般的なナッツ類(殻の付いた状態の)クルミ、アーモンド、ペカン、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ
スナックとして販売されているミックスナッツ類。 - アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ(filberts)、ブラジルナッツ、ピーカンナッツ

種実類(しゅじつるい)とは、かたいに包まれた食用果実種子の総称。別名堅果(けんか)。種実類のうち、木の実は一般にはナッツと呼ばれる。

区分

種実類は、堅果、核果、種子の3つに大きく分けられる。堅果は外側が非常に硬くなっているものの果実に属し[1]、特にブナ科のものは殻斗と呼ばれる台座や帽子状のものに一部または全部をおおわれていることが多く、これを殻斗果という。クリヘーゼルナッツなどが堅果に含まれる。核果は一般的な果実として想起されるものの一つであり、果実の中心に一つの大きな核があるものであるが、ナッツとして利用する場合は核の中に存在する種子を食用とし、アーモンドクルミペカンなどがこれに属する。種子に属するナッツとしては、カシューナッツブラジルナッツがあげられる。なお、厳密にはナッツに属さない豆類にも、ピーナッツなどいくつかナッツとして扱われる種類が存在する[2]

種実類には、炭水化物を多く含むものと脂肪を多く含むものの2種類が大きく分けて存在する。炭水化物を多く含むものとしてはクリなどがあり、脂肪を多く含むものとしてはアーモンドピスタチオクルミなどがある。一般的にナッツとして販売されるものは後者である[3]

利用

食用

ナッツの利用として最も大きなものは、種をそのまま食用とすることである。ただしまったく加工をせずにそのまま食されることは多くなく、多くは種皮・殻を取り除いて乾燥させたものが食用とされる。その後、砂糖油脂などを用いて調味加工されたものもある。

加工されたナッツは、菓子として、またとともにとして食べるほか、砕いてサラダなどのトッピングとして食べられることも多い。アーモンドやココナッツは、スライスしてフライの衣としても使用される。

ナッツは製材料としてもきわめて重要であり、チョコレートクッキーなどに混ぜて、あるいはそのままのナッツにチョコレートをかけるなどして使用される[4]。アーモンドをペースト状にしたプラリネは、洋菓子の重要な材料の一つである。ヘーゼルナッツのペーストとチョコレートを合わせたジャンドゥーヤなど、ナッツペーストとチョコレートの組み合わせは相性がよく多用される。製菓材料としては、アーモンド粉と砂糖を混ぜ合わせたマジパンなども重要である。

ナッツを使用した菓子は、ナッツと蜂蜜砂糖を主体としたやわらかいヌガーや、ナッツパイに蜂蜜をしみこませた中東で非常によく食べられるバクラヴァ、そのままのアーモンドを糖衣でくるんだドラジェ、クリを砂糖漬けにしたマロングラッセなど、それこそ無数に存在する。いずれも、ナッツの香ばしさや歯触りと甘味とを組み合わせた菓子である。和菓子においても、栗粉餅はすでに室町時代の文献にその名がみられ、江戸時代には栗羊羹も出現するなど、古くから製菓材料として用いられてきた[5]。クリをペースト状にした栗餡はよく使用される材料であり、饅頭などに使用される。クリのほか、クルミも歯触りや香ばしさからアクセントとして使用される。

アーモンドやココナッツは、すりつぶしてミルク状にし、ミルクと同様の使用法で使用することができる。アーモンドミルク飲料としての役割が大きく、豆乳と同じような扱いを受ける。特に動物性の食品を一切食さないベジタリアンにとっては、アーモンドミルクはまさしくミルクの代わりとして利用される。これに対し、ココナッツミルクは飲料として使用することもあるが、どちらかといえば食材としての役割のほうが大きい。ココナッツミルクは東南アジア諸国など多くの熱帯諸国において基本的な食材の一つとなっており、ココナッツミルクを使用した料理が非常に多く存在する[6]。利用法としてはミルクと基本的には同じで、料理にコクとまろやかさを与えるために使用される。

油糧

ピーナッツもすりつぶして多用されるが、この場合はミルクではなくそのまま固体のバター状にして、ピーナッツバターとして使用される。ピーナッツバターが最も多用されるのはアメリカであり、そのままパンに塗るスプレッドとして使用されるのが一般的である[7]。ピーナッツバターは日本では砂糖を入れて甘く味付けしたものが主流であるが、日本以外では無糖のものが一般的である。また、ピーナッツバターは中華料理アフリカ料理において調味料としてよく使用される。脂肪を多く含んでいるものは植物油原料ともなる。種実類およびその関連のものからとれる油の中で最も数量が多いのは、大豆油を除けばヒマワリ油、そしてピーナッツオイルである。ピーナッツオイルは19世紀には主要な油糧作物として盛んに栽培され、西アフリカセネガルなどでは主要作物の一つに成長した。

ココナッツオイルもやや重要である。ココナッツ(ココヤシの胚乳)はそのままナッツとするほか、乾燥させてコプラとし、食用油や工業原料とする[8]。産業の少なく育つ作物も少ない南太平洋諸国、とくに環礁からなる島々においては、このコプラ生産は貴重な現金収入となってきた。

世界の油脂生産の上で大きな役割を果たすナッツは上記の4種で、工業用や食用油を目的として広く栽培され、特にヒマワリやピーナッツは油糧作物としての役割が大きい。1997年から1998年の世界の植物油生産において、大豆油は1位、ヒマワリ油は4位、ピーナッツオイルは5位を占めている[9]。2003年においては、大豆油が3101万トンで1位、ヒマワリ油が860万トンで4位、ピーナッツオイルが444万トンで5位、ココナッツオイルが320万トンで8位となっていた[10]。このほかに、ペカン油マカダミア油などといったナッツ由来の油の種類は多く、多方面に使用される。

その他

このほか、ナッツのうちクリトチのようにデンプンを主成分とするものは、穀物を安定的に入手することのできない非農耕社会や山村においては主食として大きな役割を果たしてきた[11]

歴史

そのまま、あるいは炒るなどの簡単な加工で食べられるものが多く、油脂などの多量の栄養分を含み、また穀物などと違い採集が容易であったため、狩猟採集社会においてナッツは食生活の根幹をなしていたところが多かった。ただし、特に中緯度・高緯度地方においてナッツの収穫はに集中し、また長期保存が可能であることから、ナッツは主に秋に大量に収穫してを越すための保存食としての性格を持っていた。縄文時代の遺跡である福井県鳥浜貝塚においては、クリやヒシなどのナッツ類が予想消費量をはるかに越えて出土しており、この推測を裏付けている[12]。また、クリやハシバミのように明るい場所を好むナッツ類は、人類が伐採や火入れなどで極相林を消滅させた場所に進出して繁茂する性質を持っており、それを人類がある程度理解してナッツの実る木が育ちやすいように周囲の環境に手入れを行う、すなわちごく初期の栽培化新石器時代には行われていたと考えられている[13]。なかでも青森県三内丸山遺跡においては、縄文時代中期にクリの純林が誕生しており、当時この地域でクリを栽培し主食としていた証拠と考えられている[14]。やがて人類が穀物を改良し栽培を開始すると食料としての重要性は低下したが、以後も嗜好品としての性格を強めながら主要食糧の一角をなしてきた。採集だけでなく、農業の開始とともにいくつかのナッツは完全な栽培植物として育てられた。

現代においてナッツとして利用されている植物の原産・栽培化された土地はさまざまである。アーモンドやピスタチオは中東原産で、そこから旧大陸の広い地域に広まっていった。クリは日本、中国、ヨーロッパ、アメリカ東海岸にそれぞれ自生種があり、クリ、チュウゴクグリヨーロッパグリアメリカグリとして各地域で栽培化された。クルミも旧大陸に広く分布し、各地で採集または栽培された。ココナッツの原料であるココヤシは東南アジアが原産と考えられており、ここから旧大陸の熱帯地域へと広まっていった。とくにオセアニアの、南太平洋に広がる諸島群においてはココヤシは真水の少ない環礁においても栽培できるために重要な役割を果たし、ポリネシア人の南太平洋植民において重要な役割を果たした。

新大陸発祥のナッツで最も重要なものはピーナッツであり、南アメリカ大陸で栽培化され、インカ帝国では重要な栽培植物となっていた。コロンブス交換によって旧大陸に持ち込まれると、アフリカ大陸西部で盛んに栽培されるようになった。また、アメリカ南部でも盛んに栽培され、南北戦争後にはアメリカ北部でも消費が急速に拡大した。新大陸原産でピーナッツに次ぎ重要なものはカシューナッツであるが、これは南アメリカ大陸でも北東部を原産としている。ブラジルナッツはアマゾンに分布し、ゴムの採集が盛んになる19世紀後半まではアマゾンで最も価値ある産物のひとつだった。21世紀においてもブラジルナッツは高く評価されるナッツであるが、これはほかのものと違って栽培が非常に難しく、採集に頼っているためアマゾンの開発とともに生産量が急激に落ち込んできている[15]

このほか、オーストラリア大陸原産のものとしてマカダミアが存在する。マカダミアはアボリジニによって長く利用されてきたが、商業栽培は19世紀後半にヨーロッパ人によってはじめられた。1882年にはハワイに持ち込まれて栽培が成功し、21世紀においてはハワイがマカダミアの大産地となっている。なお、オーストラリア大陸原産の食用植物には他大陸で広く利用されているものはほかにはあまり存在せず、マカダミアが最も知られた存在となっている[16]

代表的な種実類

など。

種実ではないが関連して販売されるもの

など。

アレルギー

ナッツに対してアレルギーを持つ者は少なくない。また、しばしば重篤症状を起こす。ナッツアレルギーを持つ者は、驚くほど少量のナッツ成分を摂取しただけで重篤なアナフィラキシーショックを発症することがある。ナッツを使用していない食品でも、製造工場でナッツを使用している機器からの微量混入があっただけで発症した例がある。

ラッカセイに対するアレルギーは特に有名である。乳幼児期にラッカセイを含む食事を与えるとラッカセイアレルギーを持つようになるとする説がある。これは、ラッカセイの成分を十分に消化する能力がまだない小さな子供の体は、ラッカセイを異物として処理するためである。ラッカセイはマメ科の植物であるが、ラッカセイアレルギーを持つ者が他の類でもアレルギー症状をおこすとは限らない。また、他の種類のナッツのアレルギーを持つ者がラッカセイアレルギーを持つとも限らない。

出典

  1. ^ 「食品学」(栄養科学ファウンデーションシリーズ5)p84 和泉秀彦・三宅義明・舘和彦編著 朝倉書店 2014年4月1日初版第1刷
  2. ^ 「ナッツの歴史」p13-14 ケン・アルバーラ著 田口未和訳 原書房 2016年8月27日第1刷
  3. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p302 2003年3月20日初版第1刷 小学館
  4. ^ 「ナッツの歴史」p145 ケン・アルバーラ著 田口未和訳 原書房 2016年8月27日第1刷
  5. ^ 「栗の文化史 日本人と栗の寄り添う姿」p154-155 有岡利幸 雄山閣 2017年2月25日初版発行
  6. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p112 1990年8月21日初版第1刷
  7. ^ 「マメな豆の話」p141 吉田よし子 平凡社 2000年4月20日初版第1刷
  8. ^ 「オセアニアを知る事典」平凡社 p112 1990年8月21日初版第1刷
  9. ^ 「マメな豆の話」p177 吉田よし子 平凡社 2000年4月20日初版第1刷
  10. ^ 「新訂版 食用油脂入門」(食品知識ミニブックスシリーズ) p83 日本食糧新聞社 平成16年10月29日発行
  11. ^ 「基礎から学ぶ 森と木と人の暮らし」pp16-17 NPO法人共存の森ネットワーク企画 鈴木京子・赤堀楠雄・浜田久美子著 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  12. ^ 「人類史の中の定住革命」p125 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
  13. ^ 「人類史の中の定住革命」p185 西田正規 講談社学術文庫 2007年3月10日第1刷
  14. ^ 「栗の文化史 日本人と栗の寄り添う姿」p26-29 有岡利幸 雄山閣 2017年2月25日初版発行
  15. ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p238 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷
  16. ^ 「世界の食用植物文化図鑑」p245 バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント著 山本紀夫監訳 柊風舎 2010年1月20日第1刷

外部リンク

  • ナッツ - (オレゴン州大学・ライナス・ポーリング研究所)

関連項目