主食

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主食(しゅしょく、: staple food)とは、日常の食事の主体となる食物[1]。日常の食事の中心になる食物[2]副食の対義語[3]

地域や民族によって、何が主食になるかは大きく異なる。それについて、まず分かりやすい対比例をひとつあげると、たとえば米国、ニューヨークのほとんどの人々にとって、主食はあくまでビーフ(牛肉)である[4]。それに対して、日本人(の多く)にとっては、米飯めん類パンなどの類である[5]

それぞれの国や地域においてどの作物が主食に選ばれるかは、気候土壌地形生態系等の自然条件、農業政策農業技術等の社会条件、好まれる味覚や食文化によって左右される。世界には食用となる植物が50,000種以上あるが、人類の栄養源として特に重要度の高い作物は数百程度である。そのうち15種の作物が全世界で摂取される食物エネルギーの90%を支え、うち米・トウモロコシ・小麦だけで世界人口の3分の2に当たる40億人の主食を占める[6]

イネ科の穀類には10,000種以上があるが、広く耕作されている種はその一部である。世界的に重要な作物としては小麦大麦トウモロコシがある。途上地域においては、モロコシ(別名:ソルガム・コーリャン)や雑穀類アワキビヒエシコクビエトウジンビエ等)も重要な栄養源である。ヨーロッパのうち小麦の生育に適さない寒冷で土壌の痩せた地域では、伝統的にライムギエンバク(オートミール)が利用されてきた。フランスのブルターニュ地方も小麦の生育に適さない地域だが同地域では代わりに伝統的にソバを栽培している(主食としてソバ粉でクレープを焼いて食べる。)テフエチオピアの伝統的な主食作物である。イネ科以外の作物についても穀類に含めることがあり(「擬似穀類」)、ソバアンデス地域のキヌアアマランサス等が該当する。穀類は生食に適さず、そのまま加熱して粒食(米飯等)するほか、製粉してパスタ等)や発酵パン等に加工して食される。

芋類(ジャガイモタロイモヤムイモサツマイモキャッサバ等)は途上地域の10億人以上の人々にとって重要な主食であり、サハラ以南のアフリカの人口の半数にとっては食料源の約40%を占める。特にキャッサバは熱帯の途上地域において重要であり、約5億人の主食となっている。芋類の一般的な特徴としては、炭水化物カルシウムビタミンCに富むが、タンパク質に乏しいことが挙げられる。

この他に豆類大豆インゲンササゲエンドウソラマメレンズマメヒヨコマメラッカセイ等)が限定的に主食とされる。豆類は、タンパク質に富むが炭水化物に乏しい。熱帯地域ではプランテン(調理用バナナ)が古くから利用されている。一部の地域では、パンノキの果実や、サゴ(サゴヤシの髄)を主食とする。

植物性の食品の主食[編集]

ランキング[編集]

植物性の主食に着目して、その生産量に着目し、世界でのランク付けをしてみると、第1位はトウモロコシである。

主食作物10種年間生産高[7]
世界生産高
2008
作付面積当たり平均生産高
2010
作付面積当たり最大生産国
2010[8]
順位 作物 (トン) (トン/ヘクタール) (トン/ヘクタール)[9]
1 トウモロコシ 823百万 5.1 28.4 イスラエル
2 小麦 690百万 3.1 8.9 オランダベルギー
3 685百万 4.3 10.8 オーストラリア
4 ジャガイモ 314百万 17.2 44.3 アメリカ
5 キャッサバ 233百万 12.5 34.8 インド
6 大豆 231百万 2.4 3.7 トルコ
7 サツマイモ 110百万 13.5 33.3 セネガル
8 モロコシ 66百万 1.5 12.7 ヨルダン
9 ヤムイモ 52百万 10.5 28.3 コロンビア
10 プランテン 34百万 6.3 31.1 エルサルバドル


栄養価[編集]

以下は、出典が「主食の栄養」ではなく、あくまで「食品の栄養」である。 主要な植物性の食物、10種の栄養の比較である。但し、この値は生のものであり、直接摂取する量ではない。加工・調理によって消費可能になるが、数値は異なるものとなる。

主な主食の成分比較表[10]
 主食 トウモロコシ[A] [B] 小麦[C] ジャガイモ[D] キャッサバ[E] 大豆[F] サツマイモ[G] モロコシ[H] ヤム[I] プランテン[J]
成分 100gあたりの含有量
水分(g 76 12 11 79 60 68 77 9 70 65
熱量(kJ 360 1528 1419 322 670 615 360 1419 494 511
タンパク質(g) 3.2 7.1 13.7 2.0 1.4 13.0 1.6 11.3 1.5 1.3
脂肪(g) 1.18 0.66 2.47 0.09 0.28 6.8 0.05 3.3 0.17 0.37
炭水化物(g) 19 80 71 17 38 11 20 75 28 32
食物繊維(g) 2.7 1.3 10.7 2.2 1.8 4.2 3 6.3 4.1 2.3
(g) 3.22 0.12 0 0.78 1.7 0 4.18 0 0.5 15
カルシウム(mg) 2 28 34 12 16 197 30 28 17 3
(mg) 0.52 4.31 3.52 0.78 0.27 3.55 0.61 4.4 0.54 0.6
マグネシウム(mg) 37 25 144 23 21 65 25 0 21 37
リン(mg) 89 115 508 57 27 194 47 287 55 34
カリウム(mg) 270 115 431 421 271 620 337 350 816 499
ナトリウム(mg) 15 5 2 6 14 15 55 6 9 4
亜鉛(mg) 0.45 1.09 4.16 0.29 0.34 0.99 0.3 0 0.24 0.14
(mg) 0.05 0.22 0.55 0.11 0.10 0.13 0.15 - 0.18 0.08
マンガン(mg) 0.16 1.09 3.01 0.15 0.38 0.55 0.26 - 0.40 -
セレン(mcg) 0.6 15.1 89.4 0.3 0.7 1.5 0.6 0 0.7 1.5
ビタミンC(mg) 6.8 0 0 19.7 20.6 29 2.4 0 17.1 18.4
チアミン(mg) 0.20 0.58 0.42 0.08 0.09 0.44 0.08 0.24 0.11 0.05
リボフラビン(mg) 0.06 0.05 0.12 0.03 0.05 0.18 0.06 0.14 0.03 0.05
ナイアシン(mg) 1.70 4.19 6.74 1.05 0.85 1.65 0.56 2.93 0.55 0.69
パントテン酸(mg) 0.76 1.01 0.94 0.30 0.11 0.15 0.80 - 0.31 0.26
ビタミンB6(mg) 0.06 0.16 0.42 0.30 0.09 0.07 0.21 - 0.29 0.30
葉酸 計(mcg) 46 231 43 16 27 165 11 0 23 22
ビタミンAIU 208 0 0 2 13 180 14187 0 138 1127
ビタミンE(α-トコフェロール:mg) 0.07 0.11 0 0.01 0.19 0 0.26 0 0.39 0.14
ビタミンK(mcg) 0.3 0.1 0 1.9 1.9 0 1.8 0 2.6 0.7
ベータカロチン(mcg) 52 0 0 1 8 0 8509 0 83 457
ルテイン+ゼアキサンチン(mcg) 764 0 0 8 0 0 0 0 0 30
飽和脂肪酸(g) 0.18 0.18 0.45 0.03 0.07 0.79 0.02 0.46 0.04 0.14
一価不飽和脂肪酸(g) 0.35 0.21 0.34 0.00 0.08 1.28 0.00 0.99 0.01 0.03
多価不飽和脂肪酸(g) 0.56 0.18 0.98 0.04 0.05 3.20 0.01 1.37 0.08 0.07
A  スイートコーン、黄色、生 B  長粒種、生
C  デュラムコムギ D  皮付き、生
E  生 F  緑色、生
G  生、未加工 H  生
I  生 J  生


主食は栄養価の高い食物ではあるが、主食を摂るだけで全ての栄養素が摂取できるわけではないため、栄養失調を防ぐには他の食物も摂る必要がある。たとえば、トウモロコシ主体の食事ではナイアシン欠乏によりペラグラの発症リスクが高まり、白米主体の食事ではビタミンB1欠乏により脚気を患う恐れが高くなる[11]

動物性の食品の主食[編集]

西ヨーロッパの人々や、米国ニューヨークの人々や、イヌイットの人々にとっては、動物性の食品が主食である。またアルゼンチンの人々にとっても肉が主食である。アルゼンチン国民の1人1年当たりの食肉の消費量は約110kg であり、その内訳は牛肉が60kg 、鶏肉が40kg、豚肉が10kgとなっている[12]

日本での主食[編集]

日本にはもともと先住民アイヌの人々が住んでいた、ということが、世界的には学者の研究などによってかなり以前から認知されていたが、2008年の日本の国会における、アイヌが日本の先住民であるとの決議により、政府としてもその事実を認めることとなった[13]

アイヌはもともと漁撈や狩猟や採集で食材を得て暮らしており、鹿、山野の採集で得られたオオウバユリの鱗茎やドングリ山菜などを食べて暮らしていた。

縄文時代の日本には、アイヌなどの先住民の人々が中心に暮らしていたわけだが、その日本に水田稲作をする人々が(続々と)入ってきたわけである。(先住民のアイヌまで稲作を始めたわけではない、ということに、一定の注意が必要である。稲作は、後から渡来した人々を中心に広がっていった、と考えたほうがよい。)。次の弥生時代になって日本は本格的な農業社会になった。

以後、「日本人」がいだく食物の価値観の中心に米が位置するようになる。米は他と較べずっと重要な意義をもつ食物とみなされるようになったのである[14]。豊葦原瑞穂国と呼ばれる日本における国家儀礼のうち最大のものは大嘗祭である。新しい天皇によって執り行われる大嘗祭は天皇の交代儀礼と臣下の服属儀礼を伴い、この儀式によって新天皇にから稲霊を司る権限が付与されることになる。律令国家の頂点に立つ天皇とは、まさしく稲作の祭祀権を握る最高の司祭者であり、米文化の象徴でもあった。日本神話のなかでも米に特別な役割が与えられ、実際に古代国家の形成においても米が非常に重要な位置を占めていた[15]

このため、日本では広く米を主食と考えてきたが、少なくとも昭和30年代(1955年-1964年)までは、多くの人たちがこれを常食することはできなかった。米を最も重要な食べ物としこれを主食とする観念は、稲作儀礼が体系的かつ広範に見られることや、山間部でも盛んに棚田が開かれていることからもうかがえ、これらは稲作や米飯への希求の表れであるが、江戸時代には政治経済の中心に米が置かれたことも大きいといえる。こうした観念に対して実生活上の主食は複数の穀物を組み合わせたものであった。水田地帯にあっても農家では昭和30年代(1955年-1964年)までは日常的には大麦の挽き割りや押し麦を混ぜた麦飯、大根飯など米に根菜類を混ぜたかて飯が普通だった。実際の主食はこのように多様で、サツマイモやトウモロコシなども17世紀ごろから盛んに作られていた[16]

第二次世界大戦敗戦の後、1951年(昭和26年)朝鮮特需で経済力を回復しサンフランシスコ講和条約で国際復帰を果たした日本は、1955年(昭和30年)から高度成長期に入った。このころから米の増産は著しく、1959年(昭和34年)には1250万トン、1967年(昭和42年)の大豊作では1445万トンを記録している。そうしたなかで、1960年(昭和35年)に始められた栄養改善運動では、白米偏重の是正が叫ばれるようになった。そのため、1962年(昭和37年)に米の消費量は戦後最高を記録し、一人一日あたり324グラムのピークに達したが、以後年々減少し米は市場に余り米の過剰時代に入った。そして、1970年(昭和45年)以降は減反政策といわれる生産調整政策がとられることになった[17]。高度成長期の後半、とくに1970年(昭和45年)以降、世界各地からさまざまな食材や食べ物が輸入され日本人の食生活は多様化していった。しかしその多様さだけに限定してみると、高度成長期以前においてもそう変わらなかった。大きく異なっているのは、戦後までは、立地条件や経済的事由などによって主食の米を常食できず、自作の、あるいは入手できる食糧・食材を組み合わせていたということである。対して現代では、食べ物の選択肢が飛躍的に増え、そのなかから個人の嗜好によって、何を食べるかが選択されるようになったことにあるといえよう[18]

脚注[編集]

  1. ^ 世界大百科事典
  2. ^ 精選版 日本国語大辞典
  3. ^ 大辞泉「主食」
  4. ^ The New York Times.
  5. ^ 大辞林
  6. ^ Dimensions of Need: An atlas of food and agriculture”. Food and Agriculture Organization of the United Nations (1995年). 2013年4月17日閲覧。
  7. ^ Allianz. “Food security: Ten Crops that Feed the World”. Allianz. 2013年4月18日閲覧。
  8. ^ FAOSTAT: Production-Crops, 2010 data”. Food and Agriculture Organization of the United Nations (2011年). 2013年4月18日閲覧。
  9. ^ あくまでも一国平均であり、主要生産地域ではより高くなる。
  10. ^ Nutrient data laboratory”. United States Department of Agriculture. 2013年3月4日閲覧。
  11. ^ United Nations Food and Agriculture Organization: Agriculture and Consumer Protection. “Rice and Human Nutrition”. 2010年10月15日閲覧。
  12. ^ [1]
  13. ^ [2]
  14. ^ 石毛 直道 『日本の食文化史』 岩波書店、2015年、ISBN 978-4-00-061088-9、17頁、「神聖視される作物」の項
  15. ^ 原田 信男『和食と日本文化』 小学館、2005年、ISBN 4-09-387609-6、39-40頁、「古代における米文化と天皇」の項
  16. ^ 新谷 尚紀 他 『民俗小事典 食』 吉川弘文館、2013年、ISBN 978-4-642-08087-3 、26-27頁、「主食」の項
  17. ^ 原田 信男 『コメを選んだ日本の歴史』 文芸春秋、2006年、ISBN 4-16-660505-4、221-223頁、「高度経済成長期と農政」の項
  18. ^ 野本 寛一 『食の民俗事典』 柊風舎、2011年、ISBN 978-490-3530-51-2 、14頁、「主食としての米」の項

関連項目[編集]