56式自動歩槍
![]() 56式自動歩槍 | |
概要 | |
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種類 | 軍用ライフル |
製造国 |
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設計・製造 |
ミハイル・カラシニコフ(設計技師) |
性能 | |
口径 | 7.62mm |
銃身長 |
414mm(56式、56-1式、56-2式、56-3式) |
ライフリング | 4条右回り |
使用弾薬 | 7.62mm×39 |
装弾数 |
20連ショートマガジン |
作動方式 | ガス圧作動、ターンロックボルト |
全長 |
874mm(56式) |
重量 |
4300g(56式) |
発射速度 | 600~650発/分 |
銃口初速 | 735 m/s |
有効射程 | 400m |
56式自動歩槍(簡体字: 56式自动步枪)は、1956年から中華人民共和国でライセンス生産されたAK-47III型のコピーである。1980年頃までは解放軍工廠が、それ以降は中国北方工業公司(ノリンコ社)が製造を担当し、現在までに1,000万から1,500万挺が製造されたといわれている。ソ連崩壊時にAK-47の生産元が民営化されてからは、中国の独自開発と主張してライセンス料を支払っていない[1][注釈 1]。中国人民解放軍全体で使用された他、様々な国の軍隊や武装勢力に供与された。歩槍は中国語で歩兵銃や小銃の意であるが、人民解放軍では長らく短機関銃に相当する運用がなされていたことから、56式衝鋒槍や56式冲鋒槍、56式短機関銃などと表記する場合もある。
中華人民共和国が製造した銃には56式自動歩槍と同様に“56式”の名を冠した56式半自動歩槍(SKSカービンのライセンス生産品)と56式班用機槍(RPD軽機関銃のライセンス生産品)が存在するが、これ以降は特に必要が無い限り56式とのみ表記する。
特徴[編集]
基本的な構造はAK-47のIII型をベースとしている。前期生産型はAK-47と同様にフレームを削り出し加工で作っていたが、1960年代中ごろ以降の生産型ではAKMと同様のプレス加工に変更されている。
56式の最大の特徴はフロントサイトのカバーであり、ソ連を初めとする他の国で製造されたAKではカバーが上部まで達していないのに対して、56式はSKSカービンのものに似た円柱形になっており、上部まで覆われている[注釈 2]。
また、自国向けのモデルは切替軸部の表記が漢字で、輸出モデルは単射がD(単、ダン)で連射がL(連、レン)となっているようだが、実際は人民解放軍の写真でも両者が混在するものが見られる。
ちなみに、銃口に取り付けられる折り畳み式のスパイク型銃剣が特徴と思われる事が多いが、重心が前方により過ぎる上、実戦に使える代物ではなかったため、特にゲリラや民兵といった規律が厳しくない集団が使用する場合、銃身から取り外されていることが多く、輸出型ではオリジナルや東欧諸国製のAK-47/AKMと同じ着脱式ナイフ形銃剣を装着するようになっていることも多い。
さらには、多くのソ連製以外の7.62mm口径のAKがAKMをベースとしているのに対し、56式は比較的古い時点のライセンス生産品であるため、斜めに切り落としていない銃口[注釈 3]、銃身に対して並行になっていない曲銃床、強化リブの付いていないレシーバー上部のダストカバー、左右へのふくらみのない下部ハンドガードなど、AKMよりも原型のAK-47に近いデザインをしている部分が多い[注釈 4]。
元傭兵の高部正樹は56式について「AKのバリエーションでは駄作に入る。バヨネットや構造のせいで他国のAKに比べて重く、命中精度も悪い」と自著や取材で述べている[注釈 5]。アームズマガジン2002年1月号の特集ではニカラグアの紛争地域で「中国製AKは単発でも10発ほど撃つと銃身付近に陽炎が発生して照準が定まらなくなる。作りが粗く命中精度も悪い」という現地兵の発言を載せている。
実戦投入[編集]
中国はワルシャワ条約機構に加盟こそしていなかったものの、1960年代に対立が表面化するまでは共産主義国家としてソ連から軍事援助を受けており、東側兵器の多くを製造していた。56式もその内の一つだが、中国ではソ連から購入した生産ライセンスの期限が切れた後も製造を続け、第三国の軍隊に供与、或いは売却し、中国の56式の生産量はソ連のAKを上回ることとなった[2]。
特に有名なのはベトナム戦争における北ベトナム軍と南ベトナム解放民族戦線であろう。北ベトナム軍とベトコンでは膨大な数の56式がソ連製や東欧製のAKと共に使用されている。1979年の中越戦争においては、中国人民解放軍で56式半自動歩槍に次いで保有数の多い小火器が56式であったため、双方が使用した。
また、1980年代のソ連のアフガニスタン侵攻においてはCIAの資金援助によって大量の56式がムジャーヒディーンに供与されており、ソ連軍撤退後に続いた内戦においてもターリバーンや北部同盟をはじめとする各軍閥や政府軍においてソ連製オリジナルや東欧諸国製のAKに混じって使用され続けた。特にターリバーンの兵士には大量の56式がパキスタンから供与されて普及していた[3]。また、ニカラグア内戦ではアメリカ合衆国に援助されたコントラに供与された[4]。
イラン・イラク戦争においても中国はイランとイラクの双方に56式を輸出し、双方が使用した[5]。
1983年から始まったスリランカ内戦においては、スリランカ政府軍が1980年代中ごろからFN FALとH&K G3の後継小銃に56式を選定して使用したほか、タミル・イーラム解放のトラも政府軍から鹵獲した56式を使用している。
ミャンマー(ビルマ)では、1960年代後半から同国内での反中運動の高まりに対する同政府の対応への不満と、中国の文化大革命の「革命輸出」路線により、中国に接するシャン州北部を支配下とするビルマ共産党に対して中国が支援を行うようになった。これは大々的に行われ、一時期は紅衛兵や軍事顧問の派遣すら行われた。こうした同共産党への軍事支援の一環として56式など中国製の装備が大量供与された。90年代以降、中国とミャンマー政府が急速に接近し、同共産党も内部崩壊したものの、中国からの支援は細々と続けられており、ワ州連合軍などの分裂した後身の少数民族民兵組織(軍閥)が使用している。これらの民兵組織は中国式の(旧式の)装備を保有し、中国式の訓練を施されている。また、1960年代から北部カチン州で抵抗運動を続けているカチン独立軍(分派を含む)にも供与されている。
一方、ミャンマー政府軍はH&K G3及びガリルを主力小銃とし、国内でライセンス生産して装備している。しかし、少数の鹵獲・押収した56式も一部の部隊で運用していると見られる。
クロアチア紛争及びボスニア・ヘルツェゴビナ紛争ではクロアチアが56式を導入した[注釈 6]他、コソボ紛争においてもコソボ解放軍がアルバニアから流出した56式を使用した。
イギリスでは1987年のハンガーフォード事件での犯行に使われ、半自動武器の所持が規制されるきっかけとなった[6]。
アメリカ合衆国では56式のスポーターモデルが販売されたが、1989年のストックトン銃乱射事件に凶器として使われ、これを受けてロベルティ=ロス攻撃用武器規制法が制定[7]されて当時の大統領だったジョージ・H・W・ブッシュはアサルト・ウェポンの輸入を禁ずる大統領令に署名し[8]、1994年のアサルト・ウェポン規制法の制定をきっかけに民間への販売が禁止になるも1997年のノースハリウッド銀行強盗事件では再び使われ[9]、余剰在庫となった56式がFARCなどコロンビアのゲリラに流出する事件も発生した[10]。
政府の正規軍ではないゲリラや民兵、テロリスト、海賊などが56式を他国製のAKと共に用いることも多いが、それらは横流し品が兵器の闇市場で売買された物か、特定の国から供与されたものであることがほとんどである。ガザ地区を実効支配するハマスが使用する56式はイランが、ダルフール紛争で戦闘を繰り返している民兵組織ジャンジャウィードの装備する56式はスーダン政府がそれぞれ供与したものと見られている。
この他フィンランドが戦時用ストックとして相当数を購入している他、アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズが他国製のAKと共に運用していた事が有る[11]など西側でも限定的に使用されていた。
バリエーション[編集]
- 56式自動小銃(56式)
- AK-47III型の中国生産版。フレームが切削加工。オリジナルと異なりスパイクバヨネットを備える。
- 56式自動小銃1型(56-1式)
- AKS-47と同様の折畳ストックを装備する戦車兵、空挺部隊向けモデル。
- 56式自動小銃2型(56-2式)
- 1980年前後に生産開始されたモデル。IMI ガリルとよく似たデザインの側面折畳ストックが特徴で、このストックは81式自動歩槍にも使われている。基本的には輸出向けであるが、中越戦争時の写真では解放軍でも運用されていることが確認できる[12]。
- 56式自動小銃3型(56-3式)
- AKMのコピー。フレームがプレス加工。オリジナルの小改良を各部に施している。
- 56式自動小銃C型(56-C式)
- 56-2式をベースとしたショートカービン。ガスバイパスを含む銃身を短縮、木製だったパーツを黒塗りのプラスチック製に変更し、20連ショートマガジンを使用する。
- 56式自動小銃S型(56-S式)
- 民間向け輸出専用型。セミオートのみ。
- 56式自動小銃SS型(56-SS式)
- ストックを取り外し、さらに短銃身化したもの。
- 56式自動小銃S-1型(56S-1式)
- 56-1式の民間向け輸出専用型。セミオートのみ。
- 56式分隊支援火器S-7型(56S-7式)
- 56-3式をベースとした分隊支援火器。いわば中国版RPK軽機関銃。
- NHM-91
- 56S-7式をベースとした民間向け輸出専用型スポーツライフル。セミオートのみ。20インチ長の肉厚銃身。レシーバーはプレス加工。ストックは白樺や榎の木製。
- 84式自動小銃2型 (84-2式)
- 56-2式の派生型。側面折畳ストックを装備。5.56mm NATO弾を使用。
- 84式自動小銃S型 (84-S式)
- 56-S式の派生型。5.56mm NATO弾を使用。
- AK-2000P
- 樹脂製ハンドガードと56-2式同様の側面折畳ストック、フラッシュサプレッサーを装備し、5.56mm NATO弾を使用する。仕様としてはAK-101に近いが直接的なコピーではなく、ガスブロック部およびシリンダー部の形状から分かる通り、あくまでも56式から派生したものである。
採用国[編集]
中国から共産主義的な軍事政権への援助が行われた場合、必ずといって良いほど56式とそのバリエーションが供与された。現在はそこからさらに第三国の軍事政権やゲリラ、民兵、テロリストへと流れ、大きな社会問題にもなっている。
ここでは、現在までに56式シリーズを制式に採用した経験のある国のみを表記する。
中国
アフガニスタン
アルバニア - ASh-78として生産している。
イラク
イラン
インド
インドネシア - インドネシア国家警察機動隊(BRIMOB)がAK-2000PをAK-101及びAK-102と共に使用している[13]。
ウガンダ
エチオピア
カンボジア
クロアチア
コソボ
スーダン - MAZとしてライセンス生産している[14]。
スリランカ
ナイジェリア
パキスタン
バングラデシュ - 製造ライセンス無し。生産はバングラデシュ造兵廠が担当[15]。
ベトナム - 正規軍の他、ベトナム戦争中には南ベトナム解放民族戦線などでも使用された。
ベナン
ソマリア
ボリビア
フィンランド - 戦時ストックとして1990年代初頭に約200,000丁の56式(多くは56-2式)を購入している。
マルタ
ミャンマー
ラオス
登場作品[編集]
56式シリーズはAK-47シリーズとほぼ同一の外見を持ちながらも、AK-47に比べて遥かに多い生産数を誇り入手が容易であること、程度の良いソ連製オリジナルのAK-47にはある程度のプレミアがつくことから、映画などではコスト削減のため、AK-47シリーズの代用品として用いられる事が非常に多い。特にハリウッド映画のプロップガン(実銃を改造したもの)などは、大概56式が改造ベースであると考えていい。その一方で、『プラトーン』では北ベトナム軍の兵士たちの武装として、56式であることが明確に分かるように演出されている。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ 但し、冷戦終結後のAK系小銃の無断製造は東欧の旧東側諸国などでも行われていることから、中国固有の問題ではない。
- ^ 厳密には、フロントサイト真上の部分にはねじで照準の上下を調整するために円形の小穴があいている。
- ^ AKMの銃口の斜めに切り落とされたマズルブレーキは厳密には銃身とは別の部品であり、サプレッサーやライフルグレネードのソケットなどを装備する際にはこれを取り外す。
- ^ これらの改良点は国ごとに取り入れている部分が異なり、中には独自の改良を加えてあるケースもある。ルーマニア製のAIM/AIMSや、ハンガリー製のAKM-63及びそのカービンモデルであるAMD-65は垂直のフォアグリップを装備。ユーゴスラビア(セルビア)製のツァスタバ M70は、銃身とガスシリンダーをつなぐガスポートに発射ガス遮断器兼用のライフルグレネード照準器を装備。
- ^ 過去にコンバットマガジンで連載していたコラムや2017年12月号の取材でも同様の発言をしている。
- ^ ユーゴスラビア紛争勃発前のユーゴスラビア社会主義連邦共和国でもザスタバ・アームズがAKシリーズを国産化していたが、ザスタバ・アームズの工場はセルビアのクラグイェヴァツに存在しているため、クロアチアではAKシリーズを別途調達する必要があった。
出典[編集]
- ^ 松本仁一 「中国製」新幹線や銃を問う
- ^ “中国対ロシア:どちらのAKが優れているか”. ロシア・ビヨンド. (2019年4月5日) 2019年7月16日閲覧。
- ^ Gordon Rottman (24 May 2011). The AK-47: Kalashnikov-series assault rifles. Osprey Publishing. pp. 47–49. ISBN 978-1-84908-835-0.
- ^ Jurado, Carlos Caballero (1990). Central American Wars 1959-89. Men-at-Arms 221. London: Osprey Publishing. p. 19. ISBN 9780850459456.
- ^ Brayley, Martin J (2013). Kalashnikov AK47 Series: The 7.62 x 39mm Assault Rifle in Detail. Crowood. p. 32. ISBN 978-1-84797-526-3. p.160
- ^ Warlow, Tom (2004). Firearms, the Law, and Forensic Ballistic (2nd ed.). CRC Press. pp. 26–27, 47. ISBN 9780203568224
- ^ Ingram, Carl (1989年5月25日). “Governor Signs Assault Weapon Legislation”. Los Angeles Times: pp. 1 2014年11月21日閲覧。
- ^ Ingram, Carl (1989年5月25日). “Governor Signs Assault Weapon Legislation”. Los Angeles Times: pp. 1 2014年11月21日閲覧。
- ^ Smith, This story was reported by Times staff writers Doug. “Chilling Portrait of Robber Emerges”. 2018年4月6日閲覧。
- ^ 『カラシニコフ II』 松本 仁一 「第2章 ライフル業者」より。
- ^ http://www.americanspecialops.com/photos/navy-seals/navy-seal-type-56.php
- ^ “对比中越战争双方轻武器:解放军曾吃了大亏(组图)”. 2019年12月11日閲覧。
- ^ “Norinco AK-2000P: Balada Senapan Serbu “Kalashnikov” Produksi Cina”. 2017年1月18日閲覧。
- ^ “MAZ”. Military Industry Corporation. 2009年2月8日閲覧。
- ^ Type 56 Submachine Gun. Retrieved on October 28, 2008.
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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