蜘蛛の糸

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蜘蛛の糸
訳題 The Spider's Thread
作者 芥川龍之介
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル 短編小説掌編小説
発表形態 雑誌掲載
初出情報
初出赤い鳥1918年7月・創刊号
刊本情報
刊行 春陽堂 1932年11月
収録 『傀儡師』 新潮社 1919年1月15日
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蜘蛛の糸」(くものいと)は、芥川龍之介の児童向け短編小説掌編小説)。芥川龍之介のはじめての児童文学作品で、1918年に発表された。映画『蜘蛛の糸』についても説明する。

出版[編集]

1918年(大正7年)4月に脱稿され、鈴木三重吉により創刊された児童向け文芸雑誌赤い鳥』7月・創刊号に発表された。芥川龍之介が手がけたはじめての児童文学作品で、芥川にとって鈴木は夏目漱石門下の先輩にあたる。神奈川近代文学館が所蔵する肉筆原稿には鈴木三重吉による朱筆が加えられている。

単行本としては、翌1919年1月15日に新潮社から出版された『傀儡師』に収録されている[1]

この話の材源は、ドイツ生まれのアメリカ作家で宗教研究者のポール・ケーラス英語版が1894年に書いた『カルマ』(Karma: A Story of Early Buddhism[2])の鈴木大拙による日本語訳『因果の小車』[3]の中の一編であることが定説となっている[4] 。原書には仏教説話を8編収録しているが、材源となった「The Spider-web」[5]はケーラスの創作である[6]

『カルマ』材源説以前には、ドストエフスキーが1890年に出版した長編小説『カラマーゾフの兄弟』における「1本の葱」の挿話に着想した作品であると考えられていた[7]

昔あるところに、それはそれは意地の悪い女が住んでいて、ぽっくり死んでしまいました。
死ぬまでひとつとして美談がありませんでした。悪魔たちがその女をつかまえ、火の湖に投げ込みました。

そこで、その女の守護天使がそばにじっとたたずみながら考えました。

「何かひとつでもこの女が行なった美談を思いだして、神さまにお伝えできないものだろうか」、と。

そこでふと思い出し、神さまにこう告げたのでした。

「この人は野菜畑で葱を一本引き抜き、乞食女に与えました」、と。

すると神さまは天使に答えました。

「ではその葱を取ってきて、火の湖にいるその女に差しだしてあげなさい。それにつかまらせ、引っぱるのです。もしも湖から岸に上がれれば、そのまま天国に行かせてあげよう。でもその葱が切れてしまったら、今と同じところに残るがよい」

天使は女のところに駆け出し、葱を差しだしました。

「さあ女よ、これにつかまって上がってきなさい」

そこで天使はそろそろと女を引きあげにかかりました。そしてもう一歩というところまで来たとき、湖のほかの罪びとたちが、女がひっぱり上げられるのを見て、一緒に引きあげてもらおうと女にしがみついたのです。

するとその女は、それはそれは意地の悪い人でしたから、罪びとたちを両足で蹴りおとしはじめたのでした。

「引っぱりあげてもらってるのはわたしで、あんたたちじゃない、これはわたしの葱で、あんたたちのじゃない」

女がそう口にしたとたん、葱はぶつんとちぎれてしまいました。そして女は湖に落ち、今日の今日まで燃えつづけているのです。

そこで天使は泣き出し、立ち去りました。 — 『カラマーゾフの兄弟3』光文社古典新訳文庫 P78から

主人公の名は原文『カルマ』では「Kandata」で、鈴木大拙訳『因果の小車』では「犍陀多」という漢字を当ててカンダタと読ませた[3][8]ので、芥川もこのまま使っているが、去勢した雄牛を意味する「犍」の字の読音は本来「ケン」であり、「カン」という読みはない。

あらすじ[編集]

釈迦はある日の朝、極楽[9]を散歩中に池を通して下の地獄を覗き見た。罪人どもが苦しんでいる中にカンダタ(犍陀多)という男を見つけた。カンダタは殺人や放火もした泥棒であったが、過去に一度だけ善行を成したことがあった。それは林で小さな蜘蛛を踏み殺しかけて止め、命を助けたことだった。それを思い出した釈迦は、彼を地獄から救い出してやろうと、一本の蜘蛛の糸をカンダタめがけて下ろした。

暗い地獄で天から垂れて来た蜘蛛の糸を見たカンダタは、この糸を登れば地獄から出られると考え、糸につかまって昇り始めた。ところが途中で疲れてふと下を見下ろすと、数多の罪人達が自分の下から続いてくる。このままでは重みで糸が切れてしまうと思ったカンダタは、下に向かって大声で「この蜘蛛の糸は己(おれ)のものだぞ。」「下りろ。下りろ。」と喚いた。その途端、蜘蛛の糸がカンダタの真上の部分で切れ、カンダタは再び地獄の底に堕ちてしまった。

無慈悲に自分だけ助かろうとし、結局元の地獄へ堕ちてしまったカンダタを浅ましく思ったのか、それを見ていた釈迦は悲しそうな顔をして蓮池から立ち去った。

類似の物語[編集]

  • スウェーデンの女流作家セルマ・ラーゲルレーヴ1905年に書いた『キリスト伝説集』(岩波文庫)の「わが主とペトロ聖者」が類似した話となっている。わが主(イエス)が地獄に向けて放った天使につかまって上がってこようとしたペトロ聖者の母親が、一緒につかまって上がってこようとした人々を振り落としたために、天使は母親を放してしまい、結局また地獄へ落ちてしまう話となっている。なお、ケーラスは日本で『カルマ』を再版する際に『聖ペテロの母』に依拠したと思われるエピソードを加えている[10]
  • イタリアスペインには「天国に居るシエナのカタリナが地獄に居る母親を天国に引き上げようとするが、母親は自分にしがみ付いた魂に悪態をついたため地獄に戻され、カタリナは天国よりも母の居る地獄へ移った」という内容の民話が伝わっている。
  • 山形県福島県愛媛県には、『地獄の人参』という話が伝承されている。ストーリーは「あるところに欲張りな老婆がいて、その報いで地獄に落ちた。地獄の責め苦に耐え切れず、閻魔大王に『何とか極楽に行かせて欲しい』と頼んだところ、『何か一つでも良いことをしたことはないのか』と問われる。そこで老婆は、隣人(旅の僧)に腐ったニンジン(薬用のオタネニンジンの切れ端)を恵んだ話をする。閻魔大王はニンジンを出し、それにすがって極楽へ行くよう命じるが、蜘蛛の糸の話と同様、最後は亡者を追い払おうとして地獄へ転落する」というものである。これが古来の伝承か、あるいは芥川の小説が翻案されて作られた新たな説話かは不明である[11]。この話は『まんが日本昔ばなし』でアニメ化されている。

映画[編集]

蜘蛛の糸
監督 秋原正俊
脚本 秋原正俊
原作 芥川龍之介『蜘蛛の糸』、『煙草と悪魔』、『アグニの神
出演者 平幹二朗
音楽 山路敦司
配給 カエルカフェ
公開 2011年9月24日
上映時間 71分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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映画『蜘蛛の糸』は上記小説を主に、芥川の『煙草と悪魔』と『アグニの神』をも原作としてストーリーに盛り込み、新たな解釈を加えて現代劇としたファンタスティックな劇映画である。監督秋原正俊。主演はスクリーン主演が34年ぶりとなる平幹二朗、助演に高畑こと美が2役を演じ、母の高畑淳子が特別出演した。生前の行いによって、各人が全く異なる形態の地獄に落ちるという設定で、野山や畑などを含めた幻想的な映像が撮影された。ロケは主に長野県上田市長野市静岡県焼津市静岡市で行われ、地域住民もエキストラで参加しており、エンドロールには全員の名前が記載されている。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

アニメーション[編集]

バレエ[編集]

本作を元にした同名のバレエ作品『蜘蛛の糸』では、芥川龍之介の息子で作曲家芥川也寸志が音楽を作曲している。

翻案[編集]

小説[編集]

  • 『蜘蛛の糸』(小松左京[12]
    サイエンス・フィクション作家小松左京の作品にパロディである同名の掌編小説がある。
    彼はまず、「カンダタが糸を放せと言ったのは当然」と評してこの作品を批判した上で、別世界の話として、同様の話を書く。そこでは、地獄に堕ちたカンダタは蜘蛛の糸を降ろされ、それを伝って上がり、ふと下を見ると、他の者も上がってくるのを見る。しかし、彼は彼らを追い落とすより、慌てて伝い上がることを優先、しっかり極楽に上がる。釈迦の方がこれに驚き、他の亡者の登上を阻止しようとして失敗、代わりに地獄に堕ち、亡者たちは極楽へ。
    しばらくたった後、カンダタが地獄を覗くと、釈迦が血の池で苦しんでいる。彼は以前のことを思い出し、蜘蛛の糸を降ろす。釈迦がそれに気がついて昇り始めるが、ふと下を見ると、何と地獄の閻魔まで昇ってくる。「お前たちそれは駄目だ」というと、蜘蛛の糸は切れ、釈迦は地獄へ真っ逆さま。

テレビドラマ

楽曲[編集]

以下の楽曲は、いずれもこの物語を元にしている。

脚注[編集]

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  1. ^ 芥川龍之介 (2011年3月31日). “『傀儡師』「蜘蛛の糸」” (日本語). 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー. 2016年3月3日閲覧。
  2. ^ Karma, a story of Buddhist ethics :Internet Archive
  3. ^ a b 因果の小車』 pp15-19、長谷川商店、1898年 - 国立国会図書館デジタルコレクション p.15-19
  4. ^ 長谷川潮『少年少女の名作案内 日本の文学 ファンタジー編』佐藤宗子・藤田のぼる 編著、自由国民社〈知の系譜 明快案内シリーズ〉、2010年、17頁。ISBN 978-4-426-10834-2
  5. ^ Paul Carus, Karma: A Story of Early Buddhism, pp25-31, 1917, Open Court Publishing Company, Chicago [1]
  6. ^ 長尾佳代子, 仏の放光と蜘蛛の糸 ―ポール・ケイラスの原作に日本の絵師が重ねたイメージ―, 大阪体育大学紀要 37, 17-32, 2006-03
  7. ^ 山口静一 (1963-04). “「蜘蛛の糸」とその材源に関する覚書き”. 成城文藝 (成城大学) (32): 9-27. NAID 110006610268. 
  8. ^ ガンダルヴァの訳語のひとつ「犍陀羅」(けんだら)からの連想か。
  9. ^ 極楽浄土阿弥陀仏浄土なので、そこにお釈迦様がおられるのは厳密には間違いである。
  10. ^ 小林信彦「クモの巣」が「聖ペテロの母」のヴァリアントである可能性 : フレンワイダー説批判, 桃山学院大学人間科学 (30), 99-128, 2006-01-15
  11. ^ 『日本の世間話』 野村純一 平成7年 東京書籍
  12. ^ 収録短編集 『日本売ります』 1999年 ハルキ文庫 ISBN 978-4894564930 。後に『役に立つハエ―小松左京ショートショート全集 3』 2003年 ハルキ文庫 ISBN 978-4758430487

外部リンク[編集]