自由エネルギー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
統計力学
Increasing disorder.svg


熱力学 · 気体分子運動論

自由エネルギー(じゆうエネルギー、: free energy)とは、熱力学における状態量の1つであり、化学変化を含めた熱力学的系の等温過程において、系の最大仕事(潜在的な仕事能力)、自発的変化の方向、平衡条件などを表す指標となる[1][2]

自由エネルギーは1882年ヘルマン・フォン・ヘルムホルツが提唱した熱力学上の概念で、呼称は彼の命名による。一方、等温等圧過程の自由エネルギーと化学ポテンシャルとの研究はウィラード・ギブズにより理論展開された。 等温等積過程の自由エネルギーはヘルムホルツの自由エネルギーHelmholtz free energy)と呼ばれ、等温等圧過程の自由エネルギーはギブズの自由エネルギーGibbs free energy)と呼びわけられる。ヘルムホルツ自由エネルギーは F で表記され、ギブズ自由エネルギーは G で表記されることが多い。両者の間には G=F+pV の関係にあり、体積変化が系外に為す仕事 pV の分だけ異なる。

熱力学第二法則より、系は自由エネルギーが減少する方向に進行する。また、閉じた系における熱力学的平衡条件は自由エネルギーが極小値をとることである。

ヘルムホルツの自由エネルギー[編集]

ヘルムホルツの自由エネルギー英語: Helmholtz free energy)は、等温条件の下で仕事として取り出し可能なエネルギーを表す示量性状態量である。なお、IUPACでは「自由」を付けずにヘルムホルツエネルギー英語: Helmholtz energy)とすることが推奨されている[3]。記号 FA で表されることが多い。

内部エネルギー U熱力学温度 Tエントロピー S として、ヘルムホルツエネルギーは

で定義される。

完全な熱力学関数[編集]

熱力学温度 T体積 V物質量 N の関数として表されたヘルムホルツエネルギー F(T,V,N)完全な熱力学関数となる。 このように見たとき、定義式は完全な熱力学関数としての内部エネルギー U(S,V,N)S に関するルジャンドル変換

と見ることができる。

ヘルムホルツエネルギー F(T,V,N) の各変数による偏微分

で与えられる。 ここで、p圧力μi は成分 i化学ポテンシャルを表す。 従って、全微分

となる。

系のスケール変換を考えると

の関係が得られる。

等温過程[編集]

温度 Tex の環境にある系が、ある平衡状態から別の平衡状態へ変化する過程を考える。熱力学第二法則により、系が外部から受け取る熱 Q には上限が存在する。

この不等式とエネルギー保存則から、系が外部に為す仕事 W にも上限が存在する。

等温条件下では変化の前後で系の温度は外界の温度と等しく T=Tex なので、ヘルムホルツエネルギーの定義から

となり、不等式

が成り立つ。この場合の仕事 W は膨張仕事および非膨張仕事のすべてを含んでいる。

すなわち、温度 Tex の環境にある系が状態 X0 から X1 へと変化する間に外部に為す仕事 W には上限 Wmax が存在する。

この Wmax はヘルムホルツエネルギーを用いると

と表され、変化の前後でのヘルムホルツエネルギーの減少量が等温条件において取り出し可能な仕事量である。

等温条件下で外部に一切の仕事を行わない場合、とくに、等温等積で非膨張仕事も行わない場合は

となり、自発変化はヘルムホルツエネルギーが減少する方向へ進む。 また熱力学的平衡条件はヘルムホルツエネルギーが極小値をとることである。

統計力学との関係[編集]

統計力学では、カノニカルアンサンブルと関係付けられる。 分配関数 Z(β) を用いて、

と表される。 これはミクロとマクロをつなぐボルツマンの関係

から導かれる。

ギブズの自由エネルギー[編集]

ギブズ自由エネルギー英語: Gibbs free energy)は、熱力学電気化学などで用いられる、等温等圧条件下で非膨張の仕事として取り出し可能なエネルギーを表す示量性状態量である。非膨張の仕事の例としては電池反応による電気的な仕事があり、ギブズ自由エネルギーの減少量は等温等圧条件下で系から取り出し可能な電気エネルギーを表す。なお、IUPACではギブズエネルギーGibbs energy)という名称の使用を勧告している[4]。 通常は記号 G で表される。

等温等圧条件下ではギブズ自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Gの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ギブズエネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。

これは、ヘルムホルツの自由エネルギーに関する

等温等積条件下ではヘルムホルツの自由エネルギーは自発的に減少しようとする。即ち、Fの変化が負であれば化学反応は自発的に起こる。さらに、ヘルムホルツの自由エネルギーが極小の一定値を取ることは系が平衡状態にあることに等しい。

と対応している。

定義[編集]

エンタルピー H熱力学温度 T、エントロピー S として、ギブズエネルギーは

で定義される[1]。あるいは、ヘルムホルツエネルギー F圧力 p体積 V を用いて

で定義されることもある。内部エネルギーU とすると、エンタルピーの定義 H=U+pV、或いはヘルムホルツエネルギーの定義 F=UTS より

が得られる。

完全な熱力学関数[編集]

熱力学温度 T、圧力 p物質量 N を変数にもつ関数として表されたギブズエネルギー G(T,p,N)完全な熱力学関数である。このように見たとき、定義式は完全な熱力学関数としてのエンタルピー H(S,p,N)S に関するルジャンドル変換

と見ることができる。 ヘルムホルツエネルギーを用いた定義では、V に関するルジャンドル変換

と見ることができる。

ギブズエネルギー G(T,p,N) の各変数による偏微分

で与えられる。 ここで μi は成分 i化学ポテンシャルを表す。 従ってギブズエネルギー G(T,p,N)全微分

となる。この式は化学熱力学の基本方程式と呼ばれることがある[5]

系のスケール変換を考えると、

の関係が得られる。

等温等圧過程[編集]

温度 Tex、圧力 pex の環境にある系の状態変化を考える。 等温条件下では定義から

が導かれる。 また、熱力学第二法則から

であるが、非膨張仕事がない等圧条件下では系が得た熱がエンタルピーの変化と等しいので

となる。これらを合わせると、非膨張仕事がないときには、等温等圧条件から

が得られる。 等温等圧の条件下では、非膨張仕事がなければ自発変化はギブズエネルギーが減少する方向へ進む。また熱力学的平衡条件はギブズエネルギーが極小値をとることである。

平衡定数との関係[編集]

定圧定温条件での化学反応における標準反応ギブズエネルギーは標準反応エンタルピーおよび標準反応エントロピーと以下の関係がある。

標準反応ギブズエネルギーと平衡定数Kとの間には以下のような関係がある。ここで R気体定数である。

標準環境温度(25℃, 298.15K)においては以下のようになる。

また標準電極電位との関係は以下の通りである。ここで n は電池反応の半反応式における電子の化学量論係数、 Fファラデー定数である。

電池ではギブズエネルギー変化が負の値を取る向きに起電力が発生する。

脚注[編集]

[ヘルプ]

参考文献[編集]

  • Raymond Chang 『生命科学系のための物理化学』 岩澤康裕、北川 禎三、濱口 宏夫 訳、東京化学同人、2006年ISBN 4807906453
  • P. W. Atkins 『物理化学(上) 第6版』 千葉秀昭、中村亘夫 訳、東京化学同人、2001年。ISBN 8079-0529-5。
  • Daveid W. Ball 『物理化学(上)』 田中一義、阿竹徹 他、化学同人、2004年ISBN 4-7598-0977-5

関連項目[編集]

外部リンク[編集]