エクセルギー

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エクセルギー (: exergy) とは、あるから力学的な仕事として取り出せるエネルギーのことである。単に有効エネルギー[1]ともいう[2][3]自由エネルギーとは近い概念だが、エクセルギーは系の状態だけではなく周囲の状態にも依存する量であり(後述)、その重要性は理論上というよりむしろ実用上のものである(物理学よりもむしろ工学の用語である[2])。

exergy という語はラテン語由来の接頭辞 ex(外へ)とギリシア語 εργον(仕事)の合成語であり、1956年にスロヴェニアの工学者ゾラン・ラント (Zoran Rant) によって作られた[2]

俗に「省エネルギー」という表現があるが、各種エネルギーの総和は宇宙全体で見れば一定不変であり(→エネルギー保存の法則)、それを節約しようということは無意味である。「利用可能なエネルギーを節約する」という意図を正しく表現したいならば、「省エクセルギー」と言うべきであろう[4]

具体的な解説[編集]

温度差に関するエクセルギー[編集]

室温 T0 の環境に、温度 T1 (> T0) の系(例えば湯たんぽ)が置かれているとする。湯たんぽの熱容量C とすると、それが有する内部エネルギーは、U1 = CT1 である。これが室温 T0 まで冷めると、内部エネルギーは U0 = CT0 に下がる。湯たんぽが放出した熱エネルギーは、内部エネルギーの差分 ΔU = C (T1T0) そのものである。しかし力学的な仕事として取り出せる内部エネルギー(エクセルギー)は ΔU より小さい。なぜならば、湯たんぽの温度が T の時に周囲の空気との温度差でもって熱機関を動かすことを考えてみると、最良の熱機関(カルノーサイクル)を使ったとしても熱効率 η は

 {\eta} = 1 - \frac{T_0}{T}

でしかない(1 より小さい)からである。つまり、湯たんぽの温度が T の時に微小熱量 δQ だけエネルギーを放出したとすると、そのうち力学的エネルギーに変換されるのは

 {\delta} W = {\eta} {\delta} Q = \left( 1 - \frac{T_0}{T} \right) C \, dT

である。よって、はじめ T1 だった湯たんぽが室温 T0 まで冷める間に行いうる仕事 W は、

 W = \int {\delta} W = \int_{T_0}^{T_1} \left( 1 - \frac{T_0}{T} \right) C \, dT = \int_{T_0}^{T_1} C \, dT - T_0 \int_{T_0}^{T_1} \frac{C \, dT}{T} = \left( U_1 - U_0 \right) - T_0 \left( S_1 - S_0 \right)

である(Sエントロピー)。これがすなわち、熱容量 C で温度 T1 の物体が T0 の室温に置かれたときのエクセルギーである。放熱量 ΔU よりも T0 (S1S0) だけ小さい。

圧力差に関するエクセルギー[編集]

第二の例として、圧力 P1 の気体が詰まった系(ピストン)が気圧 P0 (< P1) の大気中に置かれた場合に成しうる仕事を考えてみる。圧力 P のピストンが微小体積 dV だけ膨張するとき、外部に与えられる微小仕事 δW は、δW = (PP0) dVである。すべての過程が常温で行われると仮定すると P dV = dF だから

 W = \int_{P_0}^{P_1} {\delta} W = \int_{V_0}^{V_1} (P - P_0) \, dV =(F_1 - F_0) - P_0 (V_1 - V_0)

が、この状況でこのピストンが有するエクセルギーである(F はヘルムホルツの自由エネルギー)。

脚注[編集]

  1. ^ : available energy
  2. ^ a b c 『基礎物理学2 熱力学』80ページ
  3. ^ 『工学技術者のための熱力学』203ページ
  4. ^ 『物理学〔三訂版〕』202ページ

関連項目[編集]

主要参考資料[編集]

  • 甲藤好郎『工学技術者のための熱力学』養賢堂、1985年
  • 小出昭一郎『基礎物理学2 熱力学』東京大学出版会、1980年
  • 小出昭一郎『物理学〔三訂版〕』裳華房、1997年