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「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」の版間の差分

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{{Notice|[[ヴィクトリア朝]]のシーン(原典・特別編)ではホームズとワトスン、現代のシーン(本シリーズ)ではシャーロックとジョンと記載する。また現代版への言及では、「本シリーズ」と記載する。|style=important|section=1}}
{{Notice|[[ヴィクトリア朝]]のシーン(原典・特別編)ではホームズとワトスン、現代のシーン(本シリーズ)ではシャーロックとジョンと記載する。また現代版への言及では、「本シリーズ」と記載する。|style=important|section=1}}
[[File:Allisvanity.jpg|right|200px|thumb|[[ヴィクトリア朝]]の[[ベーカー街221B|221B]]に飾られている絵は、{{仮リンク|チャールズ・アラン・ギルバート|en|Charles Allan Gilbert}}作の"All is Vanity"である]]
[[File:Allisvanity.jpg|right|200px|thumb|[[ヴィクトリア朝]]の[[ベーカー街221B|221B]]に飾られている絵は、{{仮リンク|チャールズ・アラン・ギルバート|en|Charles Allan Gilbert}}作の"All is Vanity"である]]
この作品の原案は、『[[マスグレーヴ家の儀式]]』で言及される、「[[先天性内反足|内反足]]のリコレッティとその忌まわしい妻の記録」である{{refnest|group="注"|原文"(前略)as well as a full account of Ricoletti of the club-foot, and his abominable wife."<ref>{{cite wikisource|title=The Musgrave Ritual|publisher=[[シャーロック・ホームズの思い出|The Memoirs of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|nobullet=1}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.radiotimes.com/news/2015-10-24/what-does-the-title-the-abominable-bride-tell-us-about-the-sherlock-special|title=What does the title The Abominable Bride tell us about the Sherlock special?|author=Paul Jones|work={{仮リンク|ラジオ・タイムズ|en|Radio Times}}|date=2015-10-24|accessdate=2016-02-20}}</ref>}}。この作品は、いわゆる[[語られざる事件]]に該当する。
この作品の原案は、『[[マスグレーヴ家の儀式]]』で言及される、「[[先天性内反足|内反足]]のリコレッティとその忌まわしい妻の記録」である<ref>{{cite wikisource|title=The Musgrave Ritual|publisher=[[シャーロック・ホームズの思い出|The Memoirs of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|nobullet=1|quote={{Interp|前略}} as well as a full account of Ricoletti of the club-foot, and his abominable wife.}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.radiotimes.com/news/2015-10-24/what-does-the-title-the-abominable-bride-tell-us-about-the-sherlock-special|title=What does the title The Abominable Bride tell us about the Sherlock special?|author=Paul Jones|work={{仮リンク|ラジオ・タイムズ|en|Radio Times}}|date=2015-10-24|accessdate=2016-02-20}}</ref>。この作品は、いわゆる[[語られざる事件]]に該当する。


: [[インターネット・ムービー・データベース|IMDb]]の作品ページ<ref>{{IMDb title|tt3845232|The Abominable Bride}}</ref>で「{{en|Season4 Episode0}}」と付されているように、この特別編はシーズン3とシーズン4を繋ぐ構成になっている。ヴィクトリア朝のシーンが、シャーロックのマインドパレスでの光景として描かれているため、前シーズンまでの様々なシーンが、舞台をヴィクトリア朝に移した形で再現されている。また、本シリーズは原典からの引用ネタが各所に散りばめられていることでも知られている。本作ではそれに加え、[[ジェレミー・ブレット]]版や[[ビリー・ワイルダー]]版など、過去の映像化されたホームズ作品にオマージュをかけたシーンが多数存在する。
: [[インターネット・ムービー・データベース|IMDb]]の作品ページ<ref>{{IMDb title|tt3845232|The Abominable Bride}}</ref>で「{{en|Season4 Episode0}}」と付されているように、この特別編はシーズン3とシーズン4を繋ぐ構成になっている。ヴィクトリア朝のシーンが、シャーロックのマインドパレスでの光景として描かれているため、前シーズンまでの様々なシーンが、舞台をヴィクトリア朝に移した形で再現されている。また、本シリーズは原典からの引用ネタが各所に散りばめられていることでも知られている。本作ではそれに加え、[[ジェレミー・ブレット]]版や[[ビリー・ワイルダー]]版など、過去の映像化されたホームズ作品にオマージュをかけたシーンが多数存在する。


: 脚本の[[スティーヴン・モファット]]が案内人を務める特典映像1では、[[ヴィクトリア朝]]の[[ベーカー街221B|221B]]のセット内にあるオマージュがいくつか指摘されている。マントルピースにナイフで刺された手紙や、ペルシャスリッパの中に詰め込まれた煙草は、『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来する。また、壁に弾痕で書かれた"VR"<ref group="注">当時の英国王[[ヴィクトリア (イギリス女王)|ヴィクトリア女王]]を意味する、"''{{en|Victoria Regina}}''"の略。</ref>との文字は、同じく『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来するが、同時に本シリーズでの弾痕で描かれた[[スマイリーフェイス|スマイリー]]とも対応している。セットにある[[ヘンリー・ウォード・ビーチャー]]の絵は、『[[ボール箱]]』での記述と符合する。また、221Bのドア脇には、本シリーズでは髑髏の絵が飾られているが、特別編の本作では{{仮リンク|チャールズ・アラン・ギルバート|en|Charles Allan Gilbert}}作の"{{en|All is Vanity}}"が飾られている。この絵は、特別編の年代設定(1895年)に程近い1892年に描かれている。更に、下宿のドアにはめ込まれている[[ステンドグラス]]は、『[[緑柱石の宝冠]]』『[[まだらの紐]]』『[[ライオンのたてがみ]]』『[[バスカヴィル家の犬]]』『[[オレンジの種五つ]]』があしらわれたデザインである{{refnest|group="注"|モファットによると、黄色い円は、『バスカヴィル家の犬』の魔犬の後ろで月のように見えるものも含め、『オレンジの種五つ』を示すものだという。実物の写真は、本作のプロダクション・デザイナーであるアーウェル・ウィン・ジョーンズのTwitterで公開されている<ref>{{Twitter status|arwelwjones|707224536056471552}}</ref>。}}。
: 脚本の[[スティーヴン・モファット]]が案内人を務める特典映像1では、[[ヴィクトリア朝]]の[[ベーカー街221B|221B]]のセット内にあるオマージュがいくつか指摘されている。マントルピースにナイフで刺された手紙や、ペルシャスリッパの中に詰め込まれた煙草は、『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来する。また、壁に弾痕で書かれた"VR"<ref group="注">当時の英国王[[ヴィクトリア (イギリス女王)|ヴィクトリア女王]]を意味する、"''{{en|Victoria Regina}}''"の略。</ref>との文字は、同じく『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来するが、同時に本シリーズでの弾痕で描かれた[[スマイリーフェイス|スマイリー]]とも対応している。セットにある[[ヘンリー・ウォード・ビーチャー]]の絵は、『[[ボール箱]]』での記述と符合する。また、221Bのドア脇には、本シリーズでは髑髏の絵が飾られているが、特別編の本作では{{仮リンク|チャールズ・アラン・ギルバート|en|Charles Allan Gilbert}}作の"{{en|All is Vanity}}"が飾られている<ref>{{Twitter status|arwelwjones|683228666676002817}}</ref>。この絵は、特別編の年代設定(1895年)に程近い1892年に描かれている。更に、下宿のドアにはめ込まれている[[ステンドグラス]]は、『[[緑柱石の宝冠]]』『[[まだらの紐]]』『[[ライオンのたてがみ]]』『[[バスカヴィル家の犬]]』『[[オレンジの種五つ]]』があしらわれたデザインである{{refnest|group="注"|モファットによると、黄色い円は、『バスカヴィル家の犬』の魔犬の後ろで月のように見えるものも含め、『オレンジの種五つ』を示すものだという。実物の写真は、本作のプロダクション・デザイナーであるアーウェル・ウィン・ジョーンズのTwitterで公開されている<ref>{{Twitter status|arwelwjones|707224536056471552}}</ref>。}}。


ワトスンが[[アフガン戦争#第二次アフガン戦争|第二次アフガン戦争]]に従軍し、肩を負傷して帰国するのは、『[[緋色の研究]]』冒頭の記述に由来する。その後スタンフォードと出会って、クライテリオン酒場で話すくだりも原典通りである。ホームズが[[死体安置所|モルグ]]で遺体に鞭を打っているのは、同作でのスタンフォードのホームズ評からである。ホームズは、下宿の番地を、現代版のような"Two-two-one B"(訳:に・に・いちビー)ではなく、"Two hundred and twenty-one B"(訳:にひゃくにじゅういちビー)と述べている。この一連のシーンは、本シリーズ『[[ピンク色の研究]]』でも使われている。また、ホームズとワトスンが出会った時点では、ワトスンは口ひげを生やしていない。挿絵では口ひげが描き込まれているものの、実際にワトスンがひげを生やしていたと分かるのは、『[[シャーロック・ホームズの帰還]]』所収の『[[犯人は二人]]』が初めてである<ref group="注">特報映像として配信されたシーンでは、ワトスンがハドスン夫人へ、「この口ひげだって、挿絵画家のせいで読者がそう思い込んだからだ」とぼやく台詞がある</ref>。
ワトスンが[[アフガン戦争#第二次アフガン戦争|第二次アフガン戦争]]に従軍し、肩を負傷して帰国するのは、『[[緋色の研究]]』冒頭の記述に由来する<ref name="geekcrusade">{{cite web|url=http://www.geekcrusade.com/features/15-easter-eggs-mightve-missed-abominable-bride/24219|title=15 easter eggs you might’ve missed in The Abominable Bride|author=JM Wong|date=January 4, 2016|accessdate=2016-04-17|publisher=Geek Crusade}}</ref>。その後スタンフォードと出会って、クライテリオン酒場で話すくだりも原典通りである<ref name="DenofGeek1">{{cite web|url=http://www.denofgeek.com/tv/sherlock/38383/sherlock-34-nerdy-details-from-the-abominable-bride|title=Sherlock: 34 nerdy details from The Abominable Bride|date=2016-01-05|publisher=Den of Geek|accessdate=2016-04-17}}</ref>。ホームズが[[死体安置所|モルグ]]で遺体に鞭を打っているのは、同作でのスタンフォードのホームズ評からである<ref>{{cite wikisource|title=A Study in Scarlet|chapter=Part 1/Chapter1|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|nobullet=1|quote=When it comes to beating the subjects in the dissecting-rooms with a stick, it is certainly taking rather a bizarre shape.}}</ref>。ホームズは、下宿の番地を、現代版のような"Two-two-one B"(訳:に・に・いちビー)ではなく、"Two hundred and twenty-one B"(訳:にひゃくにじゅういちビー)と述べている{{refnest|group="注"|本シリーズ『ピンク色の研究』でのシーン<ref>{{cite web|url=https://www.youtube.com/watch?v=VaT7IYQgyqo&t=3m55s|title=Sherlock and John's First Meeting - A Study In Pink - Sherlock - BBC|date=2015-09-22|publisher=[[YouTube]]|work=BBC - Sherlock|accessdate=2016-04-17}}</ref>と、今回のスペシャルでのシーン<ref>{{cite web|url=https://www.youtube.com/watch?v=Jiz5YkbJkAs&t=14s|title=Sherlock: The Abominable Bride Teaser|date=2015-11-06|publisher=[[YouTube]]|work=BBC - Sherlock|accessdate=2016-04-17}}</ref>。}}。この一連のシーンは、本シリーズ『[[ピンク色の研究]]』でも使われている。また、ホームズとワトスンが出会った時点では、ワトスンは口ひげを生やしていない。挿絵では口ひげが描き込まれているものの、実際にワトスンがひげを生やしていたと分かるのは、『[[シャーロック・ホームズの帰還]]』所収の『[[犯人は二人]]』が初めてである{{refnest|group="注"|特報映像として配信されたシーンでは、ワトスンがハドスン夫人へ、「この口ひげだって、挿絵画家のせいで読者がそう思い込んだからだ」とぼやく台詞がある<ref>{{cite web|url=https://www.youtube.com/watch?v=NEVgqykJjrg&t=1m8s|title=First Clip From Sherlock Special - Sherlock - BBC |publisher=[[YouTube]]|work=BBC - Sherlock|accessdate=2016-04-17}}</ref>{{r|DenofGeek1}}。}}


[[タイトルバック]]直後のシーンで、ワトスンは、[[ストランド・マガジン]]の売り子へ『[[青い紅玉]]』の売れ行きを訊ねる。ストランド・マガジンは、原作の[[シャーロック・ホームズシリーズ]]が連載されていた雑誌である。また『青い紅玉』自体は、1892年に発表されている。
[[タイトルバック]]直後のシーンで、ワトスンは、[[ストランド・マガジン]]の売り子へ『[[青い紅玉]]』の売れ行きを訊ねる{{r|geekcrusade}}。ストランド・マガジンは、原作の[[シャーロック・ホームズシリーズ]]が連載されていた雑誌である。また『青い紅玉』自体は、1892年に発表されている。


特報として流されたシーンでは、[[ジェレミー・ブレット]]が主演した『[[シャーロック・ホームズの冒険 (テレビドラマ)|シャーロック・ホームズの冒険]]』シリーズのテーマを変奏した曲が流れる。また、ベーカー街の[[パン (撮影技法)|パン]]の仕方など、ブレット版のオープニングとの類似が指摘されている<ref name="BrettHolmes">{{cite web|url=http://www.radiotimes.com/news/2015-07-10/sherlock-christmas-special-trailer-pays-tribute-to-classic-jeremy-brett-series-with-shot-for-shot-recreation-of-opening-scenes|title=Sherlock Christmas special trailer pays tribute to classic Jeremy Brett series with shot-for-shot recreation of opening scenes|publisher={{仮リンク|ラジオ・タイムズ|en|Radio Times}}|author=Paul Jones|date=2015-07-10|accessdate=2016-02-21}}</ref>。221の1階にある料理店の名前は、本シリーズでの"Speedy"から、"Speedwell"に変更されている。221Bのボーイであるビリーを演じているのは、本シリーズ『{{仮リンク|三の兆候|en|The Sign of Three}}』でページボーイを演じていた、アダム・グレーヴス=ニールである<ref>{{IMDb name|nm6026206|Adam Greaves-Neal}}</ref>。同じシーンでは、ホームズが『[[バスカヴィル家の犬]]』について言及するが、この作品は[[1901年]]に発表されており、「[[1895年]]を舞台」とする公式の発表<ref>{{Twitter status|BBCJapan|672250034692358144}}</ref>とは食い違っている<ref group="注">一方ドイルの原作自体には、年代の誤りが多いことで知られている(例えば『最後の事件』後に設定されている『[[恐怖の谷]]』で、モリアーティがまだ生きているなど)。「年代学」と称して、それを研究する[[シャーロキアン]]も存在する。</ref>。
特報として流されたシーンでは、[[ジェレミー・ブレット]]が主演した『[[シャーロック・ホームズの冒険 (テレビドラマ)|シャーロック・ホームズの冒険]]』シリーズのテーマを変奏した曲が流れる。また、ベーカー街の[[パン (撮影技法)|パン]]の仕方など、ブレット版のオープニングとの類似が指摘されている<ref name="BrettHolmes">{{cite web|url=http://www.radiotimes.com/news/2015-07-10/sherlock-christmas-special-trailer-pays-tribute-to-classic-jeremy-brett-series-with-shot-for-shot-recreation-of-opening-scenes|title=Sherlock Christmas special trailer pays tribute to classic Jeremy Brett series with shot-for-shot recreation of opening scenes|publisher={{仮リンク|ラジオ・タイムズ|en|Radio Times}}|author=Paul Jones|date=2015-07-10|accessdate=2016-02-21}}</ref>。221の1階にある料理店の名前は、本シリーズでの"Speedy"から、"Speedwell"に変更されている<ref group="注">"{{en|Speedy's Cafe}}" 自体は実在の店舗である。店舗の公式ページ:{{cite web|url=http://www.speedyscafe.co.uk/|title=Famous Cafe in London - Speedy's Cafe - Sherlock - Gifts|publisher=Speedy's Cafe|accessdate=2016-04-17}}。</ref>{{r|DenofGeek1}}。221Bのボーイであるビリーを演じているのは、本シリーズ『{{仮リンク|三の兆候|en|The Sign of Three}}』でページボーイを演じていた、アダム・グレーヴス=ニールである<ref>{{IMDb name|nm6026206|Adam Greaves-Neal}}</ref>{{r|DenofGeek1}}。同じシーンでは、ホームズが『[[バスカヴィル家の犬]]』について言及するが、この作品は[[1901年]]に発表されており、「[[1895年]]を舞台」とする公式の発表<ref>{{Twitter status|BBCJapan|672250034692358144}}</ref>とは食い違っている<ref group="注">一方ドイルの原作自体には、年代の誤りが多いことで知られている(例えば『最後の事件』後に設定されている『[[恐怖の谷]]』で、モリアーティがまだ生きているなど)。「年代学」と称して、それを研究する[[シャーロキアン]]も存在する。</ref>。


この特別編ではワトスンの妻・メアリーが生きている設定だが、原典『[[空き家の冒険]]』では、この事件が起きた[[1894年]]には彼女が死亡していたと仄めかされている。メアリーは喪服と[[ベール (服飾)|ヴェール]]を着用して221Bに現れるが、『[[覆面の下宿人]]』にはヴェールをかぶったまま下宿に引きこもっている女性が登場する。ホームズが香水の香りからメアリーだと言い当てるのは、本シリーズ『{{仮リンク|最後の誓い|en|His Last Vow}}』の1シーンに由来するものである。この後、ワトスン夫妻の口論の裏でホームズが弾いているのは、シャーロックが本シリーズ『三の兆候』で夫妻に贈ったワルツである。ホームズは階段を上る足音からやってきたのがレストレードだと言い当てるが、その後述べられるジョーンズ<ref group="注">『四つの署名』にアセルニー・ジョーンズ、『赤髪連盟』にピーター・ジョーンズという名の刑事が登場する。</ref>と[[トバイアス・グレグスン|グレグスン]]は、どちらも[[スコットランドヤード]]の刑事として、原典に登場する人物である。ホームズはワトスンを[[ジェイムズ・ボズウェル]]に例えるが、同じ例えは原典『[[ボヘミアの醜聞]]』に登場する<ref>{{cite wikisource|title=A Scandal in Bohemia|publisher=[[シャーロック・ホームズの冒険|The Adventure of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=I am lost without my Boswell.|nobullet=1}}</ref>。
この特別編ではワトスンの妻・メアリーが生きている設定だが、原典『[[空き家の冒険]]』では、この作品の設定年・[[1894年]]には彼女が死亡していたと仄めかされている。メアリーは喪服と[[ベール (服飾)|ヴェール]]を着用して221Bに現れるが、『[[覆面の下宿人]]』にはヴェールをかぶったまま下宿に引きこもっている女性が登場する。ホームズが香水の香りからメアリーだと言い当てるのは、本シリーズ『{{仮リンク|最後の誓い|en|His Last Vow}}』の1シーンに由来するものである。この後、ワトスン夫妻の口論の裏でホームズが弾いているのは、シャーロックが本シリーズ『三の兆候』で夫妻に贈ったワルツである{{r|geekcrusade}}。ホームズは階段を上る足音からやってきたのがレストレードだと言い当てるが、その後述べられるジョーンズ<ref group="注">『四つの署名』にアセルニー・ジョーンズ、『赤髪連盟』にピーター・ジョーンズという名の刑事が登場する。</ref>と[[トバイアス・グレグスン|グレグスン]]は、どちらも[[スコットランドヤード]]の刑事として、原典に登場する人物である。ホームズはワトスンを[[ジェイムズ・ボズウェル]]に例えるが{{r|geekcrusade}}、同じ例えは原典『[[ボヘミアの醜聞]]』に登場する<ref>{{cite wikisource|title=A Scandal in Bohemia|publisher=[[シャーロック・ホームズの冒険|The Adventure of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=I am lost without my Boswell.|nobullet=1}}</ref>。


エミリア・リコレッティは、本シリーズ『[[ライヘンバッハ・ヒーロー]]』でのモリアーティと同じく、銃を口にくわえ、頭を撃ち抜いて自殺する<ref group="注">ただしエミリアの自殺は、後に二丁拳銃を用いた偽装自殺だったと分かる。</ref>。また夫トーマスを射殺する前、彼女が歌っているのは"''{{en|The Maid of the Mill}}''"と言う曲である<ref>{{cite web|url=http://www.traditionalmusic.co.uk/songster/10-the-maid-of-the-mill.htm|title=American Old Time Song Lyrics: 10 The Maid Of The Mill|accessdate=2016-03-24}}</ref><ref>{{YouTube|SPt-ZX5EOGI|Xmas Sherlock : "The Maid of the Mill" (Adams) Victorian Ballad Arthur Edwardes Zono X - 42312}}</ref>。エミリアの言う「ショットガン・ウエディング」({{lang-en-short|''shotgun wedding''}})は、いわゆる「できちゃった婚」を指す言葉である。
エミリア・リコレッティは、本シリーズ『[[ライヘンバッハ・ヒーロー]]』でのモリアーティと同じく、銃を口にくわえ、頭を撃ち抜いて自殺する<ref group="注">ただしエミリアの自殺は、後に二丁拳銃を用いた偽装自殺だったと分かる。</ref>。また夫トーマスを射殺する前、彼女が歌っているのは"''{{en|The Maid of the Mill}}''"と言う曲である{{r|DenofGeek1}}<ref>{{cite web|url=http://www.traditionalmusic.co.uk/songster/10-the-maid-of-the-mill.htm|title=American Old Time Song Lyrics: 10 The Maid Of The Mill|accessdate=2016-03-24}}</ref><ref>{{YouTube|SPt-ZX5EOGI|Xmas Sherlock : "The Maid of the Mill" (Adams) Victorian Ballad Arthur Edwardes Zono X - 42312}}</ref>。エミリアの言う「ショットガン・ウエディング」({{lang-en-short|''shotgun wedding''}})は、いわゆる「できちゃった婚」を指す言葉である。


エミリアが乱射している道沿いには、『[[赤毛組合|赤髪連盟]]』に登場するジェイベズ・ウィルスンの名前が書かれた店舗があると明かされている<ref>{{Twitter status|Markgatiss|562469067412762624}}</ref>{{r|DenofGeek1}}。
脚本のモファット・ゲイティスは、[[ベイジル・ラスボーン|ラスボーン]]版ホームズのファンであることを公言している<ref>{{cite news|url=http://www.theaustralian.com.au/arts/review/sherlock-abominable-bride-why-the-writers-took-holmes-back-in-time/news-story/80c0f258c6cb205a0702fcde15b114e4|title=Sherlock: Abominable Bride: why the writers took Holmes back in time|publisher=[[オーストラリアン|The Australian]]|author=Stephen Brook|date=2016-01-02|accessdate=2016-03-24}}</ref>。本作でワトスンが的外れな推論を披露するシーンは、ラスボーン版でのワトスンにオマージュをかけたものとされている。また本作でのワトスンは全体的に、現代版の本シリーズに比べて幾分愚鈍に描かれている。一方[[ナイジェル・ブルース#ワトソン役|ラスボーン版のワトスン]]は、ホームズより劣ったドジな人物とされている。


脚本のモファット・ゲイティスは、[[ベイジル・ラスボーン|ラスボーン]]版ホームズのファンであることを公言している<ref>{{cite news|url=http://www.theaustralian.com.au/arts/review/sherlock-abominable-bride-why-the-writers-took-holmes-back-in-time/news-story/80c0f258c6cb205a0702fcde15b114e4|title=Sherlock: Abominable Bride: why the writers took Holmes back in time|publisher=[[オーストラリアン|The Australian]]|author=Stephen Brook|date=2016-01-02|accessdate=2016-03-24}}</ref>。本作でワトスンが的外れな推論を披露するシーンは、ラスボーン版でのワトスンにオマージュをかけたものとされている。また本作でのワトスンは全体的に、現代版の本シリーズに比べて幾分愚鈍に描かれている。一方[[ナイジェル・ブルース#ワトソン役|ラスボーン版のワトスン]]は、ホームズより劣ったドジな人物とされている。このシーンでワトスンが「エミリア双子説」を出すが、これは[[ルパート・エヴェレット]]版ホームズ『シャーロック・ホームズ:淑女殺人事件』{{enlink|Sherlock Holmes and the Case of the Silk Stocking|a=on}}との類似が指摘されている{{r|DenofGeek1}}
ホームズが[[黄道傾斜角]]について理解しようとしているシーンがあるが、『[[ギリシャ語通訳]]』冒頭には、ホームズとワトスンがこの話題について話していたと記されている<ref>{{cite wikisource|title=The Greek Interpreter|publisher=[[シャーロック・ホームズの思い出|The Memoir of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=It was after tea on a summer evening, and the conversation, which had roamed in a desultory, spasmodic fashion from golf clubs to the causes of the change in <ins>the obliquity of the ecliptic</ins>, came round at last to the question of atavism and hereditary aptitudes.|nobullet=1}}</ref>。ワトスン宅に出来が悪い[[メイド]]がいるのは『ボヘミアの醜聞』から、更に彼女が仕事中小説を読みふけり、ゆで卵も作れないのは、『[[ソア橋]]』からである。またこの後ワトスンに渡される電報の文面は、『[[這う男]]』冒頭と同じもので<ref>{{cite web|url=http://wikilivres.ca/wiki/The_Adventure_of_the_Creeping_Man|title=The Adventure of the Creeping Man|work=[[シャーロック・ホームズの事件簿|The Case-Book of Sherlock Holmes]]|publisher=wikilivres|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=Come at once if convenient — if inconvenient come all the same. S. H.|accessdate=2016-03-24}}</ref>、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている。


ホームズが[[黄道傾斜角]]について理解しようとしているシーンがあるが、『[[ギリシャ語通訳]]』冒頭には、ホームズとワトスンがこの話題について話していたと記されている<ref>{{cite wikisource|title=The Greek Interpreter|publisher=[[シャーロック・ホームズの思い出|The Memoir of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=It was after tea on a summer evening, and the conversation, which had roamed in a desultory, spasmodic fashion from golf clubs to the causes of the change in <ins>the obliquity of the ecliptic</ins>, came round at last to the question of atavism and hereditary aptitudes.|nobullet=1}}</ref>。本シリーズで221Bの[[キッチン]]になっていたスペースは、壁が[[緋色]](スカーレット)に塗られた書斎に作り替えられているが<ref>{{Twitter status|arwelwjones|683084447281987586}}</ref>、これを『緋色の研究』のタイトルに対するオマージュとする意見もある{{r|geekcrusade}}{{refnest|group="注"|『緋色の研究』の原題は "{{en|''A Study in Scarlet''}}" だが、英語の"{{en|''Study''}}" には「書斎」という意味もある。}}。ワトスン宅に出来が悪い[[メイド]]がいるのは『ボヘミアの醜聞』から<ref>{{cite wikisource|title=A Scandal in Bohemia|publisher=[[シャーロック・ホームズの冒険|The Adventure of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=How do I know that you have been getting yourself very wet lately, and that you have a most clumsy and careless servant girl?" {{Interp|中略}} "As to Mary Jane, she is incorrigible, and my wife has given her notice; but there again I fail to see how you work it out.|nobullet=1}}</ref>、更に彼女が仕事中小説を読みふけり、ゆで卵も作れないのは、『[[ソア橋]]』からである<ref>{{cite web|url=http://wikilivres.ca/wiki/The_Problem_of_Thor_Bridge|title=The Problem of Thor Bridge|work=[[シャーロック・ホームズの事件簿|The Case-Book of Sherlock Holmes]]|publisher=wikilivres|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=There is little to share, but we may discuss it when you have consumed the two hard-boiled eggs with which our new cook has favoured us. Their condition may not be unconnected with the copy of the Family Herald which I observed yesterday upon the hall-table. Even so trivial a matter as cooking an egg demands an attention which is conscious of the passage of time and incompatible with the love romance in that excellent periodical.|accessdate=2016-04-17}}</ref>。またこの後ワトスンに渡される電報の文面は、『[[這う男]]』冒頭と同じもので<ref>{{cite web|url=http://wikilivres.ca/wiki/The_Adventure_of_the_Creeping_Man|title=The Adventure of the Creeping Man|work=[[シャーロック・ホームズの事件簿|The Case-Book of Sherlock Holmes]]|publisher=wikilivres|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=Come at once if convenient — if inconvenient come all the same. S. H.|accessdate=2016-03-24}}</ref>、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている<ref>{{YouTube|1cMvdOr9QEg|John Watson Meets Mycroft Holmes - A Study In Pink - Sherlock - BBC}}</ref>
ディオゲネス・クラブに着いたホームズとワトスンは、受付の男性と[[イギリス手話]]で会話を交わすが、この男性の名前は「ワイルダー」とされている。[[ビリー・ワイルダー]]監督は、『[[シャーロック・ホームズの冒険 (1970年の映画)|シャーロック・ホームズの冒険]]』の映画を制作している。2人のクラブ訪問とマナーハウスに関するホームズ兄弟の会話やマイクロフトに面会するメラス氏の名前は、いずれも『ギリシャ語通訳』に由来する。クラブでのマイクロフトは、原作以上にでっぷりと太っているが、このビジュアルは[[モンティ・パイソン]]の『[[人生狂騒曲]]』との類似が指摘されている{{refnest|group="注"|『人生狂騒曲』で[[テリー・ジョーンズ]]が演じるミスター・クレオソート<ref>{{YouTube|aczPDGC3f8U|Mr. Creosote - Monty Python's The Meaning of Life }}</ref>と、本作でのマイクロフト<ref>{{YouTube|L2pE1sAuezE|Fat Mycroft's Breakfast - Sherlock: The Abominable Bride}}</ref>。}}<ref>{{cite web|url=http://www.theartsdesk.com/tv/sherlock-abominable-bride-bbc-one|title=Sherlock: The Abominable Bride, BBC One|publisher={{仮リンク|ザ・アーツ・デスク|label=The Arts Desk|en|The Arts Desk}}|author=Adam Sweeting|date=2016-01-02|accessdate=2016-03-24}}</ref>。

ディオゲネス・クラブに着いたホームズとワトスンは、受付の男性と[[イギリス手話]]で会話を交わすが、この男性の名前は「ワイルダー」とされている。[[ビリー・ワイルダー]]監督は、映画『[[シャーロック・ホームズの冒険 (1970年の映画)|シャーロック・ホームズの冒険]]』を制作しており、脚本のゲイティス・モファットは、この作品を映像化されたホームズの中で最もお気に入りと回答している{{r|DenofGeek1}}。2人のクラブ訪問とマナーハウスに関するホームズ兄弟の会話やマイクロフトに面会するメラス氏の名前は、いずれも『ギリシャ語通訳』に由来する{{r|DenofGeek1}}。クラブでのマイクロフトは、原作以上にでっぷりと太っているが、このビジュアルは[[モンティ・パイソン]]の『[[人生狂騒曲]]』との類似が指摘されている{{refnest|group="注"|『人生狂騒曲』で[[テリー・ジョーンズ]]が演じる{{仮リンク|ミスター・クレオソート|en|Mr Creosote}}<ref>{{YouTube|aczPDGC3f8U|Mr. Creosote - Monty Python's The Meaning of Life }}</ref>と、本作でのマイクロフト<ref>{{YouTube|L2pE1sAuezE|Fat Mycroft's Breakfast - Sherlock: The Abominable Bride}}</ref>。}}<ref>{{cite web|url=http://www.theartsdesk.com/tv/sherlock-abominable-bride-bbc-one|title=Sherlock: The Abominable Bride, BBC One|publisher={{仮リンク|ザ・アーツ・デスク|label=The Arts Desk|en|The Arts Desk}}|author=Adam Sweeting|date=2016-01-02|accessdate=2016-03-24}}</ref>。


[[File:Strand paget.jpg|thumb|『[[白銀号事件]]』での[[シドニー・パジェット]]の挿絵。]]
[[File:Strand paget.jpg|thumb|『[[白銀号事件]]』での[[シドニー・パジェット]]の挿絵。]]
レディ・カーマイケルの一件は、女性を虐げる夫への戒めという点で、『[[僧坊荘園|修道院屋敷]]』と共通しており、夫サー・ユースタスの名前も、この作品から取られている。サー・ユースタスへの脅迫にオレンジの種が使われるのは、『[[オレンジの種五つ]]』からの描写で、本シリーズ『[[大いなるゲーム]]』ではこの作品がもじられている。またサー・ユースタスが[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の人物に脅迫されているとホームズが考えるのは、『[[恐怖の谷]]』へのオマージュである。サー・ユースタス邸に向かう電車内のビジュアルは、『[[白銀号事件]]』や『[[ボスコム渓谷の惨劇|ボスコム渓谷の謎]]』<ref group="注">[[Wikipedia:ウィキメディア・コモンズ|ウィキメディア・コモンズ]]に画像が存在する([[c:File:Bosc-01.jpg|コモンズ:ボスコム渓谷の謎]])。</ref>での[[シドニー・パジェット]]の挿絵に酷似している。ホームズの台詞"{{en|The game is afoot!}}"(訳:狩りの始まりだ!)は『修道院屋敷』に由来する台詞だが<ref>{{cite wikisource|title=The Adventure of the Abbey Grange|publisher=[[シャーロック・ホームズの帰還|The Return of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote="Come, Watson, come!" he cried. "The game is afoot. Not a word! Into your clothes and come!"|nobullet=1}}</ref>、同じ台詞は、"{{en|afoot}}"を"{{en|on}}"に置き換えた形で、本シリーズで幾度となく使われている。張り込み中のホームズがワトスンに言う、「女性は君の領分だ」という台詞は、『[[第二の汚点]]』からの引用である。またホームズがアイリーンの写真を持っているのは、『ボヘミアの醜聞』に由来する。
レディ・カーマイケルの一件は、女性を虐げる夫への戒めという点で、『[[僧坊荘園|修道院屋敷]]』と共通しており、夫サー・ユースタスの名前も、この作品から取られている<ref group="注">この事件の被害者名が「ユースタス・ブラッケンストール卿」である。</ref>。サー・ユースタスへの脅迫にオレンジの種が使われるのは、『[[オレンジの種五つ]]』からの描写で{{r|geekcrusade}}{{r|DenofGeek1}}、本シリーズ『[[大いなるゲーム]]』ではこの作品がもじられている。またサー・ユースタスが[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の人物に脅迫されているとホームズが考えるのは、『[[恐怖の谷]]』へのオマージュである。サー・ユースタス邸に向かう電車内のビジュアルは、『[[白銀号事件]]』や『[[ボスコム渓谷の惨劇|ボスコム渓谷の謎]]』<ref group="注">[[Wikipedia:ウィキメディア・コモンズ|ウィキメディア・コモンズ]]に画像が存在する([[c:File:Bosc-01.jpg|コモンズ:ボスコム渓谷の謎]])。</ref>での[[シドニー・パジェット]]の挿絵に酷似している{{r|DenofGeek1}}。ホームズの台詞 "{{en|The game is afoot!}}"(訳:狩りの始まりだ!)<ref>{{cite web|url=https://www.youtube.com/watch?v=V8LWfc29J_E&t=16s|title=Sherlock: The Abominable Bride Trailer #2|date=2015-10-25|publisher=YouTube|work=bbc - Sherlock|accessdate=2016-04-17}}</ref>は『修道院屋敷』に由来する台詞だが<ref>{{cite wikisource|title=The Adventure of the Abbey Grange|publisher=[[シャーロック・ホームズの帰還|The Return of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote="Come, Watson, come!" he cried. "The game is afoot. Not a word! Into your clothes and come!"|nobullet=1}}</ref>、同じ台詞は、"{{en|afoot}}"を"{{en|on}}"に置き換えた形で、本シリーズで幾度となく使われている。張り込み中のホームズがワトスンに言う、「女性は君の領分だ」という台詞は、『[[第二の汚点]]』からの引用である。またホームズがアイリーンの写真を持っているのは、『ボヘミアの醜聞』に由来する。
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[[File:BigReichenbach.JPG|thumb|left|180px|[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|ターナー]]による[[ライヘンバッハの滝]]を描いた絵。]]
ディオゲネス・クラブには、[[ライヘンバッハの滝]]を描いた[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|ターナー]]の絵が飾られている。これは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でシャーロックが取り返したものである。ホームズが自身のマインドパレスに入ったまま、何日も食事を摂らないのは、『[[マザリンの宝石]]』での描写からである{{refnest|group="注"|食事をいつにするか尋ねられたホームズが、ハドスン夫人に「明後日の7時半だ」と答える逸話がある<ref>{{cite wikisource|title=The Adventure of the Mazarin Stone|publisher=[[シャーロック・ホームズの事件簿|The Case-book of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=When will you be pleased to dine, Mr. Holmes?' Mrs. Hudson asked. 'Seven-thirty, the day after to-morrow,' said he.|nobullet=1}}</ref>。}}。ホームズが7%溶液の[[コカイン]]を使っているのは、『[[四つの署名]]』からの引用である。またホームズとワトスンの「兵士じゃなくて医者だろう」「ただの医者じゃなく軍医だ」との会話は、本シリーズ『[[ベルグレービアの醜聞]]』に由来する<ref group="注">アイリーン邸に忍び込むため、シャーロックがジョンへ、自分を殴りつけるよう言うシーン。</ref>。
ディオゲネス・クラブには、[[ライヘンバッハの滝]]を描いた[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|ターナー]]の絵が飾られている{{r|DenofGeek1}}。これは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でシャーロックが取り返したものである<ref>{{cite web|url=http://thehigginsbedford.blogspot.jp/2012_01_01_archive.html|title=Sherlocked|publisher=The Higgins Art Gallery & Museum, Bedford|date=2012-01-13|accessdate=2016-04-17}}</ref>。ホームズが自身のマインドパレスに入ったまま、何日も食事を摂らないのは、『[[マザリンの宝石]]』での描写からである{{refnest|group="注"|食事をいつにするか尋ねられたホームズが、ハドスン夫人に「明後日の7時半だ」と答える逸話がある<ref>{{cite wikisource|title=The Adventure of the Mazarin Stone|publisher=[[シャーロック・ホームズの事件簿|The Case-book of Sherlock Holmes]]|author=Arthur Conan Doyle|authorlink=アーサー・コナン・ドイル|quote=When will you be pleased to dine, Mr. Holmes?' Mrs. Hudson asked. 'Seven-thirty, the day after to-morrow,' said he.|nobullet=1}}</ref>。}}。ホームズが7%溶液の[[コカイン]]を使っているのは、『[[四つの署名]]』からの引用である{{r|geekcrusade}}。またホームズとワトスンの「兵士じゃなくて医者だろう」「ただの医者じゃなく軍医だ」との会話は、本シリーズ『[[ベルグレービアの醜聞]]』に由来する<ref group="注">アイリーン邸に忍び込むため、シャーロックがジョンへ、自分を殴りつけるよう言うシーン。</ref>。


婦人参政権運動家の女性たちが秘密の会合を行っているシーンは、『[[ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎]]』に類似シーンが存在する。この映画は、[[スティーヴン・スピルバーグ]]が制作総指揮を務め、学生時代のホームズを描いた作品である。ホームズが花嫁をレディ・カーマイケルと誤解するシーンは、本シリーズ『最後の誓い』からの引用<ref group="注">マグヌッセンを殺そうとしているのがレディ・スモールウッドだと誤解するシーン。実際はジョンの妻・メアリーだった。</ref>である。また、このエピソードの原案となった『[[犯人は二人]]』には、ミルヴァートンが自分の元へやってきた女性の正体を誤解するシーンがある。
婦人参政権運動家の女性たちが秘密の会合を行っているシーンは、『[[ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎]]』に類似シーンが存在する<ref>{{cite web|url=http://www.benedictcumberbatch.co.uk/reviews/television-reviews/sherlock-the-abominable-bride-review/|title=Sherlock: The Abominable Bride Review|publisher=Cumberbatchweb|accessdate=2016-04-17|quote=Featuring the return of several much loved characters it was like a Sherlock Holmes greatest hits with several very clever canon references, riffing on everything from The Private Life of Sherlock Holmes to Inception to that much loved staple from my childhood Young Sherlock Holmes.}}</ref><ref>{{cite web|url=http://sherlock221b.blog.fc2.com/blog-entry-456.html|title=(番外企画)元ネタになった映画リストを作りたい|publisher=[[FC2ブログ]]|work=21世紀探偵|author=ナツミ|accessdate=2016-04-17|date=2016-03-06}}</ref>。この映画は、[[スティーヴン・スピルバーグ]]が制作総指揮を務め、学生時代のホームズを描いた作品である。ホームズが花嫁をレディ・カーマイケルと誤解するシーンは、本シリーズ『最後の誓い』からの引用<ref group="注">マグヌッセンを殺そうとしているのがレディ・スモールウッドだと誤解するシーン。実際はジョンの妻・メアリーだった。</ref>である。また、このエピソードの原案となった『[[犯人は二人]]』には、ミルヴァートンが自分の元へやってきた女性の正体を誤解するシーンがある。


シャーロックがエミリア・リコレッティの墓を掘り返し、棺にもう1人別人が埋葬されているのではと考えるのは、『[[フランシス・カーファックス姫の失踪]]』でのトリックに由来する。
シャーロックがエミリア・リコレッティの墓を掘り返し、棺にもう1人別人が埋葬されているのではと考えるのは、『[[フランシス・カーファックス姫の失踪]]』でのトリックに由来する。


モリアーティが221Bを訪れるシーンとライヘンバッハの滝でホームズと決闘するシーンは、どちらも『[[最後の事件]]』からの引用である。但し、ワトスンが決闘に間に合ったという記述は原典には無い。ホームズの"''{{en|Elementary, my dear Watson.}}''"(訳:初歩なことだよ、ワトソン君)と言う台詞は、原典に1度も登場しないにもかかわらず、ホームズの名台詞として有名なものである。[[ジーニアス (辞典)|ジーニアス英和大辞典]]や[[ロングマン現代英英辞典]]、[[小学館ランダムハウス英和大辞典|ランダムハウス英和大辞典]]などの辞典にも掲載されるほど{{refnest|group="注"|ジーニアス英和大辞典<ref>{{Cite encyclopedia|author=[[小西友七]]|author2=南出康世|date=2001-04-25|year=2001|title=ジーニアス英和大辞典|place=[[東京都]][[文京区]]|publisher=[[大修館書店]]|publication-date=2011|series=[[ジーニアス (辞典)|ジーニアス]]|id={{NCID|BA51576491}}. {{ASIN|4469041319}}. {{全国書誌番号|20398458}}|isbn=978-4469041316|oclc=47909428}}</ref>では"{{en|elementary}}"の用例、ロングマン現代英英辞典5訂版<ref>{{Cite encyclopedia|author=|date=2008-12-26|year=2008|title=ロングマン現代英英辞典|edition=5訂版|publisher={{仮リンク|ピアソン・エデュケーション|en|Pearson Education}}・[[桐原書店]]|publication-date=2009|series={{仮リンク|ロングマン (企業)|label=ロングマン|en|Longman}}|id={{NCID|BA89327401}}. {{ASIN|4342100940}}. {{全国書誌番号|21622053}}|isbn=978-4342100949|oclc=675391086}}</ref>では"{{en|elementary}}"の第4義として掲載。どちらも電子辞書[[エクスワード]]掲載版で、ジーニアス英和大辞典はDATAPLUS 8(XD-U7100)、ロングマン現代英英辞典5訂版はDATAPLUS 6(XD-D4800)に拠った。また、電子版限定の「ジーニアス用例プラス」にも、例文として記載がある。なお、ランダムハウス英和大辞典では、"{{En|Elementary, my dear Watson.}}"の項が2つ存在する<ref>{{Cite web|url=http://dictionary.goo.ne.jp/ej/568025/meaning/m0u/|title=Elementary,my dear Watson.|work=[[goo辞書]]|publisher=[[goo]]|accessdate=2016-03-25}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://dictionary.goo.ne.jp/ej/779363/meaning/m0u/|title=elementary,my dear Watson|work=[[goo辞書]]|publisher=[[goo]]|accessdate=2016-03-25}}</ref>。}}のこの成句は、[[ウィリアム・ジレット]]版で有名となった{{enlink|Sherlock Holmes#"Elementary, my dear Watson"|"Elementary, my dear Watson"}}<ref>{{cite web|url=http://oxfordindex.oup.com/view/10.1093/oi/authority.20110803095746770|title=Elementary, my dear Watson|publisher=Oxford Index|accessdate=2016-03-25}}</ref>。
モリアーティが221Bを訪れるシーンとライヘンバッハの滝でホームズと決闘するシーンは、どちらも『[[最後の事件]]』からの引用である。但し、ワトスンが決闘に間に合ったという記述は原典には無い。ホームズの"''{{en|Elementary, my dear Watson.}}''"(訳:初歩なことだよ、ワトソン君)と言う台詞は、原典に1度も登場しないにもかかわらず、ホームズの名台詞として有名なものである{{r|DenofGeek1}}。[[ジーニアス (辞典)|ジーニアス英和大辞典]]や[[ロングマン現代英英辞典]]、[[小学館ランダムハウス英和大辞典|ランダムハウス英和大辞典]]などの辞典にも掲載されるほど{{refnest|group="注"|ジーニアス英和大辞典<ref>{{Cite encyclopedia|author=[[小西友七]]|author2=南出康世|date=2001-04-25|year=2001|title=ジーニアス英和大辞典|place=[[東京都]][[文京区]]|publisher=[[大修館書店]]|publication-date=2011|series=[[ジーニアス (辞典)|ジーニアス]]|id={{NCID|BA51576491}}. {{ASIN|4469041319}}. {{全国書誌番号|20398458}}|isbn=978-4469041316|oclc=47909428}}</ref>では"{{en|elementary}}"の用例、ロングマン現代英英辞典5訂版<ref>{{Cite encyclopedia|author=|date=2008-12-26|year=2008|title=ロングマン現代英英辞典|edition=5訂版|publisher={{仮リンク|ピアソン・エデュケーション|en|Pearson Education}}・[[桐原書店]]|publication-date=2009|series={{仮リンク|ロングマン (企業)|label=ロングマン|en|Longman}}|id={{NCID|BA89327401}}. {{ASIN|4342100940}}. {{全国書誌番号|21622053}}|isbn=978-4342100949|oclc=675391086}}</ref>では"{{en|elementary}}"の第4義として掲載。どちらも電子辞書[[エクスワード]]掲載版で、ジーニアス英和大辞典はDATAPLUS 8(XD-U7100)、ロングマン現代英英辞典5訂版はDATAPLUS 6(XD-D4800)に拠った。また、電子版限定の「ジーニアス用例プラス」にも、例文として記載がある。なお、ランダムハウス英和大辞典では、"{{En|Elementary, my dear Watson.}}"の項が2つ存在する<ref>{{Cite web|url=http://dictionary.goo.ne.jp/ej/568025/meaning/m0u/|title=Elementary,my dear Watson.|work=[[goo辞書]]|publisher=[[goo]]|accessdate=2016-03-25}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://dictionary.goo.ne.jp/ej/779363/meaning/m0u/|title=elementary,my dear Watson|work=[[goo辞書]]|publisher=[[goo]]|accessdate=2016-03-25}}</ref>。}}のこの成句は、[[ウィリアム・ジレット]]版で有名となった{{enlink|Sherlock Holmes#"Elementary, my dear Watson"|"Elementary, my dear Watson"}}<ref>{{cite web|url=http://oxfordindex.oup.com/view/10.1093/oi/authority.20110803095746770|title=Elementary, my dear Watson|publisher=Oxford Index|accessdate=2016-03-25}}</ref>。


ジェット機内でマイクロフトの手帳に書かれている"Vernet"とは、ホームズが『ギリシャ語通訳』で自分の大おじだと語っている、[[オラース・ヴェルネ]]({{lang-fr-short|Émile Jean-Horace Vernet}})の名前である。
ジェット機内でマイクロフトの手帳に書かれている"Vernet"{{r|DenofGeek1}}とは、ホームズが『ギリシャ語通訳』で自分の大おじだと語っている、[[オラース・ヴェルネ]]({{lang-fr-short|Émile Jean-Horace Vernet}})の名前である。


== 制作背景 ==
== 制作背景 ==

2016年4月17日 (日) 08:02時点における版

SHERLOCK/シャーロック
忌まわしき花嫁
SHERLOCK The Abominable Bride
監督 ダグラス・マッキノン英語版
脚本 スティーヴン・モファット
マーク・ゲイティス
原作 アーサー・コナン・ドイル
シャーロック・ホームズシリーズ
製作総指揮 スティーブン・モファット
マーク・ゲイティス
ベリル・ヴァーチュー
出演者 ベネディクト・カンバーバッチ
マーティン・フリーマン
マーク・ゲイティス
アマンダ・アビントン
ルパート・グレイヴス
ルイーズ・ブリーリー
ユーナ・スタッブス
ナターシャ・オキーフ
アンドリュー・スコット
音楽 デヴィッド・アーノルド
マイケル・プライス英語版
制作会社 BBC
ハーツウッド・フィルムズ英語版
配給 KADOKAWA
公開 イギリスの旗アイルランドの旗アメリカ合衆国の旗 2016年1月5日6日(同1月1日にTV放映)
日本の旗 2016年2月19日
上映時間 93分(+特別映像22分)
製作国 イギリスの旗 イギリス
言語 英語
テンプレートを表示
SHERLOCK/シャーロック
忌まわしき花嫁
The Abominable Bride
話数シーズン4
第0話
初放送日イギリスの旗2016年1月1日 (2016-01-01)
日本の旗2016年5月9日 (2016-05-09)(NHK BS)
エピソード前次回
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最後の誓い
次回 →
SHERLOCKのエピソード一覧

SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』(シャーロック いまわしきはなよめ、: Sherlock:The Abominable Bride)は、BBC制作のドラマ『SHERLOCK』の特別編である。2016年1月1日に、イギリスアメリカでテレビ放映され、その後20分の特別映像を加えて劇場限定公開されている。日本では2016年2月19日に劇場公開された。

設定をドラマ版での現代からヴィクトリア時代1895年[注 1]に移し、語られざる事件の1つ「リコレッティ夫人の幽霊の謎」について、ホームズが謎を解く展開となっている。

あらすじ

冒頭部分で、これまでの『SHERLOCK』のエピソードが振り返られる。シーズン3最終話『最後の誓い』でのクリフハンガーが流れた後、ヴィクトリア朝英国へリンクする。

ジョン・ワトスンは、第二次アフガン戦争に軍医として従軍するものの、肩を負傷して帰国する。傷心のままロンドンに至り、これからの生活を考えあぐねていると、かつてバーツで同僚だったスタンフォードに出会う。彼の紹介でシャーロック・ホームズに出会い、2人はベーカー街221Bで共同生活を始めることになる。

時代は下って1895年のクリスマスへと移る[注 2]。ワトスンの口からこれまでホームズの活躍を多数記録してきた旨が語られるが、「ホームズを肉体的・精神的に最も追い詰めた事件」として、「忌まわしき花嫁」の話が始まる。

ベーカー街221Bにホームズとワトスンが帰ってくると、喪服を着て変装したワトスンの妻・メアリーがいた。メアリーは事件の調査のため留守がちな夫に対して文句を言い、2人は口論になる[注 3]。そこへレストレード警部が訪れ、エミリア・リコレッティ夫人の奇怪な話を始める。

リコレッティ夫人は、夫トーマスとの結婚記念日当日に、花嫁姿で通りに面したバルコニーに建ち、二挺拳銃で乱射を行う。それから自分の頭を撃ち抜いて自殺した。しかしその夜、死んだはずの彼女は夫トーマスの前に現れ、彼をショットガンで殺害し、夜霧の中に消えていった。

ホームズはリコレッティ夫人の遺体を調べに行くため、ワトスンを連れてモルグへ向かう。一方のメアリーは、「M」から電報で呼び出され、ベーカー街を出て行く。モルグに着いたホームズとワトスン、レストレードの3人だったが、検死官のフーパーが遺体は確かにリコレッティ夫人だと所見を述べると、ホームズは興味を失ってモルグを出て行く。帰り際にワトスンは、フーパーが実は女であることを見抜いて立ち去る。後日、同様の事件が5件も発生したとレストレードがベーカー街へ訴えに来るが、ホームズは模倣犯だろうと推理して興味を示さない。

数日後のワトスン邸では、メアリーが不在な上、メイドの出来が悪いせいで、ワトスンに朝食が出されない。同じ日、ホームズとワトスンはディオゲネス・クラブを訪れる。そこで2人はマイクロフトに、「強大でこちらが屈しなければならない敵」との対決と、レディ・カーマイケルの件を依頼される。ホームズとワトスンは221Bに帰り、レディ・カーマイケルの依頼を聞く。彼女の夫サー・ユースタスに死を意味する5粒のオレンジの種が届き、花嫁姿の女性が彼へ殺害予告をしたと言う。その夜、カーマイケル邸に来たホームズとワトスンは張り込みをしている。2人は花嫁姿の女性を見つけるが、彼女はすぐに姿を消し、同時に窓の割れる音がする。ホームズは別の窓を割って邸内へ急ぐが、サー・ユースタスは刺されて亡くなっていた上、ワトスンは花嫁を取り逃がしてしまう。

翌日、実況見分に来たレストレードから、サー・ユースタスを刺した短剣に名札が付いていたことを知らされる。ホームズが確認した時には無かったはずの名札には、"MISS ME?"[注 4]と書かれていた。ホームズがベーカー街の自室で「マインドパレス[注 5]に籠もっていると、モリアーティが現れ、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』と同様に銃で後頭部を吹き飛ばす。しかしそれでも喋っているモリアーティに、ホームズはリコレッティ夫人事件との類似点を見出して動揺し、同時に彼の周囲が地震のように揺れ出す。

場面は本シリーズ『最後の誓い』での飛行機の着陸シーンへ戻り、着陸した飛行機にジョンとメアリー、マイクロフトが乗り込んで来る[注 6][注 7]1895年に起きたリコレッティ夫人の未解決事件について話し出すシャーロックに、マイクロフトは薬物摂取量のリストを作ったか尋ねる。シャーロックはリストを差し出し、思考整理のために薬物摂取していることを3人に告げる。摂取した薬物の種類を尋ねるジョンの声で、シャーロックは再び19世紀へ引き戻される。

再びヴィクトリア朝のベーカー街221Bに戻る。やってきたワトスンにホームズはモリアーティがいたと告げるが、彼は死んだと返され、コカイン摂取をたしなめられる。そこへ、マイクロフトの命を受けて調査をしていたメアリーから、リコレッティ夫人の仲間を廃協会で見つけたと知らせる電報が届き、2人は急行する。教会には、クー・クラックス・クランよろしく儀式を行う女性解放運動 (Suffragetteの秘密結社がおり、3人は彼らの会合を中断させる。結社の会員には、モルグのフーパー、ジャニーン、ワトスン邸のメイドも含まれていた。ホームズは彼らの前で、リコレッティ夫人事件の謎を解き始める。

リコレッティ夫人は、二挺拳銃の片方を口にくわえ、もう片方を発砲して後ろに倒れた。発砲と同時に協力者が後ろからカーテンに血糊をかけ、よく似た別人の遺体をモルグに運ぶことで偽装自殺を行った。その夜、彼女は女性解放運動に理解を示さない夫トーマスを射殺してから、仲間に自分を射殺させてモルグの遺体とすりかわった。サー・ユースタス邸で2人が見た花嫁は、ガラスに映ったもので、ガラスの割れた音は、使われたガラスを誤って割ってしまった時のものだった。サー・ユースタス邸に現れた他の花嫁も、結社の会員たちがウエディングドレスを着て扮していた。彼女たちは、女性の活躍に無理解な男性を「処刑」していたのである。ホームズは「男性に決して勝ち目の無い戦争」と語り、レディ・カーマイケルが、結社の一員としてサー・ユースタスを殺したと考える。そこに現れた花嫁を彼女だと考えて話し続けるホームズだが、ヴェールを取るとそこにいたのはモリアーティだった。

ジョンの声でシャーロックが現代に引き戻されると、彼は病院に搬送されていた。彼はリコレッティ夫人の棺の下に別人が埋葬されていると考え[注 8]、それを確かめに墓地へ向かう。すると掘り出したリコレッティ夫人の棺から、"Do not forget me"(訳:私を忘れないで)との歌声が聞こえ、彼女の遺体がシャーロックに襲いかかる。

再び舞台はヴィクトリア朝に戻り、ホームズは気付くとライヘンバッハの滝の岩棚にいる。モリアーティが現れ、ホームズはマインドパレスに没入したままなのだと告げる。2人は岩棚の上で格闘を始めるが、そこにワトスンが現れて場を制し、モリアーティを滝壺へ突き落とす。その後ワトスンは、ホームズにどうやって目覚めるつもりか尋ね、ホームズは自信を持って滝壺へ飛び降りる。

再び現代に引き戻されたシャーロックは、映画中盤と同様にチャーター機に乗っており、ジョンとメアリー、マイクロフトの3人に囲まれている。シャーロックはマイクロフトの手にあったリストを破り捨て、ふらつく足で外に出て行く。マイクロフトはジョンにシャーロックの世話を頼むと、弟の破り捨てたリストを拾ってノートに挟み込む。マイクロフトのノートには、"Redbeard"(訳:赤髭)と書かれている[注 9]。シャーロックは、モリアーティは確実に死んでいるものの次の出方は分かっているとして、ジョン・メアリーと共に車で飛行場を去る。

再びヴィクトリア朝のベーカー街に戻ると、ホームズとワトスンが今回の事件にどんなタイトルを付けるか話し合っている。ワトスンの案で題名が "The Abominable Bride"(訳:忌まわしき花嫁)と決まったところで、ホームズはパイプを持って席を立つが、カメラがズームアウトしていくと、外の風景は現代のベーカー街となっている。

キャスト

※役名表記はPBS公式サイトに準拠している[2]

スタッフ

※スタッフの表記はPBS公式サイトに準拠している[2]

なおこの作品は、『ピンク色の研究』『大いなるゲーム』『ベルグレービアの醜聞』『バスカヴィルの犬 (ハウンド)』の編集を担当し、2015年に亡くなったチャーリー・フィリップスに献辞されている[2][3]

原作・TVシリーズとの対比

ヴィクトリア朝221Bに飾られている絵は、チャールズ・アラン・ギルバート英語版作の"All is Vanity"である

この作品の原案は、『マスグレーヴ家の儀式』で言及される、「内反足のリコレッティとその忌まわしい妻の記録」である[4][5]。この作品は、いわゆる語られざる事件に該当する。

IMDbの作品ページ[6]で「Season4 Episode0」と付されているように、この特別編はシーズン3とシーズン4を繋ぐ構成になっている。ヴィクトリア朝のシーンが、シャーロックのマインドパレスでの光景として描かれているため、前シーズンまでの様々なシーンが、舞台をヴィクトリア朝に移した形で再現されている。また、本シリーズは原典からの引用ネタが各所に散りばめられていることでも知られている。本作ではそれに加え、ジェレミー・ブレット版やビリー・ワイルダー版など、過去の映像化されたホームズ作品にオマージュをかけたシーンが多数存在する。
脚本のスティーヴン・モファットが案内人を務める特典映像1では、ヴィクトリア朝221Bのセット内にあるオマージュがいくつか指摘されている。マントルピースにナイフで刺された手紙や、ペルシャスリッパの中に詰め込まれた煙草は、『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来する。また、壁に弾痕で書かれた"VR"[注 14]との文字は、同じく『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来するが、同時に本シリーズでの弾痕で描かれたスマイリーとも対応している。セットにあるヘンリー・ウォード・ビーチャーの絵は、『ボール箱』での記述と符合する。また、221Bのドア脇には、本シリーズでは髑髏の絵が飾られているが、特別編の本作ではチャールズ・アラン・ギルバート英語版作の"All is Vanity"が飾られている[7]。この絵は、特別編の年代設定(1895年)に程近い1892年に描かれている。更に、下宿のドアにはめ込まれているステンドグラスは、『緑柱石の宝冠』『まだらの紐』『ライオンのたてがみ』『バスカヴィル家の犬』『オレンジの種五つ』があしらわれたデザインである[注 15]

ワトスンが第二次アフガン戦争に従軍し、肩を負傷して帰国するのは、『緋色の研究』冒頭の記述に由来する[9]。その後スタンフォードと出会って、クライテリオン酒場で話すくだりも原典通りである[10]。ホームズがモルグで遺体に鞭を打っているのは、同作でのスタンフォードのホームズ評からである[11]。ホームズは、下宿の番地を、現代版のような"Two-two-one B"(訳:に・に・いちビー)ではなく、"Two hundred and twenty-one B"(訳:にひゃくにじゅういちビー)と述べている[注 16]。この一連のシーンは、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている。また、ホームズとワトスンが出会った時点では、ワトスンは口ひげを生やしていない。挿絵では口ひげが描き込まれているものの、実際にワトスンがひげを生やしていたと分かるのは、『シャーロック・ホームズの帰還』所収の『犯人は二人』が初めてである[注 17]

タイトルバック直後のシーンで、ワトスンは、ストランド・マガジンの売り子へ『青い紅玉』の売れ行きを訊ねる[9]。ストランド・マガジンは、原作のシャーロック・ホームズシリーズが連載されていた雑誌である。また『青い紅玉』自体は、1892年に発表されている。

特報として流されたシーンでは、ジェレミー・ブレットが主演した『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズのテーマを変奏した曲が流れる。また、ベーカー街のパンの仕方など、ブレット版のオープニングとの類似が指摘されている[15]。221の1階にある料理店の名前は、本シリーズでの"Speedy"から、"Speedwell"に変更されている[注 18][10]。221Bのボーイであるビリーを演じているのは、本シリーズ『三の兆候』でページボーイを演じていた、アダム・グレーヴス=ニールである[16][10]。同じシーンでは、ホームズが『バスカヴィル家の犬』について言及するが、この作品は1901年に発表されており、「1895年を舞台」とする公式の発表[17]とは食い違っている[注 19]

この特別編ではワトスンの妻・メアリーが生きている設定だが、原典『空き家の冒険』では、この作品の設定年・1894年には彼女が死亡していたと仄めかされている。メアリーは喪服とヴェールを着用して221Bに現れるが、『覆面の下宿人』にはヴェールをかぶったまま下宿に引きこもっている女性が登場する。ホームズが香水の香りからメアリーだと言い当てるのは、本シリーズ『最後の誓い』の1シーンに由来するものである。この後、ワトスン夫妻の口論の裏でホームズが弾いているのは、シャーロックが本シリーズ『三の兆候』で夫妻に贈ったワルツである[9]。ホームズは階段を上る足音からやってきたのがレストレードだと言い当てるが、その後述べられるジョーンズ[注 20]グレグスンは、どちらもスコットランドヤードの刑事として、原典に登場する人物である。ホームズはワトスンをジェイムズ・ボズウェルに例えるが[9]、同じ例えは原典『ボヘミアの醜聞』に登場する[18]

エミリア・リコレッティは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でのモリアーティと同じく、銃を口にくわえ、頭を撃ち抜いて自殺する[注 21]。また夫トーマスを射殺する前、彼女が歌っているのは"The Maid of the Mill"と言う曲である[10][19][20]。エミリアの言う「ショットガン・ウエディング」(: shotgun wedding)は、いわゆる「できちゃった婚」を指す言葉である。

エミリアが乱射している道沿いには、『赤髪連盟』に登場するジェイベズ・ウィルスンの名前が書かれた店舗があると明かされている[21][10]

脚本のモファット・ゲイティスは、ラスボーン版ホームズのファンであることを公言している[22]。本作でワトスンが的外れな推論を披露するシーンは、ラスボーン版でのワトスンにオマージュをかけたものとされている。また本作でのワトスンは全体的に、現代版の本シリーズに比べて幾分愚鈍に描かれている。一方ラスボーン版のワトスンは、ホームズより劣ったドジな人物とされている。このシーンでワトスンが「エミリア双子説」を出すが、これはルパート・エヴェレット版ホームズ『シャーロック・ホームズ:淑女殺人事件』 (enとの類似が指摘されている[10]

ホームズが黄道傾斜角について理解しようとしているシーンがあるが、『ギリシャ語通訳』冒頭には、ホームズとワトスンがこの話題について話していたと記されている[23]。本シリーズで221Bのキッチンになっていたスペースは、壁が緋色(スカーレット)に塗られた書斎に作り替えられているが[24]、これを『緋色の研究』のタイトルに対するオマージュとする意見もある[9][注 22]。ワトスン宅に出来が悪いメイドがいるのは『ボヘミアの醜聞』から[25]、更に彼女が仕事中小説を読みふけり、ゆで卵も作れないのは、『ソア橋』からである[26]。またこの後ワトスンに渡される電報の文面は、『這う男』冒頭と同じもので[27]、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている[28]

ディオゲネス・クラブに着いたホームズとワトスンは、受付の男性とイギリス手話で会話を交わすが、この男性の名前は「ワイルダー」とされている。ビリー・ワイルダー監督は、映画『シャーロック・ホームズの冒険』を制作しており、脚本のゲイティス・モファットは、この作品を映像化されたホームズの中で最もお気に入りと回答している[10]。2人のクラブ訪問とマナーハウスに関するホームズ兄弟の会話やマイクロフトに面会するメラス氏の名前は、いずれも『ギリシャ語通訳』に由来する[10]。クラブでのマイクロフトは、原作以上にでっぷりと太っているが、このビジュアルはモンティ・パイソンの『人生狂騒曲』との類似が指摘されている[注 23][31]

白銀号事件』でのシドニー・パジェットの挿絵。

レディ・カーマイケルの一件は、女性を虐げる夫への戒めという点で、『修道院屋敷』と共通しており、夫サー・ユースタスの名前も、この作品から取られている[注 24]。サー・ユースタスへの脅迫にオレンジの種が使われるのは、『オレンジの種五つ』からの描写で[9][10]、本シリーズ『大いなるゲーム』ではこの作品がもじられている。またサー・ユースタスがアメリカの人物に脅迫されているとホームズが考えるのは、『恐怖の谷』へのオマージュである。サー・ユースタス邸に向かう電車内のビジュアルは、『白銀号事件』や『ボスコム渓谷の謎[注 25]でのシドニー・パジェットの挿絵に酷似している[10]。ホームズの台詞 "The game is afoot!"(訳:狩りの始まりだ!)[32]は『修道院屋敷』に由来する台詞だが[33]、同じ台詞は、"afoot"を"on"に置き換えた形で、本シリーズで幾度となく使われている。張り込み中のホームズがワトスンに言う、「女性は君の領分だ」という台詞は、『第二の汚点』からの引用である。またホームズがアイリーンの写真を持っているのは、『ボヘミアの醜聞』に由来する。

ターナーによるライヘンバッハの滝を描いた絵。

ディオゲネス・クラブには、ライヘンバッハの滝を描いたターナーの絵が飾られている[10]。これは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でシャーロックが取り返したものである[34]。ホームズが自身のマインドパレスに入ったまま、何日も食事を摂らないのは、『マザリンの宝石』での描写からである[注 26]。ホームズが7%溶液のコカインを使っているのは、『四つの署名』からの引用である[9]。またホームズとワトスンの「兵士じゃなくて医者だろう」「ただの医者じゃなく軍医だ」との会話は、本シリーズ『ベルグレービアの醜聞』に由来する[注 27]

婦人参政権運動家の女性たちが秘密の会合を行っているシーンは、『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』に類似シーンが存在する[36][37]。この映画は、スティーヴン・スピルバーグが制作総指揮を務め、学生時代のホームズを描いた作品である。ホームズが花嫁をレディ・カーマイケルと誤解するシーンは、本シリーズ『最後の誓い』からの引用[注 28]である。また、このエピソードの原案となった『犯人は二人』には、ミルヴァートンが自分の元へやってきた女性の正体を誤解するシーンがある。

シャーロックがエミリア・リコレッティの墓を掘り返し、棺にもう1人別人が埋葬されているのではと考えるのは、『フランシス・カーファックス姫の失踪』でのトリックに由来する。

モリアーティが221Bを訪れるシーンとライヘンバッハの滝でホームズと決闘するシーンは、どちらも『最後の事件』からの引用である。但し、ワトスンが決闘に間に合ったという記述は原典には無い。ホームズの"Elementary, my dear Watson."(訳:初歩なことだよ、ワトソン君)と言う台詞は、原典に1度も登場しないにもかかわらず、ホームズの名台詞として有名なものである[10]ジーニアス英和大辞典ロングマン現代英英辞典ランダムハウス英和大辞典などの辞典にも掲載されるほど[注 29]のこの成句は、ウィリアム・ジレット版で有名となった ("Elementary, my dear Watson"[42]

ジェット機内でマイクロフトの手帳に書かれている"Vernet"[10]とは、ホームズが『ギリシャ語通訳』で自分の大おじだと語っている、オラース・ヴェルネ: Émile Jean-Horace Vernet)の名前である。

制作背景

本作を撮影中のユーナ・スタッブスハドスン夫人役)。2015年2月撮影。

スペシャルの制作予定を最初に明らかにしたのは、ワトスン役のマーティン・フリーマンである。彼は、2014年4月に放送されたインタビュー番組"Alan Carr: Chatty Man"で、「一度限りのスペシャルが計画されている」と述べている[注 30]

ヴィクトリア朝版のスペシャルを撮影するというアイデアは、出演者には好意的に受け止められた。脚本・マイクロフト役のマーク・ゲイティスからこのアイデアを伝えられたベネディクト・カンバーバッチは、「髪を切ってもいいの?」と大喜びしたという[45]。ヴィクトリア朝のシーンに合わせて髪を切ったカンバーバッチは、一部のシーンではかつらを着用している[46]

撮影に先立って、カンバーバッチとフリーマンは、ディオゲネス・クラブでの手話シーン用に、イギリス手話の個人レッスンを受けている[47]。このシーンで受付のワイルダーを演じるティム・バーロウ英語版も実際のろう者であり、その縁でこのレッスンが行われたという。

撮影は2015年1月6日から2月15日まで行われた[48][49][50][51]。クランクインした1月6日は、『恐怖の谷』中の記述から、一部のシャーロキアンによってシャーロック・ホームズの誕生日とされている。

2015年3月には、この作品が、現代版の本シリーズとは完全に独立した、ヴィクトリア朝版のスペシャルであることが脚本のスティーヴン・モファットによって明かされた[52]。また翌月にはゲイティスが、舞台は1895年であると明言した[53]。ゲイティスは更に、この作品が『SHERLOCK』の「エピソード10」に当たることを明かしている[48]

2015年7月9日に、BBCPBSのアカウントを通じ、YouTube上で最初の特報映像が配信された[注 31]。なお、このクリップは先述の通り、ジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズへオマージュをかけていることが指摘されている[15]。翌10日には、サンディエゴで開かれたコミコン・インターナショナルにて、モファットが、この特別編は全世界で公開されると発表した[56]

2本目の特報映像は、BBCのアカウントと、最初の特報映像が配信された後に作られた本シリーズのYouTube公式アカウントを通じて、2015年10月7日に配信された[注 32]。配信前日には、BBCのアカウントで、ティーザー広告が流されている[59][60]。また10月25日には、前日のMCM・ロンドン・コミコン英語版開催に合わせて、同じクリップで尺が長くなったものが配信され、放送日が2016年1月1日であることが明かされた[注 33]。このコミコンでは、『SHERLOCK』に関するトークショーが行われており[注 34]、この席でタイトルが "The Abominable Bride" であると発表された[64][65]。また10月15日にはオーストラリア向けの特報映像[66]11月6日には英国向けのティーザー広告[67]12月12日には3本目の特報映像[68]が公開されている。

ロケ地

サー・ユースタス邸として使われた、ティンテスフィールド

エミリア・リコレッティが乱射を行うシーンは、バースのクイーン・ストリートでの映像と、ブリストルのクイーン・スクエアでの映像を組み合わせて作られている[51][69][70]

サー・ユースタス邸として用いられたのは、サマセット北部ラクソールにあるティンテスフィールドである[71]。この建物は、ワトスンの自宅のシーンでも使われている。他にも、ブリストルのコルストン・ホール英語版の地下室や、アーノス・ヴェール共同墓地英語版で撮影が行われている[71]

婦人参政権運動に関わる女性たちが、秘密の会合を行っているシーンは、グロスター大聖堂で撮影されたことが特典映像で明かされている。

世界各国での公開

この作品は特別編として、イギリスアイルランドアメリカ各国で2016年1月1日にテレビ放映された。その後、脚本家2人による特別映像が加えられ、1月5日・6日に限定公開されている。その後、オーストラリアやヨーロッパ各国、中国などで順次劇場公開された。

日本での興行

日本では2016年2月19日から同3月18日[72][73]まで、4週間の限定公開が行われた[74][75]。日本は、本作のリリースが最も遅い国となった[76]。本国イギリスの劇場公開同様、特典映像2本を上映する115分のスケジュールである。また、ドラマシリーズとは異なり、吹替版の制作は無く、字幕版のみでのリリースである。

劇場で公開されたのは次の3作品である[77]

  • 特典映像1「脚本家スティーヴン・モファットと巡るベーカー街221Bの旅」(約6分)
脚本家スティーヴン・モファットが、スペシャルのために作られたセットと、時代背景を解説する。
  • 本編 「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」(約93分)
  • 特典映像2 「シャーロック製作の裏側〜主要キャスト・スタッフとともに」(約16分)
脚本家・マイクロフト役のマーク・ゲイティスが、主要キャスト陣(カンバーバッチフリーマンアビントンスタッブススコット)にスペシャルの内容や演じる役柄についてインタビューする映像。最後にモファットと脚本家対談を行っている。

日本でのテレビ放映

劇場公開終了後の2016年3月下旬、NHKはこの作品をプレミアムシネマとして放送することを発表した[78]。チャンネルは本シリーズと同じくNHK BSプレミアムで、2016年5月9日21時から放送される予定である。

2016年4月1日に更新されたBSオンラインの映画カレンダーでは、劇場公開時には無かった吹替声優がクレジットされている[79][80]。NHKが発表した吹替声優は次の通りで、いずれも本シリーズの声優が持ち役を続投している。

  • シャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ) - 三上哲
  • ジョン・ワトスン(マーティン・フリーマン) - 森川智之
  • メアリー・ワトスン(アマンダ・アビントン) - 石塚理恵
  • レストレード(ルパート・グレイヴス) - 原康義
  • モリアーティ教授(アンドリュー・スコット) - 村治学

評価・興行収入

英国国内では1160万人が視聴し、40.2%という視聴率を記録した[81]。この数字はシーズン3初回『空の霊柩車』の1272万人[82]にこそ及ばなかったが、放送されたシリーズ10作品の中では2番目に多い視聴者数となった[81]

クー・クラックス・クラン(KKK)の集会。作中には紫色の頭巾を被った女性たちが集会を開いているシーンがあり、その姿はKKKの集会を想起させるとして批判されている。

この作品が大ヒットした一方で、視聴者全員が作品を好意的にとらえた訳ではない。女性解放運動 (Suffragetteの集会がクー・クラックス・クラン (KKK) のように描かれたことについては、「カルト集団のように描くことは、女性解放運動の歴史を見ても間違い」などとした批判が相次いだ[83][84]。また、この作品でのフェミニズムの描き方そのものが、"mansplaining"(訳:男性視点による描き方)であるという批判も多い[83][84][85][86][87]

2016年2月19日には、この批判に答える形で、YouTube公式アカウント上に、制作陣が作品のテーマについて討論する動画が投稿されている。この動画には、脚本のモファットゲイティス、制作のスー・ヴァーチュー、メアリー役のアビントン、そして歴史学者のボイド・ヒルトン英語版が登場し、作品の目指したテーマや視聴者からの批判について討論を行っている[88]

インターネット上の映画批評サイトRotten Tomatoesでは、シリーズを通して90%超えの高い評価を得ているものの[89]、この作品だけは2016年4月8日現在で67%[90]と、やや低い評価を受けている。またインターネット・ムービー・データベース (IMDb) では、2016年4月8日現在で、星10個のうち平均8.3個の評価を受けている[91]

日本で劇場公開が開始された直後の週末2日間では、興行通信社の調べで観客動員数4万8484人、興行収入6546万5100円を記録し、観客動員数で初登場7位を記録した[92][93][94]。また、翌週の週末2日間では興行通信社の調べで観客動員数11位を記録した[95]

脚注

注釈

  1. ^ ワトスンは『ブラック・ピーター』中に、「1895年はホームズが最も活躍した年」と書いている[1]
  2. ^ ワトスンが新聞の売り子に、『ストランド・マガジン』誌に掲載された『青い紅玉』の出来を聞くシーンがあるが、この作品は同誌の1892年1月号に掲載された。また、特報映像として流されたシーンには『バスカヴィル家の犬』について言及するシーンがあるが、この作品は1901年から翌1902年にかけて発表された(しかしこの年代の誤差はあくまで設定上のトリックである)。
  3. ^ この時、口論の裏でホームズがヴァイオリンを用いて弾いているのは、本シリーズ『三の兆候』で、ワトスン夫妻の結婚式のためにシャーロックが作ったワルツである。
  4. ^ 本シリーズ・シーズン3最終話『最後の誓い』では、クリフハンガーとして、"Miss Me?"との字幕と共に、モリアーティの映像が英国中のテレビに映し出される。"[Did You] Miss Me?"とは、「会いたかった?」との意味。
  5. ^ 本シリーズ『バスカヴィルの犬(ハウンド)』で初登場した、シャーロックの記憶術。脳内に物事を地図のように配置して、必要な時に思い出す方法で、場所法として確立されている記憶術の1つである。
  6. ^ このことで、ヴィクトリア朝のシーン自体がシャーロックの夢ないしマインドパレス中の風景であること、ホームズの周囲での地震のような揺れが実際は飛行機の着陸だったことの2つが示唆される。ヴィクトリア朝のシーンで、221Bにやってきたモリアーティが「着地」と話すが、実際の台詞"Landing"には「着地」「着陸」双方の意味がある。
  7. ^ この時チャーター機の機長として映るのは、レディ・カーマイケル役のキャサリン・マコーマックである。
  8. ^ 類似したトリックが『フランシス・カーファックス姫の失踪』で使われている。
  9. ^ 本シリーズ『最後の誓い』で、マイクロフトによって言及された後、シャーロックのマインドパレスにも出てくる単語。
  10. ^ 公式にはクレジットされていない、カメオ出演。冒頭これまでのシーズンを振り返るシーンと、ホームズの持つカメオで登場。
  11. ^ David Nellist - davey nellist (@nellidge) - X(旧Twitter)
  12. ^ ブレットホームズの『赤髪連盟』に、ジョン・クレイ役として出演している。
  13. ^ : Susie Lavelle ISC
  14. ^ 当時の英国王ヴィクトリア女王を意味する、"Victoria Regina"の略。
  15. ^ モファットによると、黄色い円は、『バスカヴィル家の犬』の魔犬の後ろで月のように見えるものも含め、『オレンジの種五つ』を示すものだという。実物の写真は、本作のプロダクション・デザイナーであるアーウェル・ウィン・ジョーンズのTwitterで公開されている[8]
  16. ^ 本シリーズ『ピンク色の研究』でのシーン[12]と、今回のスペシャルでのシーン[13]
  17. ^ 特報映像として配信されたシーンでは、ワトスンがハドスン夫人へ、「この口ひげだって、挿絵画家のせいで読者がそう思い込んだからだ」とぼやく台詞がある[14][10]
  18. ^ "Speedy's Cafe" 自体は実在の店舗である。店舗の公式ページ:Famous Cafe in London - Speedy's Cafe - Sherlock - Gifts”. Speedy's Cafe. 2016年4月17日閲覧。
  19. ^ 一方ドイルの原作自体には、年代の誤りが多いことで知られている(例えば『最後の事件』後に設定されている『恐怖の谷』で、モリアーティがまだ生きているなど)。「年代学」と称して、それを研究するシャーロキアンも存在する。
  20. ^ 『四つの署名』にアセルニー・ジョーンズ、『赤髪連盟』にピーター・ジョーンズという名の刑事が登場する。
  21. ^ ただしエミリアの自殺は、後に二丁拳銃を用いた偽装自殺だったと分かる。
  22. ^ 『緋色の研究』の原題は "A Study in Scarlet" だが、英語の"Study" には「書斎」という意味もある。
  23. ^ 『人生狂騒曲』でテリー・ジョーンズが演じるミスター・クレオソート英語版[29]と、本作でのマイクロフト[30]
  24. ^ この事件の被害者名が「ユースタス・ブラッケンストール卿」である。
  25. ^ ウィキメディア・コモンズに画像が存在する(コモンズ:ボスコム渓谷の謎)。
  26. ^ 食事をいつにするか尋ねられたホームズが、ハドスン夫人に「明後日の7時半だ」と答える逸話がある[35]
  27. ^ アイリーン邸に忍び込むため、シャーロックがジョンへ、自分を殴りつけるよう言うシーン。
  28. ^ マグヌッセンを殺そうとしているのがレディ・スモールウッドだと誤解するシーン。実際はジョンの妻・メアリーだった。
  29. ^ ジーニアス英和大辞典[38]では"elementary"の用例、ロングマン現代英英辞典5訂版[39]では"elementary"の第4義として掲載。どちらも電子辞書エクスワード掲載版で、ジーニアス英和大辞典はDATAPLUS 8(XD-U7100)、ロングマン現代英英辞典5訂版はDATAPLUS 6(XD-D4800)に拠った。また、電子版限定の「ジーニアス用例プラス」にも、例文として記載がある。なお、ランダムハウス英和大辞典では、"Elementary, my dear Watson."の項が2つ存在する[40][41]
  30. ^ フリーマンの回答を記事から一部引用すると、"Mark Gatiss may beat me up, but there is an idea for this one-off special that's such a good idea, [後略]"[43][44](訳:マーク・ゲイティスにはこてんぱんにされるかもしれないけど、凄い構想で一度限りのスペシャルが企画されてるんだ)となる。
  31. ^ どちらも同一内容である[54][55]
  32. ^ カットの順番が前後しているが、基本的には同じ映像。本シリーズの公式アカウント版[57]と、BBC版[58]
  33. ^ 本シリーズの公式アカウント版[61]と、BBC版[62]
  34. ^ 脚本のモファット・ゲイティス、プロデューサーのスー・ヴァーチュー、メアリー役のアビントンが出席した[63]

出典

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関連項目

外部リンク