対向ピストン機関

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対向ピストン機関のアニメーション
対向ピストン機関の仕組み 1. 燃料と空気の混合気の吸気口 2. 過給機 (ここでは: 回転式ポンプ; オリジナル: 遠心式) 3. 混合気を一時的にためる空間 4. 一定の圧力で作動する掃気弁 5. 出力クランク機構 (吸気口が非対称制御ダイアグラムに達する前) 6. 吸気クランク機構 7. 吸気口と排気口を備えたシリンダー 8. 排気 9. 水冷ジャケット 10. 点火栓

対向ピストン機関 (たいこうピストンきかん、英語. opposed-piston engine) は内燃機関の一形式である。1気筒に対して2個のピストンが対向して備えられ、燃焼室を共有する。

対向機関は"ボクサー"エンジン複動式機関とは異なる。

一部では小型の対向ピストン機関が使用される。

採用内燃機関[編集]

アトキンソン・デファレンシャル・エンジン
オッヘルハイザー・ガスエンジン
ラルフ・ルーカス・バルブレスエンジン
1900年製Gobron Brillieエンジン
  • ゴブロン-ブリリエ英語版 - 1898年から1930年に掛けて後述のクルップ・HK型エンジンに似たサイドロッドを持つ上下対向式ガソリンエンジンを製造していた。1904年にはルイ・リゴリー英語版が運転する13.5リットルエンジンを搭載した車両が時速156.51km/hの世界記録を樹立している。
  • コロムナ・ロコモーティブ・ワークス英語版 - 帝政ロシア時代の1907年にロシア人技術者のレイモンド・A・コレイヴォが、世界初の上下対向式ディーゼルエンジンを開発し、フランスにて特許を取得しているが、肝心の経営陣にこのエンジンを製品化する気がなく、日の目を見る事は無かった。Koreyvoの設計は片方のピストンを掃気ポート、もう片方のピストンを排気ポートの開閉を司る機能を持たせ、掃気と排気の流れを1方向として掃気効率を高めるユニフローディーゼルの概念を採り入れており、後のユモシリーズやデルティックでも同様の概念が用いられた。
  • ユンカース ユモ 204英語版 - オッヘルハイザー・ガスエンジンの時代よりユンカースが研鑽していた対向ピストンを航空機用エンジンとして実用化したもので、原型となったMo3型エンジンは第一次世界大戦中の1913年に登場している。1934年にはネイピア・アンド・サンによりライセンス生産ネイピア カルベリン英語版が製造され、デルティック開発の布石ともなっている。
ユンカース ユモ 205航空用ディーゼルエンジン
  • ユンカース ユモ 205 - 及び派生型のユモ206/207/208/218航空機用エンジンは、対向ピストンエンジンで最も著名な形式の一つ。ユモシリーズはごく初期のサイドロッド方式のもの以外は、排気量と過給機の方式が異なるのみで、基本的な構造は共通している。
  • ユンカース ユモ 223 - 及び発展型のユモ224航空機用エンジン。4つの対向シリンダーを正方形に配置する非常に複雑なエンジンで、実用化には至らなかった。
クルップ-ユンカース HK65エンジン
  • クルップ・HK型エンジン - クルップがユンカースより航空機用上下対向エンジンの資料提供を受け、トラックモーターボート向けディーゼルエンジンとして再設計したもの。700ccの2ピストン単気筒エンジンを複数並べる事で排気量を増大させるモジュール構造を採用している。ユンカースの元設計が上下のピストンが2本の独立したクランクシャフトを持ち、ギア駆動で出力軸に動力伝達するのに対して、クルップ・HKシリーズは上側ピストンが2本の長いコネクティングロッド(サイドロッド)を持ち、下側ピストンの直下に配置された1本のクランクシャフトを駆動する設計になっている。これは車体のできるだけ低い位置に変速機を配置する必要があるホチキス・ドライブ英語版方式の後輪駆動を考慮した設計変更である。また、独立した掃気用過給機は持たず、上側のピストンの上下動により掃気を行う、デイ式2ストローク機関のクランクケース掃気の概念も持ち合わせている。日本では「クルップ-ユンカースエンジン」と呼ばれ、民生デイゼル工業のKD型ディーゼルエンジンの基礎となっている。日本では1955年までの採用に終わったが、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)では汎用エンジンとして1980年代まで製造されていた。フランスではプジョーの子会社であるディーゼルエンジン製造メーカーのCompagnie Lilleoise de Moteurs(CLM、現在のインデネール英語版)がクルップ-ユンカースディーゼルをライセンス製造していた[3]
1914年に発表されたビームを用いた2気筒対向機関「シンプソンズ・バランスド・エンジン」
アメリカ海軍の潜水艦であるパンパニト SS-386のフェアバンクス モース 38 8-1/8 ディーゼル機関

近年の動向[編集]

2000年代以降、軽飛行機向けの航空機用エンジンとしてユモエンジンと類似した設計の2ストロークディーゼルの対向ピストン機関が開発される事が多くなっている。これは従来から主流であるコンチネンタル・モータースライカミング・エンジンズ製の水平対向ガソリンエンジンと比較して、高価な有鉛ガソリンを使用しなくて良いので燃料費が安く済み、エンジントラブルの際の発火の危険性が低く、同社製水平対向エンジンと似たレイアウトを採る事で置換え需要を容易に賄える事などが挙げられる。

エコモーターズ・OPOCエンジン
  • エコモーターズ英語版・OPOCエンジン - 2008年に米国で設立されたベンチャー企業が開発するエンジンで、元フォルクスワーゲン技術者のピーター・ホーフバウアーが開発し、ナビスター・インターナショナル英語版ビル・ゲイツビノッド・コースラらの投資家グループが出資している。OPOCとは「対向ピストン対向シリンダー(Opposed Piston Opposed Cylinder)」の頭字語であり、ゴブロン-ブリリエやクルップ・HK型のようなサイドロッド式の対向ピストンシリンダーを左右に2つ並べて水平対向エンジンとしたような構造をしている。
  • ピナクル・エンジン - 2007年に米国で設立されたベンチャー企業が開発するエンジンで、ユモエンジンを4ストローク火花点火内燃機関として再設計したものである。バルブトレインにはスリーブバルブが採用されている[11]
  • Dair・100エンジン - 英国のディーゼルエア・リミテッド社が開発する100馬力、2気筒の航空機用ディーゼルエンジン英語版。ユモエンジンの設計を踏襲しているが、出力軸はエンジンのほぼ中央に配置されている。これは競合する4ストローク水平対向4気筒をそのまま置き換える事を想定しているためである[12]
  • スーペリア・ジェミニエンジン - 英国のパワープラント・デベロップメント社が開発していた100馬力、3気筒の航空機用ディーゼルエンジン。3気筒である事を除いてはDair・100エンジンと類似した構成であったが、2014年に同社は倒産し、米国スーペリア・エアパーツ英語版社に買収された。スーペリア社ではスーパーチャージャー付き100馬力エンジンと、ターボチャージャー付き125馬力エンジンをラインナップしている。[13]
  • ウェスレイク・エアロエンジン英語版 - フォーミュラ1のレース用エンジン開発などを行っていた英国のエンジンメーカー、ウェスレイク英語版が2014年に開発した85馬力、2気筒の航空機用ディーゼルエンジン[14][15]
  • BWM・マリンエンジン - 英国BWM Ribs社が2014年に開発したモーターボート用ディーゼルエンジン。スーパーチャージャー付き80馬力エンジンと、ターボチャージャー付き100馬力エンジンをラインナップしている[16]
ゴーレ・エンジン
  • ゴーレ・エンジン - ドイツ人技術者、ヘルマン・ゴーレ英語版が開発している対向ピストンエンジン。クロスヘッド方式を採用しており、エンジンオイルはクランクシャフトのみを潤滑し、ピストンリングの材質に自己潤滑性のあるグラファイトを用いる事で、シリンダー潤滑はオイルフリーとしている。ピストン系統をクランク系統から完全に分離している事から、上下ピストンの下降を掃気に用いる事ができ、外部過給機を必要としないほか、エンジンオイルの劣化が起こりにくく排気ガスも綺麗であるという特徴がある[17]

関連項目[編集]

出典[編集]

外部リンク[編集]