水平対向2気筒

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水平対向2気筒のクランクシャフト運動
1967年式BMW R50/2英語版の水平対向2気筒。クランクシャフトのクランクピン1つ分左右のシリンダーが若干ずれて配置されている。

水平対向2気筒(すいへいたいこうにきとう)はレシプロエンジン等のシリンダー配列形式の一つで、2個のシリンダーが水平に対向して配置されている形式である。当記事では専らピストン内燃機関のそれについて述べる。海外ではフラット2(Flat-Twin)とも呼ばれ、F2と略されることもある。また、ボクサー2(Boxer-2)とも呼ばれ、B2と略される場合もある。

概要[編集]

水平対向2気筒は静的にも動的にも重量バランスがよくエンジンの振動が小さいうえ、等間隔爆発でトルク変動が少ないために初期のオートバイで広く採用されたが、左右のシリンダーに若干のクランクシャフト方向のずれが生じ、カップリング振動(偶力振動)が発生するため、エンジン単体で完全バランスを達成することは難しいとされる[1]。このずれはV型2気筒ではコンロッドの厚み分だけだが、水平対向2気筒では180°位相のクランクピン2つをつなぐクランクアームの厚み分が加わる。カップリング振動を低減するために、BMWはクランクシャフトと同速で逆回転するバランサーシャフトを採用している[2]。また、高齋正は、機構が複雑にはなるが、従来のN形のクランクをM形とし、Mの2つの頂点にY形にした一方のコンロッドを取り付け完全にバランスをとった完全水平対向2気筒エンジンを紹介している[3]

オートバイ[編集]

BMWのオートバイ製造部門であるBMWモトラッドは、伝統的に水平対向2気筒のオートバイを製造し続けている[4][1]。また、第二次世界大戦頃のBMW製オートバイは中国長江・CJ-750ロシア(旧ソ連)のIMZ・ウラルウクライナ(旧ソ連)のドニエプルとして現在でもコピー製造が行われ、これらの車種にも水平対向2気筒エンジンが搭載されている。

エンジン搭載配置[編集]

水平対向2気筒エンジンの外形は出力軸方向よりもシリンダー方向の方が長くなるが、ほかの形式のエンジンと同様に出力軸が車両進行方向と直交する配置を横置き、出力軸が車両進行方向と一致する配置を縦置きという。

横置き配置[編集]

1912年製ダグラス N3の水平対向2気筒。フレームに対して平行にシリンダーが配置されている。

イギリスダグラスドイツのヘリオス(BMWの極初期のブランド)、アメリカハーレー・ダビッドソンのオートバイに横置き水平対向2気筒が採用された[1][5][6]

車軸と平行にエンジン出力軸が配置されるため、自転車から派生しエンジンに内蔵されたトランスミッションを備えないごく初期のオートバイにおいては、比較的容易に2気筒エンジンを搭載する手段として多用されたが[5]、前側シリンダーと後側シリンダーとの間で走行風の当たり方に差が生じ、冷却のバランスが悪くなる問題があり、 オートバイ製造技術の発達と共に廃れていった[5]

縦置き配置[編集]

1942年式ハーレー・ダビッドソン・XA英語版。750ccの水平対向2気筒を縦置きし、V型2気筒のハーレー・ダビッドソン・WLAと共に第二次世界大戦の戦場を駆け巡った。

1919年、イギリスのABCモーターサイクル英語版は、水平対向2気筒が縦置きされたオートバイを世界で初めて市販した。車軸とエンジン出力軸が平行ではないため回転方向を変更する機構が必要となるが、ABCモーターサイクルはギヤボックスにベベルギアを内蔵させ、ギヤボックスから後輪へはチェーンドライブで駆動力を伝達する構造を用いた[7]。1923年に登場したBMW・R32も、ABCモーターサイクルと同様の手法で縦置き水平対向2気筒を搭載した[1]

縦置き水平対向2気筒では左右のシリンダーに均等に走行風が当たるため、横置き水平対向2気筒や横置きV型2気筒と比べて冷却効率に優れる利点がある[1]。アメリカのハーレー・ダビッドソンが軍用オートバイとして開発したハーレー・ダビッドソン・XAは縦置きレイアウトに加えて、走行風を効率的にシリンダーに導くようにレッグガードを兼ねた導風板が設置された。同時期に戦場に投入された横置きV型2気筒のハーレー・ダビッドソン・WLA英語版に比べ、高速巡航時のシリンダー潤滑油はXAの方が56度以上低かったという記録が残っている[8]

また、オートバイが衝突事故を起こした場合にシリンダーがライダーの足を障害物から保護し、転倒した際にもシリンダーが支点となってフレームを保護する効果も発揮する。冬季においては、シリンダーから発生する熱によりライダーの足が温められる効果もある[1]。しかし同時に、このような構成は露出したシリンダーが障害物に激突した際にエンジンが破損して走行不能に陥るリスクや、夏期や熱帯地方においてはライダーの足がシリンダーの高熱にさらされ、場合によっては低温やけどなどの重篤な負傷を負う可能性を常に孕んでいることにもなる[1] また、左右に突出したシリンダーはバンク角に制限を加えるため、充分なバンク角を確保するには車体設計に配慮を要する。

自動車[編集]

既存のフロントエンジンに加え、車体後部にもエンジンを搭載し4WDを実現したシトロエン・2CV/サハラ。
2CVのエンジンをフロントに搭載するキットカーのBlackjack Avion。車体先端にシリンダーが露出している。
シトロエン・2CVの水平対向2気筒の搭載例

水平対向2気筒は自動車産業初期の大衆車でも広く用いられた。代表的なものがフランスシトロエン・2CVである。また、同じフランスのパナール・ディナXパナール・ディナZオーストリアシュタイア・ダイムラー・プフが開発したプッチ 500英語版オランダDAFによるDAF ダフォダイル英語版、ドイツのBMW・600、イギリスのジュエット英語版製の自動車などでも水平対向2気筒が用いられた。

日本車においてはトヨタ・パブリカトヨタ・スポーツ800トヨタ・ミニエースコニー・360に搭載された空冷水平対向2気筒が代表例である。

その他の用途[編集]

アメリカの家電製品メーカーであるメイタグには、モデル72と呼ばれる水平対向2気筒エンジンを洗濯機に搭載していた事例がある。[9][10]

また、日本の模型飛行機用エンジンメーカーである小川精機が展開するOSエンジンブランドには、FT-300とFT-160の二種類の空冷水平対向2気筒エンジンがラインナップされている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g Wilson, Hugo (1995). “The A-Z of Motorcycles” (UK English). The Encyclopedia of the Motorcycle. London: Dorling Kindersley. pp. 26–32, 51. ISBN 0 7513 0206 6. 
  2. ^ モーターファン・イラストレイテッド Vol.20 P.067
  3. ^ 『幻走』
  4. ^ BMW Motorrad USA - Bikes”. http://www.bmwmotorcycles.com/. 2008年12月22日閲覧。
  5. ^ a b c Norbye, Jan P. (1984). “The Origins of BMW: From Flying Machines to Driving Machines”. BMW - Bavaria's Driving Machines. New York, NY, USA: Beekman House. pp. 14–17. ISBN 0-517-42464-9. 
  6. ^ Mitchel, Doug (1997). “The Early Years (1903-1928)”. Harley-Davidson Chronicle. Lincolnwood, Illinois, USA: Publications International. pp. 44–45. ISBN 0-7853-2514-X. 
  7. ^ Wilson, H. The Encyclopedia of the Motorcycle p. 10 Dorling-Kindersley Limited, 1995 ISBN 0-7513-0206-6
  8. ^ AMA Motorcycle Hall of Fame Museum: 1942 Harley-Davidson XA
  9. ^ Maytag Multi-Motor Engines”. Maytag Collector's club. 2009年1月8日閲覧。
  10. ^ Kinney, Keith (2007年2月27日). “Maytag Engine-Driven Wringer Washer”. Old Iron and Other Americana: The collections of the Kinney family. 2009年1月8日閲覧。

外部リンク[編集]