黒幕
黒幕(くろまく)とは、政治において国を行使する強力な人物。表の最高権力者を裏で操る人物や、最高権力者を降りた後にも政治的影響力を行使する人物などである。
概要
政財界で大きな影響を与えている人物であり、表向きは社会的地位の高い人として振舞っていることが多い。しかし、裏では様々な違法なやり取りの仲介をしており、その取引を通じて政界や財界に影で影響を与えているとされている。
歌舞伎から派生した言葉で、舞台裏で黒い幕を操作し進行に関わることから、背後で影響力を行使する強力な人物をこの進行役になぞらえ「黒幕」と呼ぶようになった。
冷戦時代には、アメリカ合衆国の衛星国で、アメリカ政府に操られた政治家が、最高権力者になったり、最高権力者を裏で操ったりしていた。彼らはまた、アメリカ型の政治体制や経済体制を自国に導入した。なお、ソ連の衛星国では、ソ連政府は正面からその衛星国を支配・指導しており黒幕的存在は必要としなかった。
日本では、「影の総理」「闇の権力者」「総理指南役」「ゴッドファーザー(女性の場合はゴッドマザー)」「フィクサー」「キングメーカー」といった名称で呼ばれることもある。
特撮ドラマやアニメなどでは、戦いを起こしていた元凶などがこう呼ばれる。
第二次世界大戦以前
日本
戦前の日本の政治では、ヤクザ・右翼団体からなる暗黒街と、政界(主として保守政治家)・財界からなる表(合法)社会とを橋渡しする右翼(通常は極右)の事を指す事もある。宗教団体を利用することもある。有名な人物が頭山満。
尚、「天皇(最高権力者)や総理大臣(第二位権力者)を裏で操る人物」という意味での黒幕は、明治末期・大正前期の歴代首相を裏で操った元老(山縣有朋、松方正義など)が代表例である。
フランス
フランスの場合は灰色の枢機卿(Éminence grise)と言う。ルイ13世の首相をしていたリシュリューの黒幕であったフランソワ・ルクレール・デュ・トランブレーで現れた用語。リシュリュに及ぼした強い影響に際して、フランス史ではじめて日本の黒幕のような原則が現れたのである。デュ・トランブレーは枢機卿であったが、茶色の制服を着ていたので灰色の枢機卿として呼ばれていた。用語は現代フランス政治にも政治家に強い影響を及ぼす人物を示すために使われている。
冷戦時代
日本
冷戦時代の日本の政治における黒幕は、「総理大臣(最高権力者)を裏で操る人物」であるが、その人物は総理大臣ではなく、「外国勢力(CIAなど)と一緒に、政治を裏で動かす人物」であったりもする。暴力団・右翼団体と実業界・自民党とアメリカ中央情報局(CIA)との橋渡しを行うA級戦犯容疑者デュオ、児玉誉士夫と笹川良一が特に有名である。A級戦犯容疑者のうち、岸信介は表の世界でも首相となったが、首相退任後も裏で隠然たる巨大な影響力をもった。
また、三浦義一はGHQと三井グループを初めとする財界と自民党官僚派の橋渡しをやり、戦後の黒幕としての影響力は児玉と並ぶものであった。三浦と児玉の時代の後には西山広喜が大きな力を持った。
ラテンアメリカ
ラテンアメリカでは、CIAの意向を受けた政治家や軍人が、大統領として表の最高権力者になったり、政治を裏で動かす人物になっていた。彼らもまた、大統領を退陣した後も軍部などで「キングメーカー」として君臨した。
CIAが黒幕として操り、大統領として表の最高権力者になった人物としては、チリのアウグスト・ピノチェトが代表例である。一方で、CIAが黒幕として操り、更に自身が大統領にならずに政治を裏で操った人物としては、ボリビアのクラウス・バルビーが代表例である。
日本で「黒幕」・「フィクサー」と称される代表的人物
- 明石元二郎 - 日本陸軍のスパイ。日露戦争下のロシア帝国はじめヨーロッパ全土において反露独立や革命運動の指導・支援を行ない、日本の勝利に貢献した。
- 浅田満 - 実業家。食肉卸売業のハンナンの元会長。部落解放同盟の元地方役員。食肉業界のドンとよばれた。
- 甘粕正彦・石原莞爾・土肥原賢二 - 満州事変、満州国創建にて暗躍した軍人ら(甘粕は元憲兵大尉。満州映画協会理事)。
- 鮎川義介 - 日産コンツェルン創始者
- 池田大作 - 国内最大といわれる宗教法人創価学会三代会長。総体革命の項も参考にされたし。
- 小沢一郎 - 現衆議院議員。田中派、竹下派の元で政治手腕を発揮。55年体制崩壊以降、国内外に強い影響力をもつ政治家。
- 賀屋興宣 - 元大蔵官僚で衆議院議員、日本遺族会初代会長。アメリカ共和党やCIA、台湾の蒋介石政権との人脈を持ち、国際反共勢力、自民党といった国内外における右派人脈を築いた。
- 児玉誉士夫 - 暴力団錦政会顧問。右翼団体やCIA、韓国と多く接触し、ロッキード事件にも深く関与した。
- 笹川良一 - 元A級戦犯容疑者。国粋大衆党総裁といった日本におけるファシズム運動家の第一人者。
- 正力松太郎 - 内閣情報局参与や読売新聞社社主などを歴任。CIAの協力者。
- 杉山茂丸 - 明治から大正、昭和初期にかけての首相のブレーンとして活躍した。
- 瀬島龍三 - 元日本陸軍士官。中曽根内閣のブレーン。山崎豊子の小説「不毛地帯」のモデルともいわれる。
- 田岡一雄 - 三代目山口組組長。山口組を日本最大の暴力団にのし上げた。実業家としても様々な顔を持つ。海外マフィアからも『ジャパニーズマフィアのボス』として一目を置かれる。
- 田中清玄 - 実業家。戦時期の日本共産党中央委員長。終戦工作や全学連への資金提供などに関与。
- 辻嘉六 - 立憲政友会の黒幕と呼ばれた。
- 頭山満 - 玄洋社の総帥。国家社会主義、アジア主義者の巨頭。
- 南光坊天海 - 天台宗の僧。徳川家康、秀忠、家光の三代に渡ってブレーン的役割を果たした。
- 松井一郎 - 橋下徹を表の顔とし大阪府の再建を図る計画の第一人者。大阪府の発展を影で支えるナニワの事実上のドン。又、父である松井良夫は前述の笹川良一の舎弟分で、元大阪府議会議長でもある。
- 安岡正篤 - 陽明学研究者。東洋思想をもって戦中・戦後の政財界に強い影響力を与えた。
- 渡邉恒雄 - 読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆。大手新聞社の重鎮として各界に影響力を誇示。児玉誉士夫や中曽根康弘と交友関係にある。