学部
この記事はその主題が日本に置かれた記述になっており、世界的観点から説明されていない可能性があります。(2009年1月) |
学部(がくぶ、英: faculty)とは、専攻する学問分野によって大別される、専攻領域に従った大学における教育・研究上の組織区分であり構成単位のこと[1][2]。
アメリカの使用法では、このような組織は一般的に「カレッジ college」(例: "college of arts and sciences")あるいは「スクール school」(例: "school of business")と呼ばれるが、混合して使用されることもある(ハーバード大学には"faculty of arts and sciences"があるが、"law school"もある。)
ヨーロッパにおける後期中世のほとんどの大学のモデルとなった中世のパリ大学には、神学、法学、医学、学芸(arts)の4つの学部(仏: faculté)があった。全ての学生は高等学部とも知られていたその他の3学部の1つで教育を続けるために、まず学芸学部(教養学部)を卒業しなければならなかった。これら4学部を設置する特権は、通常大学に対する中世の免許状の一部であったが、全ての大学が実際にそうしていた訳ではない。
「学芸学部」(Faculty of Arts) は以下の7つのリベラル・アーツ(自由七科)からその名をとっている: 三学(文法、修辞学、論理学)および四科(幾何学、算術、天文学、音楽)。ドイツ、スカンジナビア、スラブおよびその他の大学におけるこの学部の名称は、しばしば哲学部('faculty of philosophy')と文字通り翻訳される。マギステル・アルツィウム(M.A.、ラテン語: Magister Artium、英: Master of Arts、文学修士)の学位はこの教養学部「Faculty of Arts」の名称に由来する。一方、ピロソピアエ・ドクトル(Ph.D.、ラテン語: Philosphiae Doctor、英: Doctor of Philosophy、哲学博士)はドイツの教育に起源があり、この学部のドイツ語名称に由来している。
現代の大学における学部の数は大抵増加している。これは伝統四学部の細分化や、工学あるいは農学といった元々は職業専門学校内で発展した学術分野を大学に吸収していったことによる。
日本における学部
学校教育法により、大学には学部(学群学系などを含む)を設置することとなっている。
概要
大正7年大学令により、専門学校が、学位授与機関としての正規の大学(私立大学)に昇格することが認められた。その際、大学令により、「学部」を設置し文部大臣の認可を得た、「相当数の専任教員を置くこと」が条件とされた。
現在でも大学には、学部を置くことが常例とされ(学校教育法第85条本文)、学部には、学生と専任(常勤)の教員が同時に所属し(大学院の教員を兼務する者も含む)、専攻に基づく教育研究が行われる。また、各学部には、所属する専任教授により構成される「教授会」が置かれ、学部ごとに人事やカリキュラムなどについての意思決定が行われる。
なお、高等教育を行う学校(学校教育法第1条に定める「学校」)と位置付けられている短期大学と高等専門学校では、学部を置かず、学科を置く。
学校教育法第84条86条において、大学は、通信による教育を行うことができると定められ、さらに夜間において授業を行う学部・通信による教育を行う学部も認められている。より具体的に、学校教育法施行規則において、二部授業を行うことができると定められており、これに基づき届出を行えば、二部を設置し二部制で授業を行う事が認められる。この学校教育法施行規則に基づき、大学設置基準第26条で、昼夜開講制が認められる。
学部には、下位区分として専攻分野ごとに学科が設けられ、学科ごとに学生および教員が所属する学科制が一般的である。しかし、学科の代わりに学生の履修上の区分に応じて組織される課程が設けられる課程制をとる学部もある。なお、学科や課程の下にさらにコースが置かれるコース制を敷くものもある。制度上は、(学科に対する)課程、(学科や課程の下の)コースに所属するのは、学生のみでも構わないものの、これらの「課程」「コース」に教員が置かれることがある。
各大学が学則で定める卒業要件を満たした者には、卒業資格が与えられる。「専攻分野」がそのまま「学部名」となっているため、通例、学部名を専攻分野名として付記した「学士(専攻分野)」の学位が、学位記(卒業証書と一体となっているものを含む)とともに大学から授与される。
日本に存在する学部の数
政府は、科学研究費補助金の管理のため、国内に存在するすべての学部に「3桁」の識別番号を割り振っている(研究科・大学付属研究所・付属病院など、専任の教員・常勤の研究者が在籍する大学の部局、全て含む)。この「部局表」により、国内に存在する全ての学部は、100番ごと、系統別に区切られ、3桁の整理番号が割り当てられる。よって、この部局表により、日本に存在する全ての学部が一覧できる。
- 例:〔教養学系〕教養学部002~、〔教育学系〕教育学部101~、〔人文学系〕文学部201~、 〔社会科学系〕社会学部301~、〔理学・工学系〕理学部401~、 〔農学系〕農学部501~、 〔医学・看護学系〕医学部601~、〔体育学・芸術学・生活学系〕体育学部701~ 。
002番の教養学部 ~ 720番の事業構想学部まで、日本に存在する「学部数」は、平成17年時点で200学部を超えている。[3] 部局表(所属学部・学系・研究所等番号表 (P4~P5))
教養部
教養部は、学部1-2年次に配置される教養課程(一般教育)を担当する学内組織である。学部と同様に、教養部に所属する専任教授によって構成される「教授会」である『教養部教授会』が置かれる。ここで、教養部の教員採用からカリキュラムの作成まで、各種の意思決定が行われる。学部に準じた独立性と、意思決定の権限を有するため、学内外で学部とほぼ同等の扱いを受ける。上にあげた部局表では、国内に存在する全ての「学部」に3桁の番号が割り振られているが、一番はじめとなる「001番」は「教養部」である。
また、学部の入試問題は、各学部に所属する教授ではなく、教養部に所属する教授により作成されるケースが多く、学部入試問題の作成の任を負うという重要な役割を担ってきた。
しかし、「90年代の教養部廃止により、入試問題の作成が困難となっている」との指摘が[4] 、大学側からなされるなど、「大学改革」の名の下に進められた、『教養部の解体』による弊害が、近年になって顕在化している。
入学者・受験資格
日本においては入学者の経歴は形式上単一化している。それは、直接的には第2次大戦後教育制度を単線型にしたことによる。すなわち、高等学校卒業が入学の条件となっている。
近年、文部科学省は中等教育の多様化を掲げ、中等教育学校という制度を発足させたが、大学入学者の経歴の多様化にはならない。これは社会制度上は、ある意味、近代日本における大学制度の本質である。それは、戦前の旧制度においても同様であり、帝国大学入学者は実質的にすべて旧制高等学校の卒業者であった。
大学入学資格をもつ者
以下の日本国内の教育課程を卒業・修了した者
- 高等学校又は中等教育学校を卒業した者
- 高等専門学校の3年次を修了した者
- 特別支援学校の高等部を卒業した者
- 文部科学大臣が指定した専修学校高等課程(いわゆる高等専修学校)を修了した者
- 外国の高等学校相当として指定した外国人学校を修了した者
- 旧制学校等を修了した者
- 国際的な評価団体(WASC、ECIS(CIS)、ACSI)の認定を受けた外国人学校を修了した者
以下の国外の教育課程を卒業・修了した者
- 外国において、学校教育における12年の課程を修了した者
- 高等学校と同等と認定された在外教育施設の課程を修了した者
以下の資格保有者
- 国際バカロレア、アビトゥア、バカロレアなど、外国の大学入学資格の保有者
- 高等学校卒業程度認定試験(旧大検)に合格した者
- 大学において個別の入学資格審査により認めた者
大学編入資格をもつ者
大学通信教育の課程では、入試がないことも多い(詳しくは大学受験の項を参照のこと)。
教育課程
修業年限は4年で、最大8年を在籍できるとする大学が多い。また医学、歯学、薬学、獣医学などの修業年限は6年で、この場合最長12年まで在籍できることが多い。つまり、最長修業年限を最短修業年限の2倍とする場合が多いのである。
修業年限が4年の場合は3年以上、修業年限が4年を超える学部の場合は3年以上で文部科学大臣の定める期間在学し、卒業の要件として定める単位を優秀な成績で修得したと認める場合は早期の卒業が認められている。(学校教育法第89条)
多くの大学では単位制を導入しており、進級、卒業するためには規定の単位の取得が必要である。単位は主に規定の点数を下回った場合には認められない。規定の単位には文系では卒業論文、理系では卒業研究が含まれることが多い。なお、医学部、歯学部、薬学部、獣医学部、法学部については、国家試験合格が事実上の資格審査であるとして卒業論文を課さない大学も多い。また、芸術学部、建築学科などでは専攻により卒業論文に代えて卒業制作、音楽学部では卒業演奏や卒業制作(作曲)に置き換えられていることもある。
大学を卒業すると学士の学位が授与される。また、公的資格を所管する各省庁から認定を受けたカリキュラムを有する大学では、所定のカリキュラムを履修し単位を取得することにより、卒業時に公的資格を取得することができる(試験の一部免除や受験資格の付与、及び、実務年数要件の緩和も含む)。大学で取得できる公的資格として著名なものに教員免許がある。
なお、学士取得者を主な対象とする発展的な教育研究の場として、大学院を設けている大学が多い。また、学部を設置しない大学院のみの大学院大学もある。
学生生活
日本の大学(学部)の入学者は、18歳で高等学校を卒業してすぐの者が大多数を占める。高等学校在学中に大学受験に合格することを現役合格といい、高等学校卒業後に大学入学を志願する者を過年度生という。過年度生の多くは高等学校卒業後に大学に進学せず、大学受験に向けて専業的に学ぶ者(俗に浪人生という)である。浪人生が、高校卒業の翌年に入学することを俗に1浪といい、2年後に入学した場合は2浪と、数が増えていく。いわゆる難関校や医学部・獣医学部・芸術系の学部には、2浪以上の者も珍しくない。過年度生を含む大学(学部)の進学率は、44.2%(平成17年度)となっている。また、過年度生には、浪人生以外にも、就職後に入学した者や(社会人入学者と呼ぶ)、他の大学を卒業後や中退後や在学中に再受験し入学し直す者(再受験生と呼ぶ)も含まれる。
逆に高校を2年で終え、3年目を飛び越して大学に入学する飛び級、飛び入学のケースもあるが、日本では例外的な扱いとなっており、千葉大学など一部の大学の一部の学部で限定的に実施されているのみで、このケースの入学者は極めて少ない。
学生生活は、文系と理系で大きく異なる。概して、文系は必修科目(卒業するために必ず取らなくてはならない科目)が少なく単位選択の自由度が高い上、教員から課される課題も多くはないため(教養学部や外国語学部のような例外もあるが)、単位取得のための受講と学習・研究に割く時間は理系に比べて少なく、留年するケースは比較的少ない。他方、理系は専攻の専門分化が厳密であることが多いため、必修科目が多く単位選択の自由度が低い。そしてその性質上、実験や演習が課されて拘束される時間が長く、それに伴って単位取得のための受講と学習・研究に要する時間が多くなりやすく、文系に比べると留年する可能性が高い傾向にある(特に学生生活が長い医歯薬系はその傾向が高い)。
文系・理系の学生とも、余暇は部活動やサークル活動に積極的に参加したり、アルバイトで得た資金を元に海外旅行に出かけたりするなど、様々な経験をしている。一部には、ボランティア活動等の社会奉仕に関わった日数を換算して単位として認める大学もある。また、司法試験などの国家資格を得るために専門学校等に並行して通う学生(いわゆるダブル・スクール)も存在する。大学によっては学生自治会などが設けられて相互扶助活動を行ない、これらの余暇活動を支援している。
大学や学部にもよるが、学部の1年次・2年次には、学問に共通の基礎的教養を学ぶ、いわゆる教養科目が多く配当され、比較的時間に余裕があるため余暇活動にも勤しむ。3年次からは学部専門の領域を学ぶ、いわゆる専門科目で占められることが多いため、学習と研究に要する時間も多くなる。また、3年次後半以降は、卒業後の進路を決めるための就職活動に入り、卒業後に志望する企業やその業界の調査・研究・応募(エントリー)が本格化する。4年次に入る頃には企業の採用内定を確保する者も出始め、4年次の半ばにはほぼ就職活動も収束するケースが多い。これと相前後して、4年間の大学における学習と研究の成果を集成した卒業論文・卒業研究の立案・作成が始められる。多くの大学では、卒業論文・卒業研究が卒業の要件とされており、これを提出せず、または、提出しても基準に達していないと判定されると、卒業できず留年となる。ちなみに、留年には、この他、卒業要件となる単位の不足が原因となることや、あえて卒業を先延ばしする自主留年もある。自主留年の理由としては、国家資格取得や大学院進学のための学習を続け、あるいは就職活動を続けるのに都合が良いことなどがある。(後者については、2008年の金融危機に起因する経済情勢の悪化を理由に採用内定を取り消された学生に対し、授業料免除の上で1年間の留年を認める大学も現れている)
医学部、歯学部、薬学部、獣医学部といった医学系の学部では教育期間は6年間となる。1・2年次は教養科目、3・4年次は専門科目というのは基本的に他の学部と同じである(近年の医学知識増加に対応して、一部の大学では1年時から専門科目を学び始める)。5・6年次には臨床の場での経験によって、より専門的な知識を身に付けると同時に、6年次には資格を得るのに必要な国家試験の対策にも勤しむこととなる。 さらに医学部、歯学部では資格を得た後に研修医として研修が医師法・歯科医師法によって義務付けられている。
大学卒業後は、企業等に就職する者、大学院に進学する者、他の専攻分野に学士入学する者、専修学校等で資格取得のための学習を続ける者がいる。
また、1960年代の一時期には、学生運動が吹き荒れ大学紛争が全国で多発した時期もあったが、現在では非常に落ち着いている。その理由としては、以下のような理由が考えられる[誰によって?]。
- 大学当局が構内における学生独自の運動を厳しく規制するようになったこと
- 日本が豊かになり社会の多様化に伴い、価値観の異なる学生が増え集団で活動する土壌ができにくくなったこと
- 学生運動の頃はベトナム戦争や石油危機など学生が政治や司法に関心を持ちやすい土壌があったのに対し、現在においては、それらに関心の薄い学生が増え大きな紛争になりにくいといったこと
- 学生運動の沈静化に伴い、一部の学生が先鋭化してあさま山荘事件や山岳ベース事件などに加わった。これらのテロリズムの残虐性や冷徹な組織管理などが、一般市民だけでなく学生からも支持されないようになったこと
- 1970年代中盤から激化した受験戦争により、「良い学校を出なければ良い就職や良い生活ができない」というような考え方が生まれ、就職活動に於いて学生運動の経験がマイナス材料になるという考え方が広まったこと(実際に、内定後に学生運動に加わっていたことを理由に内定取り消しにあった学生が憲法の定める思想の自由に反するとして訴訟を起こした事件がある)
学部等 と 研究科等 の関係
日本の学校教育法以下においては、学部(学部以外の教育研究上の基本となる組織を含む)と、研究科(研究科以外の教育研究上の基本となる組織を含む)の双方については、個別に扱っている。
文部科学省への申請・届出上も、教員の本所属が学部(〔学系などの〕学部以外の教育研究上の基本となる組織を含む)と研究科(〔研究部などの〕研究科以外の教育研究上の基本となる組織を含む)どちらであるのかというのも明確にしなければならない。
日本の学部は、「卒業」をともなう課程である。これに対して、日本の大学院の課程は、すべて「修了」とされ、「卒業」とはされない。「大学院を卒業する」という表現は、法的には誤ったものである。しかし通俗的には、大学院修了者は院卒者と呼ばれることが多い。
大学内においては、大学院の課程に対して、4年以上の課程または6年以上の課程を学部と呼ぶこともある。また、慣習的に○○学部の大学院という表現をすることもある。(後者の用例では、「某大学大学院○○研究科」は、○○学部の教員・施設等を母体としているものとみなされる。)
「学部以外の教育研究上の基本となる組織」
当該大学の教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては、学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる(学校教育法第85条ただし書)。
代表例として、学生が所属する学群・学類と、教員が所属する学系の2つをもって、「教育研究上の基本となる組織」とする方式がある。筑波大学は大学設置当初から学部を置いたことがなく、「学群・学類、学系」制である。福島大学・桜美林大学などは学部を廃止して「学群・学類、学系」制に移行した。
学校教育法(第85条および第100条を除く)および他の法令(教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)および当該法令に特別の定めのあるものを除く)において、大学の学部という用語には、学校教育法第85条に規定する「学部以外の教育研究上の基本となる組織」を含むものとされている(学校教育法141条)。
このため、「学部以外の教育研究上の基本となる組織」についても、申請・届出の場面を除けば、法的には、学部と同じ扱いとなるが、厳密には学部と同一のものではない。例えば「○○学群」の課程を修めて大学を卒業した場合は、「○○学部卒業」と履歴書などに書くと不適切な記載となる。
備考
- 通常、学部は大学(大学院大学を除く)に置かれているが、代々木アニメーション学院など、ごく一部の専門学校にも置かれている。[信頼性要検証]
脚注
- ^ 「明鏡国語辞典」大修館書店
- ^ 「広辞苑-第6版」岩波書店
- ^ 『部局表(所属学部・学系・研究所等番号表)』(P4~P5)
- ^ 岐阜大学 佐々木嘉三副学長へのインタビュー Guideline 2007年4・5月 河合塾