報償費
報償費(ほうしょうひ)とは、官庁の勘定科目の1つ。役務、負担に対し償う費用。このうち支出の内容を明らかにする必要がなく、機密の用途に充てる費用予算に計上される経費は、機密費とも呼ばれる。
内閣官房報償費
内閣官房報償費は、国政の運営上必要な場合、内閣官房長官の判断で支出される経費。内閣官房機密費とも呼ばれる。会計処理は内閣総務官が所掌(閣議決定などに基づく各本部等については当該事務局が分掌)する。支出には領収書が不要で、会計検査院による監査も免除されており、原則使途が公開されることはない。1947年度から予算計上されるようになった[1]。
2002年度予算で前年を10%下回る14億6165万円になって以来、2009年現在まで同額が毎年計上されている。そのうち12億3021万円が内閣官房長官に一任され、残りは内閣情報調査室の費用にあてられている[2]。以前から「権力の潤滑油」などと呼ばれ、不透明な支出に疑惑の目が向けられていた。また、官房長官が交代目前に多額の機密費を引き出していることが問題視されることもある。
政府は1998年に支出の基準(内規)を設けたが、2000年には官房機密費を渡した政治評論家の極秘リストとされるメモを入手したとする写真週刊誌の報道が世相を騒がせた[3]。また、民主党は野党時代、機密費流用防止法案を国会に提出するなど、機密費の公開を時の政権に求めていたが、2009年に政権党となった後は、「オープンにしていくことは考えていない」として公開はしない考えを示した。
2010年には、河村建夫元官房長官(自民党)が詐欺と背任容疑で告発された問題で、東京地検特捜部が内閣府に官房機密費の使途を照会する方針を固めたとする報道がなされた[4]。
具体的な問題
- 塩川正十郎は宇野内閣の官房長官当時の状況について「外遊する国会議員に餞別として配られた」、「政府が国会対策の為、一部野党に配っていた」、「マスコミ懐柔の為に一部有名言論人に配られていた」など、実態を「サンデープロジェクト」で暴露する(2001年1月)。しかし、財務大臣に就任後は国会でこれらの暴露について追及されると「忘れた」ととぼけた。
- 加藤紘一は宮沢内閣の官房長官当時、与野党政治家主催のパーティー券購入や会食、背広の購入費、出身高校同窓会費に使った事、さらには私的に流用したと、日本共産党が官邸の内部文書を入手して明らかにした[5]。なお、加藤当人は否定している。
- 野中広務は2010年に読売新聞の取材に応じ、小渕内閣の官房長官当時、毎月計5千万円、最高で月計7千万円使ったと述べた。この証言は2009年9月に民主党への政権交代が起こり、使途を機密とする悪しき慣習の廃止を望んで行われた。使途は小渕恵三首相に月1千万円、自民党の国会対策委員長と参議院幹事長へそれぞれ月500万円。また、当時の議員の自宅建設費3千万円や野党議員の北朝鮮訪問に際して要求に応じたとも述べた。一方複数の政治評論家にも盆暮れ等数百万円単位で配られたとも証言しており、マスコミの中立性を疑わせるものとして問題になっている[6]。
- 第3次小泉改造内閣で内閣官房長官を務めた安倍晋三が支出した官房機密費の使途公開を要求する行政訴訟がおこされている[7][8]。日本共産党の塩川鉄也議員は、2010年3月10日の衆議院予算委員会にて、安倍が内閣官房長官在任期間中に「会合」の名目で計504回の官房機密費支出をおこなっていたことが判明したと主張した[9]。
- 河村建夫が麻生内閣で官房長官当時、2009年8月の第45回衆議院議員総選挙で自民党が惨敗し下野が確定的になった翌9月、5度に分けて合計2億5千万円を引き出していた(民主党が内閣官房を引き継いだ際には金庫の中は空だった)ことが明らかになり[10]、大阪市の市民団体「公金の違法な使用をただす会」から10年2月に背任罪・詐欺罪で告発されている(2011年10月に不起訴処分)。また、この件に関しては、やはり、大阪市のオンブズマングループが国に対して使途の情報開示を求める訴訟を起こしている(一審・控訴審共に開示命令)[11][12]。鳩山由紀夫内閣は、2010年2月19日、この問題を質す衆議院議員鈴木宗男の質問主意書に対し、“前政権の個別の件については答える立場にない”としつつも、「明らかに異様な支出」とする答弁書を閣議決定した[13]。
外務省報償費
外務省報償費とは、外交政策において必要な場合、支出される経費。外務機密費とも呼ばれる。全省庁のなかで最も高く、毎年30億円近く計上されている。
2001年に外務省機密費流用事件が発覚し、世間から大きな注目集めた。また、3分の1近くが秘密裏に内閣官房報償費に上納されている疑惑が存在した。国会議決を経ない上納は経費の流用を禁止した財政法違反に該当すると指摘されている。
鳩山由紀夫内閣は、2010年2月5日、この疑惑を質す衆議院議員鈴木宗男の質問主意書に対し、歴代自民党政権による否定を取り消し、“報償費の一部は官邸の外交関係費に使われていた”とする答弁書を閣議決定。岡田克也外務大臣も虚偽の説明が行われてきたという見解を示した[14]。
捜査報償費
捜査報償費は、警察が聞き込みや張り込みなどの捜査活動を行う際にかかる諸費用や、情報提供者への謝礼に使用できる経費のこと。国と県の予算からそれぞれ支出される。
高知県警察を端緒に、北海道警察、福岡県警察、愛媛県警察、宮城県警察など全国各地の警察本部で裏金化の疑惑が噴出し(警察不祥事)、会計検査院も管理が不十分と指摘した。裏金問題では、予算の適正を調査するため、宮城県で行政府の首長が報償費の予算執行を停止される事態に発展した事例も存在する。裏金の存在を告発した警察官たちは、口を揃えて、「捜査活動費がまともに支給されたことなどない、すべて自費払いでしのいできた」と証言している。
脚注
- ^ “官房機密費「何のためか分からない」と政府答弁書”. 産経新聞. (2010年5月25日) 2010年5月25日閲覧。
- ^ 読売新聞 東京版朝刊1面. (2009年11月21日)
- ^ 『極秘メモ流出!内閣官房機密費をもらった政治評論家の名前』、FOCUS2000年5月31日号。竹村健一・田原総一郎・俵孝太郎・早坂茂三・藤原弘達・細川隆一郎・三宅久之の8人の名が具体的な額と共に列挙されていた。なお田原だけは「もらったことは一度もない」と明言している
- ^ 官房機密費、使途照会へ 東京地検特捜部. 47NEWS. (2010年8月7日【共同通信】)
- ^ つかみ金的流用のカラクリ示す政府の官房機密費「執行の基本方針」 しんぶん赤旗. (2002年6月27日)
- ^ “「北朝鮮に行く」野中氏に機密費要求”. 読売新聞2010年5月2日13S版2面. (2010年5月2日) 2010年5月4日閲覧。
- ^ “官房機密費の支出情報不開示は「不当」 市民団体が提訴”. 朝日新聞. (2007年5月18日)
- ^ “機密費で現職官僚証言へ 大阪地裁の行政訴訟で”. 47NEWS (共同通信社). (2010年8月12日) 2010年11月9日閲覧。
- ^ “官房機密費 塩川氏追及「料亭も含むのか」 安倍官房長官時「会合」で500回超”. しんぶん赤旗. (2010年3月11日) 2010年11月9日閲覧。
- ^ “金庫カラにし自民下野 機密費、突出の2.5億円支出”. 朝日新聞. (2009年11月21日) 2010年3月11日閲覧。
- ^ “駆け込み官房機密費の使途開示求め提訴”. 読売新聞. (2010年1月6日) 2010年1月6日閲覧。
- ^ 機密費文書、再び開示命令 自民政権の支出で大阪高裁 共同通信2016年2月24日
- ^ “河村氏の機密費引き出し「異様」 政府答弁書で指摘”. 朝日新聞. (2010年2月19日) 2010年3月11日閲覧。
- ^ “外交機密費の上納認める 首相官邸に、政府答弁書”. 共同通信社 (47NEWS). (2010年2月5日) 2010年3月11日閲覧。