オンブズマン

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オンブズマンとは、行政機関を外部から監視し、行政機関による国民の権利・利益の侵害に対する調査及び救済の勧告を図る公職。行政機関を監視する公的オンブズマンを指す。

概説[編集]

オンブズマンは行政機関に対する調査権を持ち、任命権者から独立的、または中立的に職務を行うものとされる。

行政権の行使(または不行使)に対する国民の苦情申し立てに対する調査を行うが、職権により独自に調査を開始することもある。 調査の結果行われる勧告は法的な強制力を伴うものではないが、強制力のある処分を行う権限を持つ場合もある。

オンブズマンは行政権の行使が合法か否かという点だけではなく、公平・公正性の観点からも審査を行い、現行制度の改善を勧告する権能もある。

起源[編集]

オンブズマン制度の起源については、スウェーデン1809年に制定された統治法典によるとするのが一般的。当時の国王グスタフ4世アドルフクーデターによって追放した後、 議会制度と共に発足した。これは行政府が強い独立性をもっていたため、議会が行政府を監視する手段として設けたとされる。このため、議会が設置するオンブズマンを古典的オンブズマンと呼ぶことがある。

他に、1713年カール12世の統治下で制定されたとする説もある。これはオンブズマンの名を持つ役職がこの時に誕生したことによる。行政に対する苦情処理と監察を行うという点で現代のオンブズマン制度と通じるものがあるが、絶対王政下における統制手段に過ぎないため理念的なオンブズマンの起源には当たらないとされる。また、行政に対する監察は古代中国やイスラム王朝でも制度化されており、その点からもオンブズマンの起源とはしない説が多い。

分類[編集]

国際オンブズマン協会では以下の3つに分類している。[1]

  • 古典的オンブズマン(classical ombudsman)
政府機関を監視、調査する公職。公的オンブズマン。オンブズマン本来の意味であり、一般的にオンブズマンと言った場合は古典的オンブズマンを指す。
  • 組織内オンブズマン(organizational ombudsman/ombudsperson)
企業、大学、官公庁等の組織に設置される組織内の紛争処理制度。
  • 権利擁護オンブズマン(advocate ombudsman)
特定集団の意見の代表し、代理人として活動する組織。

表記[編集]

ジェンダーの観点からオンブズマンではなくオンブズパーソンと表記すべきとする議論がある。しかし、スウェーデン語のombudsmanは両性名詞(共性名詞)であり、オンブズマンそのままの表記をすべきと意見もある。そのため、英文ではombudsmanの表記について英語ではないことを表す趣旨でイタリック体とすることがある。

各国の公的オンブズマン制度[編集]

スウェーデン[編集]

議会オンブズマンの制度は1809年に成立したが、現在は1975年制定の統治法典に基づき設置されている。議会により任命され、任期は4年間で再任できる。正オンブズマン4人と副オンブズマン2人、他に事務局のスタッフがいる。オンブズマンの監視対象は裁判所及び行政機関と公務員であるが、内閣と大臣は対象となっていない。オンブズマンは勧告に従わなかった行政機関または公務員を起訴する権限を有している。

フィンランド[編集]

1人のオンブズマンと2人の副オンブズマンからなる。議会から任命され任期は4年。オンブズマンとしての権限は同等で、それぞれ単独で職務を遂行できる。監視対象は政府、大臣、裁判所、公務員と広いが、議員、検事総長、弁護士は対象とならない。世界で2番目にオンブズマン制度を導入した国である。[2]

デンマーク[編集]

1953年の憲法改正によって設置。現在の制度は1996年の法律によっている。国会により任命され、任期はなく再任も可能だが、通常は総選挙のある度に総選挙後の国会で任命される。国会オンブズマンは1人であり、不在時には事務局長が代行する。 オンブズマンの監視対象は首相と大臣を含めるが、裁判所は対象となっていない。スウェーデン、フィンランドに次ぎ、世界で3番目にオンブズマン制度を導入した国である。[3]

フランス[編集]

1973年にメディアトゥール(共和国斡旋官)設置法が成立。国会議員の中から閣議決定により大統領から1名が任命される。任期は6年で再任不可。市民からの直接の審査請求はできず、国会議員を仲介とする必要がある。代理人の任命権を持ち、海外領土を含めて配置することができる。代理人の任期は1年で再任可。代理人に対しては市民が直接審査請求ができる。

2008年に権利擁護官(defenseur des droits)の設置が共和国憲法に明記された。大統領が直接任命し、メディアトゥールより強い独立性を持つとされているが、関連法が未整備のため詳細は未定。

EU[編集]

1992年マーストリヒト条約により制度化され、1995年7月に最初の欧州オンブズマンが選任された。欧州議会により任命され、任期は5年で再任もできる。欧州オンブズマンは1名で、その下に事務局が置かれている。欧州オンブズマンの監視対象は欧州議会諸機関で欧州裁判所欧州司法裁判所も対象に含まれるが、司法権に権限は及ばない。

日本[編集]

総務省行政評価局国際オンブズマン協会(I.O.I)の正会員となっており、行政相談委員、行政苦情救済推進会議と総務省が日本におけるオンブズマンの役割を担っているとされる[4]。しかし、行政評価局は行政機関の一部であり、行政相談委員も総務大臣から委嘱される点から独立性・中立性に欠けるとされ、通常はオンブズマンとはみなさない。

一部の地方自治体では、条例等を定め『オンブズマン制度』を設けている事例もある。公的オンブズマンが日本で初めてできたのは1990年7月11日に川崎市市民オンブズマン条例を制定した川崎市である。

その他の公的オンブズマン[編集]

特殊オンブズマン[編集]

特定の行政機関のみを監視対象とする。または、行政機関以外を監視対象とする公的オンブズマンを特殊オンブズマンと呼ぶ。

  • 消費者オンブズマン
企業活動を監視し、国民の権利・利益の侵害に対する調査及び救済の勧告を図る公職。1971年にスウェーデンで設置されたのが最初とされる。
  • 軍事オンブズマン
軍隊内部における人権(軍人の権利)の侵害に対する調査及び救済の勧告を図る公職。1915年にスウェーデンで設置されたのが最初とされる。

私的オンブズマン[編集]

私人、または、私的団体によって設置(設定)をされ、法的な根拠を持たない団体。

民間オンブズマン[編集]

特定業界内部で事業者側からの出資によって設立される紛争処理機関。独立性と中立性を持つ組織としてオンブズマンの名称が用いられるが、行政学上のオンブズマン制度とは見なされない。欧米において、銀行業、保険業といった分野での設置例がある。企業代表と消費者代表が対等な理事会で運営されることが求められる。

組織内オンブズマン[編集]

1970年代の北米地域で生まれた概念で、職場でのいじめ、セクシュアル・ハラスメント、不当行為などの相談を受け付ける窓口。経営者に雇用されるが、守秘義務を持ち、独立性、中立性をもって職務を遂行する。また、非公式性を持ち一方に有利な結論を目指すのではなく、経営者と従業員双方の利益を調整して問題解決を図る。しかし、正式な苦情処理機能を持たないため、必要に応じて正式な調査、裁判などの手段を提示する義務がある。IOA(international ombudsman association)では組織内オンブズマンについて、紛争処理戦略や個人間交渉などの研修を受けることを要求している。

日本では学校法人慶應義塾に導入した例があるが、日本における「オンブズマン」の名称に対する印象が組織内オンブズマンの中立性の概念と反するとして、「慶應義塾ハラスメント防止委員会」の名称を採用した。[5]

権利擁護オンブズマン[編集]

一般的には児童、生徒、患者、障害者など権利の意思表示が困難な者の利益のために活動する組織を指す。オンブズマンではなくアドボケイト、アドボカシー団体(advocate,advocacy)を名乗ることもある。中立性を持たず、特定集団の権利確保を目的とした利益団体[1]

日本の「市民オンブズマン」[編集]

日本では、(公的)オンブズマンに対して、市民団体が「いずれの党派にも加担しないで、市民の立場から行政や企業などを監視しよう」という目的で、自ら市民オンブズマンを名乗る団体などがある。日本で初めて「市民オンブズマン」を名乗ったのは1980年12月14日に大阪で結成された「市民オンブズマン」である。

2008年6月現在、全国市民オンブズマン連絡会議に加盟している市民オンブズマン団体は85団体である。主に情報公開制度と住民監査請求・住民訴訟を用いて自治体等を追及している。1995-1996年に全国市民オンブズマン連絡会議が行った「官官接待・カラ出張」追及では、25都道府県で303億8722万円を返還させた(1998年7月調査)。また、2004年以降に全国市民オンブズマン連絡会議が行った「警察裏金追及」キャンペーンでは、7道県警で1,222,234,259円を返還させた(2007/12/21現在)。2007年以降、地方議会の政務調査費追及キャンペーンでは延べ34議会で7億9057万1423円の返還勧告を出させている(08/7/3現在)。このほか、左派系の影響が強い全国市民オンブズマン連絡会議とは一線を画すオンブズマン団体もある。

市民オンブズマン活動の問題点[編集]

地方の事情により、活動が容認され難い事もある。「(1)地方議会だとオール与党体制もあったり、(2)住民の意識中にある『お上の言うこと(行政の指示)には、従う義務がある』と言う過剰な意識が働く点や、(3)市民オンブズマンの存在に批判的な者達よって『不当、不法な反行政意識のある集団、または、個人(反体制的、過激派の隠れ蓑など)』として誤解、及び排他を受けやすく、市民オンブズマンの活動が正しく認知されない要因に成っている」と、活動者側で主張をしている。

また、オンブズマンを自称した地方議員もいるが、監視されるべき議会と監視するオンブズマンが同居することになり、その議員の行動次第で大きな誤解を生むことになる。特に会派や政党に入り、自らと所属する団体に遠慮するような活動がされた場合には、大きな問題を生む。 一方、オンブズマンを自称する議員は総じて議会の中で、問題点を追及する姿勢を持つことが多く与野党からの反発を受け、反目することも多い。それらが正しい認識の妨げとなる原因になっているとの指摘もある。ただし、問題を追及しないオンブズマンがいればそのこと自体も誤解を招くことになるので、問題点が何であるのかを把握して判断する必要がある。

更に、実際に過激派や左翼系団体関係者が隠れ蓑に使用しているケースや連携しているケース[6]暴力団右翼団体が企業・団体への恐喝を行う際に「市民オンブズマン」を利用するケース[7]、あるいは自ら「オンブズマン」を名乗って恐喝を行ったケース[8]もある。

また、自治体等に対し、情報公開のために一度の請求で数十万枚にものぼる書類を請求し、短期間で回答するよう求めるなど、情報公開制度の権利の乱用ともとられる行為を行う者も少なからず存在する。[9]

1人で「市民オンブズマン」を名乗って活動する「自称オンブズマン」が増えているという現状もある。宅八郎は2007年4月22日投票の渋谷区長選挙に『オンブズマン渋谷行革110番』公認で立候補し、落選したが、各種オンブズマン団体とは無縁である。

脚注など[編集]

  1. ^ a b IOA国際オンブズマン協会(英語サイト)http://www.ombudsassociation.org/
  2. ^ 「スウェーデン及びフィンランドの行政監視機関─法務監察長官と議会オンブズマン」レファレンス730号(国立国会図書館調査及び立法考査局)
  3. ^ 「議会オンブズマンその他の行政に対するチェックの仕組み」に関する基礎的資料(衆議院憲法調査会事務局)
  4. ^ I.O.I国際オンブズマン協会(英語サイト)http://www.theioi.org/
  5. ^ 日本労働研究雑誌2006年1月号(No.546)「組織内オンブズパーソン─健全な問題解決のためのコミュニケーション・ルート」http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/01/pdf/046-056.pdf
  6. ^ 例えば、千葉県市民オンブズマン連絡会議の代表幹事は憲法を活かす会・千葉県協議会の世話人や朝鮮総連千葉県本部の顧問弁護士も務めている人物である。新社会党・憲法を活かす会 : 千風の会代表幹事挨拶  広瀬 理夫 千葉県市民オンブズマン連絡会議
  7. ^ 溝口敦「“市民オンブズマン”ほかNPO法人はヤクザの『シノギ装置』と化した」、『SAPIO』第16巻第9号、小学館2004年5月26日、 p.76。
  8. ^ “NPO偽装、医療器メーカー脅した右翼幹部ら2人逮捕”. 読売新聞. (2004年10月3日) 
  9. ^ http://blogs.yahoo.co.jp/sadao_ybb/54545634.html

関連項目[編集]