十五少年漂流記

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十五少年漂流記
Deux Ans de Vacances
著者 ジュール・ヴェルヌ
発行日 1888年
ジャンル 冒険小説
フランス
言語 フランス語
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十五少年漂流記』(じゅうごしょうねんひょうりゅうき : Deux Ans de Vacances)は、ジュール・ヴェルヌ1888年に発表した少年向けの冒険小説で、無人島に漂流した少年達が力を合わせて生活していく物語を描いている。日本語版題名としては原題の直訳『二年間の休暇』も用いられる。

翻訳

日本では1896年(明治29年)に森田思軒により博文館の雑誌『少年世界』で『冒険奇談 十五少年』(なお「冒険」という言葉はこの翻訳の際に造語された)として英訳本(使用英訳書は不明[1])からの抄訳重訳

是篇このへん佛國ふつこくジュウールスヴェルヌのあらはすところ『二個年間かねんかん學校休暇がくこうきうか』を、英譯えいやくりて、重譯てうやくしたるなり。 — 『十五少年』[2][3]

して連載され、12月に『十五少年』として出版され評判となった。

十五少年漂流記』というタイトルは、森田思軒の娘・下子の夫である白石実三により命名されたという。後に新潮社が子供向けに内容を簡略化した作品を『十五少年漂流記』というタイトルで1951年(昭和26年)に出版し、昭和時代中頃には完全に定着した。後に福音館書店が簡素化しない、原作に沿った内容の翻訳版を1968年(昭和43年)に『二年間の休暇』というタイトルで出しており、重版を重ねるロングセラーになっている。

ストーリー

1860年3月原因不明の事故によって15人の少年を乗せた船『スラウギ号』(出版社によっては『スルギ号[1]』)はニュージーランドから嵐の海に漂流し、見知らぬ土地に流れ着いてしまう。

ここは大陸かもしくは島なのか。主張が対立した少年達は、確認するために海岸から内地へと調査に繰り出す。いくつかの発見の後に、ここが無人島、しかも近くに陸地などがない孤立した島だと認識した。

海風や波にさらされて傷んでいく船から、内地に発見した洞窟に移り住んだ少年達は、島に名前を与え、自分たちの代表として大統領を選出し、15人の植民地として運営していく体制を整えていく。島内で新たに発見する動植物や、工夫を重ねた道具の作成などで島での生活は次第に潤っていくが、フランス人のブリアンとイギリス人のドニファンとの対立を軸にした仲間割れは、15人の結束に少しずつひびを入れていく。さらに弟ジャックの抱えていた秘密が、ブリアンに大きな衝撃を与える。

そして、漂流から2年目を迎えた嵐の夜、島に謎の船が流れ着いたことによって、少年達の生活は激動していく…。

登場人物

以下に漂流した15人の少年と、その飼い犬の紹介を記す。年齢は1860年時。

ブリアン(フランス人、13歳)
土木技師の息子で、ジャックの兄。勉強嫌いなため成績は悪いが頭の回転は速く、下級生を助けるためには上級生との喧嘩もいとわないことからみんなから慕われる。ドニファンには一方的に敵意を持たれていたが、物語の終盤近くで彼の命を助けた事で和解。
ジャック(フランス人、10歳)
ブリアンの弟。歌とスケートが上手い。いたずら好きで明るいが、何故か漂流してからは別人のようになってしまい、ブリアンに心配される。実は彼には誰にも言えない秘密が……。
ゴードン(アメリカ人、14歳)
15人の中では最年長で唯一のアメリカ人で、父も母もなくオークランドに住む親類の家に引き取られている。几帳面でありながら冷静沈着で物事を考えることから皆から尊敬されている。その人柄故に初代大統領に命じられ、ブリアンとドニファンの仲裁も行う。物事をこまめに手帳に書き留めている。猟犬ファンを連れてきている。植物についても造詣が深く、チェアマン島に自生する草木から、有用な種を見つけ出したりしている。
ドニファン(イギリス人、13歳)
とある金持ち地主の息子。15人の中で多数を占めるイギリス人のリーダー的存在。すぐにいばりたがるため「ドニファン卿」とあだ名を付けられている。頭が良く、負けず嫌いなこともあって成績は良い。また射撃の名手で、集団で狩猟する際には隊長を任される。ブリアンの方が人気があるため、彼に突っかかり、張り合っていく。翻訳によっては(特に子供向けの場合)ブリアンの事は口も聞きたくない程嫌っていて、後半の重要なシーンでブリアンに命を助けられて改心する等、完全な敵役(さすがに根っからの悪役にはされない)にされる事がある。だがブリアンとの和解後は、ジャックが自らの過ちを明かした際にまっ先に許したり、ブリアンを守るために身を投げ出したりと、根は優しい。なお、名前は「ドノバン」との翻訳もある。後述のアニメ「瞳の中の少年・・・」では、ブリアンと張り合っているのは同じだが、原作ほど険悪ではなく、ジャックが重要な秘密を真っ先に打ち明けた相手であり、ジャックの罪をあえて自分が被ってやる等当初から「根はいい奴」というアレンジがされている。そのためか、原作のようなブリアンとの和解のシーンはない。
クロッス(イギリス人、13歳)
ドニファンの従兄で、やはり地主の息子。ドニファンの言うことにはいつも賛成し、彼を尊敬している。なお、名前は「クロス」との翻訳もある。
バクスター(イギリス人、13歳)
あまり裕福ではない商人の息子。エバンズも驚くほど大工仕事が上手く、手先の器用な少年で、漂流先でも様々な工夫を凝らして道具などを自作し、みんなの生活を助ける。書記に命じられ、島での日記を付ける。
ウェッブ(イギリス人、13歳)
父親は裁判所に勤めている。なお、名前は「ウェップ」との翻訳もあり、出版社によっては年齢が12歳である事もある。我の強い性格だが、ドニファンのことは尊敬している。
ウィルコックス(イギリス人、13歳)
同じく、父親は裁判所に勤めている。島での獲物を捕らえる手段は銃が主流だったが、ウィルコックスは投げ縄などの罠を考案。弾丸や火薬を消費せずに狩りが出来るとして、大いに重宝された。出版社によっては年齢が12歳とされている事もある。ウェップ同様、ドニファンのことは尊敬している。
ガーネット(イギリス人、12歳)
スラウギ号の所有者で、船長を務める予定だった元商船団長の息子。サービスと仲が良い。アコーデオンが大好きで漂流先にもちゃんと持ってきており、行事の際にもみんなに演奏を披露する。上級生による島での探検に参加したことはない。
サービス(イギリス人、12歳)
一番陽気で、ユーモアがありムードメーカー。愛読書は「ロビンソン・クルーソー」と「スイスのロビンソン」。島での生活では、家畜の飼育や料理を担当するようになる。ロビンソンに憧れて(ロビンソンは島で見つけたオウムを飼い慣らしたというエピソードがある)、島にいたダチョウに似た鳥、レアを飼い慣らそうとするが…。
ジェンキンス(イギリス人、9歳)
ニュージーランド王立科学協会の会長の息子。チェアマン寄宿学校では一番の優等生である。名前は「ジェンキンズ」との翻訳もある。
アイバースン(イギリス人、9歳)
牧師の息子。ジェンキンスと同じく、優等生。名前は「アイバーン」との翻訳もある。
コスター(イギリス人、8歳)
ニュージーランド陸軍将校の息子で登場人物では最年少。食いしん坊。
ドール(イギリス人、8歳)
同じくニュージーランド陸軍将校の息子。コスターよりも6ヶ月年上。甘い物が好き。
モーコー(黒人、12歳)
見習い水夫として船に乗り込んでいて、漂流に巻き込まれた唯一のスラウギ号乗組員。黒人であるため、島での大統領選挙における投票権はないが、非常に器用で料理やボートの操縦など様々なことをこなす。島での生活を通して、ブリアンを慕うようになる。なお、名前は「モコ」との翻訳もある。
ファン(犬)
ゴードンの連れてきた猟犬。狩りで活躍するが、他にも節々で重要な役割を果たす。なお、名前は「フヮン」との翻訳もある。

以下は終盤近くに登場する、セバーン号関連の登場人物。彼らが火災の際に脱出に使ったランチが、15少年らの帰還にも使われた。

エバンズ
元セバーン号の操舵手。悪徳水夫に監禁されていたが逃げ出てフレンチ・デンに辿りつき、15少年の上級生たちを率いて悪党退治に立ち上がる。
ケイト
ニューヨーク近郊に居を構えるペンフィールド家の家政婦。セバーン号の乗客のうち、悪徳水夫に殺されなかった唯一の人物。
ウォルストン
元セバーン号の水夫。悪党達のリーダー的存在。名前は「ワルストン」との翻訳もある。
ブック
ウォルストンの仲間の一人。名前は「ブルック」との翻訳もある。
ブラント
ウォルストンの仲間の一人。以上の3人は悪党達の中でも特に質が悪い。
ロック
ウォルストンの仲間の一人。
コープ
ウォルストンの仲間の一人。
パイク
ウォルストンの仲間の一人。
フォーブス
ウォルストンの仲間の一人。家政婦のケイトを殺さずに生かしておくなど、気の良い一面を持つ。計略のためフレンチ・デンに近づいた際に囚われるがそのなかで改心し、ジャックを救おうとウォルストンに立ち向かうも倒された。最後はエバンズやケイト、ゴードン、ブリアンらに看取られつつ死去。フランソワ・ボードアンの墓の傍らに葬られる。
ヘンリー
ウォルストンの仲間の一人。セバーン号の原因不明による火災の際に海に飛び込んで自害した。名前は「ヘンフリー」との翻訳もある。

用語

以下に本作品の主な用語を記す。

チェアマン寄宿学校
少年達が通う寄宿学校。ニュージーランドにあり、地元の上流家庭の子供が通っている。
スラウギ号
少年達が乗っていた船で、100トンほどの大きさのスクーナー。漂着後は島の生活を支える資材として解体される。
なお、名前は「スルギ号」との翻訳もある[1]
チェアマン島
少年達が漂着した無人島。50年前、フランス人の高級船員、フランソワ・ボードアンが遭難している(そのため、後に自分たちが住む洞窟にフレンチ・デン(フランス人の洞窟)という名前を付けている)。自分たちの寄宿学校の名称にちなみ、チェアマン島と名付けた。また島内の地勢にも、望郷の念にちなんだ命名が多用されている。大陸からも離れた孤島と認識されていたが、エバンズ漂着後、彼によって南米大陸に沿った群島の一部であることが証明された。
なお、チェアマン島のモデルは、作中ではマゼラン海峡にあるハノーバー島とされているが、まったく別の島ではないかという説(園田学園女子大学名誉教授の田辺眞人の提唱)もあり、その説を元に「椎名誠の感動2万マイル!「十五少年漂流記」の謎の島を行く」(TBS 2005年(平成17年)7月18日放送)という番組が作成された。
この説によれば、小説の記述と細かいところまでぴったりと一致することなどから南太平洋のチャタム島がモデルとされる。上記の番組では、現在も保管されている十五少年漂流記の草稿には「チャタム島」という記述が3回出てくる(これは刊行ヴァージョンも同じ)ことも根拠とされたが、これはハノーバー島のすぐ近くに実在する同名の別の島のことであり、南太平洋のチャタム島のことではなく、完全なミスリードである。
田辺眞人によれば、当時、チャタム島は航路からはずれていたため船が通ることは無く、少年たちが救出される可能性が低いためハノーバー島にされたと推測される(パナマ運河が無かった時代、同島があるマゼラン海峡は主要航路で船の往来が盛んだった)。
田辺説のもっとも強力な根拠は、日付変更線を定めたことからチャタム島に注目が集まった1885年のワシントン国際子午線会議でイギリスとフランスが対立し、アメリカが仲介に入ったという構図が『十五少年漂流記』の人間関係を想起させるというもの。しかし、ヴェルヌはすでに1886年に発表した『征服者ロビュール』[4]15章-17章で チャタム島(Chatam) を登場させていることをこの議論は無視している。
この小説の最新の訳者である私市保彦も、実証的見地および作品構成の両面から、訳者解説においてチェアマン島=チャタム島説に否定的な見解を示している(岩波少年文庫)。

人種差別性との関連

本作品では黒人に選挙権がないことを当然視していることをもって、人種差別だと指摘されることがある。 ただし、黒人であるモーコー自体は有能な人間として描写されており、その他の面で白人の子供達から差別的態度を取られていたわけでもない。選挙権を与えなかったのは当時の大人の社会を真似しただけであり、少年たちに悪意があったわけではない(なお、ドニファンが「モーコーは自分より先に大統領になるだろう」と言っていることから被選挙権は与えられていたと推測される)。

映像化作品

1960年頃NHKで実写版が作られた。

1982年(昭和57年)と1987年(昭和62年)にフジテレビ系でアニメ化。また、1986年(昭和61年)にはTBSでドラマ化された。

アニメ

1982年版

1982年(昭和57年)8月22日に放送。東映動画、フジテレビ製作。『日生ファミリースペシャル』として放送。

スタッフ
キャスト
主題歌
フジテレビ 日生ファミリースペシャル
前番組 番組名 次番組
十五少年漂流記
(1982年版)

1987年版

1987年(昭和62年)10月19日に放送。日本アニメーション製作。正確なタイトルは「瞳のなかの少年 十五少年漂流記」。なお、2002年(平成14年)には「アニメ英会話 十五少年漂流記~瞳のなかの少年~」としてプレイステーション2でゲーム化された。

スタッフ
キャスト
主題歌
  • 「瞳のなかの少年」(作詞・作曲・歌:種ともこ

ドラマ

1986年(昭和61年)8月31日に放送。正確なタイトルは「十五少年漂流記 忘れられない夏休み」。なお、舞台は日本に変えられ、漂流する子供も進学塾の子供となっている。

キャスト

スタッフ

関連作品

モチーフとして作られた作品には以下のものが挙げられる。

小説

映画

アニメ

日本語訳

ほか多数。

  1. ^ a b c 波多野完治『十五少年漂流記』 新潮社文庫
  2. ^ 十五少年』 - 国立国会図書館5ページNDLJP:1168345/5 思軒居士 例言
  3. ^ 十五少年
  4. ^ ウィキソース出典  (英語) Robur le conquérant, ウィキソースより閲覧。 

外部リンク