マッカーシズム
マッカーシズム、マッカーシー主義(英: McCarthyism)とは、1950年2月にアメリカ合衆国上院で、共和党議員のジョセフ・レイモンド・マッカーシーが、現在では「205人の共産主義者が国務省職員として勤務している」と告発したと伝えられる演説を契機に、ハリウッド映画界などをも巻き込んで大規模な「赤狩り」に発展した事件。後にはニューディーラーまで対象となった。演説の正確な記録は無く、諸説ある。
概要
この様な事態に陥った基盤としては、アメリカ政府内の共産主義シンパをはじめとする左派が、中国国民党に対する支援を削減した結果、1949年に中国共産党が国共内戦に勝利し中華人民共和国を成立させたことや、ソビエト連邦が原爆実験に成功し、アメリカの核独占が破れたことから、反共主義者の「共産主義」への脅威感が拡大されたことにあったと言われる。
勢いをつけたマッカーシーはその告発対象をアメリカ陸軍やマスコミ関係者、映画関係者や学者にまで広げるなど、マッカーシズムは1950年代初頭のアメリカを恐怖に包み込んだが、マッカーシーやその右腕となった若手弁護士のロイ・コーンなどによる、偽の「共産主義者リスト」の提出に代表される様な様々な偽証や事実の歪曲や、自白や協力者の告発、密告の強要までを取り入れた強引な手法が次第に大きな反感を買うことになる。
なお、共和党選出の連邦議員や共和党員だけではなく、後にアメリカ大統領となる民主党選出の上院議員であるジョン・F・ケネディもマッカーシーを支持し、後にマッカーシーに対する問責決議案が提出された際には、これに抗議し投票を棄権している。
その後、政界や軍内のみならず、マスコミからもマッカーシーに対する批判が広がった上に、1954年3月9日には、ジャーナリストのエドワード・R・マローが、自身がホストを務めるドキュメンタリー番組『See It Now』の特別番組内でマッカーシー批判を行い、多くの視聴者から支持を得たことを皮切りに、反マッカーシズムの風潮が主流を占めるようになる。
その後、同年12月2日には、上院は67対22でマッカーシーに対して「上院に不名誉と不評判をもたらすよう行動した」として事実上の不信任を突きつけ、ここに「マッカーシズム=アメリカにおける赤狩り」は終焉を迎えることになる。しかし、事件が収まった後も冷戦は継続し、「赤」への不信感はアメリカ社会の底辺に根強く残され、保守意識の基盤を形成した。
映画界への影響
「ハリウッド・ブラックリスト」と呼ばれる、過去に共産主義思想を持っていた、もしくは共産主義者と関係があったとされる者のリストなどにより告発された映画関係者は、チャーリー・チャップリン、ジョン・ヒューストン、ウィリアム・ワイラーなどアメリカ人や外国人の関係者を含めた数百人に上る。
これに対して、パージを推進した非米活動委員会は憲法と権利章典に違反するとして、ダニー・ケイ、ジュディ・ガーランド、ヘンリー・フォンダ、ハンフリー・ボガート、グレゴリー・ペック、カーク・ダグラス、バート・ランカスター、フランク・シナトラ、キャサリン・ヘプバーン、ベニー・グッドマン(順不同、一部)など映画人・公務員の多数が反対運動を起こした。
なお、エリア・カザンや、保守的思想で知られたウォルト・ディズニー、ゲーリー・クーパー、ロバート・テイラー、そして後のアメリカ大統領のロナルド・レーガンなどは、告発者として協力したことで知られる。
このマッカーシズム以降、ハリウッドには根強い保守・共和党への不信感が生まれ、現在も民主党支持者が多くを占める要因になったと言われている。
映画化
映画人・俳優達への告発騒ぎはのちに映画化された。
- 『真実の瞬間』(1991年)
- 『グッドナイト&グッドラック』(2005年に):ジョージ・クルーニーが、マッカーシーに抵抗したニュースキャスター、エドワード・R・マローを主人公にを製作した。
参考文献
関連項目
- ジョセフ・マッカーシー
- 赤狩り
- プロパガンダ
- パーマー狩り
- ハリウッド・テン
- ローゼンバーグ事件
- アイアン・ジャイアント、影なき狙撃者、マチネー 土曜の午後はキッスで始まる
- るつぼ アーサー・ミラー作のセイレム魔女裁判に取材し、マッカーシズムを批判した戯曲