はやぶさ2

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小惑星探査機「はやぶさ2」
所属 JAXA
主製造業者 NEC
公式ページ 小惑星探査機「はやぶさ2」
国際標識番号 2014-076A
カタログ番号 40319
状態 開発中
目的 C型小惑星からのサンプルリターン
観測対象 (162173) 1999 JU3
設計寿命 7年
打上げ機 H-IIAロケット(予定)
打上げ日時 2014年(予定)
ランデブー日 2018年(予定)
物理的特長
本体寸法 1.0m × 1.6m × 1.4m
質量 600kg
主な推進器 μ10
姿勢制御方式 三軸制御方式
引用資料[1]
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はやぶさ2は、小惑星探査機はやぶさ」(第20号科学衛星MUSES-C)の後継機として宇宙航空研究開発機構 (JAXA) で開発が進められている小惑星探査機と小惑星探査プロジェクト名。地球近傍小惑星 (162173) 1999 JU3への着陸およびサンプルリターンが計画されている。

今後順調に開発が進めば、2014年H-IIAロケットで打ち上げられることになる[2]

特徴

基本設計は初代「はやぶさ」と同一だが、「はやぶさ」の運用を通じて明らかになった問題点を改良した準同型機となる予定である。サンプル採取方式は「はやぶさ」と同じく「タッチ・アンド・ゴー」方式であるが、事前に爆発によって衝突体を突入させて直径数メートルのクレーターを作ることによって深部の試料を採取できるようにする。採取した物質は耐熱カプセルに収納されて地球に回収される。着陸機の「ミネルヴァ2」も搭載される。

はやぶさからの変更点

先代が航行途中にトラブルに見舞われたため、安定航行を目的としてさまざまな変更がおこなわれる。「はやぶさ」のようなパラボラアンテナに代わり、「あかつき」と同様のアレイアンテナを使用し、破損があった化学燃料スラスタ配管の再検討や制御装置であるリアクションホイールの信頼性向上などの改良が行われる。イオンエンジンμ10の推力を10mNへと向上した改良型を使用する。

また、試料を取るための方法も大幅に改良される。まず新機能として、直径約20cm、重さ約10kgの円筒形の衝突体を利用する。衝突体は爆薬を内蔵しており、探査機本体から切り離され、本体が小惑星の陰に隠れた後に起爆、爆圧によって変形した金属塊を目標天体に突入させ、クレーターを作る。これによって小惑星表面だけでなく、小惑星内部の砂礫の採取が可能になる。このクレーターで試料を採取する予定[3]。JAXAとしてこのような構造を持つ探査機は始めて。

以前のように試料採取用の筒を小惑星に当て、内部でプロジェクタイルと呼ばれる弾丸を打ち出し、それを小惑星表面に当てることで舞い上がった砂礫を採取する。プロジェクタイルの形状は「はやぶさ」の弾丸型から円錐型へと変更される。頂点の角度は90度に設定されており、プロジェクタイルが3g以上の質量をもつ場合には弾丸型よりも効率的な試料採取が可能となる。次回は複数分用意する予定。

また、粘りのあるシリコンで砂を採取する方法も考えられており、はやぶさのプロジェクトリーダーであった吉川真はこれら二つの方法を用意することでより確実に試料を取ることができるとしている[3]

魚眼レンズを装備したカメラが搭載され、サンプリングの様子を撮影する他、巻き上げられた粒子の光学観測も行われる。

探査計画

「はやぶさ」がS型小惑星である (25143) イトカワを探査したのに続いて「はやぶさ2」ではC型小惑星を探査対象とする構想であり、現時点ではアポロ群(162173) 1999 JU3が想定されている。

はやぶさ2計画は新たな生命の起源の論説をもたらす可能性がある[3]。アミノ酸は探査機スターダストで以前にも彗星の尾から採取されているが、はやぶさは地球近傍小惑星である(162173) 1999 JU3を目指している。この小惑星はC型小惑星と呼ばれる炭素でできた小惑星で、有機物が存在する可能性がある[4]。地球の近くに存在する有機物を含む隕石が地球に落ちたとすればそれが生命の起源との関連が考えられる。

2014年に打ち上げられた場合、2018年に 1999 JU3に到着、2020年に地球へ帰還する予定。

経緯

MUSES-C(初代「はやぶさ」)の打ち上げ以前から小天体探査フォーラムなどで後継ミッションについて非公式に検討が続けられており、「はやぶさ」打ち上げ翌年の2004年には小天体探査ワーキンググループが発足して、より詳細な検討が行われた。この当時は1機または2機の探査機をスペクトル既知の複数の小惑星に送り込む「マルチランデブー&サンプルリターン」や「ファミリーミッション」と呼ばれる大掛かりな案もあった[5]。そして、「はやぶさ」が地球近傍小惑星イトカワの精密な科学観測を行い目覚しい成果を上げたことを受けて、JAXA宇宙科学研究本部(ISAS:現・宇宙科学研究所)内で本格的に次期小惑星探査計画が持ち上がった。

はやぶさは当時、様々な故障を抱えていて地球へ帰還できる可能性は決して高くない状態にあり、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が検討を開始したOSIRISミッションなど他国の追い上げも厳しい中、小惑星探査の分野での世界トップを維持できなくなるという危機感から、はやぶさ関係者からは後継機の早期の打ち上げが切望されていた[6]

2007年に計画は月・惑星探査推進グループ (JSPEC) に引き継がれ、2010年から2012年の打ち上げを目標に検討が進められたが、JAXA全体でプロジェクトを積極的に推進するとの意思統一はなされず、計画は遅々として進まなかった。2007年度の予算折衝では、「はやぶさ2」計画側は5億円を要求し、財務省や文科省も数億円程度の予算をつけることを提案したが、JAXAはこれを退け予算は5000万円に留まった[7]。これは情報収集衛星計画やISSきぼうの打ち上げ、運用、物資補給などの負担も従来の予算内で行っており、予算の都合から太陽系探査は後回しにされている現状を示している[7]

はやぶさ2に関する開発費は国民世論の大きな盛り上がりもあり、WGを作って数年かけて提案していくという通常の手順とは異なる方法で提案をしていくこととなった。その後、宇宙開発委員会による一連の審査により「JAXAが早急に行うべきミッション」との判定を得て、2007年6月にはプリプロジェクト(「研究」フェーズ[注釈 1] )となった。 しかし、既存の計画の間に後から入ることとなったため予算上の制約は大きく、その後の進捗は思うようには進まなかった[11]

JAXAは2007年10月の理事長記者会見で、予算不足のため国産ロケットでの打ち上げは断念し、探査機のみを日本で製作し、打ち上げは他国の協力を仰いで海外で行うという考えを示した。しかし、無償でロケットを提供してくれる協力相手を見つけるのは簡単なことではなく、プロジェクトの存続は困難であると見られていた。

この頃から、一般のファンから関連機関に対してはやぶさ後継機の実現を希望する投書が多数寄せられるようになった。JAXAには約80通、文部科学省宇宙開発委員会には約30通のメールが届いた[12]。この数は、宇宙開発関連の投書としては異例の多さだったという。

2008年1月、イタリア宇宙機関 (ASI) 長官からJAXA理事長宛に共同で計画を進めたいという旨の書簡が届いたことが明らかになった[13]。探査機を日本が、打ち上げ用のロケットをイタリアが提供する形での協議を考えていたという。イタリアとの共同計画では、イタリア側がロケットを無償で提供する代わりに、イタリア側の計測機器が日本の用意する探査機に搭載される。打ち上げ用のロケットは、イタリアが中心となって開発中のヴェガロケットが使用される予定だった。もともと欧州とは「はやぶさマーク2」(欧州名「マルコ・ポーロ」)で共同探査が検討されていたことから、最悪の場合、これと計画が統合されてはやぶさ2自体がマルコ・ポーロとなる可能性もあった。

これとは別に、アメリカのNASAとの協力も検討されていた。なお、OSIRISは2007年末に決定されたディスカバリー計画の次期ミッションからは外されたが(採用されていれば、2011年の打ち上げが予定されていた)[14]、計画名をオシリス・レックスとして2016年に打ち上げることになった。

その後ヴェガロケットの調達が困難となり、打ち上げ時期も2014年以降にずれ込む見通しとなった。このため予算を次の5か年計画から捻出せねばならなくなり、ロケットの予算を他国に頼るという方向性も再検討されることになった[15]。ただし惑星探査の予算が圧迫されている状況に変わりはなかった。2009年7月のJAXA相模原の一般公開においては、500kgクラスのはやぶさ2に加え、300kgクラスの衝突機を同時に打ち上げる2機構成案が示された。この案ではPLANET-C (500kg) + IKAROS (300kg) と同様のH-IIAの打ち上げ能力が想定されている。その後、2010年になると上記のように衝突体を小型化した新しい計画が示された。

2010年度においては、自民党政権下の概算要求で「月面着陸・探査に向けた研究等」として15億が要求されたが[16]民主党への政権交代後、再度概算要求の出し直しを求められ、5000万に減額されている[17]。尚、小惑星探査はJSPECに移管しているため、文部科学省の概算要求では月探査の項目に含まれる。さらに事業仕分け第1弾で衛星関連事業の1割縮減を受け、3,000万円となる等[18][19][20][21]、非常に苦しいものとなった。

しかし、2010年6月13日はやぶさが帰還し、翌14日にはカプセル回収にも成功すると、菅内閣の閣僚からは偉業として絶賛する発言が相次ぎ、2011年度の予算では増額を検討する意向も示された[22][23][24][25]これらの発言に対し、読売新聞は「現金すぎ」と民主党政権を批判的に報じた[21]。一方、科学ジャーナリストの松浦晋也は、はやぶさ後継機に予算が付かないのは政権の問題ではなく、JAXAの組織内部の問題のため開発が順調に進んでいないことが原因と思われる、と指摘している[26]。また、宇宙開発の有識者会議でも「(はやぶさの)人気で計画を決めるのはおかしい」とする指摘が出ている[27]。「はやぶさ」が地球に帰還した翌日には、オンライン署名サイト『署名.TV』にて、はやぶさ2の予算増額を求める嘆願署名が開始され、最初の1週間の時点で1万5千通を超える署名が集まった[28]

8月に開催された宇宙開発委員会において、「開発研究」フェーズへの移行が承認され予備設計が始まった[29]8月26日、文部科学省は総事業費140億円のうち、2011年度の予算概算要求に30億円の開発費を盛込む意向を示した[30]

また、イタリアとの共同での計画は延期になったが、現在も欧州と共同で探査を行うはやぶさMk2/マルコ・ポーロを検討している。これははやぶさ2とは違い、衛星の基本設計から見直す予定である[31]

2011年5月、JAXAは正式に2014年の打ち上げに向けたプロジェクト化を発表した[32]

2012年1月25日、宇宙開発委員会において「はやぶさ2」の開発段階への移行が承認され、正式に「はやぶさ2」の開発がスタートした[33]

脚注

注釈

  1. ^ 宇宙開発における計画管理は進捗によって「研究(研究→概念設計)」→「開発研究(予備設計)」→「開発(基本設計→詳細設計→維持設計)」→「運用」の4つの段階(フェーズ)に分かれている。要求に基づき仕様や計画を決めるのが「研究」、使用や計画を詳細に文書化し、新技術の試作をし実現性の目処を付け、開発体制を構築するのが「開発研究」、設計についての各種解析をし、全体の試作品から実機を作り、各種試験を行うまでが「開発」である。「開発研究」までが企画立案フェーズ、「開発」以降が実施フェーズである。宇宙開発委員会は各フェーズアップに対する審査を行う。この一連の開発手法をNASAではPPP(Phased Project Planning)と呼び、NASDAが取り入れたものである。[8][9][10]

参照

  1. ^ 吉川真 (2011年5月25日). “はやぶさ2の状況について” (PDF). JAXA. 2011年5月25日閲覧。
  2. ^ はやぶさ2の状況について - JAXA 2011年5月25日 プレスリリース
  3. ^ a b c Hayabusa 2 will seek the origins of life in space”. New Scientist (2010年8月18日). 2011年2月2日閲覧。
  4. ^ 小惑星探査機はやぶさ2”. 宇宙航空研究開発機構. 2011年2月2日閲覧。
  5. ^ 宇宙科学ビジョンにおける太陽系探査の役割~次期小天体探査への挑戦~”. ISASニュース. ISAS. 2011年1月29日閲覧。
  6. ^ JAXA/ISAS はやぶさプロジェクトサイト トップ”. ISAS. 2011年1月29日閲覧。
  7. ^ a b 実現の瀬戸際に立つ「はやぶさ2」”. 日経BPネット (2007年9月25日). 2010年7月7日閲覧。
  8. ^ 5.評価実施のための原則(文部科学省公式サイト)
  9. ^ 設計品質確保の思想 航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」(Tech Village 2006年3月28日)
  10. ^ 図1 宇宙開発委員会における宇宙開発プロジェクトの評価システム(宇宙開発委員会公式サイト)
  11. ^ はやぶさ2プリプロジェクトチーム (2007年9月25日). “はやぶさ2 : 経緯と計画概要”. 日本惑星科学会誌 Vol.19. 2011年1月29日閲覧。
  12. ^ 2007年11月12日の読売新聞夕刊の記事より
  13. ^ はやぶさ2計画は生きている(松浦晋也のL/D - 2008年1月8日の記事)
  14. ^ NASA turns down UA asteroid plan (Tucson Region)
  15. ^ はやぶさ2の現状(松浦晋也のL/D - 2009年4月10日の記事)
  16. ^ 宇宙開発利用分野の平成22年度概算要求の主要事項
  17. ^ 平成22年度予算案の概要
  18. ^ (独)宇宙航空研究開発機構②、(宇宙ステーション補給機(HTV)、予算要求の縮減(1割)2/3ページ” (PDF). 内閣府行政刷新会議 (2009年11月17日). 2010年6月16日閲覧。
  19. ^ “ちば経済:「はやぶさ」7年の旅に感動 千葉市科学館、帰還成功で連日盛況 /千葉”. 毎日新聞. (2010年6月17日). オリジナルの2010年6月17日時点におけるアーカイブ。. http://megalodon.jp/2010-0617-1951-14/mainichi.jp/area/chiba/news/20100617ddlk12020161000c.html 2010年7月3日閲覧。 
  20. ^ 「はやぶさ」人気で宇宙予算再検討 仕分け軌道修正”. 産経新聞 (2010年6月15日). 2010年7月3日閲覧。
  21. ^ a b “科学予算削減の民主、はやぶさ絶賛は「現金過ぎ」”. 読売新聞13S版: p. 2面. (2010年6月16日). http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100614-OYT1T00947.htm 2010年6月15日閲覧。 [リンク切れ]
  22. ^ 「はやぶさ」人気で宇宙予算再検討 仕分け軌道修正”. 産経新聞. 2010年6月28日閲覧。
  23. ^ 蓮舫行刷相 はやぶさ帰還を絶賛 「仕分け結果、何が何でもではない」”. 産経新聞. 2010年6月28日閲覧。
  24. ^ 読売新聞2010年6月15日13版4面、16日13S版2面
  25. ^ 参議院本会議、国務大臣の演説に関する件”. 参議院 (2010年6月15日). 2010年6月28日閲覧。
  26. ^ 松浦晋也. “はやぶさ2にむけて:最後の障壁は身内にあり…か”. 2010年6月28日閲覧。
  27. ^ 「読売新聞」2011年7月9日「編集委員が迫る 宇宙開発司令塔強化から」知野恵子
  28. ^ 宣言:タイムリミットの8/31まで毎日書きます:松浦晋也のL/D” (2010年6月21日). 2010年6月21日閲覧。
  29. ^ 委29-1-2 宇宙開発に関する重要な研究開発の評価について はやぶさ2プロジェクトの事前評価結果(1)p4~p9(宇宙開発委員会 第29回 本委員会 2010年8月11日)
  30. ^ 「はやぶさ2」開発費30億円要求へ…文科省及び読売新聞2010年8月27日13S版2面
  31. ^ マルコ・ポーロ”. JAXA太陽系小天体探査プロジェクト. 2011年1月29日閲覧。
  32. ^ はやぶさ、次は安心の旅に 14年に後継機打ち上げ”. asahi.com. 2011年5月12日閲覧。
  33. ^ “NEC、2014年度の打ち上げを目指し「はやぶさ」後継機の設計に着手”. NECプレスリリース. http://www.nec.co.jp/press/ja/1201/2503.html 2012年1月26日閲覧。 

関連項目

外部リンク