M10ブッカー戦闘車

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M10 ブッカー戦闘車
2023年6月に公開されたM10ブッカー
種類 装軌式装甲戦闘車両(火力支援車両)
原開発国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
開発史
開発者 ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ
諸元
重量 約38[1]~42トン[2]

主兵装 M35 105mm戦車砲英語版×1
エンジン ディーゼル
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M10 ブッカー戦闘車(M10 ブッカーせんとうしゃ、英語: M10 Booker Combat Vehicle[3])は、ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)によってアメリカ陸軍向けに開発が進められている装軌式装甲戦闘車両である。

アメリカ陸軍が進めていたMobile Protected Firepower(MPF, 機動防護火力の意)英語版開発プログラムによって、ASCOD歩兵戦闘車をベースにGDLSが開発したグリフィンII英語版の採用が2022年6月に決定し、2023年6月にアメリカ陸軍によってM10 ブッカーの公称が与えられた。

ブッカーの名は過去に戦死したアメリカ陸軍兵士、スティーボン・A・ブッカー軍曹およびロバート・D・ブッカー軍曹にちなんで付けられたものである[4]

概要[編集]

MPFの元となった軽量の火力支援車両開発プログラムは過去に何度か頓挫し、再出発を繰り返してきた。出発点としては、ベトナム戦争時にM551シェリダンの性能に限界を感じたアメリカ軍が、後継車種として1992年にM8 AGSを採用したが予算削減の影響で1996年に量産が撤回され、2000代には装輪式M1128 ストライカーMGSがこの種の火力支援車両の後継として採用された。M1128はイラクアフガニスタンに派遣され一定の成功を収めたが、装輪式であるために装甲強化による重量増加に限界があり防御力が不十分な事や、自動装填装置が高価なことなどを理由に、後続するMPF開発プログラムでは装軌式の軽戦車タイプの車両に、低反動化された105mm主砲を搭載する事が決定された。

M10ブッカーは、MPFの要求仕様に基づきM35 105mm戦車砲英語版を搭載している[5][6][7]。これは、1980年代に開発されてM8 AGSの主砲に採用された低反動タイプの砲の改良型で[8][9]M60A1パットンM1エイブラムスの初期モデルに装備されていたM68 105mm戦車砲と比較して約800kgほど軽量である[10]。また、MPF開発の要求仕様では、空挺輸送可能である事は必須項目ではなかった[11]

MPF開発プログラムでは、2018年時点でBAEシステムズの提案するM8 AGSの改良型と、GDLSの提案するグリフィンIIに車種が絞られていた[12]。両者の試作車両による評価試験は2021年初頭に始まり、2022年3月にBAEシステムズの提案がコンプライアンス上の問題により失格となった事が報じられ[13]、2022年6月にGDLS グリフィンIIがMPFプログラムの採用車種となり[14][15]、2023年6月に"M10 ブッカー"の形式名および公称が与えられたと発表された。最初の契約では96両の低率初期生産を行い、2023年末までに納品が開始される予定である[15]

M10ブッカーについては、一部のメディア等で「軽戦車」と表現されることがあるが[16][17]、アメリカ陸軍の関係者はこれを明確に否定している[16][18][19]。説明によれば、M10ブッカーの目的はICBT(歩兵旅団戦闘団)の火力支援および敵火力からの防護であり、戦車というよりは突撃砲(Assault Gun)に近い概念のものであるという[18]

脚注[編集]

  1. ^ Army to Buy 500 New "Light Tank" Mobile Protected FirePower Vehicles”. 2023年7月7日閲覧。
  2. ^ Army unveils the M10 Booker, its first new combat vehicle in two decades”. stripes.com. 2023年6月13日閲覧。
  3. ^ https://www.gdls.com/m10-booker-combat-vehicle/
  4. ^ https://www.stripes.com/branches/army/2023-06-10/army-combat-vehicle-m10-booker-10387122.html
  5. ^ Two Light Tank Prototypes Battle for the Future of Army Firepower”. 2021年3月7日閲覧。
  6. ^ Tomorrow Talk”. 2023年7月7日閲覧。
  7. ^ AUSA 2018: General Dynamics swoops in with 50mm-equipped Griffin - Shephard Media”. 2023年7月7日閲覧。
  8. ^ Foss, Christopher F., ed (1997). “Light Tanks”. Jane's Armour and Artillery (18th ed.). London: Jane's Publishing Group. pp. 171–173. ISBN 978-0710615428 
  9. ^ Freeman, Major Marshall A. (5 April 1991). The Army Needs a Strategic Armored Gun System—Now! (PDF) (War College Individual Study Project). U.S. Army War College, Carlisle Barracks. pp. 23–24. 2022年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ (PDF)。2022年3月10日閲覧 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
  10. ^ “Armored Gun System Loses Weight to Be Deployed by C-130”. Inside the Pentagon (Inside Washington Publishers) 9 (31) 
  11. ^ Sterenfeld, Ethan (2021年6月21日). “Murray: One MPF prototype potentially airdrop-capable”. Inside Defense (Inside Washington Publishers). オリジナルの2022年2月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220226083740/https://insidedefense.com/insider/murray-one-mpf-prototype-potentially-airdrop-capable 2022年2月26日閲覧。 
  12. ^ U.S. Army awards General Dynamics contract for Mobile Protected Firepower”. 2023年7月7日閲覧。
  13. ^ US Army eliminates BAE Systems from 'light tank' competition”. 2023年7月7日閲覧。
  14. ^ The Army Just Selected Its First Light Tank in Decades”. 2022年6月28日閲覧。
  15. ^ a b General Dynamics wins $1.14 billion Mobile Protected Firepower contract”. Breaking Defense (2022年6月28日). 2022年6月28日閲覧。
  16. ^ a b Winkle, Davis. “The Army’s M10 Booker is a tank. Prove us wrong.”. Military Times. 2023年6月22日閲覧。
  17. ^ Everything to know about the Army's new 38-ton light tank” (2022年9月9日). 2023年3月6日閲覧。
  18. ^ a b It's Not a Light Tank: Army Unveils New Armored Combat Vehicle”. military.com. 2023年6月13日閲覧。
  19. ^ Osborn, Kris (2022年7月16日). “Army Says New Mobile Protected Firepower Vehicle is NOT a "Light Tank"”. Warior Waven. https://warriormaven.com/land/army-mobile-protected-firepower-vehicle-abrams 2023年3月6日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]