H10N8亜型

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H10N8亜型
分類
: 第5群(1本鎖RNA -鎖)
: Incertae sedis
: オルトミクソウイルス科
Orthomyxoviridae
: A型インフルエンザ属
Influenzavirus A
: A型インフルエンザウイルス
Influenza A virus
亜型 : H10N8亜型
subtype H10N8[1]
学名
Influenza A virus subtype H10N8[1]

H10N8亜型(えいちじゅうえぬはちあがた、Influenza A virus subtype H10N8)とは、A型インフルエンザウイルスの1亜型[1]

概要[編集]

H10N8亜型は、1965年イタリアウズラ類から発見された。この株は現在 A/quail/Italy/1117/1965 (H10N8) 株と呼ばれている[2][3]

2012年には、1月に中華人民共和国広東省の鳥市場にいたアヒルから採集された A/Duck/Guangdong/E1/2012 (H10N8) 株から全ゲノム配列が解読され、6月に論文とゲノム配列が公開されている[4]。解読の結果、HAセグメントのアミノ酸配列は弱毒性である事を示していた。またHAタンパク質は、株が鳥由来のインフルエンザウイルスであることを示していた。またNA遺伝子は北米系統、HA遺伝位はユーラシア系統である事が分かった[1]

その他、H10N8亜型の株は以下の報告例がある。主にカモ科の生物から発見されており、生息地も幅広い[5]

発見された株[5]
分離番号 発見生物 場所 報告年 備考
1117 ウズラ類 イタリアの旗 イタリア 1965年 初めて発見された株。
39403 ウズラ類 イタリアの旗 イタリア 1965年
544 ウズラ類 イタリアの旗 イタリア 1966年
2 ミズナギドリ類 オーストラリアの旗 オーストラリア 1972年
5 シチメンチョウ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ミネソタ州 1979年
223 マガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 アルバータ州 1998年
ES1-9 (野鳥の糞) 大韓民国の旗 大韓民国 2003年
ES1-17 (野鳥の糞) 大韓民国の旗 大韓民国 2003年
7 マガモ  スウェーデン 2003年
1148668 キョウジョシギ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニュージャージー州 2004年
297 クロガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 メリーランド州 2005年
295 コオリガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 メリーランド州 2005年
W95 アヒル 日本の旗 日本 北海道 2006年
44221-656 オナガガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 2006年
5MP0758 マガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 アラスカ州内陸部 2006年
3-9 (環境) 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 湖南省 洞庭湖 2007年
9235 ハシビロガモ アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 2008年
379 渉禽類 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 デラウェア湾 2008年
878V アラナミキンクロ モンゴルの旗 モンゴル 2009年
879V ビロードキンクロ モンゴルの旗 モンゴル 2009年
907V ハシビロガモ モンゴルの旗 モンゴル 2009年
1602 アカツクシガモ モンゴルの旗 モンゴル 2010年
1041 マガモ 大韓民国の旗 大韓民国 2010年
1203 マガモ 大韓民国の旗 大韓民国 2010年
E1 アヒル 中華人民共和国の旗 中華人民共和国 広東省 2012年 全ゲノム配列が解読された株。

ヒトへの感染[編集]

2013年12月18日に、初のH10N8亜型によるヒトへの感染・死亡事例が報告された。中華人民共和国江西省南昌市11月30日、73歳の女性が重度の肺炎と筋力低下で地元の病院に入院し、抗生物質と抗ウイルス剤の投与にもかかわらず12月6日に死亡した。女性は高血圧心臓病で免疫力が低かったとみられ、また、生きた鳥を扱う市場に出入りしていたが、鳥をさばいてはいない。女性との接触があった他の人に対する感染は報告されておらず、ゲノム解析から弱毒性が指摘されており、今回のケースは個別的な案件でヒト-ヒト感染の危険性は低いとみられていた(後述)[6][7][8][9]

2014年1月25日には、ヒトに対する感染では2例目となる55歳の女性に対する感染が確認された。場所は前例と同じ江西省南昌市で、市場に出入りしていた事が確認されている。病状は発表時点で重体。身近な人に症状は出ていない[10]

ヒトでの流行の可能性[編集]

その後の研究で2014年2月に、73歳女性の感染したウイルスに遺伝子変異が見られ[注 1]パンデミック(世界的流行)の可能性を排除できないと発表された[11]。特にH9N2,H7N9,H5N1という3種類のウイルスの遺伝子を取り込んでおり、H7N9とH5N1は多くの死者を含む人間への感染が起こっている[12]。また鳥類に対する病原性が低いため監視が難しい[11][注 2]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ヒトの肺組織細胞の多くにあるα2-3シアル酸レセプターに対する結合能力を持っていた。そのため人間に感染した。これは散発的かもしれないが、もう拡大していたり少しの変異で同じ能力を持つようになるウイルスが多数あり今後流行する可能性を排除できない。
  2. ^ 以前にH10N8に感染した鳥類で見られたJX346の開裂部(この存在が症状の重症化を意味する重要な部位。)が、今回のヒト感染のH10N8では存在せず、鳥類での症状が軽いと考えられる。

出典[編集]

  1. ^ a b c d Complete Genome Sequence of an H10N8 Avian Influenza Virus Isolated from a Live Bird Market in Southern China Journal of Virology
  2. ^ Influenza Segment/Protein Details Influenza Research Database
  3. ^ Influenza A virus (A/quail/Italy/1117/1965(H10N8)) National Center for Biotechnology Information Taxonomy Browser
  4. ^ Influenza A virus (A/duck/Guangdong/E1/2012(H10N8)) segment 4 hemagglutinin (HA) gene, complete cds National Center for Biotechnology Information
  5. ^ a b H10N8 subtype National Center for Biotechnology Information Taxonomy Browser
  6. ^ “鳥インフルH10N8型で初の死者か 中国”. CNN.co.jp (CNN). (2013年12月18日). オリジナルの2013年12月18日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2013-1218-2345-46/www.cnn.co.jp/world/35041620.html 2013年12月18日閲覧。 
  7. ^ “鳥インフルH10N8型、人に初感染 中国江西省”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞). (2013年12月18日). オリジナルの2013年12月18日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2013-1218-2346-37/www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312180126.html 2013年12月18日閲覧。 
  8. ^ “H10N8型感染で死亡 中国”. NHK News Web (日本放送協会). (2013年12月18日). オリジナルの2013年12月18日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2013-1218-2347-52/www3.nhk.or.jp/news/html/20131218/k10013922991000.html 2013年12月18日閲覧。 
  9. ^ “新型鳥インフルH10N8型で1人死亡、中国”. AFPBB News (クリエイティヴ・リンク). (2013年12月18日). オリジナルの2013年12月18日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2013-1218-2348-40/www.afpbb.com/articles/-/3005324?ctm_campaign=txt_topics 2013年12月18日閲覧。 
  10. ^ 2人目のH10N8型確認=中国江西省、鳥インフル、時事ドットコム、2014年1月26日
  11. ^ a b Avian influenza A H10N8—a virus on the verge? The Lancet, February 5, 2014
  12. ^ New and deadly form of bird flu claims its first human victim prompting fears of a pandemic Mail Online 5 February 2014

関連項目[編集]