All You Need Is Kill

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All You Need Is Kill』(オール ユー ニード イズ キル)[1]は、桜坂洋による日本ライトノベルイラスト安倍吉俊が担当している。スーパーダッシュ文庫集英社)より、2004年12月に刊行された。2014年には漫画化、およびアメリカ合衆国での実写映画化がされた。

概要[編集]

近未来世界を舞台に、時のループに捕らえられた主人公の成長と運命を描いた、いわゆるループものの物語で[2]、桜坂洋の出世作となったSF小説筒井康隆らに激賞され[3][4]星雲賞候補作にもなった。

著者の桜坂によれば、本作の着想は、2000年のテレビゲーム『高機動幻想ガンパレード・マーチ』の、ゲームプレイヤーがWeb上に公開していたプレイ日記を読んだ経験から得たという[2]。ゲームにおける、リセットコンティニューを繰り返しながら物語を進めていく過程が物語のモチーフとなっている一方で[5]、失敗の経験を「なかったこと」にしてしまうような価値観の否定もテーマとなっており[2]、ゲームキャラクターだけではなくゲームプレイヤーの視点も意識させる描き方がされている[6]。桜坂はそうしたゲーム的な死生観をテーマとして突き詰め[5][7]、人生の紆余曲折や行き詰まりを時間のループというSF要素に仮託することで、失敗も人生の糧として受け入れて肯定するというテーマを表現したとしている[7][8]。小説の構想は2000年当時からあり、桜坂はデビュー作として本作を提案したものの編集長から「売れないだろう」と難色を示され、最初は売れ筋の作品で成果を出してから書きたいものを書くようにと諭されたため、新人賞への投稿作であった『よくわかる現代魔法』が先に出版された[2]。本作を出版できる運びとなった後も、英語タイトルの小説は売れないという懸念が示されたが、売り上げよりも「カッコいい作品」を作ることが重視された[2]

日本の千葉県南部が舞台に設定されており、劇中には周辺の地名が登場する。劇中の説明によると、物語の主要な舞台となる「フラワーライン前線基地」は、ジャパンの経済の中心であるトーキョーの目と鼻の先[9]ボーソー半島の臨海工業地帯近くの[9]ウチボーの夜景を見渡すことができる位置に所在し[10]チバシティーまでの行程の途中にあるタテヤマまで15キロメートルの距離にあると言及されている[11]

あらすじ[編集]

舞台は、異星人が地球に送りこんだ「ギタイ」と呼ばれる敵に襲撃を受ける地球。かに座ι星方向の40光年先にある異星人の星から惑星改造(テラフォーミング)のため、無人の土木作業用ナノマシンとして送り込まれたギタイは、棘皮動物に取り込まれることによって人類を脅かす怪物へと進化し、人類を惑星改造の障害と認識して世界各国に侵攻を行っていた。人類は「機動ジャケット」と呼ばれるパワードスーツを投入し、ギタイとの劣勢な戦いを続けていた。

主人公キリヤ・ケイジは、ギタイと戦う統合防疫軍に初年兵として入隊するが、初出撃で絶望的な戦場へと送り込まれ、そこで圧倒的な戦闘力を持っている若き少女兵士リタ・ヴラタスキの援護を受ける。キリヤは、リタが「サーバ・アルファ」と呼ぶギタイと相打ちになり死亡するが、なぜか意識を取り戻すと「出撃前日の朝に戻っている」という怪現象に見舞われ、それが幾度も繰り返される。他の人間はループを認識できずに同じような行動を繰り返す一方、ギタイたちはキリヤを狙っているかのように行動を少しずつ変えており、戦場から逃走しようとしても阻止されてしまう。しかし生と死を繰り返す中、「記憶だけが蓄積される」ことが自分を成長させることを知ったキリヤは、ギタイを倒すために、その能力を活かして経験を積み重ねる。

あらゆる手段を講じ、リタに匹敵する戦闘力を身につけていくキリヤは、誰とも秘密を共有できないまま激化する戦いを生き抜いていく。しかし戦場で再び「サーバ」と対峙したキリヤは、再会したリタから、時間のループを繰り返していることを見抜かれる。実はリタもまた、過去に時間のループを経験しており、ループを脱出したり引き起こしたりする方法を発見して戦いに利用していた。リタによれば、時間のループはギタイ側が自らの未来を有利なものに変えようと、未来から過去へと情報を伝送する過程で発生する現象であり、キリヤは「サーバ」を倒した際に過去へと放った通信を浴びたために、ギタイの通信網に組み込まれてしまったのだという。キリヤはリタから、手順を踏んでギタイが過去に向かって送信している情報を阻止すればループを脱出することができると聞かされ、協力してサーバを倒すが、キリヤの意識は再び1日前へと戻ってしまう。

ループからの脱出は失敗し、更にギタイ側はキリヤとリタを直接狙って作戦を大きく変更する。リタの分析によれば、リタとキリヤはループを繰り返しすぎたことで、ギタイのサーバが過去へと情報を送信するアンテナとしての機能を持ってしまったのだといいい、ループから脱出するためには、キリヤかリタのどちらかが死ななければならないという。ギタイの攻撃によって基地が崩壊していく中、キリヤとリタは、どちらが生き残るかを賭けて決闘する。リタはキリヤとの戦いに敗れて戦死し、キリヤはリタに替わってギタイと戦い続ける道を選ぶ。

主な登場人物[編集]

キリヤ・ケイジ
本作の主人公であり語り手。本書は基本的に彼の一人称で語られる。統合防疫軍の初年兵。当初は失恋を経験を機に、根性のない自分を変えて周囲を見返すという動機で軍人となるものの、本編中ではそのことを青臭い動機であったと後悔している[12]。物語冒頭の戦いで激戦区に送り込まれ、右往左往するまま戦場で死亡するが、死の直前に「サーバ」と呼ばれるギタイに戦いを挑んで相打ちになったことから、自分が死ぬか30時間が経過すると前日に戻るという時間のループに巻き込まれる。何度も戦いを繰り返すうちに経験を積み腕利きの兵士に成長していく。
物語序盤では、爆薬によって杭を打ち込むパイルドライバー杭打ち機)と呼ばれる近接武器を用いていたが、中盤以降はリタに倣って使用回数に制限のないバトルアクス(戦斧)を使用するようになる。
リタ・ヴラタスキ
US特殊部隊に所属している精鋭で[13]、階級は准尉[14]。公称は22歳だが[15]、実年齢は19歳[16]。『赤毛のアン』のヒロインを連想させるような容姿の[17]小柄な少女だが、圧倒的な戦闘能力を持っており英雄扱いされている。わざと目立つ赤の蛍光色に塗装した機動ジャケットを着込み[18]、重量200キログラムのタングステンカーバイドの戦斧を武器として愛用する[19]。他人には伏せているものの、過去にキリヤ同様の経緯から時間のループを211回[20]繰り返した経験があり、その後もギタイ側が引き起こしているループを逆手に取り、人類を有利な戦いに導いている。
故郷や家族がギタイによる虐殺の犠牲となり、その復讐のために兵士となった経験を持つ[21]。リタ・ヴラタスキという名は本名ではなく、年齢を偽って入隊するために盗用した身分証明に記されていた人物の名であり[22]、彼女自身の本名は明かされない。ループする時間をキリヤと共有することはできないため[23]、キリヤのループを観測することはできないが、158回目のループの終わりでキリヤがループを繰り返していることに気がつき、159回目および最後の160回目のループではキリヤと行動を共にする。
シャスタ・レイル
リタの機動ジャケットの専属整備主任を担当する整備兵で[24]、小柄でおどおどした言動の、眼鏡で三つ編みの女性。民間出身だが中尉の待遇を受けている[25]ドジっ娘だが[26]、並外れた集中力を備えた天才技術者であり[24]MIT主席卒業という経歴を持つ[27]。47回目ループでキリヤに言いくるめられ、以降はリタの予備の武器をキリヤに貸すことになる[28]
カプセルトイコレクター[13]、自分たちとは似ても似つかない役者が演じる、リタの活躍を描いた劇中映画のカプセルフィギュアをリタに見せびらかしている[29]
バルトロメ・フェレウ
キリヤの所属している小隊の軍曹で、実質的な部隊のまとめ役[30]。面倒見は良いが[30]、隊員たちに苛烈なフィジカルトレーニングを課しており、「僧帽筋の鍛えすぎで脳の容量が減っている[30]などと陰口を言われている。
機動ジャケットが制式装備となる前からギタイと戦ってきたベテラン兵士であり[31]、158回のループを繰り返したキリヤからも、自分が所属する小隊の中では唯一頼れる戦力として一目置かれている[32]。訓練校で教官を務めた経験があり[33]、5回目のループの際にキリヤから訓練を請われた際、生死の境目で実戦経験を積むことの重要性や、機動ジャケットのオートバランサーに頼らない戦い方の有効性といった情報を伝授し[34]、その後のキリヤの方針に大きな影響を与える。
ヨナバル・ジン
キリヤの同僚で、三年先輩[35]。階級は伍長[36]。軽薄な優男が訓練を経て精悍になったような印象の人物で[35]、推理小説の結末を明かす癖がある[13]。物語冒頭で描かれるキリヤにとっての最初の戦い(0回目のループ)では、ギタイの奇襲による最初の攻撃で即死する。その後のループは常に、ベッドで寝ていたキリヤが、二段ベッドの上にいるヨナバルに話しかけられる場面からリスタートする。
キリヤにとっては、ループの中で多くの時間を共にした人物であり、かけがえのない友人であるが[37]、ループから脱出に成功した最後の周回では最後まで生存しつつも、キリヤを侮蔑する側に回る。

既刊[編集]

桜坂洋(著)、集英社スーパーダッシュ文庫〉、全1冊

実写映画版[編集]

2014年トム・クルーズ主演、ダグ・リーマン監督のアメリカ映画として、実写映画が製作された。アメリカではタイトルを『Edge Of Tomorrow』に変更し、2014年6月6日に公開された[38]。日本では原作小説と同じ『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の邦題で、2014年7月4日公開された。

原作小説の英訳版は2009年7月にアメリカにてビズメディアの翻訳SFレーベル「Haikasoru」から刊行されたが、このとき校正段階の試し刷りを読んだプロデューサーから映画化の打診が行われた[39]2010年4月にビズメディアはワーナー・ブラザーズに映画化権を売却した。ダンテ・ハーパーが脚色した脚本を300万ドル(約2億8000万円)近い金額でワーナーがオプション購入した。映画の製作は2013年度中に開始された[40]。日本のライトノベルが大作のハリウッド映画として映像化されることは本作が初めてであり[41]、異色のこととして紹介された[39]

実写映画版では主人公をはじめとする登場人物の設定や物語の舞台、結末などのストーリーが大きく変更されており[26][41][42]、ライトノベル的な萌え要素も削られてハリウッド映画的な作風へと置き換えられている[26][5]。一方で作品の根幹となるループの設定や[26]、中盤の展開[5]、テーマ性[42]などは原作を踏襲しており、日本原作らしい情緒[41]を残したものとなっている。

漫画版[編集]

週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて同名の漫画版が2014年6・7合併号から26号まで連載された。単行本全2巻。漫画版は竹内良輔が構成、小畑健が作画を担当。

関連書籍[編集]

  • 東浩紀 「第2章 作品論 A キャラクター小説」『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』 講談社〈講談社現代新書〉、2007年3月、154-190頁。ISBN 978-4-06-149883-9
    • 東浩紀が提案する環境分析的な読解による評論。

脚注[編集]

  1. ^ タイトルは明らかにビートルズの「愛こそはすべて」("All You Need Is Love")に基づく[要出典]
  2. ^ a b c d e 桜坂洋 (2014年6月30日). 映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」特集、原作者・桜坂洋が発想の源泉と映像化への期待を語る(2/3). インタビュアー:宮津友徳. 唐木元. コミックナタリー.. http://natalie.mu/comic/pp/allyouneediskill/page/2 2014年7月20日閲覧。 
  3. ^ 対談 筒井康隆+東浩紀 キャラクター小説とポストモダン、群像 2007夏号、講談社2007年6月
  4. ^ 初版時の帯 - 神林長平による推薦文が記載されている。2004年12月
  5. ^ a b c d 福田麗 (2014年7月6日). “ハリウッドで映画化された作家・桜坂洋に直撃!貴重な経験で得たものとは”. シネマトゥデイ. 2014年7月20日閲覧。
  6. ^ 東 2007, pp. 166-167.
  7. ^ a b 桜坂洋 (2014年7月6日). オール・ユー・ニード・イズ・キル : 原作・桜坂洋さんに聞く「人生の紆余曲折をループにした」. (インタビュー). まんたんウェブ.. http://mantan-web.jp/2014/07/06/20140706dog00m200035000c.html 2014年7月21日閲覧。 
  8. ^ 桜坂洋 (2014年6月30日). 映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」特集、原作者・桜坂洋が発想の源泉と映像化への期待を語る(3/3). インタビュアー:宮津友徳. 唐木元. コミックナタリー.. http://natalie.mu/comic/pp/allyouneediskill/page/3 2014年7月20日閲覧。 
  9. ^ a b 小説, pp. 34-35.
  10. ^ 小説, p. 221.
  11. ^ 小説, pp. 67.
  12. ^ 小説, pp. 52,68-69.
  13. ^ a b c 小説, p. 8.
  14. ^ 小説, p. 45.
  15. ^ 小説, p. 110.
  16. ^ 小説, p. 189.
  17. ^ 小説, p. 41.
  18. ^ 小説, p. 43.
  19. ^ 小説, p. 97,103.
  20. ^ 小説, pp. 167-168.
  21. ^ 小説, pp. 155-156.
  22. ^ 小説, p. 156.
  23. ^ 東 2007, pp. 162-165.
  24. ^ a b 小説, p. 174.
  25. ^ 小説, pp. 97.
  26. ^ a b c d 速水健朗 (2014年7月6日). “読書 売れてる本 『All You Need Is Kill』桜坂洋〈著〉”. 朝日新聞朝刊12版 (朝日新聞社): p. 11面. http://www.asahi.com/articles/DA3S11227776.html 2014年7月20日閲覧。 
  27. ^ 小説, p. 98,179.
  28. ^ 小説, pp. 97-107.
  29. ^ 小説, pp. 176-180.
  30. ^ a b c 小説, p. 32.
  31. ^ 小説, pp. 83,85.
  32. ^ 小説, p. 130.
  33. ^ 小説, p. 83.
  34. ^ 小説, pp. 86-93.
  35. ^ a b 小説, p. 28.
  36. ^ 小説, p. 33.
  37. ^ 小説, p. 264.
  38. ^ Comic-Con: Tom Cruise Shows Up For ‘Edge Of Tomorrow’ Panel、deadline.com、2013年7月20日
  39. ^ a b 桜坂洋 (2014年7月11日). トム・クルーズ主演で大ヒット、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』原作は日本のラノベ!で作者に秘話を直撃インタビュー. インタビュアー:にし中賢治. 週プレNEWS.. http://wpb.shueisha.co.jp/2014/07/11/32610/ 2014年7月20日閲覧。 
  40. ^ Warners Makes 7-Figure Spec Deal For Japanese Novel 'All You Need Is Kill'、deadline.com、2010年4月5日
  41. ^ a b c マフィア梶田 (2014年6月30日). “メイド・イン・ジャパンの底力を感じさせる、ライトノベル史上初のハリウッド映画化”. 映画.com. カカクコム. 2014年7月20日閲覧。
  42. ^ a b 福田麗 (2014年6月25日). “日本のラノベを映画化!でもストーリーが全く違う?監督が理由を明かす”. シネマトゥデイ. 2014年7月20日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]