精神安定剤

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ベンゾジアゼピン系精神安定剤(代表的な精神安定剤 左からユーロジンメイラックスデパスソラナックス

精神安定剤(せいしんあんていざい、Tranquilizer, トランキライザー)は、向精神薬のうち、精神状態を安定させる性質を持つ薬物の総称。

チバ社のF・F・ヨンクマンがこのトランキライザーという用語を造語し[1]レセルピンの作用をあらわすのに1939年に用いた[2]。カーターウォレス社で筋弛緩薬の研究を行っていたフランク・バーガーが鎮静作用の強い物質を発見し、トランキライザーの用語を用いた[1]

1950年代に抗精神病薬やバルビツール酸系しかなかった当初はこれらをトランキライザーと呼んだ[1]。1950年代後半に入って非バルビツール酸系メプロバメートなどがトランキライザーとして登場した。1960年代にベンゾジアゼピン系の薬剤が登場するとトランキライザーと呼ばれ、対比するように、抗精神病薬はメジャートランキライザー(もしくは強力精神安定剤と呼ぶ)と呼ばれるようになった[1]。その後に1970年代に、ベンゾジアゼピン系の薬剤を単にトランキライザーと呼ぶようになり、依存性が問題になると、抗不安薬という語が用いられるようになった。日本で一般に精神安定剤というと、抗不安薬を意味する場合が多い。

また、一般的な誤解として、単に前者=強い 後者=弱い と思いがちだが、前者と後者では全く薬理作用が異なる。

これらの薬は脳に直接作用する特徴をもつ。医師の処方せん無しでは入手できない。また、薬事法及び麻薬及び向精神薬取締法により厳しく規制されている。また、これらの薬は乱用すれば麻薬と同様、強い依存や正常な脳に非可逆的なダメージを与えることになる。

メジャートランキライザー[編集]

これらは直接脳の中枢に働き、主に脳のドーパミンD2受容体セロトニン受容体を遮断し、ドーパミンの分泌を抑えることにより、脳の状態を安定させるものである。幻覚や妄想、また、マイナートランキライザーでは取り除けないような極度の不安、焦燥感を取り除くことができる(抗ドパミン作用には吐き気を止める効果もある)。また、強い催眠作用を持つ物もあり、睡眠安定剤(睡眠薬)として使用可能なものも存在する。

注意すべき点は、作用が強力な分、副作用も強力であること。

効能は主に統合失調症(幻覚・妄想)や、神経症うつ病による不安、緊張状態の緩和である。

代表的な副作用としては、眠気、注意力の低下、めまい、ふらつき、依存などである。また、重大な副作用として、大脳基底核線状体)のドーパミン受容体(D2受容体)をもブロックしてしまうのでパーキンソン症候群を引き起こしたり、ごく稀ではあるが悪性症候群を起こすことがある。

メジャートランキライザーと呼ばれる物には、定型抗精神病薬と呼ばれる物と、非定型抗精神病薬と呼ばれる物が存在する。後者の方が新薬であり、副作用も少ない。

マイナートランキライザー[編集]

主に、脳に直接働きかけ、脳のリラックス系の神経受容体「BZD受容体」に結合することで、不安を和らげたり、気分を落ち着ける精神安定剤である。抗不安薬とも呼ばれる。主にベンゾジアゼピン類などがある。非常に多くの種類があるが、いずれも作用、副作用とも穏やかで、薬剤によって抗不安作用、催眠作用、筋弛緩作用の強さが異なり、またその効き目の持続時間や強さにより、いろいろな種類が使い分けられる。また、効能も至って広域で、内科や産婦人科でも処方されることがある(例えばチエノジアゼピン系であるエチゾラムなどは筋弛緩作用をもち、肩こりなどにも効くので内科でも処方される)。手術を受ける直前に緊張を和らげるためもらえる事もある。睡眠導入剤としても使用できる。
主な副作用としては眠気や注意力の低下、脱力などが上げられる。

関連項目[編集]

出典[編集]

参考文献[編集]

  • エリオット・S・ヴァレンスタイン 『精神疾患は脳の病気か?』 功刀浩監訳、中塚公子訳訳、みすず書房、2008年2月ISBN 978-4-622-07361-1、Blaming the Brain : The Truth About Drugs and Mental Health, 1998
  • デイヴィッド・ヒーリー 『抗うつ薬の功罪』 田島治監訳、谷垣暁美訳訳、みすず書房、2005年8月ISBN 4-622-07149-5、Let Them Eat Prozac, 2003