日出処の天子

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日出処の天子』(ひいづるところのてんし)は山岸凉子による日本の漫画。略称は「ずる天」・「ひず天」・「処天」。

目次

[編集] 概要

LaLa」(白泉社)において、1980年4月号から1984年2月号、1984年4月号から6月号まで連載された。

厩戸王子(聖徳太子)と蘇我毛人(蘇我蝦夷)を中心に、主人公である厩戸王子が少年時代を経て、摂政になるまでを描く。聖と俗、男と女という矛盾を抱える厩戸王子の圧倒的な存在感に加え、厩戸王子を天才・超能力者・同性愛者として描く斬新さが特徴。厩戸王子には超能力を持っているとでもしなければ説明できないような逸話が『聖徳太子伝暦』などに残っており、これはこうした伝承・伝説を積極的に採用したものである。

1983年度、第7回講談社漫画賞少女部門受賞。夏目房之介は「戦後マンガ史に残る傑作である」と評している[1]。また不安定に変化する厩戸王子の表情に注目し、その変貌を「手塚治虫以来日本のマンガに脈うつ男女変身譚および異人変身譚の最大の収穫のひとつだろう」と語っている[2]。こういった表情は実に細かな描線で描かれており、薄い紙に模写したところで「1ミリの何分の1でも線が狂えば表情は変わってしまう」のだという[3]


注意以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。


[編集] あらすじ

本作は、飛鳥時代を背景に、政治的策謀をめぐらす厩戸皇子に毛人(馬子の長子として描かれている[4])をはじめとする蘇我家の人々や、崇峻天皇推古天皇らが翻弄される形で話が進んでいく。

ある春の日、14才の蘇我毛人は天女と見まごう美しい女童に偶然出会い、ほのかな恋心を抱く。実は10才になる厩戸皇子であった。年若くとも非凡なる教養と才能、政治的手腕、威厳を持つ厩戸は並み居る臣下からも一目置かれる存在となる。しかし厩戸は自らが持つ不思議な力ゆえに、実母の穴穂部間人媛に恐れられ疎まれており、母から愛されない事に苦悩していた。同じく厩戸の不思議を感知した毛人は、時折垣間見る厩戸の孤独に心を痛める。尊敬と畏怖と好意を持って厩戸に接する毛人だが、厩戸にとって毛人は自分の持つ超能力を共有できる唯一の不可欠な存在であった。しかし毛人は無意識下でしか超能力を引き出せず、自分の能力を自覚していない。

厩戸の毛人への思いはやがて愛へと変わってゆき、毛人も自分が厩戸に惹かれていることを感じるが、やがて石上神社の巫女であった布都姫と出会い、恋に落ちてしまう。

厩戸は嫉妬に悩まされ、策謀をめぐらして布都姫を退けようとするが、毛人に気づかれる。いままでの諸事に厩戸の策略があったことを悟った毛人は、厩戸に二人が結べば万物を自由に動かす力が実現されこの世を意のままにできるから共に生きようと説得されるが、毛人は二人が共に男として生まれたのは一緒になってはいけない運命だからだと答え、苦渋のうちに厩戸から離れ、布都姫を選ぶ。

作品は厩戸が孤独の中に残される一方、政治的実権を握り、遣隋使を発案するところで終わる。

[編集] 登場人物

[編集] 上宮王家(池辺雙槻宮)

聖徳太子(うまやどのおうじ)
本作の主人公。『日本書紀』や『上宮聖徳法王帝説』などの史料に描かれた「聖徳太子」像とは全く異なる人物造形を施されている。これについて作者は文庫版2巻に収録された氷室冴子との対談で、「聖徳太子にまつわるエピソードに子供の頃から違和感を持っており、ある時、居酒屋で矢代まさこを相手にそういう話をしていたら、梅原猛の『隠された十字架』を紹介され、翌日それを買ってきて読んで、その時に全てのイメージが出て来た」と語っている。
穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)
厩戸の母。母親として厩戸を愛しつつも、厩戸の超常的な力を怖れ、他の子供達のように接することが出来ずに悩む。他人には感じられない厩戸の力を感じ得る人物である。
橘豊日大兄皇子(たちばなのとよひのおおえ)
厩戸の父。物静かな人物。異母妹である穴穂部間人媛を妃としている。
来目王子(くめのおうじ)
厩戸のすぐ下の弟。心優しい性格で母と兄の間に流れる確執に心悩ませる。
殖栗皇子(えぐりのおうじ)・茨木皇子(いばらきのおうじ)
厩戸の弟。
田目王子(ためのおうじ)
穴穂部間人媛の再婚相手であり厩戸の義父。穴穂部間人媛より8才年下で橘豊日大兄皇子と蘇我石寸名の間に生まれた子であり、厩戸にとって異母兄である。父によく似た風貌を持つ。
佐富女王(さとみのひめみこ)
穴穂部間人媛と田目王子の王女、厩戸の異父妹。


[編集] 蘇我氏

蘇我毛人(そがのえみし)
本作のもう一人の主人公とも言える人物。蘇我本宗家の後継者であるが、父・馬子ほどの政治的野心を持たない善良な人物として描かれる。対人関係に異常に神経質な厩戸が唯一気を許せる人物。敵対する物部一族の象徴である石上齋宮・布都姫に思いを寄せている。
蘇我馬子(そがのうまこ)
毛人の父。朝廷で絶大な権力を握る有力豪族・蘇我氏の本宗家当主。厩戸の政治的能力や知性を高く買い、娘を嫁がせる。
刀自古郎女(とじこのいらつめ)
毛人の同母妹。非常に美しい容貌を持つが密かに同母兄の毛人に思いを寄せている。物部との戦の際、母親の里で複数の奴に乱暴されてしまい望まぬ子を宿し自ら堕胎した辛い過去を持つ。以後、精神に深い傷を残し、毛人以外の男性を愛せなくなっていた。その後、毛人を騙す形で契りを結び、毛人の息子を身ごもる。これを知った厩戸に取引を持ちかけられ、形式のみの厩戸の后となって山背大兄王を生む。
十市郎女(といちのいらつめ)
馬子の正妻であり毛人・刀自古郎女の母。物部出身で守屋の兄・物部御狩を父に持ち守屋の姪であるため、戦の折には形式上の離縁をさせられ刀自古郎女と実家に帰されていた。蘇我宗家の正妻として馬子を支え、母としては絶えず兄妹に心を配り、中でも心に深い傷を持つ刀自古を終始心配している。
河上娘(かわかみのいらつこ)
毛人の異母妹。摩理勢の正妻と姉妹である母を持つ。正妻の娘である異母姉・刀自古に対抗心を持ち、辛く当たる。崇峻天皇に嫁ぐが、崇峻天皇暗殺の後、命を落とすことになる。
境部摩理勢(さかいべのおみまりせ)
馬子の弟、毛人の叔父。
雄麻呂(おまろ)
摩理勢の息子。毛人、刀自古郎女とはいとこにあたる。子供の頃より刀自古郎女に恋していた。
倉麻呂(くらまろ)
毛人の異母弟。


[編集] 幸玉宮

訳語田大王(おさだのおおきみ)
額田部女王(ぬかたべのひめみこ)
厩戸の叔母。大和朝廷最初の女帝。
菟道貝鮎皇女(うじのかいたこのおうじょ)
訳語田大王と額田部女王の一番目の姫、厩戸皇子の二歳年上の妃である。通称大姫。
小墾田皇女/大中姫(おはりだのおうじょ)
訳語田大王と額田部女王の二番目の姫。彦人皇子の元へ嫁ぐこととなっている。
竹田王子(たけだのおうじ)
物部との戦いで命を落とす。
尾張王子(おわりのおうじ)


[編集] 倉橋宮

崇峻天皇(すしゅんてんのう)
穴穂部間人媛および穴穂部王子の同母弟。即位前は泊瀬部皇子を名乗る。穴穂部皇子と異なり政治的手腕にも豪胆さにも欠け、強欲で目先のことしか考えない享楽的で無能な人物として描かれる。当初は毒にも薬にもならぬ人物と思われ、大王に擁立されるが次第に横暴な面が目立つようになり、最終的には厩戸と蘇我氏によって暗殺される。
大伴糠手
崇峻天皇の相談役として、厩戸、蘇我氏にとって代わろうと日々策略を練っている。
小手子
糠手の娘で崇峻天皇の妃。泊瀬部皇子時代からの仲である。崇峻天皇との間に蜂子皇子と錦代皇女を儲ける。
布都姫(ふつひめ)
物部御狩の末娘で石上神宮の斎宮であった女性。毛人の母、十市郎女とは異母姉妹にあたる。敗戦後、畝傍に蟄居している叔父・贄子を頼って訪ねる道中で毛人と出会う。最初は一族を滅ぼした憎き仇として見ていた毛人であったが強い愛情と熱意にほだされ、いつしか愛情を芽生えさせる。二人の仲を割かんとする厩戸の策略により崇峻帝の後宮に入れられ、更には厩戸自身の手で暗殺されかかる。後に毛人の子(入鹿)を生む。
白髪女(しらかみめ)
布都姫の老侍女。布都姫が5才の頃から仕え、こよなく慈しんでいる。布都姫の身代わりとなって厩戸に刺殺される。

[編集] 物部氏

物部守屋 
馬子の宿敵。本作では、戦闘中に突如現れた厩戸の姿に強い恐怖を抱き、心臓発作を起こして死ぬ。
物部贄子
守屋の弟。敗戦後は畝傍に蟄居している。


[編集] 司馬氏

司馬達等
司馬一族の総領。渡来人であり非常に博識である。技術の高さを厩戸、毛人に認められ寺院建立の一切を任される。トリの祖父。
多須奈
達等の子、トリの父。寺院建立の指揮にあたる。
善信尼
達等の娘。暴漢に襲われそうになっていたところを調子麻呂に助けられた事がきっかけで、出家した身ではあるが彼にほのかな想いを寄せる。
鞍作止利(くらつくりのとり)
通称トリ。本作では厩戸より年若い子供の姿で登場する。

[編集] 阿倍氏

阿倍内麻呂
阿倍毘賣の兄。野心に満ちた如才ない人物として描かれている。
阿倍毘賣
毛人が結婚するつもりで通う姫。美貌ではないが心やさしい女性である。


[編集] その他

淡水(たんすい)
蘇我本宗家に仕える渡来人
調子麻呂(ちょうしまろ)
厩戸の舎人である渡来人。来日以前に淡水と関わりがあったらしい。淡水とよく似た風貌を持つ。腕がたち、弓の名人でもある。誠実な人柄で厩戸に献身的に使える。
吉備海部羽嶋
東漢直駒(やまとのあやのあたいこま)
馬子の部下、渡来人の子孫。
三輪君逆(みわのきみさかし)
穴穂部王子らに討たれる。
穴穂部王子(あなほべのおうじ)
穴穂部間人媛の同母弟。訳語田大王亡き後の大王候補であったが、蘇我氏の台頭を快く思っておらず、物部側についたために厩戸に殺される。好戦的な野心家。
彦人王子(ひこひとのおうじ)
訳語田大王の息子。病弱で小心な人物として描かれる。
宅部王子(やかべのおうじ)
穴穂部王子の友人。宣化天皇の流れを汲む。誠実な性格で穴穂部王子暗殺の犯人が厩戸であることに感づいた為に命を落とす
膳美郎女(かしわでのみのいらつめ)
厩戸の妻。本作では、知的障害を持った幼女として描かれる。容貌が間人媛に似ている。

[編集]  馬屋古女王 

本編の続編に当る短編漫画。物語の主役は王子や毛人の子供たちに移り、かつて上宮王家と謳われた厩戸一族の滅亡を描く。

厩戸王子と美郎女が突然亡くなったところから物語は始まる。刀自古と厩戸王子の子、山背大兄王子は、両親の葬儀に出席させるため、実父の厩戸によって生まれてから15年間軟禁されていた末妹、馬屋古女王を解放する。馬屋古は厩戸の子供たちで唯一、父に酷似した美しい容姿の持ち主であった。しかし彼女が解放されてから上宮王家に不穏な兆しが見え始める。


[編集] 登場人物

馬屋古女王(うまやこのひめみこ)
厩戸と膳郎女の娘。厩戸そっくりの容貌を持つが先天的な障害者であり、厩戸の超能力を受け継いでいるという設定。
山背大兄王(やましろのおおえのおうじ)
本作では蘇我毛人と刀自古の息子という設定。毛人の息子であることを厩戸も知っていた為、厩戸にも特に愛されて育つ。長じては政治家としても存在感を発揮している。
蘇我入鹿(そがのいるか)
布都姫の忘れ形見。山背大兄とは幼少時から気心の知れた仲であるが、舂米を巡っての恋敵でもあった人物として描かれている。
舂米女王(つきしねのひめみこ)
厩戸と膳郎女の娘。厩戸の血を実際に引いているのは、橘大郎女と膳郎女の生んだ子たちだけという設定で、彼女はこの夫婦の最初の子供である。彼らの子の多くは何らかの知的障害を持って生まれたが、舂米と長谷は例外的に厩戸の優れた能力の一端を継承した人物として描かれている。作中では山背の妻となっており、夫婦仲もむつまじかったが、馬屋古の出現とともに夫婦仲にヒビが入り始める。
長谷王(はつせのおうじ)
厩戸と膳郎女の息子。厩戸の弟の来目に似ている。舂米と同じく優れた人物として評価されている。作中では、同母妹である馬屋古に恋をして苦しむ。
難波王(なにわのおおじ)
佐富女王(さとみのひめみこ)
厩戸の異父妹。父は厩戸の異母兄である田目王子。優れた卜部(占い者)であり、容姿は母・間人媛によく似ている。厩戸に疎まれていた。

[編集] 毎日新聞捏造報道事件

1984年1月24日付けの毎日新聞全国版社会面に本作品に対して「え、これが聖徳太子!?」「法隆寺カンカン」などという見出しで法隆寺が遺憾に思っている、という記事が掲載されたが、これはすべて奈良支局の記者による捏造記事であった。同年2月4日版紙面にて謝罪文が掲載された。

[編集] 脚注

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  1. ^ 夏目房之介 『マンガの力-成熟する戦後マンガ』 晶文社、1999年、128頁。ISBN 9784794964038
  2. ^ 『マンガの力』 130頁。
  3. ^ 『マンガの力』 131頁。
  4. ^ 通説では長子は蘇我善徳とされる。善徳は日本書紀 巻第二十二 推古天皇四年に記述がある(法興寺造竟 則以大臣男善徳臣拝寺司)。
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