光が死んだ夏

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光が死んだ夏
ジャンル ホラーサスペンスブロマンスなど[1]
漫画
作者 モクモクれん
出版社 KADOKAWA
掲載サイト ヤングエースUP
レーベル 角川コミックス・エース
発表期間 2021年8月31日[2] -
巻数 既刊4巻(2023年12月4日現在)
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プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

光が死んだ夏』(ひかるがしんだなつ)は、モクモクれんによる日本漫画作品。『ヤングエースUP』(KADOKAWA)にて、2021年8月31日より連載中[3][2]。作者のモクモクれんは本作が初の連載作品となる[2]。田舎の集落で生活する少年と、行方不明になり戻ってきた後の様子に違和感がある親友を描いた物語[4]三重県の山間部の田舎を舞台とした作品[5]

累計部数は2023年12月時点で電子版含めシリーズ累計190万部を突破している[6]

あらすじ[編集]

「閉塞感漂う田舎町」で[1]よしき幼馴染として暮らしてきた。そんな中、で「光が一週間ものあいだ行方不明に」なってしまう。光は帰ってきたものの、よしきは光が「別の〈ナニカ〉にすり替わっていること」に気づく。そんなヒカルと一緒に生活を送るうち、「よしきの周囲で不気味な出来事が起こり始め」る[7]

沿革[編集]

連載開始[編集]

作者のモクモクれんは、もともと漫画家になりたいと考えていたわけではないため、絵を描くことや話を考えることが好きでも漫画を執筆したことはなかった[8]コロナ禍で時間ができたため、昔から構想していた話と登場人物を漫画という形で制作し、2021年1月にTwitter上で公開したところ、大きく反響を得たことをきっかけとして複数の編集部から声がかかった[2][8][9]。モクモクれんによると、TikTokで流行した際には女性読者が多い印象であった[8]。『ヤングエースUP』を選んだ理由は、モクモクれん自身の知名度がなく、「それだったら無料で読めた方がいいだろう」と考えたからである[8]。同年4月から連載の描きためを開始したため、連載の準備期間はなかった[9]。本作は作品のために新しく構想が練られたのではなく、モクモクれんによると「いままで自分のなかに蓄積されてきた好きなものをミックスしてできあがった作品」である[9]。タイトルは連載開始直前まで案が浮かばず、担当編集者からの複数の案をもらうも、悩んでいた[10][11]。『光が死んだ』などボツを経て、最終的に内容がわかる感じでまとまりのよい『光が死んだ夏』に決定[11]。前述の作品をもとに、同年8月31日より『ヤングエースUP』にて本作の連載を開始[2]。作者のモクモクれんは本作で商業連載デビューを果たす[12]

PV[編集]

2022年3月に単行本第1巻が発売された際には、PVを公開[4]。ヒカル役は根岸耀太朗、よしき役は大野智敬が担当している[13]。同年10月には単行本第2巻の発売を記念して、4週連続でPVを公開[13][14]。4本は異なる声優が担当しており、10月3日公開の第1弾は第1巻発売時のPVと同じ根岸と大野が[13]、10月10日公開の第2弾はヒカル役を下野紘、よしき役を松岡禎丞が、10月17日公開の第3弾はヒカル役をKENN、よしき役を前野智昭[15]、10月24日公開の第4弾はヒカル役を榎木淳弥、よしき役を内山昂輝が務めている[14]。第4弾はテレビコマーシャルとしても放送された[14]。10月3日から10月9日まで東京都池袋にて大型交通広告を掲示し、西武鉄道池袋線池袋駅の地上改札内1番ホーム壁面にて描きおろしのイラストを、地下改札前ではデジタルサイネージを表示した[4]。10月17日から10月23日までは大阪府阪急⼤阪梅⽥駅でも展開され[15]、10月24日から10月30日まで東京都の渋谷駅でも本作の大型広告が提示された[14]

制作背景[編集]

舞台[編集]

三重県の山間部の田舎を舞台としており[5]、作中には三重弁が登場している[9]。「登場人物に特徴的な方言を使わせたかった」と考えていたモクモクれんは、「関西弁とは違う絶妙なライン」を探し、「東海地方の山間の地域」を選んだのである[9]。また、モクモクれんは澤村伊智の『比嘉姉妹シリーズ』を好んでおり、第1作の『ぼぎわんが、来る』が三重県を舞台としていることも理由に挙げている[9]。モクモクれんは三重県に取材に行きたいと考えていたが、コロナ禍では困難であった[9]

モデルは「山と海との境目のような立地の狭い集落で、家がみっちりと密集していた」場所に唯一存在した商店という、モクモクれんの祖母の家である[5]。古い磨りガラスや黒電話や勝手に出入りする近所の人など、両親と帰省した際に見た風景が本作の元になっている[5]

ホラー[編集]

物心がついたころから映像作品をたくさん観ていたモクモクれんは、「気づいた時には、もう好きでした(笑)」と語るほど、ホラーが好きである[9][16]。テレビの心霊特集も欠かさずに鑑賞していたといい[10]、よく参考にしている作品として、『ほんとにあった怖い話』シリーズや『怪談新耳袋』シリーズを挙げている[16]。モクモクれんはJホラー英語版や日本以外のホラー映画が好きであるが、POV(Point of View)ホラーも好んでおり、白石晃士が監督を務めるホラー映画作品はすべて鑑賞し、本作は「一人称視点の構図を効果的に行う」ようなPOV(Point of View)方式で描かれている[16]

モクモクれんはホラー映画を「あまり怖いとは感じない」といい、「どちらかと言えば、楽しい気持ちのほうが勝っている」ため、ジェットコースターお化け屋敷などのアトラクション感覚で映画を鑑賞する[5]。裏付けのないような「わけがわからないものが怖い」と話し、本作では「く」の化物を例に挙げている[5][10]。「ショッキングなシーンをドーンと見せる」より、「怖い感じが来る寸前」を好むため、本作では「ゾワゾワするような感覚を大事にしたくて、ショッキングさは、むしろ抑えめにしようと心がけて」制作されている[10]。ヒカルについては、「もともと人間側の気持ちよりは、入れ替わってしまった後の人外の気持ちを描きたい」と考えたことが先で、モクモクれんの考える人外とはこうだという要素が詰めこまれている[10]。親友が人外にという設定はよくあるような漫画では「親友の本来の姿を取り戻そうとするバトルもの」になりそうだが、本作は「よしきの心情を通してリアルに共感できる物語」にしたいと考えて描かれている[17]

擬音[編集]

本作では擬音が描き文字ではなく、活字のフォントで印字されている[10]。「映像と違いマンガには音声がない」ため、「文字を歪ませたり動きを出したりして、変化」をつける際に、「読んでもらいたい」というモクモクれんの意図によりフォントを使用している[10]。モクモクれんは「手描き文字だと絵になじんでしまい、目が滑って、なかなか読んでもらえないような気がする」と考え、読者の目に入れたいところではフォント、意識しなくてもよいところを手描き、と使い分けを行っている[10]。ふきだしのセリフの写植は担当編集者が作業を行っているが、擬音はモクモクれんが自ら打っている[10]

制作[編集]

本作は「ミスマッチさ」を大事にして描かれている[11]。季節が夏であるのは、モクモクれんが半そでが描きたかったからという理由もあるが、内容が暗いため、「季節のなかではいちばん元気な感じがする夏がいいだろう」と考え、いちばんミスマッチな気がするという夏が選ばれている[11]。単行本のカバーの色や、PVのBGMや、ビジュアルはミスマッチを狙うために意図的に明るくしている[11]

モクモクれんが執筆していて楽しいのは、「ここは盛り上がるだろうな」という場面を描いている時と、考察をする読者の予想を裏切るような展開を描けた時である[11][18]。行動や表情やセリフなどは登場キャラクターに「なるべく自然な反応をするように演技をさせている」といい、ネームの時点で「うつむく角度や相手から目を逸らす度合い」など、細かく動きを考えて制作している[17]。登場人物の心情を読者に自由に受けとってもらうため、「ここは泣くところです」のようなわかりやすい描写をしないよう、意識して描かれている[17][19]

評価[編集]

ライターのちゃんめいは、本作には恐怖を感じる要素がばらばらと存在するが、「“ナニカ”になってしまったヒカル」とその傍にい続けるよしきとの間に存在する「複雑な感情」が強くはっきりと描かれていると評する[1]。 また、『ダ・ヴィンチ』編集長の川戸崇央は、「見事な擬音」やネガティブとポジティブを瞬く間に切り替える「表情の演出」など本作は読みどころが多いとする[7]

受賞[編集]

2022年8月、「次にくるマンガ大賞2022」のWebマンガ部門で11位と、「海外ファンの熱量が高かった作品に贈られる」特別賞であるGlobal特別賞の繁体字版を受賞[20][21]。同年12月には「このマンガがすごい!2023」オトコ編で1位に選出[22][23]。2023年2月に全国書店員が選んだおすすめコミック2023の5位[24][25]、同年3月に「マンガ大賞2023」の11位[26][27]、同年9月に「第7回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」で7位に選ばれている[28]

書誌情報[編集]

  • モクモクれん 『光が死んだ夏』 KADOKAWA角川コミックス・エース〉、既刊4巻(2023年12月4日現在)
    1. 2022年3月4日初版発行(同日発売[29])、ISBN 978-4-04-112273-0
    2. 2022年10月4日初版発行(同日発売[30])、ISBN 978-4-04-112960-9
    3. 2023年6月2日初版発行(同日発売[31])、ISBN 978-4-04-113700-0
    4. 2023年12月4日初版発行(同日発売[32])、ISBN 978-4-04-114339-1

脚注[編集]

  1. ^ a b c 『光が死んだ夏』モクモクれん先生再登場 『このマンガがすごい!2023』オトコ編1位を獲得した今思う、Webマンガの現在地”. Real Sound|リアルサウンド ブック. 2023年4月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e このマンガ 2022, p. 18, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  3. ^ “山で行方不明になり、戻ってきた少年に友人は違和感が…新連載「光が死んだ夏」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2021年8月31日). https://natalie.mu/comic/news/443237 2024年2月18日閲覧。 
  4. ^ a b c “別のナニカになってしまった親友、それでもそばにいてほしい「光が死んだ夏」1巻”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年3月4日). https://natalie.mu/comic/news/468105 2024年2月18日閲覧。 
  5. ^ a b c d e f このマンガ 2022, p. 22, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  6. ^ シリーズ累計190万部(電子含む)突破! 青春ホラー漫画『光が死んだ夏』のARフォトフレームを期間限定で配信!”. PR TIMES (2023年12月4日). 2024年2月18日閲覧。
  7. ^ a b ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、モクモクれん『光が死んだ夏』”. ダ・ヴィンチWeb. KADOKAWA. 2023年4月27日閲覧。
  8. ^ a b c d このマンガ 2022, p. 19, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  9. ^ a b c d e f g h このマンガ 2022, p. 20, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  10. ^ a b c d e f g h i このマンガ 2022, p. 23, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  11. ^ a b c d e f このマンガ 2022, p. 24, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  12. ^ ダ・ヴィンチ 2023, p. 134, 「モクモクれん×八木勇征(FANTASTICS)」
  13. ^ a b c “「光が死んだ夏」キャスト違いのPVを4週連続公開、ボイスドラマ聞ける駅広告も”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年10月3日). https://natalie.mu/comic/news/495843 2024年2月18日閲覧。 
  14. ^ a b c d 『光が死んだ夏』の超大型広告が渋谷をジャック! 4週連続公開PVの第4弾担当声優は榎木淳弥さん、内山昂輝さん!”. KADOKAWA (2022年10月24日). 2024年2月18日閲覧。
  15. ^ a b \メディア注目度急上昇マンガ!/『光が死んだ夏』、超ロングサイズ広告が阪急大阪梅田駅に出現! PV第3弾の担当声優には、KENNさん、前野智昭さんが登場!”. KADOKAWA (2022年10月17日). 2024年2月18日閲覧。
  16. ^ a b c このマンガ 2022, p. 21, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  17. ^ a b c ダ・ヴィンチ 2023, p. 135, 「モクモクれん×八木勇征(FANTASTICS)」
  18. ^ このマンガ 2022, p. 25, 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」
  19. ^ ダ・ヴィンチ 2023, p. 136, 「モクモクれん×八木勇征(FANTASTICS)」
  20. ^ 結果発表”. 次にくるマンガ大賞. KADOKAWA. 2024年2月18日閲覧。
  21. ^ “「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」が次にくるマンガ大賞のWebマンガ部門1位を獲得”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年8月31日). https://natalie.mu/comic/news/491812 2024年2月18日閲覧。 
  22. ^ Kono Manga ga Sugoi! Editors Unveil 2023 Rankings” (英語). Anime News Network. 2023年4月16日閲覧。
  23. ^ “このマンガがすごい!「光が死んだ夏」「天幕のジャードゥーガル」が今年の1位に”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年12月12日). https://natalie.mu/comic/news/504658 2024年2月18日閲覧。 
  24. ^ 全国書店員が選んだおすすめコミック”. 全国書店員が選んだおすすめコミック. 2023年4月27日閲覧。
  25. ^ “書店員が選んだおすすめコミック2023、第1位は眞藤雅興「ルリドラゴン」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年2月2日). https://natalie.mu/comic/news/511287 2024年2月18日閲覧。 
  26. ^ マンガ大賞2023”. マンガ大賞2023. 2023年4月27日閲覧。
  27. ^ “とよ田みのる「これ描いて死ね」マンガ大賞2023の大賞受賞”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年3月27日). https://natalie.mu/comic/news/518356 2024年2月18日閲覧。 
  28. ^ “荒川弘「黄泉のツガイ」が「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」の大賞に”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年9月27日). https://natalie.mu/comic/news/542753 2024年2月18日閲覧。 
  29. ^ CORPORATION, KADOKAWA. “光が死んだ夏 1”. KADOKAWAオフィシャルサイト. 2023年4月27日閲覧。
  30. ^ CORPORATION, KADOKAWA. “光が死んだ夏 2”. KADOKAWAオフィシャルサイト. 2023年4月27日閲覧。
  31. ^ CORPORATION, KADOKAWA. “光が死んだ夏 3”. KADOKAWAオフィシャルサイト. 2023年6月2日閲覧。
  32. ^ CORPORATION, KADOKAWA. “光が死んだ夏 4”. KADOKAWAオフィシャルサイト. 2023年12月6日閲覧。

参考文献[編集]

  • このマンガがすごい! 編集部『このマンガがすごい! 2023』宝島社、2022年12月14日。ISBN 978-4-299-03737-4 
    • 「SPECIAL INTERVIEW オトコ編第1位『光が死んだ夏』モクモクれん」18-25頁
  • 「モクモクれん×八木勇征(FANTASTICS)」『ダ・ヴィンチ』2024年11月号、KADOKAWA、2023年12月6日、134-137頁。 

外部リンク[編集]