ポセイドンのめざめ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポセイドンのめざめ
キング・クリムゾンスタジオ・アルバム
リリース
ジャンル プログレッシブ・ロック
時間
レーベル
プロデュース ロバート・フリップ & ピート・シンフィールド
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • 4位(イギリス)
  • 31位(アメリカ)
  • キング・クリムゾン アルバム 年表
    • ポセイドンのめざめ
    • (1970年 (1970)
    『ポセイドンのめざめ』収録のシングル
    1. Cat Food / Groon」
      リリース: 1970年3月13日 (1970-03-13)
    ミュージックビデオ
    「In The Wake Of Poseidon」 - YouTube
    テンプレートを表示

    ポセイドンのめざめ』(英語: In The Wake Of Poseidon)は、1970年に発表されたキング・クリムゾンのセカンド・アルバム。全英4位[1]・全米31位を記録。

    解説[編集]

    前年の1969年に発表されたデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』でバンドの主導権をロバート・フリップ(ギター)と二分していたイアン・マクドナルド(キーボード、管楽器、バック・ボーカル)がマイケル・ジャイルズ(ドラムス、バック・ボーカル)と共にアメリカ・ツアーが終了した12月に脱退。グレッグ・レイク(ベース・ギター、リード・ボーカル)もツアーで知り合ったザ・ナイスキース・エマーソンとグループを結成する為に脱退する決意をマネージメントに伝え、メンバーはフリップとピート・シンフィールド(作詞、ステージ照明)だけになってしまった。

    本作の制作に向けてメンバー探しが行なわれた。ボーカルはゲストの起用も検討された[注釈 1][2]が、結局レイクがエマーソンと合流する4月まで[注釈 2]脱退の事実を公表せずに、ボーカリスト専任で参加した。ベース・ギターは、ジャイルズの弟でレイクが加入する前に在籍していたピーター・ジャイルズが、レコーディングで譜面を見ながら演奏ができるという理由で招聘された。ドラムは、加入が内定した新ドラマーのアンドリュー・マカロックが前のバンドのスケジュールを消化しなければならなかったので、フリップに頼まれたジャイルズが担当した。この他、木管楽器奏者のメル・コリンズ、ジャズ・ピアニストのキース・ティペット、かつてザ・リーグ・オブ・ジェントルメンでフリップのバンド・メイトだったボーカリストのゴードン・ハスケルが参加し、フリップがギターとメロトロンとを担当した、オリジナルLPには、作詞を担当したシンフィールドを含めた8名の名前が現メンバー、旧メンバー、ゲストの区別なく表記された。

    3月にはトラフィックとのツアーも予定されていたので、半年間の契約でピーター・ジャイルズがベーシストとして参加する話し合いが持たれたが、報酬面で折り合いがつかずに決裂、ツアーもキャンセルされた。

    「冷たい街の情景」は、既に1969年 (1969)にオリジナル・ラインナップが「ア・マン、ア・シティ」という曲名で演奏していた[注釈 3]。次作『リザード』から正式メンバーと表記されるコリンズがサックスを担当。

    「ケイデンスとカスケイド」は、もともとマクドナルドが在籍中にシンフィールドの詞に曲をつけてほぼ完成させていたが、彼が脱退したので、フリップが新たな曲をつけて本作に収録した[3]。レイクは本曲のガイド・ボーカルを録音したが本番録音前に脱退。次作『リザード』で正式メンバーとしてベース・ギターとボーカルとを担当するゴードン・ハスケルが代わりに歌ったが、彼は歌詞の意味が理解できず、曲も「オーティス・レディングと違うな」と思い実力を発揮できなかったという[3]。フリップもハスケルの歌には批判的で、後に本曲を編集盤『紅伝説』に収録する際には、エイドリアン・ブリューの歌に差し替えている[3]。ティペットが参加し、コリンズがフルート・ソロを披露。

    「キャット・フード」は1969年11月 (1969-11)、アメリカ・ツアー中にあったマクドナルドとシンフィールドがシカゴからデトロイトへ向かう車中で書いたというロック・ナンバー。フリップは歌詞が気に入り、曲をすべて書き直したと主張、クレジットを"フリップ&シンフィールド"にしようとするが、それを聞きつけたマクドナルドが「フリップは少しのブリッジを書いただけ」と抗議。結果、3人の共作となった[3]。1970年3月13日 (1970-03-13)に先行シングルとして発売。B面にはアルバム未収録曲「グルーン」[注釈 4]が用いられ、ジャケットにはシンフィールドの飼い猫シンデレラの顔があしらわれた。ティペットのアバンギャルドなピアノが曲をオーソドックスなロック調から逸脱したものにしているが、ピーター・ジャイルズは、シングルがヒットしなかったのはそのピアノのせいだと主張している[3]。レイクが脱退する直前の1970年3月25日 (1970-03-25)、レイクが脱退する直前にBBCのテレビ番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演して、この曲の演奏(音源に合わせての当て振り)を披露している[3][4]。これは1981年 (1981)以前のキング・クリムゾン唯一の英国テレビ出演である。

    「デヴィルズ・トライアングル」は、「冷たい街の情景」と同じくオリジナル・ラインナップでのライブ・レパートリーだった、ホルスト作曲の組曲『惑星』の「マーズ」が原曲である。タイトルの使用許可がホルストの親族から降りなかったので[注釈 5]、シンフィールドが船や飛行機の事故が多いフロリダ沖の海域バミューダトライアングルになぞらえて改題した[3]。英国オリジナル盤のレーベル面では「デヴィルズ・トライアングル」、「マーデイ・モーン」、「ハンド・オブ・セイロン」、「ガーデン・オブ・ワーム」の4曲が単独曲としてクレジットされている。一方、米国盤では「デヴィルズ・トライアングル」が「マーデイ・モーン」、「ハンド・オブ・セイロン」、「ガーデン・オブ・ワーム」の3曲の挿入曲を含むとなっている。2013年 (2013)リリースの40周年記念エディションでは「デヴィルズ・トライアングル」が「パート1」〜「パート3」の3部からなる組曲となっている[3]。曲の分数表記がある米国盤の表記に従えば、冒頭から3分48秒までが「デヴィルズ・トライアングル」、続く3分11秒が「マーデイ・モーン」、続く吹きすさぶ風の音から不規則なメトロノームの音へ変化する49秒が「ハンド・オブ・セイロン」、最後の3分37秒が「ガーデン・オブ・ワーム」となる。「ガーデン・オブ・ワーム」の演奏は混迷の色合いを強め、前作のタイトル曲「クリムゾン・キングの宮殿」のワン・フレーズが挿入され[3]、カオス状態のままエンディングを迎える[3]。後にシンフィールドは組曲全体に対して「スペースの無駄」と発言している[3]

    イギリスではアルバム・チャートで第4位まで上がった。これは高い評価を受けた前作を上回る成績で、2022年の時点でキング・クリムゾンの全アルバムの中で最高位である[1]

    邦題『ポセイドンのめざめ』は、”In the wake of”の"wake"が動詞"wake"(「目覚める」)の名詞であるとしたことから生じた誤訳である[5]。名詞の"wake"は「航跡」、"in the wake of"は「…のあとに続いて」の意であり、正しい和訳は『ポセイドンの跡を追って』、『ポセイドンに続いて』である[5]。そのため、CD化以降は原題をそのままタイトルとする用いることが多くなった。タイトル曲は、甲田益也子が出演するANAのCMに使用された。

    収録曲[編集]

    SIDE A[編集]

    1. 平和 / 序章  – PEACE - A BEGINNING  – (0:51)
      Fripp / Sinfield
    2. 冷たい街の情景(インクルーディング:トレッドミル42番街[注釈 6])  – PICTURES OF A CITY (including 42nd at Treadmill)  – (7:57)
      Fripp / Sinfield
    3. ケイデンスとカスケイド  – CADENCE AND CASCADE  – (4:35)
      Fripp / Sinfield
    4. ポセイドンのめざめ(インクルーディング:リブラのテーマ)  – IN THE WAKE OF POSEIDON (including Libra's Theme)  – (8:24)
      Fripp / Sinfield

    SIDE B[編集]

    1. 平和 / テーマ  – PEACE - A THEME  – (1:15)
      Fripp
    2. キャット・フード  – CAT FOOD  – (4:52)
      Fripp / Sinfield / McDonald
    3. デヴィルズ・トライアングル  – THE DEVIL'S TRIANGLE  – (11:30)
      (i) マーデイ・モーン  – (a) MERDAY MORN  – (3:47)
      Fripp / McDonald
      (ii) ハンド・オブ・セイロン  – (b) HAND OF SCEIRON  – (4:01)
      Fripp
      (iii) ガーデン・オブ・ワーム  – (c) GARDEN OF WORM  – (3:45)
      Fripp
    4. 平和 / 終章  – "PEACE - AN END"  – (1:54)
      Fripp / Sinfield

    メンバー[編集]

    クレジット[編集]

    King Crimson
    Robert Fripp  – guitars, mellotron (tracks 2, 4, and 7), celesta (track 3), electric piano (track 7), devices, production
    Peter Sinfield  – words, production
     
    Former King Crimson personnel
    Michael Giles  – drums
    Greg Lake  – vocals (except track 3)
     
    Future King Crimson personnel
    Mel Collins  – saxophones (track 2), flute (track 3)
    Gordon Haskell  – vocals (track 3)
     
    Additional personnel
    Peter Giles  – bass guitar
    Keith Tippett  – piano
    Tony Page & Robin Thompson  – recording & engineering

    脚注[編集]

    注釈[編集]

    1. ^ マネージメントがフリップに相談なく、前年にデビューしたエルトン・ジョンとゲスト・ボ―カリストの契約を結んだ。その事を知ったフリップがジョンのデビュー・アルバムを聴き、不適格と判断して契約を取り消した。但し契約金は支払われたという。
    2. ^ エマーソンは契約履行の為に、4月までザ・ナイスで活動する必要があった。
    3. ^ エピタフ -1969年の追憶-』に収録。オリジナル・メンバー5人の共作となっている。
    4. ^ フリップ作。アルバムには収録されなかったが、ライブでは演奏されており、『アースバウンド』などで聴くことができる。また、後にベスト・アルバム『新世代への啓示』(en:A Young Person's Guide to King Crimson)に収録された。
    5. ^ レイクが後年在籍したエマーソン・レイク・アンド・パウエルアルバムでは、「火星」であることを明記した上でバンド・アレンジを施した作品が収録された。
    6. ^ 発表時の邦題は「踏み車の42番目」だった。

    出典[編集]

    1. ^ a b KING CRIMSON | Artist | Official Charts - 「Albums」をクリックすれば表示される
    2. ^ Smith, Sid (2019). In the Court of King Crimson: An Observation over Fifty Years. Panegyric. p. 77. ISBN 978-1916153004 
    3. ^ a b c d e f g h i j k 舩曳将仁「特集 キング・クリムゾン『セーラーズ・テールズ 1970-1972』」『レコード・コレクターズ』第37巻第2号、株式会社ミュージック・マガジン、2018年2月1日、66-69頁、JANコード 4910196370282“全曲ガイド『ポセイドンのめざめ』” 
    4. ^ キング・クリムゾン 70年3月英TV番組『Top Of The Pops』から「Cat Food」のパフォーマンス映像がYouTubeに”. amass (2015年1月9日). 2016年9月27日閲覧。
    5. ^ a b 髙岸冬詩「水面に浮かぶ言葉 : プログレアルバム試論『ポセイドンの航跡』」『ファーズ Phases』第3巻、首都大学東京大学院 人文科学研究科 表象文化論分野、2012年12月、22-28頁、NAID 120005514784 

    外部リンク[編集]