ドルビーノイズリダクションシステム

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ドルビーAタイプのNRモジュール Dolby 361
ドルビーB/C/SタイプのNRシステムを備えたカセットデッキ

ドルビーノイズリダクションシステム(Dolby Noise reduction System)とは、ドルビーラボラトリーズ社によって開発された音声雑音低減方式である。1966年に最初の実用システムが開発されて以来、ノイズリダクションシステムの主流として広く用いられている。

概要[編集]

システムには業務用のA、SR、民生機用のB、C、Sがある。B、C、Sはコンパクトカセット用デッキに搭載され、再生時に発生するテープヒスノイズを低減するのに用いられる。

ノイズリダクションを示す表記、或いは略記として「NR」(Noise reduction)と記述される事が多く、本項もそれに倣う。

ちなみに混同されやすいdbxは、dbx社が開発したノイズリダクションシステムであり、ドルビーとの関連性はない。

ドルビーAタイプ[編集]

最初に開発されたシステムで、主に業務用途での録音・再生に使用された。このシステムでは、20~20,000Hzを4分割して、各帯域で圧縮、伸張を行う。これにより、約10~15dBのS/N比の改善が得られる。

1966年にイギリスデッカ社が、自社のレコードのマスターテープに初めてこのシステムを導入した。映画音響の製作にも1970年代中期までにはAタイプのNRが導入されていた。ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』とスティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』をきっかけに、ドルビーAはサラウンド音声「ドルビーステレオ」にも本格的に使われるようになり、映画館の音質改善にも寄与した。

ドルビーBタイプ[編集]

Aタイプを基に簡略化し、民生用で使える仕様にしたもので、最も普及している。ヒスノイズが耳につく高い周波数の入力音声信号を、テープに記録する際にレベルを上げて記録(エンコード)し、再生するときには元のレベルに戻して再生(デコード)する。これにより、聴感上ヒスノイズが低減される。ただし単純にレベルを上げるだけでは、大きな入力レベルの時に飽和を起こしてしまい、まともに記録できない。そこで、大きな音の時にはノイズが聞こえにくいという、人間の耳のマスキング効果を利用し、入力レベルが大きい時には倍率を上げず、小さい時には倍率を上げる、圧縮記録の考え方を用いている。最も入力レベルが小さい時には150Hz付近からレベル上昇させ、5kHz付近でのS/N比が約10dB改善されるように設定されている。

メリットは、S/N比の改善、ダイナミックレンジの拡大である。デメリットは、テープまたはデッキの周波数特性に乱れがあるとそれが拡大される、録音時にバイアスと録音レベルの調整を正しく行わないと正しく再生されない、パンピング(動的副作用)と言って、パルス性の信号(キックドラム木琴などのように立ち上がりが速くて響きが時間的に短い音)に対して、再生時に追従しきれずにノイズが聞こえてしまう、などである。また、体感的な問題として、音がこもりやすいというのも良く挙げられる。

なお、デッキ(特にCタイプ登場前の比較的古いデッキ)に記載されているドルビーノイズリダクションの表記として、「DOLBY NR」や「DOLBY SYSTEM」と書かれているものは、このドルビーBタイプに相当する。

日本ビクターが開発したノイズリダクションシステム「ANRS」は、このドルビーBタイプと互換性がある。

ドルビーCタイプ[編集]

民生用。概念的にはBタイプノイズリダクションシステムを2回通したのと同じで、効果も2倍である。ドルビーBタイプは高域のみのノイズ低減効果を実現したものだが、Cタイプでは高音に加え中音域のノイズ低減も実現している。

さらにCタイプでは、過大信号が入力されたときに磁気飽和することを防ぐ目的で伸張操作を行い(アンチサチュレーション)、これにより歪みにくくなる。これらの操作により、入力信号のスペクトラムの山谷は小さくなる。その結果録音レベルを高く設定することができ、より高いノイズ低減効果を得ることができる。

ノイズリダクションの効果がBタイプより大きいため、ノイズリダクションを経由すると発生する音質の変化もBタイプに比べて大きくなるデメリットがある。

Bタイプとの互換性はないため、Cタイプで記録したテープをBタイプしか装備していない再生(録再)機器で再生すると、高域が目立つ再生音になり、逆にBタイプで記録したテープをCタイプ対応の再生機器で「Cタイプのスイッチを入れて再生」すると、逆に高域がこもった再生音になる。ただし、Cタイプの回路をBタイプに切り替えることは簡単であることから、Cタイプの内蔵機器のほとんどは、Bタイプにも対応している。

ラジカセヘッドホンステレオなどのローエンド機やカーオーディオまで幅広く普及したBタイプに比べ、Cタイプは中~高級機でのみの搭載となる事が多い。

ちなみに、日本においてバブル景気全盛の1980年代末期~1990年代最初期には、ごく一部の高価格帯のCDラジカセやヘッドホンステレオなどにもCタイプが搭載されていた。

ドルビーSRタイプ[編集]

1986年発表の業務用のノイズリダクションシステム。"SR"は"Spectral Recording"の略。ドルビーA、B、Cタイプのデメリットを改善して作られた。映画のサウンドトラックも、このSRの登場でサラウンド音声も「ドルビーステレオSR」に進化した。

デジタル録音が1980年代には普及し始めるが、ドルビーSRは高価なデジタル録音システムに負けない高音質を得られたため、録音スタジオミュージシャンが好んで使用した。映画音響でも、デジタルサウンドトラックの多チャンネル化が進んでもなお、ドルビーSRを使用したアナログサウンドトラックが併せてフィルムに付けられている。

ドルビーSタイプ[編集]

1990年に登場。業務用のドルビーSRタイプノイズリダクションシステム(下記参照)を、民生機用に設計し直した規格。

低音域でもノイズリダクション効果があり、原理的にパンピング(動的副作用)が発生しない。Bタイプと聴感的な互換性があり、Sタイプで録音したテープがBタイプでもさほど違和感なく再生ができる(事実上の簡易再生)というメリットがある。勿論、Sタイプで録音したテープは、Sタイプを備えたテープレコーダーで高忠実再生が可能となる。

しかし、ドルビーSが登場して間も無く、MDDCCといった新しい圧縮系コーデックの民生用デジタル録再機が台頭し始めたことや、初期のドルビーS基板は回路構成が複雑で高価だったことから、搭載製品はかつてのB・Cタイプほどの普及までには至らず、短命に終わった。

MPXフィルター[編集]

FMやアナログ地上波テレビの放送で使用される19kHzのパイロット信号はドルビーNRの高周波レベル検出時に誤作動の原因となるため、マルチプレックス(MPX)フィルターが必要になる。急峻な特性でハイカットを行うため音質への影響は避けられずMPXのON/OFFが切替えられるFMチューナーやカセットデッキも珍しくないが、仕様上MPXフィルターを搭載しながらON/OFF切替機能を持たない廉価なカセットデッキではタイプB/C/SのドルビーNR回路と連動するMPXフィルターがワンチップに統合されたICが使われ、ドルビーNRがONになっている限り15~19kHzより高い周波数は一律でカットされていた。

ドルビーと映画[編集]

関連項目[編集]