デジタルコンパクトカセット

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DCC
DCC

デジタルコンパクトカセット: Digital Compact CassetteDCC)は、フィリップス松下電器産業(現:パナソニック)が共同で開発し、1992年に発表したオーディオ規格である。

概要[編集]

アナログコンパクトカセット(Cカセット、カセットテープ)と同サイズのテープに、PASC(Precision Adaptive Subband Coding)形式(MPEG-1/2 Audio Layer-1)で圧縮されたデジタルデータを固定ヘッド方式で記録する。PASCにより、CDなどの音源を約1/4の容量に圧縮できる。サンプリング周波数は48kHz、44.1kHz、32kHzに対応していて、デジタル・コピーはSCMS方式を採用している。

なお、DAT(R-DAT・回転ヘッド)規格制定時に、固定ヘッドを用いるS-DATと呼ばれる規格が策定されていた。S-DATは商品化されず、また、DCCはS-DATそのものではない。DCCは、S-DATからみてヘッドを簡略化され圧縮音声が採用されている別の規格である。音質面では、同時期に登場した日本独自のメディアフォーマットであるミニディスク(MD)に比べて理論的(机上論)に良いと言われた時期もあった。しかし、その後MDは各社の技術開発により飛躍的な音質向上を遂げたのに対し、DCCは、メーカー各社が開発・生産から早々に撤退した不運も重なり、その後の音質向上は進展しなかった。規格化時点が、圧縮音声技術にとって黎明期だったこともあり、DCCは、2000年代以降に登場した今日のデジタル機器と比較して音質的に満足することが難しい。

特徴[編集]

  • DCCのカセットハーフは縦横の寸法はコンパクトカセットとまったく同じになっている。厚みは、コンパクトカセット用の8.7mmに対して、DCC用は9.6mmになっている。
  • テープの走行速度もコンパクトカセットと同じ0.0476m/sになっている。
  • オートリバース方式を採用しているので、テープを駆動するためのハブ穴は片面だけに開けられており、カセットハーフの片面は完全にフラットである。ハブ穴はレーベル面の反対側、カセットの裏側に設けられる。この穴とテープローディング用の窓は、普段はスライダーと呼ばれる金属製のシャッターで覆われており、テープをデッキにマウントした時だけ自動的に開くようになっている。これは、DCCのトラック幅は非常に細くなっており、少々のゴミやホコリ、指紋などがついてもドロップアウトの原因になるので、そういったホコリや汚れ、破損などからテープを保護するために設けられている。それと同時に、このシャッターが閉じられているとリールが空転しないようにロックされるので、そのまま持ち歩いても振動などでテープが緩まないようになっている。
  • カセットハーフには、DCCかコンパクトカセットかを識別するための穴がある。この穴が開いていればDCC、開いてなければコンパクトカセットと、デッキ内の回路が自動で切り替わるようになっている。これを逆手に取り、DCCの入手が難しい現在では、コンパクトカセットに穴を開けDCCとして誤認識させ録音再生する方法も、自己責任レベルで存在する。
  • ブランクテープには、制御信号の記録用トラックの一部に文字情報を記入するスペースが設けられている。アルファベットで160字、日本語では80字程度の文字情報を、各曲の頭の部分に4種類の情報(曲名、アーティスト名など、各40文字ずつ)に分けて記録できる。
  • オートリバース方式なので、テープ幅を上下に分け、片道にオーディオ信号用8トラック、コントロール信号用1トラックの計9トラックが記録される。
  • DCCに採用されているヘッドの基本構造は、テープの上半分の部分にDCC用の録音ヘッドと再生ヘッド、テープの下半分の部分にコンパクトカセット用の再生ヘッドで構成されている。DCCでもコンパクトカセットでもAセクタ(A面)を再生する場合は、ヘッドはこの状態(上半分がDCC用ヘッド、下半分がコンパクトカセット用ヘッド)でテープを走行させ、Bセクタ(B面)を再生する場合はヘッドを反転させてテープを走行させる。
  • DCCには、録音済みのテープに別の録音をする時には、そのまま前の録音に重ねて録音していけば自然に書き換えができるようになっているオーバーライト方式を採用しているため、消去ヘッドの搭載は必要ない。DCCデッキでコンパクトカセットでの録音ができないのはこのためだと推測される。
  • DCCの再生ヘッド(70μm)は録音ヘッド(185μm)より細くなっており、多少の蛇行があっても正しく再生できるようになっている。そのため、今までのコンパクトカセット用の精度のメカニズムであっても差し支えがないようになっている。
  • DCCデッキのコンパクトカセット用の再生ヘッドは半導体製造用の薄膜技術で製造されており、ヘッドギャップが1μmの数分の1まで狭くできるため高域特性に優れており、低音も従来のインダクティブヘッドより低い周波数から再生できる。この薄膜ヘッドを応用したアナログコンパクトカセットデッキ(Technics RS-AZ7)も発売されている。

テープ[編集]

カセットテープとの互換性を重視して開発されており、DCC機器ではカセットテープがそのまま再生可能である。フィリップスはBASF(ビー・エー・エス・エフ)社にDCCテープの開発を依頼し、DCC専用に開発された二酸化クロムを採用して発売した。フィリップスが二酸化クロムを採用した理由は、メタルテープ用のメタルパウダーを作る会社がヨーロッパにはないこと、また、ミュージックテープを作成する場合に熱転写が容易であるからである。DCCテープの製造会社は独BASF社のみである。日本では日本のテープメーカーの独BASF社のOEMで発売されただけである。そのためコバルト被着型酸化鉄のDCCテープは存在しない。日本のテープメーカーもDCCテープの開発をしていたが、市場が縮小した結果、開発を中止した。国産テープメーカーはコバルト被着型酸化鉄で設計を進めていたが、開発段階で中止となったため市場に出回ることはなかった。DCC用の磁性粉はS-VHS並の超微粒子を使用しなければ必要なC/N比が確保できなかったため、オーディオ用の大きな磁性粉は使えない。BASFの二酸化クロムの粒子サイズもかなり微細である。どちらも長軸はサブミクロンの領域である。

日本国内でDCCテープを発売したのはパナソニック(松下電器産業)、日立マクセルAXIA富士フイルム)、日本ビクター。輸入品としてフィリップスも発売された。

主な機種[編集]

パナソニック
  • RS-DC10、RS-DC8
  • RS-DCM1(ミニコンポサイズ)
  • RX-DD1、RX-DD2(ラジカセタイプ)
  • RQ-DP7(ポータブルタイプ、再生のみ)
  • RQ-DR9(ポータブルタイプ、録音再生)
  • SC-CH505D(DCC搭載ミニコンポ)
  • CQ-DC1D(カーオーディオタイプ)
フィリップス
  • DCC900、DCC600
  • DCC130、DCC134(ポータブルタイプ、再生のみ)
  • DCC170、DCC175(ポータブルタイプ、録音再生)
  • DCC730、DCC951(日本未発売)
日本マランツ
  • DD-92、DD-82
日本ビクター
  • ZD-V919
  • ZD-1(ポータブルタイプ、再生のみ)

共存戦略[編集]

DCCは1992年に蘭フィリップス社と日本の松下電器産業(現:パナソニック)が共同で開発した。一方で、日本のソニーもMDを同年に開発している。

2つの陣営の3社は、ほぼ同一の市場に向けた2つの異なる規格による製品群を送り出すことで、自らが敗者となることを恐れた。3社は可能ならば両規格が共存することを望み、最悪でもいずれか片方が絶対的な敗者となる危険性を避けるために、当初から3社によって2つの規格を共同ライセンスしていた。MDとDCCのいずれが普及するかに関わらず、フィリップス、松下、ソニーは共同ライセンスすることで、莫大なライセンス料の支払いという意味での敗者になることを避けた[1]

これにより両陣営は、市場で競争を演じることもなく、DCC陣営だった松下とフィリップスの2社が、市場が選んだMDをすんなりと採用したことで、DCCは消えて行った。

規格争いと終焉[編集]

1992年9月、第1号機であるパナソニックRS-DC10(定価135,000円・税別)とフィリップスDCC900(定価115,000円・税別)が発売された。いずれも比較的大型の据置型カセットデッキである。

1992年11月、ソニーがMDレコーダーの第1号機MZ-1(定価79,800円・税別)を発売。こちらは重量520gのポータブル型である。また、すでに登場から5年が経過していたDATは値下がりが進んでおり、1991年5月発売のパイオニアD-50の定価は85,000円(税別)、1992年10月発売のソニーDTC-59ESの定価は95,000円(税別)だった。

このように、すでに発売当初から価格・大きさの両面で明らかに競争力が不足していた。MDがディスク形式ならではの使い勝手をアピールしたのに対し、DCCは以下の理由から、MDはおろか同じテープメディアのDATにも劣っており、最後まで一般に普及することはなかった。

  • テープ形式の制約を引きずっていたおり、使い勝手はMDはおろか、DATにも大きく劣っていた。高速なランダムアクセスが出来ず、終端の曲まで一分以上のアクセス時間が掛かる場合もあり、同じ分数のメディアで比較すればDATよりも更にアクセス時間が長かった。早送り・巻き戻し時に音を出しながらサーチ出来ないため、曲間を探すのが面倒だった。
  • 売りだった従来のコンパクトカセットとの互換性が足かせとなる場合もあった。コンパクトカセットはDCCデッキで録音ができなかったほか、多用するとコンパクトカセットから剥がれ落ちた微細な磁性体やヘッドの磨耗により、すぐにDCCカセットでの録音や再生に物理的なエラーが生じる問題が出ていた。
  • DCC専用テープの低価格化が進まなかった。発売当初はMDよりも安かったが、その後MDは普及により量産化と低価格化が進んだのに対し、DCCテープは早い段階で縮小・撤退したため、量産化が進まず価格が高止まりしており、相対的にDAT用のテープよりも割高感が強かった。
  • 発売当初に据え置き機しか用意できず、ポータブル機の割合もDATより少なかった。特に録再ポータブルは発売が大きく遅れ、録再ポータブルからスタートしたMDに対しゼネラルオーディオ市場で大きく遅れをとった。

さらに1990年代後期には開発元の一つであるパナソニックもMDに参入。パイオニアからDCCに対抗する意味合いで、デジタル・プロセッシング・システム(アナログ→デジタル→アナログ変換)による録音・再生を実現したアナログ(コンパクトカセット)デッキであるT-WD5R、T-D7[2]、T-N901の計3機種が1997年12月に発売。これによって止めを刺され、2000年までに全ての参入メーカーがハードウェア機器の生産を終えた。

脚注[編集]

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  1. ^ 米山秀隆著、『勝ち残るための技術標準化戦略』、富士通総研、2003年5月30日初版第1版、ISBN 4526051357、92-93頁/112頁
  2. ^ パイオニア デジタル・プロセッシング・システム搭載3ヘッドシングルカセットデッキ「T-D7」

関連項目[編集]

外部リンク[編集]