アブロ バルカン

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アブロ バルカン

1985年に実演中のバルカン B.2

1985年に実演中のバルカン B.2

アブロ バルカンAvro Vulcan)は、イギリス航空機メーカーのアブロ社が開発し、イギリス空軍が使用した戦略爆撃機

いわゆる3Vボマーの一つで、冷戦期に核武装して配備された他、フォークランド紛争では通常の爆撃任務にも就いた。

開発[編集]

バルカン B1 XA890

1947年軍需省調達仕様B.35/46が提示された。これは初期の原子爆弾に等しい4,500 kg(10,000ポンド)のペイロードを積み、最高速度925 km/h(575 mph)、上昇限度15,000 m(50,000フィート)、航続距離5,556 km(3,452マイル)のスペックで、ソビエト連邦への侵攻を想定したものだった。同調達仕様には、アブロ以外にもハンドレページショートの両社が呼応し、更に1948年にはバックアップ目的で別の調達仕様B.9/48が提示され、これにはヴィッカースが応じた。

レシプロ4発重爆アブロ ランカスター等で実績のあるアブロ(バルカン)と、ハンドレページ(ヴィクター)、ヴィッカース(ヴァリアント)の3機種が選定され、軍需省から同時に発注された。

ロイ・チャドウィック指揮の下で基礎設計が始まったバルカンは、未経験のデルタ翼の飛行特性を確認する目的で、スケールダウンモデルAvro 7071948年に先行試作された。大推力エンジンの実用化が遅延した事も相まって開発には慎重が期された。

1952年8月30日ロールス・ロイス エイヴォンを搭載した原型機の698型が初飛行し、直ちにバルカンと命名されて翌年のファーンボロー国際航空ショーに出展した。当所計画では当時最強力級のブリストル オリンパスを予定していたが、完成が遅れていたため試作機にはアームストロング・シドレー サファイアも搭載された。

試験中、高速高高度飛行に際して主翼のバフェッティングが発生したが、外翼の前縁を延長することで解決した。

バルカンの翼平面形比較。赤実線が原型、赤点線がフェイズ2、黄色がフェイズ2Cを示す

特徴[編集]

正面から見たバルカン B.2

イギリス実用機初のデルタ翼を採用し、軽量、低抵抗と翼内スペースを利して長大な航続距離を狙った。計画の初期段階では垂直尾翼すら廃した完全な無尾翼機だったが、間もなく垂直尾翼が追加され、爆弾倉は胴体内に設けられた。高々度飛行のため低翼面荷重が採用された結果、1955年のファーンボローでは離陸直後にバレルロールしてみせるなど、低空でも異例な軽快性を誇った。


副次的な特徴として、特定の角度では機影がレーダーに映りにくい事も発見された。[1] また主翼面積が大きいため、地表効果の生じる超低空では気圧式高度計が誤作動することが事故の結果明らかになり、レーダー式高度計が新規に開発された。

コックピットからの後部視界が皆無なため、方向舵エレボンの状態を示す専用表示器やテレビモニタが設けられ、またシステム士官 (AEO) はペリスコープを介して爆弾倉扉と下方を視認できた。

バルカンはテストベッドとしても利用された。1961年ホーカー・シドレー トライデントBAC 1-11向けに開発された世界初の実用ターボファン・エンジンであるロールス・ロイス スペイ、また1966年にはコンコルド向けのオリンパス 593、更に1973年にはパナヴィア トーネード用のRB199を各々搭載し試験した。

運用史[編集]

1956年9月にイギリス空軍は、最初のバルカン B.1 (XA897) を受領した。すぐさま発揚のため世界一周に出発し1956年10月1日に一周を完了したが、ロンドンヒースロー空港への着陸時にXA897は事故で破損した。B.2は1957年に初飛行し、1960年に空軍で運用を開始された。

核抑止[編集]

爆弾倉を開いた状態のバルカン B.1A

イギリス単独の核抑止力として、最初にブルー・ダニューブを搭載した。ブルー・ダニューブは核分裂によるエネルギーを使用する核爆弾であった。イギリスは水素爆弾の開発に乗り出し、これらが準備ができるまでの繋ぎとして、ブルー・ダニューブとグリーン・グラスなど400 ktの核出力をもつ強力だが重い核爆弾を装備した。

最初の水素爆弾イエロー・サンは、アメリカ製Mk 28核弾頭のイギリス向けレッド・スノーを搭載した。バルカン以外にもハンドレページ ヴィクターにもイエロー・サンは搭載された。より小型のレッドベアードは、1962年からキプロスシンガポールにおいてバルカンとヴィクターによって運用された。バルカン B.2Aには、スタンドオフミサイルであるブルースティール Mk.Iを搭載した。1962年のキューバ危機の際には、ソ連への攻撃に備えて緊急即応体制が取られている。

初期のころは核爆発の閃光から自身を守るため全面を白色に塗装し、国籍マークも薄く描かれていた。その後ソ連が地対空ミサイルの配備を進めると、ソ連領空外から目標を射程に収めるアメリカ製空中発射弾道ミサイルスカイボルトの配備も計画した。しかし、ブルースチール Mk.Iの退役、同Mk.IIの開発中止、およびスカイボルトの取得失敗によって、イギリスの核抑止は戦略原潜から発射されるポラリスSLBMが主となった。バルカンの主任務は、低空侵攻による自由落下核爆弾WE177による戦術核攻撃となり、迷彩塗装も施された。なお、1960年に行われたスカイシールド演習では、キューバを発進したソ連の爆撃機を模した仮想敵機役を務め、優れた低空侵攻能力とECMによりアメリカ合衆国の防空網を突破してニューヨーク上空への進入に成功している。

洋上哨戒[編集]

1973年11月1日に洋上レーダー偵察機として使用するため改修されたB.2 (MRR)は、スキャプトン空軍基地第27飛行隊に配備された。主な外観の違いは、光沢塗装と対空カメラ、燃料補給ブローブ、シンブル機尾レーダー (地形追従レーダー:TFR) などである。B.2 (MRR)のうち、5機は空気サンプリングが可能で、これらの機には翼端のハードポイントに機材が取り付けられた。他にも増槽や機首の大型化などの改修がなされた。どちらの任務でも高高度での運用であったため、TFRは撤去された。

1970年代後期、他の飛行隊と交代された。1982年3月31日には、空中給油機に改修された少数機を残し、B.2 (MRR)は退役した。

通常爆撃[編集]

アセンション島に帰還するバルカン

バルカンの主要装備は核爆弾であったが、454 kg (1,000 lb) 通常爆弾約20発を装備して二次的な役割である通常爆撃を行うこともできた。1982年にフォークランド紛争が勃発すると、通常爆弾を用いてポートスタンリーを攻撃することが決定した。滑走路レーダーサイト地対空ミサイル発射機の爆撃などが任務となったが、後に滑走路攻撃を除いてキャンセルされた。

5機のバルカンが爆弾倉の改造、空中給油システムの復旧、電子機器の更新を受けた。改修は1982年4月9日から始まり、翼下のパイロンと翼端にハードポイントが設計、製造され、ECMポッドとシュライク対レーダーミサイルが装備された。

バルカンは1982年4月30日アセンション島から出撃し、途中ヴィクターからの空中給油を受けつつ、長駆6,300 kmを飛行し、爆撃に成功した。5月1日にも同じくアセンション島から出撃して爆撃を行い、無事帰還した。これがバルカンにとっての唯一の実戦任務となった。

空中給油[編集]

フォークランド紛争の終結後、バルカンは空軍から退役することになっていた。しかし、第57飛行隊の解散とロッキード トライスターの有用な運用が遅れ、ブラック・バック作戦において複雑な空中給油に成功したことから、バルカンは空中給油機として運用が続けられることになった。

臨時の処置として、6機のバルカン B.2の胴体後部上にHDU (Hose drum unit) ボックスを付け加える改修がなされた。粗雑な改修であったが、ECMは取り除かれ、HDUボックスとその他の追加装備が機能を補完した。

1982年6月23日、最初のバルカン (XH561) がウォディントン空軍基地へ送られた。1982年から1984年までバルカン K.2として第50飛行隊で運用された。さらに少数機が燃料積載量を増強するため、爆弾倉に燃料タンクを設けられ、総燃料積載量は45,000 kgとなった。

再び空へ[編集]

ファンボロー航空ショーで着陸する XH558 号機 2008年6月

1984年3月をもって第50飛行隊のB.2とK.2が退役し、全てのバルカンが退役した。その後長らくバルカンが空を飛ぶことはなかったが、展示用として良好に保存されていた XH558 号機が「Vulcan to the Sky」プロジェクトの下で改修のための寄付を募り、再び空を目指した。一時期は資金難から計画そのものが危ぶまれたが、個人としては最高額の 50万ポンドを提供したジャック・ヘイワード卿を含め、最終的に 136万ポンドの資金が集まった結果 XH558 は2007年10月18日に再飛行を果たし、その後も航空ショーに出演している。

派生型[編集]

B Mk. 1
初期量産型。
B Mk. 2
B.1の発展型。
B Mk. 1a
B.1のB.2規格へ改修。
B Mk. 2a
B.2の改修。
B Mk. 2 (MRR)/SR 2
洋上レーダー偵察機。11機がB.2より改修。
B Mk. 2 K
空対空給油機。6機がB.2とB.2 (MRR)より改修。

配備[編集]

ミルデンホール空軍基地で展示中のバルカン B.2
  • Ensign of the Royal Air Force.svg イギリス空軍
    • 第9飛行隊:B.2 (1962 - 1982) 装備
    • 第12飛行隊:B.2 (1962 - 1967) 装備
    • 第27飛行隊:B.2 (1961 - 1972), B.2(MRR) (1973 - 1982) 装備
    • 第35飛行隊:B.2 (1962 - 1982) 装備
    • 第44飛行隊:B.1 (1960 - 1967), B.2 (1966 - 1982) 装備
    • 第50飛行隊:B.1 (1961 - 1966), B.2 (1966 - 1984), B.2(K) (1982 - 1984) 装備
    • 第83飛行隊:B.1 (1957 - 1960), B.2 (1960 - 1969) 装備
    • 第101飛行隊:B.1 (1957 - 1967), B.2 (1967 - 1982) 装備
    • 第617飛行隊:B.1 (1958 - 1961), B.2 (1961 - 1981) 装備
    • 第230機種転換部隊

スペック[編集]

2008年時に飛行可能なバルカン B.2 XH558

出典: Aerospaceweb.org, etc

諸元

  • 乗員: 5名 (操縦士、副操縦士、航空電子士官、レーダー航法者、進路設定者)
  • 全長: 29.59 m (97 ft 1 in)
  • 全高: 8.0 m (26 ft 6 in)
  • 翼幅: 99 ft 5 in
  • 翼面積: 330.2 m² (3554 ft²)
  • 空虚重量: 乗員含む 37,144 kg (83,573 lb)
  • 最大離陸重量: 77,111 kg (170,000 lb)
  • 動力: ブリストル オリンパス 101, 102, 104 ターボジェット、49 kN (11,000 lbf) × 4

性能

  • 最大速度: 830 km/h (0.96 マッハ) 高高度時 1,040 km/h
  • 巡航速度: 567 mph, 971 km/h (0.86 マッハ) 45,000 ft時
  • 航続距離: 4,171 km (2,607 mi)
  • 実用上昇限度: 16,760 m (55,000 ft)
  • 推力重量比: 0.31

武装

  • 通常爆弾 9,500 kg または 核爆弾 1発
お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

派生型[編集]

B.1 B.1A B.2 B.2A (B.2BS) B.2 (MRR) / K
翼幅 30.3 m (99 ft 5 in) 33.8 m (111 ft 0 in)
全長 29.6 m (97 ft 1 in) 30.5 m (99 ft 11 in) 32.2 m (105 ft 6 in) 30.5 m (99 ft 11 in)
全高 8.1 m (8.1 m) 8.3 m (27 ft 1 in)
翼面積 3,554 ft² 3,964 ft²
最大離陸重量 86,000 kg (190,000 lb) 93,000 kg (204,000 lb)
巡航速度 マッハ 0.86 (610 mph)
最大速度 マッハ 0.93 (632 mph) マッハ 0.92 (625 mph)
航続距離 3,910 mi (3,395 nm, 6,293 km) 4,600 mi (3,995 nm, 7,402 km)
上昇限度 17,000 m (55,000 ft) 18,000 m (60,000 ft)
エンジン ブリストル シドレー
オリンパス 101, 102, 104 × 4
ブリストル シドレー
オリンパス 201, 202, 203 × 4
ブリストル シドレー
オリンパス 201, 202, 203, 301 × 4
ブリストル シドレー
オリンパス 201, 202, 203 × 4
燃料積載量 9,250 ガロン 9,260 ガロン
武装 核弾頭を搭載した核爆弾
または 450 kg 爆弾 × 21
ブルースチール 核ミサイル × 1
または AGM-48 スカイボルト ミサイル × 2
または 450 kg 爆弾 × 21
なし

出典[編集]

  1. ^ Sweetman, Bill. "The Bomber that radar cannot see." New Scientist, 4 March 1982.
  • Halpenny, Bruce Barrymore. Avro Vulcan: The History and Development of a Classic Jet. Pen & Sword Aviation, 2006. ISBN 1-84415-426-2.
  • Laming, Tim. The Vulcan Story 1952-2002, Second Edition. Enderby, Leicester, UK: Silverdale Books, 2002. ISBN 1-85605-701-1.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]