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[[File:Atkins meal.jpg|thumb|アトキンスダイエットに基づく食事]]
[[File:Atkins meal.jpg|thumb|アトキンスダイエットに基づく食事の一例]]
'''低炭水化物ダイエット'''(ていたんすいかぶつダイエット、low-carbohydrate diets)とは、[[肥満]]の治療を目的として[[炭水化物]]の摂取比率や摂取量を制限する[[食事療法]]である。'''低糖質食'''、'''糖質制限食'''<ref>{{Cite journal |和書|author=江部康二|title=低糖質食(糖質制限食 carbohydrate restriction)の意義|url=http://www.pieronline.jp/content/article/0022-1961/105010/100;jsessionid=1pn50akttvuk.x-sunmedia-live-01|date=2010|journal=内科|volume=105|issue=1|pages=100-103}}</ref><ref>{{Cite journal |和書|author1=江部康二 |date=2013 |title=低炭水化物食(糖質制限食)の有効性と安全性|journal=女子栄養大学栄養科学研究所年報 |issue=19 |pages=37-50 |naid=40019899863}}</ref>、'''ローカーボ・ダイエット'''、またそれをさらに短縮して'''ロカボ'''とも呼ばれる。本質的には炭水化物で摂取していたエネルギーを[[タンパク質]]と[[脂質]]に置き換える食事法である。


'''低炭水化物ダイエット'''(ていたんすいかぶつダイエット、low-carbohydrate diets)とは、[[肥満]]や[[糖尿病]]の治療を目的として[[炭水化物]]の摂取比率や摂取量を制限する[[食事療法]]である。'''低糖質食'''、'''糖質制限食'''<ref>{{Cite journal |和書|author=江部康二|title=低糖質食(糖質制限食 carbohydrate restriction)の意義|url=http://www.pieronline.jp/content/article/0022-1961/105010/100;jsessionid=1pn50akttvuk.x-sunmedia-live-01|date=2010|journal=内科|volume=105|issue=1|pages=100-103}}</ref><ref>{{Cite journal |和書|author1=江部康二 |date=2013 |title=低炭水化物食(糖質制限食)の有効性と安全性|journal=女子栄養大学栄養科学研究所年報 |issue=19 |pages=37-50 |naid=40019899863}}</ref>、'''炭水化物制限食'''、'''ローカーボ・ダイエット'''(→これをさらに短縮して'''ロカボ'''とも呼ばれる)。炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を減らす代わりに、[[タンパク質]]と[[脂肪]]が豊富な食べ物を積極的に食べる食事法である。
通常、推奨される炭水化物の摂取基準は60パーセント前後である。[[世界保健機関]]は55-75パーセントの範囲を目標としている<ref name="whofao2003">Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation ''[http://www.fao.org/docrep/005/ac911e/ac911e00.htm Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases]'', 2003</ref>。[[アトキンスダイエット]]のように炭水化物を厳しく制限する食事法や、もう少しゆるく制限する食事法もある。


現代において、炭水化物の摂取割合は60パーセント以上、と推奨されている。[[世界保健機関]]は、ヒトが摂取する栄養素のうち、全体の55~75%を炭水化物にするよう発表している<ref name="whofao2003">Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation ''[http://www.fao.org/docrep/005/ac911e/ac911e00.htm Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases]'', 2003</ref>が、[[2015年]][[3月]]には糖分の1日の摂取量について「摂取エネルギーの10%以下、できれば5%以下(ティースプーン約6杯分、25g以下)に抑えるべき」との勧告を発表している<ref name=WHOMarch2015>[http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/149782/1/9789241549028_eng.pdf ''Guideline: Sugars intake for adults and children''], Geneva: World Health Organization, March 2015.</ref>{{rp|4}}<ref>[http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2015/sugar-guideline/en/ "WHO calls on countries to reduce sugars intake among adults and children"], World Health Organization, press release, 4 March 2015.</ref>。[[ロバート・アトキンス]]が提唱した[[アトキンスダイエット]]のように、炭水化物の摂取を厳しく制限する食事法や、摂取制限を緩くする食事法もあり、摂取量については個人差がある。
体重をコントロールする目的での炭水化物摂取制限には人気があるが、その長期的な健康上の利点やリスクについては議論されている。低炭水化物ダイエットは、6ヶ月の短期間では[[低脂肪食]]と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり<ref name="pmid12761365"/>、併せて便秘や頭痛<ref name="SondikeCopperman2003"/><ref name="YancyOlsen2004"/>、口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られるとの報告がある<ref name="YancyOlsen2004"/>。[[糖尿病]]治療の目的もあるが、2013年に[[日本糖尿病学会]]は推奨できないと提言した<ref name=jds/>。


この食事法においては、1日糖質50グラム以下という極端な糖質制限を課す<ref name=tashiro>{{Cite journal |和書|author=田代淳|title=学術研究 最近の糖尿病治療・食事療法の考え方|url=http://www.eiyou-chiba.or.jp/wp-content/uploads/2014/05/zassiNo.11.pdf|format=pdf|date=2013-12-10|journal=千葉県栄養士会雑誌|issue=11|pages=2-3}}</ref>が、アトキンスが提唱している「炭水化物の1日の摂取量は20g以内」である。
==種類==
1863年に、ウィリアム・バンティングは肥満に悩み炭水化物を制限する食事法を思いつき数ヶ月実践し、その効果を『大衆にあてた肥満についての手紙』にてロンドンで出版した。<ref name="news200401">{{Cite journal |和書|author=[[ウォルター・ウィレット]]、パトリック・スケレット |title=炭水化物を見方にダイエット |date=2004-01-28 |journal=ニューズウィーク日本版 |volume=|issue=|pages=42-45 }}</ref>。売れ行きはまずまずであった<ref name="news200401"/>。1970年代には、アトキンスの食事法が提唱された<ref name="news200401"/>。2003年には、アトキンスダイエットの解説書はシリーズ累計1400万部、ゾーンダイエットでは累計400万部が販売された<ref name="news200307">{{Cite journal |和書|author=|title=ダイエット大論争 |date=2003-07-16 |journal=ニューズウィーク日本版 |volume=|issue=|pages=46 }}</ref>。


体重をコントロールする目的での炭水化物摂取制限には人気があるが、その長期的な健康上の利点やリスクについては議論されている。低炭水化物ダイエットは、6ヶ月の短期間では[[低脂肪食]]と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり<ref name="pmid12761365"/>、併せて便秘や頭痛<ref name="SondikeCopperman2003"/><ref name="YancyOlsen2004"/>、口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られるとの報告がある<ref name="YancyOlsen2004"/>。[[糖尿病]]治療の目的もあるが、2013年に[[日本糖尿病学会]]は推奨できないと提言した<ref name=jds/>。
===アトキンスダイエット===
{{main|アトキンスダイエット}}
1972年に{{仮リンク|ロバート・アトキンス|en|Robert Atkins (nutritionist)}}は、肥満をひきおこすのは炭水化物だと著書 ''Diet Revolution'' で提唱し、ステーキ、卵、バターなどを望むまま食べながら体重を減らすことができると説いた<ref name=nyt2002/>。炭水化物をできるだけとらない<ref name="日経2000"/>。最初の2週間は野菜さえも制限する<ref name="news200307"/>。この著書の販売数は数百万部を超えた<ref name=nyt2002/>。この[[アトキンスダイエット]]は1970年代に流行し、2013年時点で再び流行している<ref name=pcrm/>。2003年のイギリスのアンケートによれば300万人が、米国では11人に1人がアトキンスダイエットを試したことがあると推定される<ref>{{cite web |url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/3197627.stm |title=Three million follow Atkins diet |publisher=BBC NEWS |date=1 September 2003 |accessdate=2016-3-20}}</ref><ref name=barford>{{cite web |author=Vanessa Barford |url=http://www.bbc.com/news/magazine-22145709 |title=Atkins and the never-ending battle over carbs|publisher=BBC NEWS |date=17 April 2013|accessdate=2016-3-20}}</ref>。


== アトキンス・ダイエット ==
このダイエットでは、1日糖質50グラム以下という極端な糖質制限を課す<ref name=tashiro>{{Cite journal |和書|author=田代淳|title=学術研究 最近の糖尿病治療・食事療法の考え方|url=http://www.eiyou-chiba.or.jp/wp-content/uploads/2014/05/zassiNo.11.pdf|format=pdf|date=2013-12-10|journal=千葉県栄養士会雑誌|issue=11|pages=2-3}}</ref>。
{{main|アトキンスダイエット}}
[[1972年]]、ロバート・アトキンスは『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版した。アトキンスはこの本の中で、「[[肥満]]を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能限り避けなさい」と推奨している<ref name=nyt2002/>。本書の販売数は数百万部を超えた<ref name=nyt2002/>。この著書が世に出てから、アトキンスが亡くなるまでこの食事法は普及するようになり、2013年の時点で再び流行が始まった<ref name=pcrm/>。2003年にイギリスで行われたアンケートによれば、300万人が、アメリカ合衆国においては11人に1人が、アトキンス・ダイエットを試したことがあると推定されている<ref>{{cite web |url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/3197627.stm |title=Three million follow Atkins diet |publisher=BBC NEWS |date=1 September 2003 |accessdate=2016-3-20}}</ref><ref name=barford>{{cite web |author=Vanessa Barford |url=http://www.bbc.com/news/magazine-22145709 |title=Atkins and the never-ending battle over carbs|publisher=BBC NEWS |date=17 April 2013|accessdate=2016-3-20}}</ref>。


=== その他 ===
===ゾーンダイエット===
{{main|[[ゾーンダイエット]]}}
[[ゾーンダイエット]]は、米国の生化学者である{{仮リンク|バリー・シアーズ|en|Barry Sears}}が提唱した手法で、[[飽和脂肪酸]]の少ないタンパク質源を推奨し、炭水化物40%、タンパク質30%、脂質30%の割合で摂取するというものである<ref name=berger>Reed A Berger MD "[https://www.uic.edu/depts/mcam/nutrition/pdf/FadDiets.pdf Fad Diets and Food Trends]"</ref>。

===その他===
日本の糖尿病治療では、2012年、減量を目的とした短期間(2年間)の緩やかな糖質制限食(糖質130g/日以上)を導入することが提案された<ref>{{Cite journal |和書|author=原純也|title=糖尿病食事療法「カーボカウント法と低糖質食」を知っていますか?(第546回「実地医家のための会」12月例会糖尿病ケアまるわかり講座)|url=http://www.jicchi-ika.jp/report/pdf/546.pdf|format=pdf|date=2012|journal=人間の医学|volume=48|issue=2|pages=41-46}}</ref>。しかし、『糖尿病診療ガイドライン2016』では<ref>日本糖尿病学会『[http://www.jds.or.jp/modules/publication/?content_id=4 糖尿病診療ガイドライン2016]』南江堂、2016年6月。ISBN 978-4-524-25857-4。</ref>、患者の病態毎に適切な栄養素比率があるため多くの制約事項があると指摘されている。
日本の糖尿病治療では、2012年、減量を目的とした短期間(2年間)の緩やかな糖質制限食(糖質130g/日以上)を導入することが提案された<ref>{{Cite journal |和書|author=原純也|title=糖尿病食事療法「カーボカウント法と低糖質食」を知っていますか?(第546回「実地医家のための会」12月例会糖尿病ケアまるわかり講座)|url=http://www.jicchi-ika.jp/report/pdf/546.pdf|format=pdf|date=2012|journal=人間の医学|volume=48|issue=2|pages=41-46}}</ref>。しかし、『糖尿病診療ガイドライン2016』では<ref>日本糖尿病学会『[http://www.jds.or.jp/modules/publication/?content_id=4 糖尿病診療ガイドライン2016]』南江堂、2016年6月。ISBN 978-4-524-25857-4。</ref>、患者の病態毎に適切な栄養素比率があるため多くの制約事項があると指摘されている。


===論争===
=== 論争 ===
{{仮リンク|アメリカ医師会|en|American Medical Association}}は、1972年にアトキンスが著書で推奨した手法を[[飽和脂肪酸]]や[[コレステロール]]の多い食品を無制限に摂取することを推奨するひどい療法だと非難し、アトキンスが[[アメリカ合衆国議会]]で証言するまでに至った<ref name=nyt2002>{{cite news|author=Gary Taubes |url=http://www.nytimes.com/2002/07/07/magazine/what-if-it-s-all-been-a-big-fat-lie.html?pagewanted=all |title=What if It's All Been a Big Fat Lie? |publisher=The New York Times |date=July 7, 2002|accessdate=2016-3-20}}</ref>。当時、悪さをしているのは[[脂肪]]だと考えられていため、主流の栄養学者はアトキンスの理論には触れなかった<ref name="news200401"/>。
{{仮リンク|アメリカ医師会|en|American Medical Association}}は、1972年にアトキンスが著書で推奨した手法を[[飽和脂肪酸]]や[[コレステロール]]の多い食品を無制限に摂取することを推奨するひどい療法だと非難し、アトキンスが[[アメリカ合衆国議会]]で証言するまでに至った<ref name=nyt2002>{{cite news|author=Gary Taubes |url=http://www.nytimes.com/2002/07/07/magazine/what-if-it-s-all-been-a-big-fat-lie.html?pagewanted=all |title=What if It's All Been a Big Fat Lie? |publisher=The New York Times |date=July 7, 2002|accessdate=2016-3-20}}</ref>。肥満や病気原因「食事に含まれる脂肪分にある」と考えられていため、主流の栄養学者はアトキンスの理論には触れなかった<ref name="news200401">{{Cite journal |和書|author=[[ウォルター・ウィレット]]、パトリック・スケレット |title=炭水化物を見方にダイエット |date=2004-01-28 |journal=ニューズウィーク日本版 |volume=|issue=|pages=42-45 }}</ref>。


炭水化物の危険性を訴える点で共通する<ref name=nyt2000>{{cite web |url=http://www.nytimes.com/2000/02/25/us/little-accord-in-a-round-table-of-diet-experts.html |title=Little Accord in a Round Table of Diet Experts - The New York Times |publisher=The New York Times |date=February 25, 2000 |accessdate=2016-3-20}}</ref>ロバート・アトキンス、バリー・シアーズらをパネリストとして招いて、2000年2月24日に[[アメリカ合衆国農務省]]が Great Nutrition Debate と呼ばれる討論会を主催した<ref>[http://www.cnpp.usda.gov/sites/default/files/archived_projects/GreatNutritionDebateSymposium.pdf Millennium Lecture Series Symposium on The Great Nutrition Debate] The Jefferson Auditorium, [[アメリカ合衆国農務省|U.S. Department of Agriculture]], February 24, 2000</ref>。討論会では、彼らの人気ある手法の科学的妥当性についての懸念が[[栄養学]]者らから示された<ref name=nyt2000/>。とりわけアトキンスに対しての批判が集中し、アトキンスもまたそれに返答した<ref name="日経2000">{{Cite journal |和書|author=|title=ご飯を食べるダイエット=○ |date=2000-06 |journal=日経ヘルス |volume=|issue=|pages=33-36 }}</ref>。
炭水化物の危険性を訴える点で共通する<ref name=nyt2000>{{cite web |url=http://www.nytimes.com/2000/02/25/us/little-accord-in-a-round-table-of-diet-experts.html |title=Little Accord in a Round Table of Diet Experts - The New York Times |publisher=The New York Times |date=February 25, 2000 |accessdate=2016-3-20}}</ref>ロバート・アトキンス、バリー・シアーズらをパネリストとして招いて、2000年2月24日に[[アメリカ合衆国農務省]]が Great Nutrition Debate と呼ばれる討論会を主催した<ref>[http://www.cnpp.usda.gov/sites/default/files/archived_projects/GreatNutritionDebateSymposium.pdf Millennium Lecture Series Symposium on The Great Nutrition Debate] The Jefferson Auditorium, [[アメリカ合衆国農務省|U.S. Department of Agriculture]], February 24, 2000</ref>。討論会では、彼らの人気ある手法の科学的妥当性についての懸念が[[栄養学]]者らから示された<ref name=nyt2000/>。とりわけアトキンスに対しての批判が集中し、アトキンスもまたそれに返答した<ref name="日経2000">{{Cite journal |和書|author=|title=ご飯を食べるダイエット=○ |date=2000-06 |journal=日経ヘルス |volume=|issue=|pages=33-36 }}</ref>。


==学協会の勧告==
== 学協会の勧告 ==
2013年の{{仮リンク|アメリカ糖尿病学会|en|American Diabetes Association}}の声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして、2年までの短期間に全エネルギーの40%未満を炭水化物とする穏やかな低炭水化物食が推奨されたが、[[腎不全|腎機能]]、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な[[低血糖症|低血糖]]治療が必要であるとされた<ref name="pmid23264422">{{cite journal |author={{仮リンク|アメリカ糖尿病学会|en|American Diabetes Association|label=American Diabetes Association}} |title=Position Statement : Standards of medical care in diabetes 2013 |journal=Diabetes Care |volume=36 Suppl 1 |issue=|pages=S11–66 |date=January 2013 |pmid=23264422 |pmc=3537269 |doi=10.2337/dc13-S011 |url=http://care.diabetesjournals.org/content/36/Supplement_1/S11.full.pdf|format=pdf}}</ref>。(なお低脂肪、カロリー制限食、また[[地中海食]]も推奨している)2014年のアメリカ糖尿病学会の糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告では、血糖値コントロールには炭水化物カウント法などが重要だとされたが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず個人個人の食生活や好みに合わせるべきだとされた<ref name="EvertBoucher2013">{{cite journal|last1=Evert|first1=A. B.|last2=Boucher|first2=J. L.|last3=Cypress|first3=M.|last4=Dunbar|first4=S. A.|last5=Franz|first5=M. J.|last6=Mayer-Davis|first6=E. J.|last7=Neumiller|first7=J. J.|last8=Nwankwo|first8=R.|last9=Verdi|first9=C. L.|last10=Urbanski|first10=P.|last11=Yancy|first11=W. S.|title=Nutrition Therapy Recommendations for the Management of Adults With Diabetes|journal=Diabetes Care|volume=37|issue=Supplement_1|date=January 2014|pages=S120–S143|issn=0149-5992|doi=10.2337/dc14-S120|url=http://care.diabetesjournals.org/content/37/Supplement_1/S120.full}}</ref>。
2013年の{{仮リンク|アメリカ糖尿病学会|en|American Diabetes Association}}の声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして、2年までの短期間に全エネルギーの40%未満を炭水化物とする穏やかな低炭水化物食が推奨されたが、[[腎不全|腎機能]]、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な[[低血糖症|低血糖]]治療が必要であるとされた<ref name="pmid23264422">{{cite journal |author=American Diabetes Association|label=American Diabetes Association |title=Position Statement : Standards of medical care in diabetes 2013 |journal=Diabetes Care |volume=36 Suppl 1 |issue=|pages=S11–66 |date=January 2013 |pmid=23264422 |pmc=3537269 |doi=10.2337/dc13-S011 |url=http://care.diabetesjournals.org/content/36/Supplement_1/S11.full.pdf|format=pdf}}</ref>。(低脂肪、カロリー制限食、[[地中海食]]も選択肢の1つに挙げている)2014年のアメリカ糖尿病学会の糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告では、血糖値コントロールには炭水化物カウント法などが重要だとされたが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず個人個人の食生活や好みに合わせるべきだとされた<ref name="EvertBoucher2013">{{cite journal|last1=Evert|first1=A. B.|last2=Boucher|first2=J. L.|last3=Cypress|first3=M.|last4=Dunbar|first4=S. A.|last5=Franz|first5=M. J.|last6=Mayer-Davis|first6=E. J.|last7=Neumiller|first7=J. J.|last8=Nwankwo|first8=R.|last9=Verdi|first9=C. L.|last10=Urbanski|first10=P.|last11=Yancy|first11=W. S.|title=Nutrition Therapy Recommendations for the Management of Adults With Diabetes|journal=Diabetes Care|volume=37|issue=Supplement_1|date=January 2014|pages=S120–S143|issn=0149-5992|doi=10.2337/dc14-S120|url=http://care.diabetesjournals.org/content/37/Supplement_1/S120.full}}</ref>。


2019年アメリカ糖尿病学会が発表した栄養療法のコンセンサスレポートでは、「糖尿病患者の全炭水化物摂取量を減らすことは、血糖を改善するための最も多くの証拠を示しており、低炭水化物または超低炭水化物の食事プランで炭水化物摂取量を減らすことが現実的。」とされた<ref>[http://promea2014.com/blog/?p=7870 アメリカ糖尿病学会が出した歴史的なコンセンサスレポート 糖質制限を推進!] ドクターシミズのひとりごと</ref>
2019年アメリカ糖尿病学会が発表した栄養療法のコンセンサスレポートでは、「糖尿病患者の全炭水化物摂取量を減らすことは、血糖を改善するための最も多くの証拠を示しており、低炭水化物または超低炭水化物の食事プランで炭水化物摂取量を減らすことが現実的。」とされた<ref>{{Cite web |author= |date= |url=http://promea2014.com/blog/?p=7870 |title=アメリカ糖尿病学会が出した歴史的なコンセンサスレポート 糖質制限を推進! |website= |publisher= |accessdate=2019-04-23}}</ref>


日本糖尿病学会は、2013年の提言で<ref>[http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_E697A5E69CACE4BABAE381AEE7B396E5B0BFE79785E381AEE9A39FE4BA8BE79982E6B395E381ABE996A2E38199E3828BE697A5E69CACE7B396E5B0BFE79785E5ADA6E4BC9AE381AEE68F90E8A8802E706466 日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言](日本糖尿病学会、2013年3月)</ref>、様々な手法による結果が発表されているが、総エネルギー摂取量に関する記述が乏しかったり、途中脱落者が多く最終的なサンプル数が不足しているものなどがあり、統計的に有意差の検出が行えないものもある。また、血清[[クレアチニン]]上昇例を除外しているなど、腎臓機能障害の評価が不足してると指摘している。
日本糖尿病学会は、2013年の提言で<ref>[http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_E697A5E69CACE4BABAE381AEE7B396E5B0BFE79785E381AEE9A39FE4BA8BE79982E6B395E381ABE996A2E38199E3828BE697A5E69CACE7B396E5B0BFE79785E5ADA6E4BC9AE381AEE68F90E8A8802E706466 日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言](日本糖尿病学会、2013年3月)</ref>、様々な手法による結果が発表されているが、総エネルギー摂取量に関する記述が乏しかったり、途中脱落者が多く最終的なサンプル数が不足しているものなどがあり、統計的に有意差の検出が行えないものもある。また、血清[[クレアチニン]]上昇例を除外しているなど、腎臓機能障害の評価が不足してると指摘している。


糖質制限食の流行を受けて<ref name=tashiro/>、[[日本糖尿病学会]]は2013年の提言で、日本人の肥満の是正と糖尿病予防に関しては「運動療法とともに積極的な食事療法」と「総エネルギー摂取量の制限」<ref name=jds>[http://www.jds.or.jp/modules/important/?page=article&storyid=40 日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言―糖尿病における食事療法の現状と課題] 日本糖尿病学会 2013年3月18日</ref>([[生理的熱量|カロリー]]制限<ref name=tashiro/>)がもっとも重要であり、カロリー制限なしの炭水化物摂取制限は長期的な食事療法としての科学的根拠が不足しているため現時点では推奨できないと呼びかけた<ref name=jds/>。同学会は、炭水化物摂取は日本人の平均摂取比率と同様の50-60%(150g/日以上)程度の比率を目安とし、どのような糖尿病合併症を持っているかによって増減させてもよいとした<ref name=jds/>。1日当たり炭水化物50グラム以下とするアトキンスダイエットなど極端な制限法をこの提言は否定したもの考えられる<ref>[http://kenko100.jp/articles/130322001401/#gsc.tab=0 【寄稿】学会提言、全ての糖質制限食を否定していない 北里研究所病院糖尿病センター長 山田 悟] [[あなたの健康百科]] 2013年03月22日 18:02 公開</ref>。
糖質制限食の流行を受けて<ref name=tashiro/>、[[日本糖尿病学会]]は2013年の提言で、日本人の肥満の是正と糖尿病予防に関しては「運動療法とともに積極的な食事療法」と「総エネルギー摂取量の制限」<ref name=jds>[http://www.jds.or.jp/modules/important/?page=article&storyid=40 日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言―糖尿病における食事療法の現状と課題] 日本糖尿病学会 2013年3月18日</ref>([[生理的熱量|カロリー]]制限<ref name=tashiro/>)がもっとも重要であり、カロリー制限なしの炭水化物摂取制限は長期的な食事療法としての科学的根拠が不足しているため現時点では推奨できないと呼びかけた<ref name=jds/>。同学会は、炭水化物摂取は日本人の平均摂取比率と同様の50-60%(150g/日以上)程度の比率を目安とし、どのような糖尿病合併症を持っているかによって増減させてもよいとした<ref name=jds/>。これらは「炭水化物制限する食事法を否定したられている<ref>[http://kenko100.jp/articles/130322001401/#gsc.tab=0 【寄稿】学会提言、全ての糖質制限食を否定していない 北里研究所病院糖尿病センター長 山田 悟] [[あなたの健康百科]] 2013年03月22日 18:02 公開</ref>。


イギリスの{{仮リンク|Diabetes UK|en|Diabetes UK}}は[[1型糖尿病]]患者には低炭水化物食の有効性を示すエビデンスが不十分だとして推奨できないとした<ref name=duk>[https://www.diabetes.org.uk/About_us/What-we-say/Food-nutrition-lifestyle/Consumption-of-carbohydrate-in-people-with-diabetes/ Consumption of carbohydrate in people with diabetes]</ref>。[[2型糖尿病]]には1年未満の短期間に体重減少効果がある場合があるが、長期的な効果やリスクについては[[エビデンス]]が不足しており、[[低血糖症]]・頭痛・集中力低下・便秘等の副作用に注意が必要である<ref name=duk/>。
イギリス糖尿病学会[[1型糖尿病]]患者には低炭水化物食の有効性を示すエビデンスが不十分だとして推奨できないとした<ref name=duk>[https://www.diabetes.org.uk/About_us/What-we-say/Food-nutrition-lifestyle/Consumption-of-carbohydrate-in-people-with-diabetes/ Consumption of carbohydrate in people with diabetes]</ref>。[[2型糖尿病]]には1年未満の短期間に体重減少効果がある場合があるが、長期的な効果やリスクについては[[エビデンス]]が不足しており、[[低血糖症]]・頭痛・集中力低下・便秘等の副作用に注意が必要である<ref name=duk/>。


{{仮リンク|Physicians Committee for Responsible Medicine|en|Physicians Committee for Responsible Medicine}}によれば、アトキンスダイエットなどの高タンパク質・炭水化物制限の手法には、動物性に起因する健康リスクへの考慮が不足している<ref name=pcrm>{{仮リンク|Physicians Committee for Responsible Medicine|en|Physicians Committee for Responsible Medicine}} [http://www.pcrm.org/sites/default/files/High_Protein_Diet_Japanese.pdf 高タンパク質食の真実] 13093D-NTR • 20130529</ref>。
{{仮リンク|責任ある医療医師会|en|Physicians Committee for Responsible Medicine}}は「高タンパク質・低糖質な食事には、動物性食に起因する健康リスクへの考慮が不足している」と発表した<ref name=pcrm>Physicians Committee for Responsible Medicine [http://www.pcrm.org/sites/default/files/High_Protein_Diet_Japanese.pdf 高タンパク質食の真実] 13093D-NTR • 20130529</ref>。

==影響==


== 影響 ==
低炭水化物食による体重減少の効果が[[低脂肪食]]や[[ゾーンダイエット]]など他のダイエットより優れているかどうかについては相反する臨床試験の結果が報告されており、2014年の[[メタアナリシス]]の結果によれば総カロリーが同じであれば効果に差はないと見られる<ref>髙尾哲也、小川睦美、清水史子、石井幸江 [https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000539.html 糖と健康の誤解;糖質制限は正しいか] 最終更新日:2015年8月10日 糖質に関する正しい知識の普及に向けて〜「食と健康に関する講演会」の概要報告〜</ref>。6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり<ref name="pmid12761365"/>、便秘や頭痛<ref name="SondikeCopperman2003"/><ref name="YancyOlsen2004"/>、口臭、[[痙攣|筋けいれん]]、下痢、[[脱力感]]、[[発疹]]がより頻繁に見られる<ref name="YancyOlsen2004"/><ref name=westman2007>Eric C Westman, Richard D Feinman, John C Mavropoulos, Mary C Vernon, Jeff S Volek, James A Wortman, William S Yancy, and Stephen D Phinney, [http://ajcn.nutrition.org/content/86/2/276.full Low-carbohydrate nutrition and metabolism] (2007)</ref>。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との[[交絡]]が生じていると指摘され、研究にバイアスが生じている可能性がある<ref name="EvertBoucher2013"/>。
低炭水化物食による体重減少の効果が[[低脂肪食]]や[[ゾーンダイエット]]など他のダイエットより優れているかどうかについては相反する臨床試験の結果が報告されており、2014年の[[メタアナリシス]]の結果によれば総カロリーが同じであれば効果に差はないと見られる<ref>髙尾哲也、小川睦美、清水史子、石井幸江 [https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000539.html 糖と健康の誤解;糖質制限は正しいか] 最終更新日:2015年8月10日 糖質に関する正しい知識の普及に向けて〜「食と健康に関する講演会」の概要報告〜</ref>。6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり<ref name="pmid12761365"/>、便秘や頭痛<ref name="SondikeCopperman2003"/><ref name="YancyOlsen2004"/>、口臭、[[痙攣|筋けいれん]]、下痢、[[脱力感]]、[[発疹]]がより頻繁に見られる<ref name="YancyOlsen2004"/><ref name=westman2007>Eric C Westman, Richard D Feinman, John C Mavropoulos, Mary C Vernon, Jeff S Volek, James A Wortman, William S Yancy, and Stephen D Phinney, [http://ajcn.nutrition.org/content/86/2/276.full Low-carbohydrate nutrition and metabolism] (2007)</ref>。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との[[交絡]]が生じていると指摘され、研究にバイアスが生じている可能性がある<ref name="EvertBoucher2013"/>。


2019年の[[システマティックレビュー]]で、糖尿病の管理ために6か月以上追跡した20件の[[ランダム化比較試験]]が見つかり、[[低脂肪食]]と低炭水化物食の比較では、基本的に血糖制御、体重と脂質に有意な差はなかったが、一部の研究では低炭水化物食が有利であった。[[地中海食]]では、体重とHbA1cのより大きな減少と糖尿病の薬を必要としない時期が長かった。[[ヴィーガニズム|完全菜食]]と[[マクロビオティック]]では血糖制御の改善、[[菜食主義|菜食]]ではより大きな体重減少とインスリン感受性を示した。結論としてよりよい血糖制御のために完全菜食、菜食、地中海食を導入すべきという証拠が見つかり、より長期の試験が必要とされる<ref name="pmid30952576">{{cite journal| last1=Papamichou| first1=D.| last2=Panagiotakos| first2=D.B.| last3=Itsiopoulos| first3=C.| title=Dietary patterns and management of type 2 diabetes: A systematic review of randomised clinical trials| journal=Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases| volume=29| issue=6| year=2019| pages=531–543 |pmid=30952576 | doi=10.1016/j.numecd.2019.02.004}}</ref>
2019年の[[システマティックレビュー]]で、糖尿病の管理ために6か月以上追跡した20件の[[ランダム化比較試験]]が見つかり、[[低脂肪食]]と低炭水化物食の比較では、基本的に血糖制御、体重と脂質に有意な差はなかったが、一部の研究では低炭水化物食が有利であった。[[地中海食]]では、体重とHbA1cのより大きな減少と糖尿病の薬を必要としない時期が長かった。[[ヴィーガニズム|完全菜食]]と[[マクロビオティック]]では血糖制御の改善、[[菜食主義|菜食]]ではより大きな体重減少とインスリン感受性を示した。結論としてよりよい血糖制御のために完全菜食、菜食、地中海食を導入すべきという証拠が見つかり、より長期の試験が必要とされる<ref name="pmid30952576">{{cite journal| last1=Papamichou| first1=D.| last2=Panagiotakos| first2=D.B.| last3=Itsiopoulos| first3=C.| title=Dietary patterns and management of type 2 diabetes: A systematic review of randomised clinical trials| journal=Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases| volume=29| issue=6| year=2019| pages=531–543 |pmid=30952576 | doi=10.1016/j.numecd.2019.02.004}}</ref>


===短期的な影響===
=== 短期的な影響 ===
2003年、低脂肪食と低炭水化物食をランダムに割り振ったランダム化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重を減少させたが、1年間では有意な差が見られなかった<ref name="pmid12761365">{{Cite journal| author=Gary D. Foster, Ph. D., Holly R. Wyatt, M.D., James O. Hill, Ph. D., Brian G. McGuckin, Ed. M., Carrie Brill, B.S., B. Selma Mohammed, M.D., Ph. D., Philippe O. Szapary, M.D., Daniel J. Rader, M.D., Joel S. Edman, D.Sc., and Samuel Klein, M.D. |title=A Randomized Trial of a Low-Carbohydrate Diet for Obesity |journal=[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン|New England Journal of Medicine]] |year=2003 |volume=348 |pages=2082–90 |url=http://content.nejm.org/cgi/content/short/348/21/2082 |pmid=12761365 |doi=10.1056/NEJMoa022207 |issue=21 }}</ref>。2004年の研究では、6ヶ月の短期間に限り、体重が減少しているうちは、低糖質食を患者にすすめても安全だろうと提言されている<ref name=astrup>{{Cite journal| author=Arne Astrup, Thomas Meinert Larsen, Angela Harper |title=Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? |journal=[[ランセット|Lancet]] |year=2004 |volume=364 |pages=897-899 |url=http://www.icb.ufmg.br/biq/biq038/lancet.pdf|format=PDF |doi=10.1016/S0140-6736(04)16986-9 |pmid=15351198 |issue=9437}}</ref>。
2003年、低脂肪食と低炭水化物食をランダムに割り振ったランダム化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重を減少させたが、1年間では有意な差が見られなかった<ref name="pmid12761365">{{Cite journal| author=Gary D. Foster, Ph. D., Holly R. Wyatt, M.D., James O. Hill, Ph. D., Brian G. McGuckin, Ed. M., Carrie Brill, B.S., B. Selma Mohammed, M.D., Ph. D., Philippe O. Szapary, M.D., Daniel J. Rader, M.D., Joel S. Edman, D.Sc., and Samuel Klein, M.D. |title=A Randomized Trial of a Low-Carbohydrate Diet for Obesity |journal=[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン|New England Journal of Medicine]] |year=2003 |volume=348 |pages=2082–90 |url=http://content.nejm.org/cgi/content/short/348/21/2082 |pmid=12761365 |doi=10.1056/NEJMoa022207 |issue=21 }}</ref>。2004年の研究では、6ヶ月の短期間に限り、体重が減少しているうちは、低糖質食を患者にすすめても安全だろうと提言されている<ref name=astrup>{{Cite journal| author=Arne Astrup, Thomas Meinert Larsen, Angela Harper |title=Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? |journal=[[ランセット|Lancet]] |year=2004 |volume=364 |pages=897-899 |url=http://www.icb.ufmg.br/biq/biq038/lancet.pdf|format=PDF |doi=10.1016/S0140-6736(04)16986-9 |pmid=15351198 |issue=9437}}</ref>。


55行目: 48行目:
4週間の実験で低炭水化物ダイエットは低脂肪ダイエットや低[[グリセミック指数|GI]]ダイエットと比べて血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールが高くなり心血管疾患のリスクが高まった<ref>{{cite journal |author=Ebbeling CB, Swain JF, Feldman HA, ''et al.'' |title=Effects of dietary composition on energy expenditure during weight-loss maintenance |journal=[[ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション|JAMA]] |volume=307 |issue=24 |pages=2627–34 |date=June 2012 |pmid=22735432 |doi=10.1001/jama.2012.6607}}</ref>、炭水化物より脂肪から多くカロリーを摂取するとアンケートに答えた人は[[乳がん]]のリスクが高い<ref>{{Cite journal|author=Isabelle Romieu, Eduardo Lazcano-Ponce, Luisa Maria Sanchez-Zamorano, Walter Willett & Mauricio Hernandez-Avila| title=Carbohydrates and the risk of breast cancer among Mexican women| journal=Cancer epidemiology, biomarkers & prevention : a publication of the American Association for Cancer Research, cosponsored by the American Society of Preventive Oncology|volume=13|issue=8|pages=1283–1289|date=August 2004|pmid=15298947}}</ref>、などの報告がある。
4週間の実験で低炭水化物ダイエットは低脂肪ダイエットや低[[グリセミック指数|GI]]ダイエットと比べて血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールが高くなり心血管疾患のリスクが高まった<ref>{{cite journal |author=Ebbeling CB, Swain JF, Feldman HA, ''et al.'' |title=Effects of dietary composition on energy expenditure during weight-loss maintenance |journal=[[ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション|JAMA]] |volume=307 |issue=24 |pages=2627–34 |date=June 2012 |pmid=22735432 |doi=10.1001/jama.2012.6607}}</ref>、炭水化物より脂肪から多くカロリーを摂取するとアンケートに答えた人は[[乳がん]]のリスクが高い<ref>{{Cite journal|author=Isabelle Romieu, Eduardo Lazcano-Ponce, Luisa Maria Sanchez-Zamorano, Walter Willett & Mauricio Hernandez-Avila| title=Carbohydrates and the risk of breast cancer among Mexican women| journal=Cancer epidemiology, biomarkers & prevention : a publication of the American Association for Cancer Research, cosponsored by the American Society of Preventive Oncology|volume=13|issue=8|pages=1283–1289|date=August 2004|pmid=15298947}}</ref>、などの報告がある。


===長期的な影響===
=== 長期的な影響 ===
カナダ・マックマスター大学のMahshid Dehghan博士らの論文、5大陸18カ国で全死亡および心血管疾患への食事の影響を検証した大規模疫学前向きコホート研究(13万5335例7.4年間の追跡調査)では、炭水化物をとるほど死亡リスクが高くなる一方で、脂の摂取量が多いほど死亡リスクは低下するとの報告がある<ref>[https://toyokeizai.net/articles/-/190605?page=2 「糖質制限」論争に幕?一流医学誌に衝撃論文] </ref>
カナダ・マックマスター大学のMahshid Dehghan博士らの論文、5大陸18カ国で全死亡および心血管疾患への食事の影響を検証した大規模疫学前向きコホート研究(13万5335例7.4年間の追跡調査)では、炭水化物をとるほど死亡リスクが高くなる一方で、脂の摂取量を増やせば増やすほど死亡リスクは低下するとの報告がある<ref>[https://toyokeizai.net/articles/-/190605?page=2 「糖質制限」論争に幕?一流医学誌に衝撃論文] </ref>


低糖質食が[[死亡率]]、[[心血管疾患]]にどう影響するかを調べた2012年発表の[[メタアナリシス]]によれば、低糖質食は総死亡率を増加させることが示された<ref name=noto>{{cite journal|last1=Manzoli|first1=Lamberto|last2=Noto|first2=Hiroshi|last3=Goto|first3=Atsushi|last4=Tsujimoto|first4=Tetsuro|last5=Noda|first5=Mitsuhiko|title=Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies|journal=PLoS ONE|volume=8|issue=1|year=2013|pages=e55030|doi=10.1371/journal.pone.0055030}}</ref>。
低糖質食が[[死亡率]]、[[心血管疾患]]にどう影響するかを調べた2012年発表の[[メタアナリシス]]によれば、低糖質食は総死亡率を増加させることが示された<ref name=noto>{{cite journal|last1=Manzoli|first1=Lamberto|last2=Noto|first2=Hiroshi|last3=Goto|first3=Atsushi|last4=Tsujimoto|first4=Tetsuro|last5=Noda|first5=Mitsuhiko|title=Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies|journal=PLoS ONE|volume=8|issue=1|year=2013|pages=e55030|doi=10.1371/journal.pone.0055030}}</ref>。
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スウェーデンで、62,582人の男女で最大17.8年追跡し、発がん率との関係を調査した研究は、動物性たんぱく質は気道がんに関連し、飽和脂肪酸の摂取が高い場合に[[大腸癌|結腸直腸がん]]に関連した<ref name="Johansson2013">{{cite journal|last1=Nilsson|first1=Lena Maria|last2=Winkvist|first2=Anna|last3=Johansson|first3=Ingegerd|last4=Lindahl|first4=Bernt|last5=Hallmans|first5=Göran|last6=Lenner|first6=Per|last7=Van Guelpen|first7=Bethany|title=Low-carbohydrate, high-protein diet score and risk of incident cancer; a prospective cohort study|journal=Nutrition Journal|volume=12|issue=1|year=2013|doi=10.1186/1475-2891-12-58}}</ref>。
スウェーデンで、62,582人の男女で最大17.8年追跡し、発がん率との関係を調査した研究は、動物性たんぱく質は気道がんに関連し、飽和脂肪酸の摂取が高い場合に[[大腸癌|結腸直腸がん]]に関連した<ref name="Johansson2013">{{cite journal|last1=Nilsson|first1=Lena Maria|last2=Winkvist|first2=Anna|last3=Johansson|first3=Ingegerd|last4=Lindahl|first4=Bernt|last5=Hallmans|first5=Göran|last6=Lenner|first6=Per|last7=Van Guelpen|first7=Bethany|title=Low-carbohydrate, high-protein diet score and risk of incident cancer; a prospective cohort study|journal=Nutrition Journal|volume=12|issue=1|year=2013|doi=10.1186/1475-2891-12-58}}</ref>。


===死亡率に関する10年以上の長期追跡調査===
=== 死亡率に関する10年以上の長期追跡調査 ===
* 2007年、ギリシャで1993年から2003年にかけて2万2944名のコホート研究で、低炭水化物で高タンパクの食事はより高い総[[死亡率]]を示した<ref name="Trichopoulou2007">{{Cite journal|author=A. Trichopoulou, T. Psaltopoulou, P. Orfanos, C.-C. Hsieh & D. Trichopoulos|title=Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort|journal=European journal of clinical nutrition|volume=61|issue=5|pages=575–581|date=May 2007|doi=10.1038/sj.ejcn.1602557|pmid=17136037}}</ref>。2007年、スウェーデンにおける4万2237人の女性での12年間におよぶ[[コホート研究]]では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた<ref name="Lagiou2007">{{Cite journal|author=P. Lagiou, S. Sandin, E. Weiderpass, A. Lagiou, L. Mucci, D. Trichopoulos & H.-O. Adami|title=Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women|journal=Journal of internal medicine|volume=261|issue=4|pages=366–374|date=April 2007|doi=10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x|pmid=17391111}}</ref>。
* 2007年、ギリシャで1993年から2003年にかけて2万2944名のコホート研究で、低炭水化物で高タンパクの食事はより高い総[[死亡率]]を示した<ref name="Trichopoulou2007">{{Cite journal|author=A. Trichopoulou, T. Psaltopoulou, P. Orfanos, C.-C. Hsieh & D. Trichopoulos|title=Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort|journal=European journal of clinical nutrition|volume=61|issue=5|pages=575–581|date=May 2007|doi=10.1038/sj.ejcn.1602557|pmid=17136037}}</ref>。2007年、スウェーデンにおける4万2237人の女性での12年間におよぶ[[コホート研究]]では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた<ref name="Lagiou2007">{{Cite journal|author=P. Lagiou, S. Sandin, E. Weiderpass, A. Lagiou, L. Mucci, D. Trichopoulos & H.-O. Adami|title=Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women|journal=Journal of internal medicine|volume=261|issue=4|pages=366–374|date=April 2007|doi=10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x|pmid=17391111}}</ref>。
* 2010年、ハーバード大学による4万4548人の男性と8万5168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物食をベースとした低炭水化物ダイエットは男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物をベースとした低炭水化物ダイエットは死亡率を低下させていた<ref name="pmid20820038">{{cite journal| author=Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE, Stampfer M, Willett WC, Hu FB| title=Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: two cohort studies. |journal=[[アナルズ・オブ・インターナル・メディシン|Ann Intern Med]] |year=2010 |volume=153 |issue=5 |pages=289-98 |pmid=20820038 |doi=10.1059/0003-4819-153-5-201009070-00003 |pmc=2989112 }} </ref>。
* 2010年、ハーバード大学による4万4548人の男性と8万5168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物食をベースとした低炭水化物ダイエットは男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物をベースとした低炭水化物ダイエットは死亡率を低下させていた<ref name="pmid20820038">{{cite journal| author=Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE, Stampfer M, Willett WC, Hu FB| title=Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: two cohort studies. |journal=[[アナルズ・オブ・インターナル・メディシン|Ann Intern Med]] |year=2010 |volume=153 |issue=5 |pages=289-98 |pmid=20820038 |doi=10.1059/0003-4819-153-5-201009070-00003 |pmc=2989112 }} </ref>。
* 炭水化物を脂質に置き換える低炭水化物食を行った場合、摂取(置換)する脂質の種類(総脂質、飽和脂肪酸(SFAs)、一価不飽和脂肪酸(MUFAs)、多価不飽和脂肪酸(PUFAs)により全死因死亡率や心血管疾患死亡リスクが異なることが報告された<ref name="medical538486">欧州糖尿病学会取材班 [http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/flash/easd2014/201409/538486.html 学会フラッシュ:欧州糖尿病学会2014 低炭水化物ダイエットは置き換える脂質の種類に注意を] 日経メディカルオンライン 記事:2014年9月20日</ref>。この報告によれば、総脂質またはSFAsは全死因死亡率が上昇し、MUFAsではリスクは低下した。また、MUFAsは有意な減少であったとされた<ref name="medical538486"/>。
* 炭水化物を脂質に置き換える低炭水化物食を行った場合、摂取(置換)する脂質の種類(総脂質、飽和脂肪酸(SFAs)、一価不飽和脂肪酸(MUFAs)、多価不飽和脂肪酸(PUFAs)により全死因死亡率や心血管疾患死亡リスクが異なることが報告された<ref name="medical538486">欧州糖尿病学会取材班 [http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/flash/easd2014/201409/538486.html 学会フラッシュ:欧州糖尿病学会2014 低炭水化物ダイエットは置き換える脂質の種類に注意を] 日経メディカルオンライン 記事:2014年9月20日</ref>。この報告によれば、総脂質またはSFAsは全死因死亡率が上昇し、MUFAsではリスクは低下した。また、MUFAsは有意な減少であったとされた<ref name="medical538486"/>。
* NIPPON DATA 80の研究成果では日本人9200人を29年間追跡した結果として、摂取総エネルギーの51.1%を糖質で摂取しているグループは、摂取総エネルギーの72.2%を糖質で摂取しているグループと比べて、女性において心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%との報告がある<ref>[http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4126.html 日本人において、糖質摂取比率が少ないほど総死亡リスクが低下。] 医師:江部康二 ブログ</ref><!-- 医師による実名を伴ったブログであるため、出典として利用可能である -->
* NIPPON DATA 80の研究成果では日本人9200人を29年間追跡した結果として、摂取総エネルギーの51.1%を糖質で摂取しているグループは、摂取総エネルギーの72.2%を糖質で摂取しているグループと比べて、女性において心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%との報告がある<ref>[http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4126.html 日本人において、糖質摂取比率が少ないほど総死亡リスクが低下。] 医師:江部康二 ブログ</ref><!-- 医師による実名を伴ったブログであるため、出典として利用可能である -->


===高タンパク質の影響===
=== 高タンパク質の影響 ===
{{main|[[高タンパク質食]]}}
{{main|[[高タンパク質食]]}}
低炭水化物ダイエットでは、炭水化物の比率を減らすことから[[タンパク質]]の摂取量が多くなる<ref name="Krebs2012"/><ref name="Trichopoulou2007"/><ref name="Lagiou2007"/>。
この食事法は、炭水化物の摂取比率を減らし、[[タンパク質]]と[[脂肪]]の摂取量を増やすものである<ref name="Krebs2012"/><ref name="Trichopoulou2007"/><ref name="Lagiou2007"/>。

高タンパク質の食事は、半年間で高炭水化物の食事と比較して[[インスリン抵抗性]]が高まったとの報告がある<ref>{{cite journal |author=Weickert MO, Roden M, Isken F, ''et al.'' |title=Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=94 |issue=2 |pages=459–71 |date=August 2011 |pmid=21633074 |doi=10.3945/ajcn.110.004374 |url=}}</ref>。(短期間6週間では、2011年の報告で、高穀類繊維 (high cereal-fiber)の食事より高タンパク質の食事のほうがインスリン抵抗性を高くし、糖尿病リスクを上げることが示された<ref name=weichkert>{{cite journal |author=Weickert MO, Roden M, Isken F, ''et al.'' |title=Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans |journal={{仮リンク|The American Journal of Clinical Nutrition|en|The American Journal of Clinical Nutrition|label=Am. J. Clin. Nutr.}} |volume=94 |issue=2 |pages=459–71 |date=August 2011 |pmid=21633074 |doi=10.3945/ajcn.110.004374}}</ref>)

[[世界保健機関]]が2007年にまとめた報告書では、「高タンパク質食は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させるため、[[糖尿病]]、[[高血圧]]、[[多嚢胞性腎疾患]]によって腎不全の可能性がある場合には適切にタンパク質制限が行われるべきであり」<ref name="who2007">{{Cite isbn/9241209356}} 日本語:171-174頁</ref>、「高タンパク質食では特に動物性タンパク質による[[腎結石]]のリスク増加がありうるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性タンパク質が望ましい」とされた<ref name="who2007"/>。

== アトキンス以前の炭水化物制限食 ==
=== アトキンス・ダイエットができるまで ===
アトキンスは[[1959年]]にニューヨーク・[[マンハッタン]]にある[[アッパー・イースト・サイド]]にて、心臓病および補完代替医療の専門医として開業した<ref name=Biography>{{cite web |title=Robert (Coleman) Atkins |work=Contemporary Authors Online: Gale Biography In Context |date=October 30, 2003 |url=http://ic.galegroup.com/ic/bic1/ReferenceDetailsPage/ReferenceDetailsWindow?displayGroupName=Reference&disableHighlighting=false&prodId=BIC1&action=e&windowstate=normal&catId=&documentId=GALE%7CH1000003583&mode=view&userGroupName=iuclassb&jsid=a86be1ea9ee168a2f5f2314f5a66cf76 |publisher=Detroit: Gale|accessdate=November 30, 2017}}</ref>。

開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、[[デラウェア州]]にある会社、[[デュポン|デュポン社]](DuPont)に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン( Alfred W. Pennington )が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した<ref>{{cite book|last1=Mariani|first1=John F.|title=The encyclopedia of American food and drink|date=2013|isbn=9781620401613|url=https://books.google.com/books?id=K5taAgAAQBAJ&pg=PT96|chapter=Atkins, Robert (1930-2003)}}</ref>。

1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン( George Gehrman )は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった<ref name="Why we get fat">
{{Cite book
|last = Taubes
|first = Gary
|year = 2010
|title = Why We Get Fat
|publisher = Alfred A. Knopf
|location = New York City
|isbn = 978-0-307-27270-6
}}
</ref>。

アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、[[食物繊維]]が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で本を書き始めた。[[1972年]]、『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、その数年後に補完代替医療センターを開設した<ref>{{cite news |url=https://www.theguardian.com/news/2003/apr/19/guardianobituaries.williamleith |title= Robert Atkins: Diet guru who grew fat on the proceeds of the carbohydrate revolution |last=Leith |first=William |date=April 19, 2003 |work=The Guardian |location=London |accessdate=October 29, 2009}}</ref>。

[[2002年]]、アトキンスは[[心臓発作]]を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な[[感染症]]を患っていたからであって、[[脂肪]]の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した<ref name=times>{{cite news |url=https://www.thetimes.co.uk/article/dr-robert-atkins-b2vmm7lmc7f |title=Dr Robert Atkins: Apostle of protein gluttony as a passport to health, wholesomeness and the perfect figure |date=April 18, 2003 |work=The Times |location =London |accessdate=November 30, 2017}}{{subscription required}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.nbcnews.com/id/4327741/ns/dateline_nbc/t/defending-dr-atkins/#.VAX4VfldWSo|title=Defending Dr. Atkins|work=msnbc.com|accessdate=October 4, 2014}}</ref><ref>{{Cite news|url=http://articles.cnn.com/2002-04-25/health/atkins.diet_1_atkins-diet-cardiac-arrest-cardiomyopathy?_s=PM:HEALTH|work=CNN|title=Atkins diet author home after cardiac arrest|date=April 25, 2002|deadurl=yes|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100909173011/http://articles.cnn.com/2002-04-25/health/atkins.diet_1_atkins-diet-cardiac-arrest-cardiomyopathy?_s=PM:HEALTH|archivedate=September 9, 2010|df=}}</ref>。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。

[[2003年]][[4月]]、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。[[4月8日]]、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している<ref name="wsj-ra">{{cite web |url=https://www.wsj.com/articles/SB107637899384525268 |title=Report Details Dr. Atkins's Health Problems |accessdate=January 1, 2015 |publisher=Wall Street Journal}}</ref><ref>{{cite news |url= https://www.theguardian.com/world/2003/apr/18/2 |title=Low-carb diet pioneer dies at 72 |last=McCool |first=Grant |date=April 18, 2003 |work=The Guardian |location =London |accessdate=October 29, 2009}}</ref><ref name=NYTobit>{{cite news|last1=Martin|first1=Douglas|title=Dr. Robert C. Atkins, Author of Controversial but Best-Selling Diet Books, Is Dead at 72|url=https://www.nytimes.com/2003/04/18/nyregion/dr-robert-c-atkins-author-controversial-but-best-selling-diet-books-dead-72.html|work=The New York Times|date=April 18, 2003}}</ref>。

=== ウィリアム・バンティング ===
{{main|ウィリアム・バンティング}}
炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、[[タンパク質]]と[[脂肪]]を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、[[ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン]]( Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )、[[ユストゥス・フォン・リービッヒ]]( Justus Liebig )、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、[[ウィリアム・バンティング]]( William Banting, 1796~1878 )、[[ジョン・ユドキン]]( John Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である<ref name="Why we get fat"></ref>。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、[[小麦粉]]のような精製された炭水化物、とくに[[砂糖]]である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた<ref name="Why we get fat"></ref>。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。

ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、[[フランス]]の医師、[[クロード・ベルナール]]が[[パリ]]で行った[[糖尿病]]についての講演を聴いたのがきっかけであった<ref name=Groves>{{Cite web | url = http://www.second-opinions.co.uk/banting.html | title = WILLIAM BANTING: The Father of the Low-Carbohydrate Diet | accessdate = 26 December 2007
| last = Groves, PhD | first = Barry | year = 2002 | publisher = Second Opinions }}</ref><ref>{{cite EB1911
| wstitle=Corpulence | volume=7 | pages=192–193 }</ref>。

クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、[[テムズ川]]でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った<ref name="Why we get fat"></ref>。「'''運動には体重を減らす効果は無い'''」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。

[[1863年]]、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法をまとめた『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。

バンティング自身、『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。[[イギリス]]の医師、トマス・ホークス・タナー( [[:en:Thomas Hawkes Tanner]], 1824~1871 )も、 著書『''The Practice of Medicine''』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている<ref name="Why we get fat"></ref>。

『''Letter on Corpulence''』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある<ref name=Groves/>。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の[[動詞]]として使われるようになり、[[スウェーデン語]]にもこの言葉が輸入されて使われるようになった<ref name="Why we get fat"></ref>。

[[南ローデシア]](現在の[[ジンバブエ]])出身の科学者[[:en:Tim Noakes|ティム・ノークス]]は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた<ref name="bizn_Scie">{{Cite web | title = Scientist lives as hunter-gatherer: Proves Tim Noakes' Banting diet REALLY improves health | author = | work = BizNews.com | date = 4 July 2017 | accessdate = 2018-06-05 | url = https://www.biznews.com/global-citizen/2017/07/04/tim-noakes-banting/ | language = | quote = }}</ref>。

[[サイエンスライター|サイエンス・ジャーナリスト]]、[[ゲアリー・タウブス]]による著書『''Good Calories, Bad Calories''』([[2007年]])では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている<ref name=Taubes2007>{{cite book|last=Taubes|first=Gary |title=Good Calories, Bad Calories: Challenging the Conventional Wisdom on Diet, Weight Control, and Disease|url=https://books.google.com/books?id=YjcFmAEACAAJ|year=2007|publisher=Knopf|isbn=978-1-4000-4078-0}}</ref>。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる<ref name="pmid15351198">{{Cite journal|vauthors=Astrup A, Meinert Larsen T, Harper A |title=Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? |journal=Lancet |volume=364 |issue=9437 |pages=897–9 |year=2004 |pmid=15351198 |doi=10.1016/S0140-6736(04)16986-9 }}</ref><ref name="pmid16286782">{{Cite journal|author=Bliss M |title=Resurrections in Toronto: the emergence of insulin |journal=Horm. Res. |volume=64 Suppl 2 |issue= 2|pages=98–102 |year=2005 |pmid=16286782 |doi=10.1159/000087765 }}</ref><ref name="pmid15767625">{{Cite journal|author=Bray GA |title=Is there something special about low-carbohydrate diets? |journal=Ann. Intern. Med. |volume=142 |issue=6 |pages=469–70 |year=2005 |pmid=15767625 |doi= 10.7326/0003-4819-142-6-200503150-00013}}</ref><ref name="pmid17220180">{{Cite journal|vauthors=Focardi M, Dick GM, Picchi A, Zhang C, Chilian WM |title=Restoration of coronary endothelial function in obese Zucker rats by a low-carbohydrate diet |journal=Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. |volume=292 |issue=5 |pages=H2093–9 |year=2007 |pmid=17220180 |doi=10.1152/ajpheart.01202.2006 }}</ref><ref name="pmid15535891">{{Cite journal|vauthors=Arora S, McFarlane SI |title=Review on "Atkins Diabetes Revolution: The Groundbreaking Approach to Preventing and Controlling Type 2 Diabetes" by Mary C. Vernon and Jacqueline A. Eberstein |journal=Nutr Metab (Lond) |volume=1 |issue=1 |pages=14 |year=2004 |pmid=15535891 |doi=10.1186/1743-7075-1-14 |pmc=535347}}</ref>。

なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。

=== ケトジェニック・ダイエット ===
1920年代前半には、[[ミネソタ州]][[ロチェスター (ミネソタ州)|ロチェスター市]]にある[[メイヨー・クリニック]]の医師、[[ラッセル・ワイルダー]]が『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は[[てんかん|癲癇]]を治療するための食事法であったが、「[[肥満]]や[[糖尿病]]に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「[[ケトン体]]」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『[[:en:Ketogenic diet|ケトジェニック・ダイエット]]』として知られるようになる。

[[1932年]]、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。

「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」<ref name="Why we get fat"></ref>。

アトキンスも著書『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』の中でケトン体について触れており、「炭水化物の摂取を極力抑え、脂肪の摂取量を増やすことで、身体はブドウ糖ではなく、脂肪をエネルギー源にして生存できる」という趣旨を述べ、体重を減らしたい人に向けて、炭水化物を避けるか、その摂取制限を奨めている。

== 炭水化物制限食の歴史 ==
「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は、奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。

* [[ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン]]は、19世紀前半に出版した著書『味覚の生理学』( 『''Physiologie du Goût''』 )の中で、

「ヒトを肥満にさせるのは、デンプン質と小麦粉であり、これに[[砂糖]]も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」

「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」

「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1844年]]、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、[[1864年]]に[[英語]]に翻訳され、出版された。ダンセルは、

「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」

と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。

* 「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者[[ユストゥス・フォン・リービッヒ]]による研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。
ダンセルは、

「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」

「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」

と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1866年]]、[[ベルリン]]で開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法は、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。

「肉は無制限に食べてかまわない」<ref name="Why we get fat"></ref>

「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」<ref name="Why we get fat"></ref>

* 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、

「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」

と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、

「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」

と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった<ref name="Why we get fat"></ref>。

* オールソンの教え子で[[コーネル大学]]の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、[[1973年]][[10月]]に[[アメリカ国立衛生研究所]]で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、[[1967年]]~[[1974年]]にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは

「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」

と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。

* 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と[[砂糖]]を減らすように」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1907年]]、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1925年]]、ロンドンにあるセイント・トマス病院医科大学のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『The Lancet』の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1936年]]、[[デンマーク]]の医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。

* 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、

「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」

「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」

と、兵士たちに警告している<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1946年]]に初版が出版されたベンジャミン・スポック( Benjamin M. Spock )による子育て本『Baby and Child Care』にて「体重がどれほど増えるか減るか、は、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた<ref name="Why we get fat"></ref>。

* [[1963年]]、サー・スタンリー・ディヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、

「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」

「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」

と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。

「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」<ref name="Why we get fat"></ref>

* [[1958年]]には[[リチャード・マッカーネス]]( Richard Mackerness, 1916~1996 )による著書『''Eat Fat and Grow Slim''』(『脂肪を食べて細身になろう』)、[[1960年]]には{{仮リンク|ヘルマン・ターラー|en|Herman Taller}}( Herman Taller, 1906~1984 )による著書『''Calories Don't Count''』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。

* [[イギリス]]の[[生理学|生理学者]]・[[栄養学|栄養学者]]、[[ジョン・ユドキン]]( John Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は[[砂糖]]であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。

* サイエンス・ジャーナリストの[[ゲアリー・タウブス]]( Gary Taubes )は、

「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」

「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」

と明言している。

* [[肥満]]や[[糖尿病]]に悩む人に向けられたウェブサイト「ダイエット・ドクター」の創設者であり、その最高経営責任者でもある[[スウェーデン]]の医師[[アンドゥリーアス・イーエンフェルト]]( Andreas Eenfeldt )は、


「ヒトを病気にさせるのは[[動物性脂肪]]ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』<ref>https://web.archive.org/web/20130112032640/http://www.slv.se/grupp1/Mat-och-naring/Kostrad/</ref>は、何の役にも立たない」「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている<ref>http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=10235</ref>。[[2008年]]にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病学会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した<ref>http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=9961</ref>。[[2009年]]、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁の「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した<ref>http://www.dagensmedicin.se/debatt/livsmedelsverket-bor-omedelbart-sluta-med-kostrad-till-allmanheten</ref>。
高タンパク質の食事は、半年間で高炭水化物の食事と比較してインスリン抵抗性が高くなった<ref>{{cite journal |author=Weickert MO, Roden M, Isken F, ''et al.'' |title=Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=94 |issue=2 |pages=459–71 |date=August 2011 |pmid=21633074 |doi=10.3945/ajcn.110.004374 |url=}}</ref>。(短期間6週間では、2011年の報告で、高穀類繊維 (high cereal-fiber)の食事より高タンパク質の食事のほうが[[インスリン抵抗性]]を高くし、糖尿病リスクを上げることが示された<ref name=weichkert>{{cite journal |author=Weickert MO, Roden M, Isken F, ''et al.'' |title=Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans |journal={{仮リンク|The American Journal of Clinical Nutrition|en|The American Journal of Clinical Nutrition|label=Am. J. Clin. Nutr.}} |volume=94 |issue=2 |pages=459–71 |date=August 2011 |pmid=21633074 |doi=10.3945/ajcn.110.004374}}</ref>)


[[2011年]]、イーエンフェルトは著書「Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight」を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている<ref>http://www.ssdf.nu/tidningen/artikel.php?id=1272</ref>。本書は[[英語]]で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された<ref>Mullens, Anne (3 Feb 2017). [https://www.rd.com/health/conditions/how-to-avoid-becoming-diabetic/ Stick to This Diet If You Want to Reverse Diabetes Risk Factors—or Avoid Them Completely]. Reader’s Digest.</ref>。
2007年の[[世界保健機関]]による報告書では、高タンパク質食は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させるため、[[糖尿病]]、[[高血圧]]、[[多嚢胞性腎疾患]]によって腎不全の可能性がある場合には適切にタンパク質制限が行われるべきだとしている<ref name="who2007">{{Cite isbn/9241209356}} 日本語:171-174頁。</ref>。また、高タンパク質食では特に動物性タンパク質による[[腎結石]]のリスク増加がありうるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性タンパク質が望ましいとされる<ref name="who2007"/>。


==出典==
== 参考 ==
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==関連項目==
== 関連項目 ==
* [[糖新生]]
* [[糖新生]]
* [[パレオダイエット]]
* [[パレオダイエット]]
* [[ダッシュダイエット]]
* [[ダッシュダイエット]]
* [[地中海食]]
* [[地中海食]]
* {{ill2|ケトン食療法|en|Ketogenic diet}}
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* [[ファド・ダイエット]]
* [[ファド・ダイエット]]


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2019年9月29日 (日) 13:48時点における版

アトキンス・ダイエットに基づく食事の一例

低炭水化物ダイエット(ていたんすいかぶつダイエット、low-carbohydrate diets)とは、肥満糖尿病の治療を目的として炭水化物の摂取比率や摂取量を制限する食事療法である。低糖質食糖質制限食[1][2]炭水化物制限食ローカーボ・ダイエット(→これをさらに短縮してロカボとも呼ばれる)。炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を減らす代わりに、タンパク質脂肪が豊富な食べ物を積極的に食べる食事法である。

現代において、炭水化物の摂取割合は60パーセント以上、と推奨されている。世界保健機関は、ヒトが摂取する栄養素のうち、全体の55~75%を炭水化物にするよう発表している[3]が、2015年3月には糖分の1日の摂取量について「摂取エネルギーの10%以下、できれば5%以下(ティースプーン約6杯分、25g以下)に抑えるべき」との勧告を発表している[4]:4[5]ロバート・アトキンスが提唱したアトキンスダイエットのように、炭水化物の摂取を厳しく制限する食事法や、摂取制限を緩くする食事法もあり、摂取量については個人差がある。

この食事法においては、1日糖質50グラム以下という極端な糖質制限を課す[6]が、アトキンスが提唱している「炭水化物の1日の摂取量は20g以内」である。

体重をコントロールする目的での炭水化物摂取制限には人気があるが、その長期的な健康上の利点やリスクについては議論されている。低炭水化物ダイエットは、6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり[7]、併せて便秘や頭痛[8][9]、口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られるとの報告がある[9]糖尿病治療の目的もあるが、2013年に日本糖尿病学会は推奨できないと提言した[10]

アトキンス・ダイエット

1972年、ロバート・アトキンスは『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版した。アトキンスはこの本の中で、「肥満を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能限り避けなさい」と推奨している[11]。本書の販売数は数百万部を超えた[11]。この著書が世に出てから、アトキンスが亡くなるまでこの食事法は普及するようになり、2013年の時点で再び流行が始まった[12]。2003年にイギリスで行われたアンケートによれば、300万人が、アメリカ合衆国においては11人に1人が、アトキンス・ダイエットを試したことがあると推定されている[13][14]

その他

日本の糖尿病治療では、2012年、減量を目的とした短期間(2年間)の緩やかな糖質制限食(糖質130g/日以上)を導入することが提案された[15]。しかし、『糖尿病診療ガイドライン2016』では[16]、患者の病態毎に適切な栄養素比率があるため多くの制約事項があると指摘されている。

論争

アメリカ医師会は、1972年にアトキンスが著書で推奨した手法を飽和脂肪酸コレステロールの多い食品を無制限に摂取することを推奨するひどい療法だと非難し、アトキンスがアメリカ合衆国議会で証言するまでに至った[11]。肥満や病気の原因は「食事に含まれる脂肪分にある」と考えられていたため、主流の栄養学者はアトキンスの理論には触れなかった[17]

炭水化物の危険性を訴える点で共通する[18]ロバート・アトキンス、バリー・シアーズらをパネリストとして招いて、2000年2月24日にアメリカ合衆国農務省が Great Nutrition Debate と呼ばれる討論会を主催した[19]。討論会では、彼らの人気ある手法の科学的妥当性についての懸念が栄養学者らから示された[18]。とりわけアトキンスに対しての批判が集中し、アトキンスもまたそれに返答した[20]

学協会の勧告

2013年のアメリカ糖尿病学会英語版の声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして、2年までの短期間に全エネルギーの40%未満を炭水化物とする穏やかな低炭水化物食が推奨されたが、腎機能、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であるとされた[21]。(低脂肪食、カロリー制限食、地中海食も選択肢の1つに挙げている)2014年のアメリカ糖尿病学会の糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告では、血糖値コントロールには炭水化物カウント法などが重要だとされたが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず個人個人の食生活や好みに合わせるべきだとされた[22]

2019年、アメリカ糖尿病学会が発表した栄養療法のコンセンサスレポートでは、「糖尿病患者の全炭水化物摂取量を減らすことは、血糖を改善するための最も多くの証拠を示しており、低炭水化物または超低炭水化物の食事プランで炭水化物摂取量を減らすことが現実的。」とされた[23]

日本糖尿病学会は、2013年の提言で[24]、様々な手法による結果が発表されているが、総エネルギー摂取量に関する記述が乏しかったり、途中脱落者が多く最終的なサンプル数が不足しているものなどがあり、統計的に有意差の検出が行えないものもある。また、血清クレアチニン上昇例を除外しているなど、腎臓機能障害の評価が不足してると指摘している。

糖質制限食の流行を受けて[6]日本糖尿病学会は2013年の提言で、日本人の肥満の是正と糖尿病予防に関しては「運動療法とともに積極的な食事療法」と「総エネルギー摂取量の制限」[10]カロリー制限[6])がもっとも重要であり、カロリー制限なしの炭水化物摂取制限は長期的な食事療法としての科学的根拠が不足しているため現時点では推奨できないと呼びかけた[10]。同学会は、炭水化物摂取は日本人の平均摂取比率と同様の50-60%(150g/日以上)程度の比率を目安とし、どのような糖尿病合併症を持っているかによって増減させてもよいとした[10]。これらは「炭水化物を制限する食事法を否定した」とみられている[25]

イギリス糖尿病学会は、1型糖尿病患者には低炭水化物食の有効性を示すエビデンスが不十分だとして推奨できないとした[26]2型糖尿病には1年未満の短期間に体重減少効果がある場合があるが、長期的な効果やリスクについてはエビデンスが不足しており、低血糖症・頭痛・集中力低下・便秘等の副作用に注意が必要である[26]

責任ある医療医師会英語版は「高タンパク質・低糖質な食事には、動物性食品に起因する健康リスクへの考慮が不足している」と発表した[12]

影響

低炭水化物食による体重減少の効果が低脂肪食ゾーンダイエットなど他のダイエットより優れているかどうかについては相反する臨床試験の結果が報告されており、2014年のメタアナリシスの結果によれば総カロリーが同じであれば効果に差はないと見られる[27]。6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり[7]、便秘や頭痛[8][9]、口臭、筋けいれん、下痢、脱力感発疹がより頻繁に見られる[9][28]。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との交絡が生じていると指摘され、研究にバイアスが生じている可能性がある[22]

2019年のシステマティックレビューで、糖尿病の管理ために6か月以上追跡した20件のランダム化比較試験が見つかり、低脂肪食と低炭水化物食の比較では、基本的に血糖制御、体重と脂質に有意な差はなかったが、一部の研究では低炭水化物食が有利であった。地中海食では、体重とHbA1cのより大きな減少と糖尿病の薬を必要としない時期が長かった。完全菜食マクロビオティックでは血糖制御の改善、菜食ではより大きな体重減少とインスリン感受性を示した。結論としてよりよい血糖制御のために完全菜食、菜食、地中海食を導入すべきという証拠が見つかり、より長期の試験が必要とされる[29]

短期的な影響

2003年、低脂肪食と低炭水化物食をランダムに割り振ったランダム化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重を減少させたが、1年間では有意な差が見られなかった[7]。2004年の研究では、6ヶ月の短期間に限り、体重が減少しているうちは、低糖質食を患者にすすめても安全だろうと提言されている[30]

ただし6ヶ月以内であっても、低炭水化物ダイエットでは便秘や頭痛が経験されることが多い[30](ある3ヶ月の実験で16人中2人以上[8]、ある6ヶ月の実験で51%以上[31][9])。6ヶ月間の比較で、低脂肪食のダイエットと比較して低炭水化物ダイエットは口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られた[9]

低脂肪食よりも低炭水化物食の方が、より体重減少やHDLコレステロール・血清トリグリセリドの改善がみられた[32]。糖尿病患者に対しての2年間の比較では低炭水化物ダイエットと高炭水化物ダイエットでの体重減少、HbA1cに差がなかったとの報告もある[33]

4週間の実験で低炭水化物ダイエットは低脂肪ダイエットや低GIダイエットと比べて血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールが高くなり心血管疾患のリスクが高まった[34]、炭水化物より脂肪から多くカロリーを摂取するとアンケートに答えた人は乳がんのリスクが高い[35]、などの報告がある。

長期的な影響

カナダ・マックマスター大学のMahshid Dehghan博士らの論文、5大陸18カ国で全死亡および心血管疾患への食事の影響を検証した大規模疫学前向きコホート研究(13万5335例7.4年間の追跡調査)では、炭水化物をとるほど死亡リスクが高くなる一方で、脂肪の摂取量を増やせば増やすほど死亡リスクは低下するとの報告がある[36]

低糖質食が死亡率心血管疾患にどう影響するかを調べた2012年発表のメタアナリシスによれば、低糖質食は総死亡率を増加させることが示された[37]

スウェーデンで、62,582人の男女で最大17.8年追跡し、発がん率との関係を調査した研究は、動物性たんぱく質は気道がんに関連し、飽和脂肪酸の摂取が高い場合に結腸直腸がんに関連した[38]

死亡率に関する10年以上の長期追跡調査

  • 2007年、ギリシャで1993年から2003年にかけて2万2944名のコホート研究で、低炭水化物で高タンパクの食事はより高い総死亡率を示した[39]。2007年、スウェーデンにおける4万2237人の女性での12年間におよぶコホート研究では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた[40]
  • 2010年、ハーバード大学による4万4548人の男性と8万5168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物食をベースとした低炭水化物ダイエットは男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物をベースとした低炭水化物ダイエットは死亡率を低下させていた[41]
  • 炭水化物を脂質に置き換える低炭水化物食を行った場合、摂取(置換)する脂質の種類(総脂質、飽和脂肪酸(SFAs)、一価不飽和脂肪酸(MUFAs)、多価不飽和脂肪酸(PUFAs)により全死因死亡率や心血管疾患死亡リスクが異なることが報告された[42]。この報告によれば、総脂質またはSFAsは全死因死亡率が上昇し、MUFAsではリスクは低下した。また、MUFAsは有意な減少であったとされた[42]
  • NIPPON DATA 80の研究成果では日本人9200人を29年間追跡した結果として、摂取総エネルギーの51.1%を糖質で摂取しているグループは、摂取総エネルギーの72.2%を糖質で摂取しているグループと比べて、女性において心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%との報告がある[43]

高タンパク質の影響

この食事法は、炭水化物の摂取比率を減らし、タンパク質脂肪の摂取量を増やすものである[33][39][40]

高タンパク質の食事は、半年間で高炭水化物の食事と比較してインスリン抵抗性が高まったとの報告がある[44]。(短期間6週間では、2011年の報告で、高穀類繊維 (high cereal-fiber)の食事より高タンパク質の食事のほうがインスリン抵抗性を高くし、糖尿病リスクを上げることが示された[45]

世界保健機関が2007年にまとめた報告書では、「高タンパク質食は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させるため、糖尿病高血圧多嚢胞性腎疾患によって腎不全の可能性がある場合には適切にタンパク質制限が行われるべきであり」[46]、「高タンパク質食では特に動物性タンパク質による腎結石のリスク増加がありうるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性タンパク質が望ましい」とされた[46]

アトキンス以前の炭水化物制限食

アトキンス・ダイエットができるまで

アトキンスは1959年にニューヨーク・マンハッタンにあるアッパー・イースト・サイドにて、心臓病および補完代替医療の専門医として開業した[47]

開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、デラウェア州にある会社、デュポン社(DuPont)に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン( Alfred W. Pennington )が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した[48]

1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン( George Gehrman )は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった[49]

アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、食物繊維が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で本を書き始めた。1972年、『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、その数年後に補完代替医療センターを開設した[50]

2002年、アトキンスは心臓発作を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な感染症を患っていたからであって、脂肪の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した[51][52][53]。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。

2003年4月、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。4月8日、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している[54][55][56]

ウィリアム・バンティング

炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、タンパク質脂肪を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン( Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )、ユストゥス・フォン・リービッヒ( Justus Liebig )、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、ウィリアム・バンティング( William Banting, 1796~1878 )、ジョン・ユドキン( John Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である[49]。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、小麦粉のような精製された炭水化物、とくに砂糖である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた[49]。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。

ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナールパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった[57][58]

クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[49]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。

1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。

バンティング自身、『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イギリスの医師、トマス・ホークス・タナー( en:Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )も、 著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている[49]

Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[57]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった[49]

南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークスは、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた[59]

サイエンス・ジャーナリストゲアリー・タウブスによる著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[60]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる[61][62][63][64][65]

なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。

ケトジェニック・ダイエット

1920年代前半には、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニックの医師、ラッセル・ワイルダーが『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は癲癇を治療するための食事法であったが、「肥満糖尿病に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「ケトン体」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『ケトジェニック・ダイエット』として知られるようになる。

1932年、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。

「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」[49]

アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中でケトン体について触れており、「炭水化物の摂取を極力抑え、脂肪の摂取量を増やすことで、身体はブドウ糖ではなく、脂肪をエネルギー源にして生存できる」という趣旨を述べ、体重を減らしたい人に向けて、炭水化物を避けるか、その摂取制限を奨めている。

炭水化物制限食の歴史

「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は、奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。

「ヒトを肥満にさせるのは、デンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」

「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」

「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している[49]

  • 1844年、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、1864年英語に翻訳され、出版された。ダンセルは、

「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」

と述べている[49]

  • 「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者ユストゥス・フォン・リービッヒによる研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。

ダンセルは、

「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」

「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」

と述べた[49]

  • 1866年ベルリンで開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法は、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。

「肉は無制限に食べてかまわない」[49]

「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」[49]

  • 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、

「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」

と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、

「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」

と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった[49]

  • オールソンの教え子でコーネル大学の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、1973年10月アメリカ国立衛生研究所で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、1967年1974年にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは

「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」

と述べた[49]

  • 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と砂糖を減らすように」と述べている[49]
  • 1907年、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている[49]
  • 1925年、ロンドンにあるセイント・トマス病院医科大学のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『The Lancet』の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている[49]
  • 1936年デンマークの医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた[49]
  • 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、

「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」

「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」

と、兵士たちに警告している[49]

  • 1946年に初版が出版されたベンジャミン・スポック( Benjamin M. Spock )による子育て本『Baby and Child Care』にて「体重がどれほど増えるか減るか、は、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた[49]
  • 1963年、サー・スタンリー・ディヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、

「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」

「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」

と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。

「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」[49]

  • 1958年にはリチャード・マッカーネス( Richard Mackerness, 1916~1996 )による著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)、1960年にはヘルマン・ターラー英語版( Herman Taller, 1906~1984 )による著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。
  • イギリス生理学者栄養学者ジョン・ユドキン( John Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。

「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」

「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」

と明言している。

「ヒトを病気にさせるのは動物性脂肪ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』[66]は、何の役にも立たない」「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている[67]2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病学会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した[68]2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁の「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した[69]

2011年、イーエンフェルトは著書「Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight」を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている[70]。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された[71]

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関連項目