低炭水化物ダイエット

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低炭水化物ダイエット(ていたんすいかぶつ-、ローカーボダイエット、low-carbohydrate diets)とは、肥満や糖尿病の治療を目的として炭水化物の摂取比率を制限する食餌療法である。糖質制限食[1][2]糖質制限ダイエットとも呼ばれる。

低炭水化物ダイエットは、6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが1年後では差がないなどの報告があり[3]、便秘や頭痛[4][5]、口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られる[5]。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との交絡が生じていると指摘され、研究にバイアスが生じている可能性がある[6]。10年以上の長期的な影響では、低炭水化物では死亡リスクが高いという調査結果が存在する[7][8]。世界保健機関は、高いたんぱく質量の食事に対する腎臓機能悪化を報告しており[9]、2013年のアメリカ糖尿病学会は、過体重の患者の体重減少のために短期間の低炭水化物ダイエットや、低脂肪、カロリー制限食、また地中海食を推奨しているが、低炭水化物ダイエットでは腎機能、脂質の特徴、たんぱく質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であるとしている[10]

流行[編集]

1990年代にロバート・アトキンスが提唱したアトキンスダイエットが流行する。アトキンスダイエットは痩身が目的とされたが賛否両論があった。2000年2月24日には、アメリカ合衆国農務省が討論会を開催し批判が集まった[11]。アトキンスへの批判は心臓や腎臓に負担をかけるのではないかということであった[11]

低炭水化物ダイエットと揶揄されたゾーンダイエット(en:Zone diet)は、米国の生化学者であるバリー・シアーズ博士が提唱し、砂糖ではなく極力精製されていない食品を摂取し炭水化物はカロリー比40%、タンパク質は30%、脂質を30%にするというものである[11]

種類[編集]

アトキンスダイエットや、糖尿病に対する食事療法と称する一般向けの健康法本が販売されている。

アトキンスダイエット[編集]

江部康二[編集]

江部康二による一般向け健康本によれば、炭水化物を減らした食事を開始すると、糖尿病患者の血糖値は数ヶ月で、コレステロール値や尿酸値や体重などの指標も、多かれ少なかれ、改善する[12]。また江部康二は別の一般向けの書籍にて、低炭水化物ダイエットは、カロリーではなく炭水化物の量を制限するために、たんぱく質や脂肪の制限がなく、お酒も種類によっては許されることから人によっては食生活切り替えが容易である、と指摘している。[13]

ただし、血糖値を下げる薬を飲んでいる人が、炭水化物制限食を実施すると、食事だけで血糖値が改善するので、血糖値が下がりすぎてしまう危険がある。低血糖も、生命への危険が大きい。また、肝硬変など、肝機能が低下している人は、脂肪から糖を作る糖新生を行うことができないので、低血糖が生じる。また、炭水化物を減らすと蛋白質の摂取が増えるが、腎機能の悪い人では、蛋白質の摂りすぎにより、悪影響が生じる。そのため、利用する人はこの手法を自分に適用できるかの確認はほぼ必須となることは、このダイエット方法を推奨する書籍でも指摘されている。[14]

このダイエット手法は、日本では糖尿病患者の治療法として導入した医師が提唱したこともあり、糖尿病治療法の一環として導入される場合もある。また、江部康二の著作によれば、米国糖尿病学会が2013年の栄養療法に関する声明で、糖質制限食を治療食の選択肢の一つとして公式に認めているとのことである。[15]

2013年のアメリカ糖尿病学会の声明では、過体重の患者の体重減少が推奨され、その体重減少の方法として2年までの短期間の低炭水化物や、低脂肪、カロリー制限、また地中海食が推奨されており、低炭水化物の場合には、腎機能、脂質の特徴、たんぱく質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であると記載されている[10]。2014年のアメリカ糖尿用学会の栄養に関する勧告は、他の炭水化物源よりも、野菜、果物、全粒穀物、豆類、乳製品からの炭水化物の摂取が良好な健康状態に必要であるとされ、より高い炭水化物量と比較して、低炭水化物食に脂質およびリポタンパク質に差があった研究とない研究があり、多くの研究で体重減少との交絡が生じていると指摘し、また炭水化物では低いグリセミック負荷の食品が、血糖値を少々制御するとして推奨している[6]

日本の糖尿病学会は2013年に、たんぱく質の腎臓への影響による糖尿病合併症への懸念から、炭水化物は通常の食事摂取基準で示される60%程度の比率を推奨している[16]

短期的な影響[編集]

2003年、低脂肪食と低炭水化物食をランダムに割り振ったランダム化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重を減少させたが、1年間では有意な差が見られなかった[3]。2004年『ランセット』は6ヶ月の短期間に限り安全であるようだとしている[17]

ただし6ヶ月以内であっても、低炭水化物ダイエットでは頻繁に便秘や頭痛が起こる[4][18][5]。6ヶ月間の比較で、低脂肪食のダイエットと比較して低炭水化物ダイエットは口臭、筋けいれん、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られた[5]

糖尿病患者に対しての2年間の比較では低炭水化物ダイエットと高炭水化物ダイエットでの体重減少、HbA1cに差がなかった[19]

長期的な影響[編集]

低脂肪ダイエット、低GIダイエット、低炭水化物ダイエットの比較で、低炭水化物ダイエットでは血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールが最も高い[20]。これらは心血管疾患のリスクを表す。

2004年、女性を対象とし炭水化物からではなく脂肪からの高いカロリー摂取量は乳がんのリスクを増加させていた[21]

死亡率に関する10年以上の長期追跡調査[編集]

2007年、ギリシャで1993年から2003年にかけて22,944名のコホート研究で、低炭水化物で高タンパクの食事はより高い総死亡率に関連付けられていた[7]。2007年、スウェーデンにおける42,237人の女性での12年間におよぶコホート研究では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた[8]

2010年、ハーバード大学による44,548人の男性と85,168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物食をベースとした低炭水化物ダイエットは男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物をベースとした低炭水化物ダイエットは死亡率を低下させていた。 [22]

高たんぱく質の影響[編集]

低炭水化物ダイエットでは、炭水化物の比率を減らすことからたんぱく質の摂取量が多くなる[19][7][8]。 2007年の世界保健機関によるたんぱく質に関する報告書では、タンパク質の多い食事は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させる明らかな証拠があり、糖尿病、高血圧、多嚢胞性腎疾患によって腎不全の可能性があれば正しくたんぱく質制限が行われるのが正しいとしている[9]。また、高たんぱく質の食事は尿中カルシウムを増加させることが十分に立証されており、たんぱく質摂取量が結石生成に影響することや、特に動物性たんぱく質が腎結石のリスクを増加させる可能性が考えられるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性たんぱく質が望ましいとされる[9]

高たんぱく質の食事は、半年間で高炭水化物の食事と比較してインスリン抵抗性が高くなった[23]

脚注[編集]

  1. ^ 江部康二「低糖質食(糖質制限食carbohydrate restriction)の意義」『内科』105巻1号、100~103ページ、2010年。
  2. ^ 江部康二「低炭水化物食(糖質制限食)の有効性と安全性:Effectiveness and Safety of Low Carbohydrate Diet (Carbohydrate-Restriction Diet) 」 『女子栄養大学栄養科学研究所年報』(19):2013、37-50ページ。
  3. ^ a b Gary D. Foster, Ph. D., Holly R. Wyatt, M.D., James O. Hill, Ph. D., Brian G. McGuckin, Ed. M., Carrie Brill, B.S., B. Selma Mohammed, M.D., Ph. D., Philippe O. Szapary, M.D., Daniel J. Rader, M.D., Joel S. Edman, D.Sc., and Samuel Klein, M.D. (2003). “A Randomized Trial of a Low-Carbohydrate Diet for Obesity”. New England Journal of Medicine 348 (21): 2082–90. doi:10.1056/NEJMoa022207. PMID 12761365. http://content.nejm.org/cgi/content/short/348/21/2082. 
  4. ^ a b Sondike, Stephen B.; Copperman, Nancy; Jacobson, Marc S. (2003). “Effects of a low-carbohydrate diet on weight loss and cardiovascular risk factor in overweight adolescents”. The Journal of Pediatrics 142 (3): 253–258. doi:10.1067/mpd.2003.4. ISSN 00223476. 
  5. ^ a b c d Yancy WS, Olsen MK, Guyton JR, Bakst RP, Westman EC (May 2004). “A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia: a randomized, controlled trial”. Ann. Intern. Med. 140 (10): 769–77. PMID 15148063. 
  6. ^ a b Evert, A. B.; Boucher, J. L.; Cypress, M.; Dunbar, S. A.; Franz, M. J.; Mayer-Davis, E. J.; Neumiller, J. J.; Nwankwo, R. et al. (2013). “Nutrition Therapy Recommendations for the Management of Adults With Diabetes”. Diabetes Care 37 (Supplement_1): S120–S143. doi:10.2337/dc14-S120. ISSN 0149-5992. http://care.diabetesjournals.org/content/37/Supplement_1/S120.full. 
  7. ^ a b c A. Trichopoulou, T. Psaltopoulou, P. Orfanos, C.-C. Hsieh & D. Trichopoulos (May 2007). “Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort”. European journal of clinical nutrition 61 (5): 575–581. doi:10.1038/sj.ejcn.1602557. PMID 17136037. 
  8. ^ a b c P. Lagiou, S. Sandin, E. Weiderpass, A. Lagiou, L. Mucci, D. Trichopoulos & H.-O. Adami (April 2007). “Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women”. Journal of internal medicine 261 (4): 366–374. doi:10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x. PMID 17391111. 
  9. ^ a b c 『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年05月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007
  10. ^ a b “POSITION STATEMENT : Standards of medical care in diabetes 2013” (pdf). Diabetes Care 36 Suppl 1: S11–66. (January 2013). doi:10.2337/dc13-S011. PMC 3537269. PMID 23264422. http://care.diabetesjournals.org/content/36/Supplement_1/S11.full.pdf. 
  11. ^ a b c 「ご飯を食べるダイエット=○」『ニューズウィーク日本版』2000年6月号、p33。
  12. ^ 江部康二 『糖尿病がどんどん良くなる糖質制限食
  13. ^ 江部康二 『主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ
  14. ^ 江部康二『主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ 新版』
  15. ^ 江部康二 『主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ 新版』
  16. ^ 【PRESS RELEASE】日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言(日本糖尿病学会)
  17. ^ Arne Astrup, Thomas Meinert Larsen, Angela Harper (2004). “Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss?” (PDF). Lancet 364 (9437): 897–9. doi:10.1016/S0140-6736(04)16986-9. PMID 15351198. http://www.icb.ufmg.br/biq/biq038/lancet.pdf. 
  18. ^ Westman EC, Yancy WS, Edman JS, Tomlin KF, Perkins CE (July 2002). “Effect of 6-month adherence to a very low carbohydrate diet program”. Am. J. Med. 113 (1): 30–6. PMID 12106620. 
  19. ^ a b Krebs JD, Elley CR, Parry-Strong A, et al. (April 2012). “The Diabetes Excess Weight Loss (DEWL) Trial: a randomised controlled trial of high-protein versus high-carbohydrate diets over 2 years in type 2 diabetes”. Diabetologia 55 (4): 905–14. doi:10.1007/s00125-012-2461-0. PMID 22286528. 
  20. ^ Ebbeling CB, Swain JF, Feldman HA, et al. (June 2012). “Effects of dietary composition on energy expenditure during weight-loss maintenance”. JAMA 307 (24): 2627–34. doi:10.1001/jama.2012.6607. PMID 22735432. 
  21. ^ Isabelle Romieu, Eduardo Lazcano-Ponce, Luisa Maria Sanchez-Zamorano, Walter Willett & Mauricio Hernandez-Avila (Augus 2004). “Carbohydrates and the risk of breast cancer among Mexican women”. Cancer epidemiology, biomarkers & prevention : a publication of the American Association for Cancer Research, cosponsored by the American Society of Preventive Oncology 13 (8): 1283–1289. PMID 15298947. 
  22. ^ Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE, Stampfer M, Willett WC, Hu FB (2010). “Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: two cohort studies.”. Ann Intern Med 153 (5): 289-98. doi:10.1059/0003-4819-153-5-201009070-00003. PMC PMC2989112. PMID 20820038. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=PMC2989112. 
  23. ^ Weickert MO, Roden M, Isken F, et al. (August 2011). “Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans”. Am. J. Clin. Nutr. 94 (2): 459–71. doi:10.3945/ajcn.110.004374. PMID 21633074. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]