1型糖尿病

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1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう、ICD-10:E10)は、膵臓のβ細胞の破壊によるインスリンの欠乏を成因とする糖尿病である。以前は「インスリン依存型糖尿病」や「小児糖尿病」とも呼ばれていた。

概要[編集]

生活習慣の影響による糖尿病の2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病は生活習慣とは無関係の自己免疫性疾患などが原因とされ、原因は異なるが同じ糖尿病の病態を示す。膵臓にあるβ細胞は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンを分泌している。ところが、何らかの原因によりこのβ細胞が破壊されてしまうと、インスリンの分泌が極度に低下するか、ほとんど分泌されなくなり、糖尿病を発症する。インスリンが機能しないため血糖値が上昇し、糖尿病性昏睡などの急性のものから、糖尿病性腎症などの慢性のものまで、さまざまな合併症を引き起こし、最悪の場合死に至る。20世紀前半にインスリンが治療応用されるまでは、極度の食事制限を要する致死的疾患の一つであった。経口血糖降下薬などの飲み薬は無効で、患者はかならず注射薬であるインスリンを常に携帯し、毎日自分で注射しなくてはならない。今日ではペン型注射器などが開発され、発症者の大半である小児でも自分で打ちやすくなった。

原因[編集]

発症原因は不明であるが、自己免疫の異常が重要な要因の一つと考えられている。しかし、自己免疫系はそれ自体が不明な部分を多く有している。

  • 自己免疫疾患の遺伝的素因(HLA-DR、DQ、PTPN22、CTLA-4など)[1]
  • 自己抗体(ICA、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体など)
  • 分子模倣(コクサッキーBウイルスと抗GAD抗体の抗原であるグルタミン酸デカルボキシラーゼの相似性を根拠とする、そのほかエンテロウイルスEBウイルス[2]がよく候補に挙げられる)

その一方で、1型糖尿病の一部には自己抗体が証明されず、膵臓にも炎症細胞の浸潤が証明されないものもある。これはあきらかに自己免疫性とは言えないものである。アジア、アフリカ人に多いとされるこの病型の原因についてはもとんど不明である。

しかし、2型糖尿病を発症しインスリン療法よる治療中に1型を発症する例もある[3][4]。また、乳児期の一過性の潜在性ビタミンD欠乏症が将来の発症リスクを3倍に上昇させるとする研究がある[5]

分類[編集]

原因と発症形式による分類。

  • β細胞破壊の原因
    • 自己免疫性(1A型) - 血中に自らの膵細胞を攻撃する自己抗体が認められるもの
    • 特発性(1B型) - 自己抗体が認められないもの[6]
  • 発症形式
    • 典型例(急性)
    • 緩徐進行性[7][8]
    • 劇症型[9]

疫学[編集]

  • 発症率
    • 日本糖尿病学会(1993)によれば(0 - 14歳)は日本では10万人に約1.5人[10]
    • 田嶼ほか(1999)によれば(0 - 17歳)は日本では10万人に約2人[11]と報告されている
  • 最近、世界的に1型糖尿病の発症率の増加が報告され、環境要因との因果関係が疑われている(IDF報告およびLancet2004 Nov 6-12:1699-700.より)

症状[編集]

初期の自覚症状は喉の渇き、多飲・多尿、体重の減少などに過ぎない。これが進行すると、急性の合併症である糖尿病性昏睡を引き起こし、手当が遅れると死亡することもある。そのため、早期発見が非常に重要な病である。合併症には以下のようなものがある。

糖尿病性昏睡[編集]

糖尿病性昏睡は1型に限らず糖尿病の急性合併症であり、一時的に著しい高血糖になることによって昏睡状態となる。体調不良によって平常通りに服薬できなかった場合(いわゆるシックデイ)の時に特に起こりやすく糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)などが知られている。

慢性期合併症[編集]

有名なもので心筋梗塞などの大血管障害や、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症の三大合併症などがあげられる。また甲状腺疾患も合併しやすいため、女性は特に注意が必要である。

検査[編集]

血糖値などを測定するための血液検査や、HbA1c値を測定する検査など、幅広く検査が行われ、1型糖尿病かどうかを判断する。

診断[編集]

日本では、日本糖尿病学会1999年の診断基準を用いる。空腹時の血糖または75g経口ブドウ糖負荷試験で診断する。

空腹時血糖(mg/dl) 2時間後血糖(mg/dl)
正常型 110未満 140未満
境界型 126未満 200未満
糖尿病型 126以上 200以上

通常は判定を2回繰り返し、2回とも糖尿病型であれば糖尿病と診断。口渇や多飲、多尿などの典型的な症状や糖尿病性網膜症が存在する場合や、HbA1c値が6.5%以上である場合は1回だけの判定で糖尿病と診断する。空腹時血糖110-126mg/dlをImpaired Fasting Glucose, IFGと呼び、75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が140-200mg/dlであるものを耐糖能異常; Impaired Glucose Tolerance, IGTと呼ぶ。

糖尿病と診断できたら、次に1型糖尿病であるのか、2型糖尿病であるのか、二次性糖尿病であるのかなどといった成因から診断していく。手順としてはまずは1型糖尿病から疑う。基本的に1型糖尿病と2型糖尿病はまったく異なる臨床像を示すため区別は容易である。しかし、SPIDDM(slow progressive IDDM)という一見2型糖尿病を思わせる病型が存在するため、必ず一度は抗GAD抗体を測定する。また、糖尿病を誘発する疾患の有無を検索する。1型と2型では治療方法や方針が大きく変わるため、この過程は重要である。

これらの検査を行い、最終的に1型かどうかを診断する。

治療[編集]

1980年代は2型と同じと考えられていたが、2型の主な治療法である食事療法運動療法を行っても、1型の場合は効果がほとんどない。食事療法の基本は食事制限は行わず、年齢性別に則した必要な栄養を摂取する為の療法が行われる[12]。そのため、インスリン療法を中心に行う。インスリン療法は、強化インスリン療法とその他の治療法に分けられる。

強化インスリン療法[編集]

強化インスリン療法とは、インスリンの頻回注射のこと、または持続皮下インスリン注入(CSII)に血糖自己測定(SMBG)を併用し、医師の指示に従い、患者自身がインスリン注射量を決められた範囲で調節しながら、良好な血糖コントロールを目指す方法である。基本的には食事をしている患者では、各食前、就寝前の一日4回血糖を測定し、各食前に超速効型インスリンを就寝前に持続型インスリンの一日4回を皮下注射にて始める。各食事前のインスリンは、個人差、条件等での差異はあるが1日の総摂取カロリー1800キロカロリーの場合、毎食6-18単位、持続型を含め一日の合計で30-50単位前後となる。

その他の治療法[編集]

発症初期の患者などでは、速効型(または超速効型)インスリンの毎食前3回注射など強化インスリン療法に準じた注射方法でよい場合もある。また頻回のインスリン注射が困難な患者や強化インスリン療法が適応とならない患者では混合型または中間型の一日1回~2回投与という方法もある。具体的には中間型インスリンを朝食前に1回打ちにしたり、混合型製剤を朝食前、夕食前の2回打ちにし、食後血糖を抑えるためαグルコシターゼ阻害薬を併用する等がオーソドックスといわれている。

治療する目的は1型糖尿病の各種合併症を防ぐことである。ただし、これらの治療法をとると低血糖症などの副作用が起こる場合がある。

出典[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 直腸癌回腸浸潤の手術後に発症したHLA-DRB1*0406, B1*04051を有するインスリン自己免疫症候群の1例 糖尿病 Vol.56 (2013) No.12 p.938-942
  2. ^ 急性膵炎発症後急速にインスリン依存状態をきたし, 単純ヘルペスウイルスの関与が考えられた糖尿病の1例 糖尿病 Vol.44 (2001) No.4 P335-340
  3. ^ インスリン療法開始3ヶ月後に突然の血糖上昇とインスリン分泌能枯渇をきたした2型糖尿病の1症例 糖尿病 Vol.55 (2012) No.1 P23-28
  4. ^ インスリン注射を契機に発症した1型糖尿病 糖尿病 Vol.55 (2012) No.8 p.645
  5. ^ 乳幼児のくる病が増えた理由 摂取栄養の偏りや日光浴不足でビタミンDが欠乏 日経メディカルオンライン 記事:2012年1月12日
  6. ^ 非自己免疫性劇症1型糖尿病と考えられた5例の臨床的検討 糖尿病 Vol.44 (2001) No.4 P315-322
  7. ^ 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2012)―1型糖尿病調査研究委員会(緩徐進行1型糖尿病分科会)報告― 糖尿病 Vol.56 (2013) No.8 p.590-597
  8. ^ 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2012) 日本糖尿病学会
  9. ^ 伊藤博史:腹痛を主訴として経過中に高血糖を呈した32歳の女性 日本内科学会雑誌 Vol.99 (2010) No.10 p.2625-2627
  10. ^ 1993年、日本糖尿病学会
  11. ^ 田嶼尚子、松島雅人、安田佳苗:特集 1型糖尿病 1型糖尿病の疫学 糖尿病 Vol.42 (1999) No.10 P833-835
  12. ^ {{{1}}} (PDF) 日本糖尿病学会/出版社:南江堂

関連項目[編集]

外部リンク[編集]