バセドウ病

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バセドウ病(ばせどうびょう、Basedow-Krankheit)とは、甲状腺自己抗体によって甲状腺が瀰漫(びまん)性に腫大する病気。英語圏ではグレイヴズ病(グレイヴズびょう、Graves' disease)と呼ばれる。自己免疫疾患V型アレルギー)の一種。かつては発見者のカール・フォン・バセドウ(de:Carl von Basedow)にちなみ、バセドウ氏病と呼ばれた。バセドー病と表記されることもある。

目次

[編集] 病態・原因

甲状腺の表面には、下垂体によって産生される甲状腺刺激ホルモン (TSH) の受容体甲状腺刺激ホルモン受容体、TSHレセプター)が存在する。バセドウ病では、自己の体内にこの受容体に対する自己抗体抗TSHレセプター抗体、TRAb)が生じ、それがTSHの代わりにTSHレセプターを過剰に刺激するために、甲状腺ホルモンが必要以上につくられてしまう状態となる。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を高めるホルモンであるため、このホルモンの異常高値によって代謝が異常に活発になることで、心身に様々な影響を及ぼす。

この自己抗体産生が引き起こされる原因は、2007年現在不詳である。 過度なストレス・過労が発症に関与しているという説もある。

なお、ヨウ素の摂取量が少ない地域(西ヨーロッパなど)では、ヨウ素を大量摂取することで、潜在的なバセドウ病が発症することがある。これをヨードバセドウ病と呼ぶ。

[編集] 統計

20 - 30歳代に多く、男女比は1:3 - 4。中年女性に多く、甲状腺機能亢進症の代表的な病気である。中年以上の女性がバセドウ病に罹患した場合、更年期障害と勘違いする事が多い。また、最近では若い女性にも増えてきている。何らかのアレルギーを持っている人が多い。

[編集] 症状

  • 甲状腺腫大、眼球突出、頻脈をメルゼブルク (Merseburg) の三徴と言う。
  • 他に甲状腺機能亢進症を来たし、以下の症状も見られる。
    • 低カリウム血症から低カリウム性周期性四肢麻痺になる。
    • あらゆる臓器が常に全力疾走しているのと同じ状態になり、大量のエネルギーを必要とするため食欲が異常に増し、体重減少を来たす(代謝以上に食欲が亢進し、太る場合もある)。
    • 心臓機能の亢進から収縮期高血圧、時に心房細動を来たす。
    • 新陳代謝の活発化から発汗過多を来たす(夏の暑さに耐えられない)。
    • 内分泌のバランスが崩れて精神的に不安定になる、イライラする、集中力が低下する。
  • 甲状腺クリーゼ:突然重篤な甲状腺機能亢進状態となる合併症。高熱、頻脈、嘔吐、下痢、意識障害などを来す。生命に関わることもあるため注意を要する。
  • 眼球突出、眼球運動障害(複視)、視神経症をきたす事がある。
  • ステルワーグ徴候(瞬きの増加)、グレーフェ徴候(上眼瞼拳筋の過度の緊張で上方注視後に下方に視線を移すと、上眼瞼下際と角膜の間に白目が見える)、メビウス徴候(両眼輻輳失調)が見られる。

[編集] 検査

  • 血液検査
    • 甲状腺ホルモン
      • T3, Free T3
      • T4, Free T4
      • TSH
    • 電解質
      全身の細胞膜上にあるNa-Kポンプにもアクセルがかかり低カリウム血症になる。
    • TRAb (=TSH receptor antibody)
    • 抗TPO抗体(thyroid peroxidaseに対する抗体、抗ミクロゾーム抗体と近い)
      橋本病でもバセドウ病でも抗TPO抗体は、しばしば認められる。
  • 画像診断

[編集] 診断

甲状腺腫大、眼球突出、頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見などからバセドウ病が疑われる場合、血中の甲状腺ホルモン測定などにより判断する。

  • 甲状腺ホルモン:freeT4、freeT3の高値、TSHの抑制。ただしeuthyroid Graves' diseaseの場合はホルモン正常であるので注意。
  • 自己抗体:抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、または抗TSH受容体刺激抗体(TSAb)陽性。
  • 甲状腺機能の亢進:甲状腺シンチでの摂取率高値、エコーでの血流増加。

[編集] 治療

[編集] 薬による治療

甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬:メチマゾール(メルカゾール)、チウラジール(プロバジール))を、規則的に服用する方法。定期的に甲状腺ホルモンの量を測定しながら、適切な量の薬を服用することで、血液中の甲状腺ホルモンの濃度を正常にする。薬で甲状腺刺激ホルモンの量を調整することで普通の人と変わらない生活を営むことができるが、甲状腺刺激抗体が消えるまで薬を飲みつづける必要がある為、完治には長い期間を要する。副作用としては、5%に皮膚の炎症、0.05%に白血球の減少や無顆粒球症が生じることがある。これらの副作用は服用開始から3ヶ月以内に現れることが多い。無顆粒球症が生じたら直ちに治療を中止し、放射性ヨード投与など別の治療法に切り替える必要がある。

[編集] アイソトープ(放射性ヨード)治療

ヨードの放射性同位元素を服用し、甲状腺の細胞の数を減らす方法。甲状腺細胞の数が減少すれば、分泌される甲状腺ホルモンの量が減少する。およそ2~6ヶ月で甲状腺ホルモンの量が減少すると言われ、手術よりは手軽で、薬より早く治るのが、この方法の長所である。但し、時間経過とともに細胞が減りすぎて、逆に甲状腺の機能低下が発生することもある。

[編集] 手術

甲状腺の一部を残して、切除する方法。甲状腺を切除することで甲状腺ホルモンの量を調整する。 他の治療法より早く完治し、再発も少ないが、入院を要する。また、傷跡が目立つことがある。術後に甲状腺機能低下症に陥ることが多いが、その場合の治療は通常の甲状腺機能低下症と同じである。

[編集] 予後

バセドウ病は適切な治療を行えば予後良好である。しかし、治療を怠ると死亡の原因にもなる。

[編集] 妊娠・出産

適切な治療が行われていないとき、妊娠中、へその緒を通しての胎児への栄養がうまく送れなくなり、胎児が発育遅延になる場合がある。

甲状腺の治療薬は長い間、胎児の奇形に寄与すると信じられていたが、現在では否定されている。

[編集] 歴史

アイルランド
1835年にロバート・ジェイムズ・グレイヴズが報告した。
ドイツ
1840年にカール・アドルフ・フォン・バセドウが報告した。ゲオルグ・ヒルシュによりこの名が付けられた。症状の「メルゼブルクの三徴」は、バセドウの出身地、de:Merseburgに因む。
日本
本症の発見前後、日本の医学はドイツ語圏に属していたため、バセドウ病と言う事が多い。

[編集] 著名な患者

クレオパトラはバセドウ病であったという説がある。田中角栄ジョージ・ブッシュ(第41代)米大統領もバセドウ病であった。また、夏目雅子(女優)、宮村優子(声優)、絢香(シンガーソングライター)も罹患者として知られるところである。