慢性甲状腺炎
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慢性甲状腺炎(まんせいこうじょうせんえん、英 Chronic thyroiditis)あるいは橋本病(はしもとびょう、英 Hashimoto's thyroiditis)とは、自己免疫疾患の一種で、自己抗体が甲状腺細胞を攻撃するものである。 この病気は、自己免疫疾患として認識された最初の病気であった。
慢性甲状腺炎は、北アメリカおよび日本[1]における原発性甲状腺機能低下症の原因のなかでもっとも頻度が高いものと考えられている。女性に多く(男性の10倍から20倍)、また45歳から65歳の年齢層で多くみられる。
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[編集] 原因
甲状腺疾患の家族歴がよくみられる。イギリスにおいてはHLA-DR5抗原の発現が強く関連している(相対危険度 3)との報告がある。
関連する遺伝子の種類は人種により大きく異なっており、またターナー症候群やダウン症候群、およびクラインフェルター症候群などの染色体異常の患者では有病率が高くなるとされる。
甲状腺の細胞が破壊される詳細な機序はまだ明らかではない。甲状腺ペルオキシダーゼやサイログロブリン、TSHレセプターに対する自己抗体が陽性となるが、いずれの抗体も陰性である患者もわずかながら存在する。逆に、これらの抗体が陽性でありながら慢性甲状腺炎を発症しない人もいる。
[編集] 病態・症状
慢性甲状腺炎により甲状腺機能低下が起こるとされるが、慢性甲状腺炎の症例全体の中で、甲状腺機能の指標のひとつである血清遊離サイロキシン (fT4) 濃度が低下している症例は約4分の1程度にとどまる[2]。明らかな甲状腺機能異常を伴わない症例や、TSH値が軽度上昇するも血清fT4濃度や血清遊離トリヨードサイロニン (fT3) 濃度の低下がみられない、潜在的甲状腺機能低下症の段階にとどまる症例の方が多い[2]。また、病初期の急性期には一時的に「ハシトキシコーシス (Hashitoxicosis)」と呼ばれる甲状腺中毒症の状態になり甲状腺機能の亢進が起こることがある。
生理学的には、甲状腺ペルオキシダーゼまたはサイログロブリンに対する抗体により、甲状腺の濾胞細胞は緩やかに破壊される。したがって、この病気は臨床的には、血液検査でこれらの抗体濃度を測定することで診断できる。また、白血球、とくにTリンパ球の甲状腺への浸潤も特徴的である。非ホジキンリンパ腫との関連が指摘されている。
診察所見としてはびまん性の甲状腺腫大がみられる。また、病初期には甲状腺機能亢進による症状(体重減少、脈拍数の増加など)を呈しうるが、その後は甲状腺機能低下に起因する症状が出現する。体重増加、うつ状態、全身の疲れ、脈拍数の低下、高コレステロール血症、便秘、記憶力の低下、不妊、毛髪の脱落などが起こりうる[3]。
[編集] 診断
日本甲状腺学会によりガイドライン案が策定されている[4]。これによると、臨床所見としてはびまん性の甲状腺腫大(ただしバセドウ病などの別疾患によるものを除外する)を、また検査所見は甲状腺の自己抗体(抗甲状腺マイクロゾーム抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、抗サイログロブリン抗体)、または 細胞診におけるリンパ球の浸潤所見を確認し、臨床所見の存在ならびに検査所見のうちいずれか1つの陽性をもって慢性甲状腺炎の診断がなされる。
慢性甲状腺炎であることの診断には甲状腺ホルモン値は影響しないが、甲状腺機能異常の合併がよくみられること、また甲状腺機能異常に対しては治療介入が必要であることから、甲状腺機能異常を念頭においた問診と、甲状腺機能(前述のfT4, fT3, TSH値)の測定も必要である。
超音波検査の所見は特異的ではないが、甲状腺腫大に加え、リンパ球の浸潤に伴う不均一な低エコーの所見がみられることが多い[2][4]。
[編集] 治療
甲状腺腫大が軽度で、甲状腺機能低下のない症例では、特別な治療は行わずに、年に1回程度の診察で経過を観察する[2]。慢性甲状腺炎患者においては甲状腺機能は変動しやすいため、定期的な経過観察が勧められる。また甲状腺機能異常(低下症や亢進症)の症状が出現したときには主治医を受診する必要がある[1]。
甲状腺機能低下を伴う症例に対しては、甲状腺ホルモン剤の補充を行う。一般には合成サイロキシン (T4) 製剤であるレボチロキシンナトリウム(商品名・チラーヂンS)の内服を行うことが多い。T4製剤の場合、血中半減期が長い(約7日)ため、1日1 回の内服で血中の甲状腺ホルモン濃度をコントロールできる[5]。TSHの正常化が投与量の目安となる[1]。
[編集] 「橋本病」の名称
エポニムである「橋本病」(あるいは橋本甲状腺炎)の名称は、九州大学の医学者であった内科医の橋本策の名前に由来する。橋本はこの病気を1912年にドイツの学術誌において初めて発表した[6]。
[編集] 参考文献
- ^ a b c 浜田昇 『研修医・実地医家のためのパーフェクトナビ 甲状腺疾患診療』 診断と治療社、2004-09-30、初版、pp. 9 - 13, 76 - 91。ISBN 4-7878-1276-9。
- ^ a b c d 関原久彦ほか 『内分泌疾患診療マニュアル』 日本医師会 発行、南光堂 発売、2002年、pp. 182 - 183。ISBN 4-524-23508-6。
- ^ 肥塚直美 編 『専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ 内分泌疾患』 日本医事新報社、2003-01-20、第3版、pp. 104-115。ISBN 4-7849-5241-1。
- ^ a b 日本甲状腺学会 (2004-01-20). "診断ガイドライン" (日本語). 2008-04-23 閲覧。
- ^ 阿部好文・西川哲男 『臨床に直結する内分泌・代謝疾患治療のエビデンス』 文光堂、2004-11-25、初版、pp. 71-74。ISBN 4-8306-1357-2。
- ^ H. Hashimoto: Zur Kenntnis der lymphomatösen Veränderung der Schilddrüse (Struma lymphomatosa). Archiv für klinische Chirurgie, Berlin, 1912, 97: 219−248.

