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2014年2月26日 (水) 09:44時点における版

ノーウッド手術
治療法
正常心と左心低形成症候群(HLHS)の比較。HLHSでは、通常体循環に血液を駆出する役割を担う左室の形成が不十分で痕跡的である。ノーウッド手術では、右室が体循環に血液を供給するように血流が転換される。そのため、肺循環に対しては別途血流を供給する手段が必要になる。
ICD-9-CM 35.8
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心臓外科におけるノーウッド手術: Norwood procedure)またはノルウッド手術とは、主に左心低形成症候群に対して行われる姑息手術であり、1981年にアメリカの小児心臓外科医であるノーウッド(William I. Norwood)らにより最初に報告された[1][2]

術式は、まず心房中隔欠損作成を(心房間交通が無い場合は)行い、主肺動脈を離断、遠位側は結紮する。近位側を低形成な大動脈弓と吻合し、大動脈が再建される。そして腕頭動脈右室から肺動脈へシャントを作成し、肺循環に血流を供給する。本術式には人工心肺による体外循環が必須である[3]


手術適応

本術式の適応疾患には、左心低形成症候群、僧帽弁閉鎖症の一部、その他の単心室疾患などが含まれる。これらの疾患の喫緊の問題は、心臓が体循環に血液を十分に拍出出来ないことである。そのためノーウッド手術の目的は、単心室と体循環を接続して血液が流れるようにすることにある。その際への血流が途絶するため、肺循環に血液を供給する代替経路を作成する必要がある。

術式

ノーウッド手術の術式は複雑であり、個々の患児の診断や心臓の循環動態を含めた病態に応じて様々な術式がある。本項ではその概要を述べる。

まず、アプローチは胸骨正中切開で行う。体外循環を確立した後の手順では、以下の二つのステップに分けられる[4]

体循環への血流

主肺動脈が左右の末梢肺動脈から離断され、その近位側と弓部大動脈が吻合される。肺動脈の形成が必要になることがあり、その際には自己の体組織の一部や、適切な異種動物由来の組織が使用される。この手技により、脱酸素化血酸素化血の混合された血液が解剖学的右室から肺動脈弁を通じて体循環に拍出されることになる。

ダムス・ケー・スタンセル手術

適応の項でも述べたが、単心室症例で軽度の大動脈流出路障害がある場合でもノーウッド手術に準じた手術を行うほうが良い。肺動脈絞扼術は遠隔期に大動脈弁下狭窄を来す恐れがあるため、そのような場合は体循環に対して二つの血流路が出来るように、主肺動脈と上行大動脈を切離し、互いに辺縁を縫合してから大動脈遠位部に吻合し二連銃型の流出路を形成する。これをダムス・ケー・スタンセル手術(Damus-Kaye-Stansel Procedure, DKS手術)またはDKS吻合と呼ぶ[5]

肺循環への血流

離断された肺動脈は心臓からの血液供給が絶たれているため、下記のようないくつかの手法により肺への血液供給を確保しなければならない。

BTシャント

BTシャントの術式。A: BT原法、B: BT変法

BTシャント術Blalock-Taussig shunt)では、素材にゴアテックスなどを使用した導管を使用し、鎖骨下動脈と肺動脈を繋ぐ。この場合単心室からの血液は、肺動脈、再建された大動脈、鎖骨下動脈、導管の順に流れて肺へ流れる。BTシャント術の原法では鎖骨下動脈を肺動脈に直接吻合していたが、現在は上記のように導管を介して接続するBT変法(modified Blalock-Taussig shunt, mBT shunt)が用いられることが多い。

BTシャント術には、シャントの中枢側が体循環のどこに吻合されるかによっていくつかのバリエーションがあり、例えば鎖骨下動脈の代わりに大動脈に直接吻合する術式もある(セントラルシャント)。

佐野シャント

佐野シャントSano shunt)または右室肺動脈導管(RV-PA conduit)では、単心室の心室壁を一部切開して小孔を開け、ゴアテックス製の導管で心室と肺動脈を接続する[6][7][8]。このためシャントから供給される血流がBTシャントよりも拍動性になる点が異なる。ノーウッド変法(modified Norwood procedure)または佐野手術(Sano modification)とも呼ばれる。

機能的修復術へ

ノーウッド手術は低形成な左室の役割を右室に代替させることにより体循環の血液灌流を確保する、あくまで姑息術である。そのため一般的には、第二段階として機能的修復術であるフォンタン手術を目指すことになる。

脚注

  1. ^ Norwood, WI; Lang, P; Casteneda, AR; Campbell, DN (October 1981). “Experience with operations for hypoplastic left heart syndrome.”. The Journal of thoracic and cardiovascular surgery 82 (4): 511–9. PMID 6168869. 
  2. ^ Norwood, William I.; Lang, Peter; Hansen, Dolly D. (6 January 1983). “Physiologic Repair of Aortic Atresia–Hypoplastic Left Heart Syndrome”. New England Journal of Medicine 308 (1): 23–26. doi:10.1056/NEJM198301063080106. PMID 6847920. 
  3. ^ Ricardo Munoz; Victor Morell; Peter Wearden (August 2009). Critical Care of Children with Heart Disease: Basic Medical and Surgical Concepts. Springer. pp. 326–. ISBN 978-1-84882-261-0. http://books.google.com/books?id=AYZ-Y2H5UeIC&pg=PA326 2014年2月26日閲覧。 
  4. ^ A. Corno; Gigi P. Festa (8 December 2008). Congenital Heart Defects. Decision Making for Surgery: CT-Scan and Clinical Correlations. Springer. pp. 123–. ISBN 978-3-7985-1718-9. http://books.google.com/books?id=w3qCBeQSFDAC&pg=PA123 2014年2月26日閲覧。 
  5. ^ Khonsari, S. & Sintek, C.F., 古瀬彰 監訳, 『セーフティテクニック心臓手術アトラス』原書第3版, 南江堂, 2005年, p289
  6. ^ Joanna H. Davies; Lynda L. Hassell (30 October 2007). Children in Intensive Care: A Survival Guide. Elsevier Health Sciences. pp. 72–. ISBN 978-0-443-10023-9. http://books.google.com/books?id=2x8qIBjYRzgC&pg=PA72 2014年2月26日閲覧。 
  7. ^ Dähnert, I.; Riede, FT.; Razek, V.; Weidenbach, M.; Rastan, A.; Walther, T.; Kostelka, M. (Oct 2007). “Catheter interventional treatment of Sano shunt obstruction in patients following modified Norwood palliation for hypoplastic left heart syndrome.”. Clin Res Cardiol 96 (10): 719–22. doi:10.1007/s00392-007-0545-5. PMID 17609848. 
  8. ^ Sano, S.; Ishino, K.; Kawada, M.; Arai, S.; Kasahara, S.; Asai, T.; Masuda, Z.; Takeuchi, M. et al. (Aug 2003). “Right ventricle-pulmonary artery shunt in first-stage palliation of hypoplastic left heart syndrome.”. J Thorac Cardiovasc Surg 126 (2): 504-9; discussion 509-10. PMID 12928651. 

関連項目