ヘラクレスオオカブト
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ヘラクレスオオカブト | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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湿気が多いと翅が黒くなるが、
乾燥すると黄色ベースに黒の細かい斑点模様となる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Dynastes hercules | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ヘラクレスオオカブト ヘルクレスオオカブト | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Hercules beetle |
ヘラクレスオオカブト(学名Dynastes hercules)は、コウチュウ目(鞘翅目)コガネムシ科カブトムシ亜科カブトムシ族[注 1]オオツノカブト属に属する昆虫の一種である[5]。
カブトムシおよび甲虫としては世界最大の種として著名で[6][7]、最大個体は全長180 mm以上に達する。種小名はギリシア神話最大の英雄ヘラクレスに由来する[8][9]。
形態[編集]
角[編集]
オスの成虫は頭角・胸角が共に長く、体長とほぼ同寸の角を持つ個体もいる。カブトムシ類に限らず、甲虫類全体で見ても世界最長の種とされ[10][11]、胸角を含めた全長は最大180 mmを越える[12][13][14]が、自然下において確認されている最大(野外ギネス)個体は1932年にフランス領グアドループ島で採集された原名亜種の個体(体長172.7 mm)である[注 3][15]。日本のカブトムシと同じく、メスの成虫には角がない。
2022年時点で飼育下における最大数値(ギネス個体)は、宮崎県延岡市のブリーダー・河野博史が作出した原名亜種の182.8 mmである[18]。河野はそれ以前にも2度ギネス個体を作出している。
なお、これまでの最大個体の更新歴は、2022年からさかのぼると、181.0 mm / 2018年[12]、174.0 mm / 2016年[19]、171.8 mm / 2015年[20]、170.0 mm / 2014年、167.7 mm / 2011年、165.3 mm / 2010年、164.2 mm / 2009年[21]である。
胸角と頭角はそれぞれ胸部と頭部についており、頭角は上下に動かすことができる。ヘラクレスオオカブトは相手の腹の下に胸角を入れ、頭角と挟み、持ち上げて投げる。胸角の内側に生えている褐色の毛は滑り止めの役目を持つ。
産地や亜種によって様々な形状の特徴があり、胸角の太さや頭角突起の形状などで亜種を判断できるが、中には産地の重なる亜種もあり、特徴の目立たない個体もいる。
小型の個体だと、胸角や頭角の特徴による 判別は非常に困難となる。
前翅[編集]
前翅は黄褐色を帯びるのが特徴である。黒い斑点の大きさや数、また全体の色合いの濃さなど、個体によって違いが見られるが、これは遺伝的な要素による違いではない。
前翅は湿度が高いと黒褐色だが、湿度が下がると黄褐色が濃くなる。また、油脂などの付着や栄養状態によっても黒褐色になる。飼育下では湿度が高くなったり、餌などの付着による汚れ、高栄養な餌による栄養状態の飽和や湿度の高さにより、黒くなった状態になることが多いようである。一般に知られている黄褐色の本種のイメージは、乾燥時に写真が撮影されることが多いためである。
同属のネプチューンオオカブトは、常に前翅が黒色で、2本の長い角のほかにも左右に1対小型の計4本の角を有しており、これによって本種と簡単に区別することができる。また、本種のメスの前翅は尻のほうのみ色づく。
生態[編集]
中央アメリカから南アメリカの熱帯の雲霧林に断続的に分布する。低地にも少なからず生息するが、大型になる亜種、また大型の個体は標高1000〜2000mの高山帯にしか見られない。成虫は夜行性である。昼夜を問わず広葉樹の樹皮や果実を自ら傷つけて樹液や果汁を吸汁するが、休息も兼ねており、飛翔などの活発な活動は夜間に限られる。生息地の付近に灯火などの光源があればしばしば飛来する。
幼虫は朽木や腐葉土の中で1年半-2年程かけて成長する。飼育下では1年半で羽化することも多い。オスでは蛹化前に100gを超えることも珍しくない。
羽化後は成熟まで3 - 6か月ほど要する。樹液や腐った果実を好み、それらを求めて地上を移動する。成虫の期間も長く、1年から1年半ほど生きる個体もいる。
雨が降った後に活動が活発になる。現地には四季がないため一年を通して見られるが、採集例は8月、12月の雨季に多いようである。
世界最大のカブトムシであるだけに力はとても強い。(個体差はあるが)基本的にはおとなしい性格であり本当に必要なとき以外は戦わないことが多いが、刺激を与えられたり身の危険を感じたりすると恐ろしいほどの闘争心を発揮する。しばしばコーカサスオオカブトやアクティオンゾウカブトと並び世界最強クラスのカブトムシと称される。
生息地である雲霧林は乾燥していると明い色、湿っていると暗い色に変化するので、湿度によって変色する前翅は保護色となる。
飼育[編集]
基本的には日本のカブトムシと変わりない。ただし、大型のカブトムシ全般に言える事だが、幼虫・成虫共に日本産のカブトムシよりも多い量の餌を食べる。量の問題と、角が邪魔になる関係で、餌となる昆虫ゼリーは大きいものがよい。
成虫の雄は飼育スペースが小さいとストレスで寿命が短くなってしまう。また、性質は基本的に温和ではあるものの多頭飼育は推奨されず、単独飼育が推奨される。
胸角と頭角で挟む力は非常に強く、指など挟まれないように注意する必要がある。
幼虫の期間はオスとメスとで異なり、メスの場合は1年 - 1年半ほど、オスの場合は1年半 - 2年ほどを要する。この期間は飼育温度によっても変化し、温度が高いほど幼虫期間は短くなる傾向にある。[22]餌もカブトムシより発酵したものを好む。蛹室は横に長いため、飼育容器の大きさや形にも考慮する必要がある。幼虫の餌に牡蠣などの貝殻を粉状にして(石灰などは毒となるので使わない)混ぜて与え続けると、成虫になったときに前翅が青白くなる。
昆虫愛好家に高額で売れるため、原産地ではない日本では養殖して販売する事業者もある。秋田県では、シイタケ栽培で使い終わった菌床で幼虫を育てている[23]。
本種はコーカサスオオカブトほど凶暴では無いものの、ごく稀にオスがメスを挟んで殺害してしまう事故も発生しているため、交尾の際には注意が必要である。
亜種[編集]

後述のように、本種は多くの亜種が知られているが、2003年、Ratcliffe博士により、全ての亜種をシノニムとする説が発表された[24][17]。この報告によれば、lectotype(後模式標本)に指定された個体の産地を完全に決定できていないという見解のためであり、たとえlectotypeの産地が決定できたとしても、せいぜい島嶼型と大陸型との2つの異なった形態群しか認められないであろうという[24][17]。
オスの胸角の太さ、突起の位置、前翅の色、体毛の色などにより区別することができる[25]。2015年時点では13亜種に分類されている[26]。
- ヘラクレス D. h. hercules (Linnaeus, 1758)
- 本種の基本(原名亜種、基亜種)[9]。
- 胸角先端から、後翅端までの体長(全長)は、オスは100 - 182.8 mm、メスは50 - 82 mmであり、オスが140 mm、メス65 mmが平均とされている。また、オスは最小で46.3 mmの個体が記録されている。
- また、いくら大きいとは言えども160 mm以上の個体は少なく、現存が確認されている野外最大個体は、1932年にグアドループで採集された172.7 mmのオス個体(St.Claude, 1932)である[注 3][27]。カリブ海に浮かぶ小アンティル諸島のうち、グアドループ諸島西部のバス・テール島、ドミニカ島に生息する[9]。このうちグアドループ諸島では、標高の高い地域があるバス・テール島にのみ分布しており、グランド・テール島には分布しない[9]。バス・テール島中部のVernouというデータの標本個体を多く見かけるが、島内の広範囲に生息しているものとみられる[9]。ドミニカ島でも、沿岸部から内陸部まで、幅広く生息している[9]。現地を調査した、山内英二によれば、いずれの産地でも1年中にわたって観察できるが、7月から9月頃に発生のピークを迎えるという[9]。なお、キューバ島やイスパニョーラ島からの報告もあるが、2017年時点では疑わしいと考えられている[9]。「ヘラクレス・ヘラクレス」となることから、愛好家の間では略して「ヘラヘラ」と呼ばれることがある。
- グアドループ諸島産・ドミニカ島産の間に目立った差異はなく、それぞれを外見で見分けることはできない[9]。2000年初頭、奈良県内の昆虫販売業者により、多数の生体が輸入されたが、入荷当初は「カリブ産」として流通しており、グアドループ産か、ドミニカ島産かは分けられていなかった[9]。その後、産地が区分された上で販売されるようになったが、2017年時点で流通している個体はグアドループ産が主流で、ドミニカ島産は少なくなってきている[9]。
- オスの頭角は一様に湾曲しており、先端突起はやや強く湾曲し、その先端はあまり尖らない[8]。頭角先端手前の突起は短い三角形で、基部突起は普通2本だが、時に3 - 4本と多くなる[8][9]。胸角は非常に長く、基部は極めて太く、ほとんど湾曲しない[8]。胸角は比較的太いが個体差があり、太い個体にはパチセラス(pachyceras)、細い個体にはステノセラス(stenoceras)という型名が、それぞれ付けられている[9]。胸角突起は、中央の少し基部寄り、頭角の突起に比べて先端寄りに位置し、三角形となる[8][9]。前胸背の点刻は非常に小さく、まばらである[8][9]。上翅は、光沢が比較的強く、黄土色から少し青みがかったオリーブ色で、稀に青白くなる[8][9]。上翅の黒い斑点はあまり大きくならず[9]、シワ上の点刻は他の亜種より若干小さい[8]。体毛は白黄色である[8][9]。
- メスも、オスと同様に体毛は白黄色だが、背面の体毛は赤褐色でやや長い[8]。メスの小楯板の基部は点刻され、大部分は光沢が強い[8][9]。雌の上翅のシワ状点は、他の亜種と比較すると若干小さく、側縁部では浅くなる[9]。
- オスの野外個体は甲虫類で最も大きくなり[8][9]、飼育下におけるギネスサイズは全長180 mmを超える[13]。グアドループ島(バス・テール島)のVernouでは普通種ではあるが、2016年時点、この島のものは保護生物に指定され、採集及び島外への持ち出しが禁止されている[8]。そのため、日本に流通している個体は、そのすべてが繁殖個体となる[28]。「世界最大の甲虫」というインパクトと胸角が太く直線的に伸びるスタイルのため、本種の亜種の中で最も人気がある。
- 2002年頃は、本種は流通量が少なく、まだ品薄で高価であった[29]。当時は成虫・幼虫ともに、東京都内の昆虫専門店でも非常に入手しづらく、インターネットオークションでの入手が主であったが、オスが148mmのペアが15万円近くまで値が上がった例もあるという[29]。しかし、その後は飼育者(ブリーダー)の増加や、飼育技術の進歩などにより、飼育個体数が増加したため、2016年時点では本種の中で流通量が最も多く、価格も安定している。
- また、上記の「パチセラス」の中でも更に太い「メテオ」と言う血統のペアがネットオークションにて300万円で落札された事もあった。
- リッキー D. h. lichyi (Lachaume, 1985)
- 南アメリカ北東部(ベネズエラ北西部から南西部〈アラグア州、カラボボ州、バリナス州〉、コロンビア北部〈サンタンデール県、ボヤカ県、クンディナマルカ県〉、北部エクアドルの中央部〈ナポ県、モロナ・サンティアゴ県〉、ペルー中央部〈ワヌコ県 Tingo María〉、ボリビア北部及び中央部)に生息する[30]。エクアトリアヌスに次いで広範囲に分布する亜種で、個体変異が多い[31]。
- 体長はオス85 - 180.4 mm、メスは50 - 75 mmで、原名亜種・ヘラクレスに次いで大型化する[30]。垂直分布をみると、標高500m - 2000mを生息圏とするが、特に標高1500m前後が、最も個体数が多くみられる[30]。産地によって個体数が異なり、ボリビアでは特に少ない[30]。ベネズエラのRancho Grandeを基産地として記載された亜種である[30]。
- エクアドルでは、12月から翌年4月頃までが最も個体数が多いが、雨季などの気候条件により、発生ピークにはムラがある[30]。灯火に飛来する個体の観察例が多いが、飯島和彦は、エクアドル・ナポ県にて、コルカ[注 4]と呼ばれる木の樹液に、本亜種が集まるのを観察している[30]。
- エクアトリアヌスとは標高で棲み分けているが、両亜種の生息地は隣接しているものと思われる[30]。そのため、分布境界に近いエリアでは、ややエクアトリアヌスに似た特徴を持つ[30]、亜種間の交雑個体と思われる個体が出現する場合がある[32]。
- オスの頭角はやや長く、直線的で、先端突起は強く湾曲し、先端手前の突起は大きな板状[32][30]。頭角基部の突起は、一本の棒上で、その先端はやや尖る[32][30]。オスの胸角の基部はあまり湾曲せず、突起は中央よりやや基部寄りに位置し、点刻は不安定ではあるが一般的にほとんどないか、あっても非常に小さい[32][30]。前翅はやや濁った薄いオリーブ色から濁った黄褐色で、黒斑は不安定である[32][30]。体毛は黄褐色で、オスの胸角では赤褐色である[32][30]。
- メスの背面の毛は比較的短く、メスの小楯板は基部を除いて点刻を欠く[32][30]。
- 2002年頃は、原名亜種・ヘラクレスはまだ品薄で高価であったため、オキシデンタリスと並んで本種の中でも流通の多くを占めていた[29]。
- 生体は、エクアドル・コロンビア両国からの流通が多く、次いでペルー産が多い[30]。それ以外の、ベネズエラ産・ボリビア産の個体は、標本でもほとんど流通していない[30]。
- 亜種名はフランス人、Rene Lichy(リシ)に由来する[32][29][30]。
- エクアトリアヌス D. h. ecuatorianus (Ohaus, 1913)
- アンデス山脈東部からアマゾン川上流域から中流域(コロンビア南東部〈プトゥマヨ県モコア〉、エクアドル東部〈ナポ県、パスタサ県〉、ペルー北東部、ブラジル西部〈アマゾナス州〉、ボリビア北部及び中央部)に生息する[33]。最も広範囲に分布する亜種である[31]。
- 体長はオス80 - 165 mm、メス55 - 73 mm。
- 本亜種はリッキーより低地に分布する[33]。
- オスの頭角はやや細長く、あまり強く湾曲せず、先端突起は細くて先端は尖る[33]。頭角先端手前の突起は棒状で先端は尖り、基部の突起はやや細い棒上でその先端は尖る[33]。胸角の基部は比較的太く、それほど強く湾曲せず、突起は基部寄りに位置し、点刻はほとんどないかあっても非常に小さい[33]。前翅は光沢は鈍く、黄褐色から明るい黄色で、黒紋は不安定[33]。体毛は赤い赤褐色で、胸角では黄褐色を呈し、尾節板では短い[33]。小楯板は基部では点刻が強く、後半部ではこれを欠く[33]。
- 亜種名は産地の国名、エクアドルに由来する[33]。
- セプテントリオナリス D. h. septentrionalis (Lachaume, 1985)
- 中央アメリカ(メキシコ合衆国南部(チアパス州、シエラ・ノルテ山脈)、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ北部〈カリブ海側の山塊〉)に生息する(おそらく中米全体に分布すると思われる)[33]。
- 体長はオス70 - 158 mm、メス55 - 70 mm。
- オスの頭角は長く、先端突起はやや強く湾曲し、先端手前の突起は棒状で先端は尖らず、基部の突起は1本の棒上で尖らない[33]。胸角の基部は明らかに湾曲し、突起は基部に位置し大きく、点刻は小さくやや多い[33]。胸角は細い[33]。前翅は濁った黄褐色で、黒紋は比較的大きい[33]。体毛は黄褐色で胸角では赤褐色[33]。メスの背面の毛は短くて少ない[33]。小楯板はほぼ全体が点刻でおおわれる[33]。
- 亜種名は「北の」という意味[33]。
- オキシデンタリス D. h. occidentalis (Lachaume, 1985)
- 南アメリカ北西部(パナマ南部の太平洋側山塊、コロンビア西部〈バジェ・デル・カウカ県、チョコ県〉、エクアドル北西部)に生息する[33]。
- 体長はオス70 - 164.2 mm、メス50 - 75 mm。
- パナマではセプテントリオナリスとの中間型(亜種間交雑個体?)が出現する[33]。オスの頭角は長くてやや直線的で、先端突起は強く湾曲し、先端手前の突起は少し小さい板状で、基部の突起は一本の棒上で先端はやや尖る[33]。胸角の基部はセプテントリオナリスほどではないが湾曲し、突起は基部に位置し細長く、点刻はあまり多くなく小さい[33]。胸角は細い[33]。前翅はやや明るい黄色から黄褐色で、黒紋は不安定[33]。メスの背面の毛の長さは普通[33]。小楯板は後縁を除き点刻がある[33]。
- 2002年頃、原名亜種・ヘラクレスがまだ品薄で高価であった頃はリッキーと並んで本種の中でも流通の多くを占めていた[29]。
- 亜種名は「西部の」という意味[33]。
- トリニダーデンシス D. h. trinidadensis (Chalumeau and Reid, 1995)
- トリニダード・トバゴ(トリニダード島、トバゴ島。また、グレナダ島にも生息するものと思われる?)に生息する[33]。
- 体長はオス70 - 154.4 mm、メス55 - 65 mm。
- オスの頭角はやや太短く、先端突起は短く、先端手前の突起は棒状[33]。頭角基部の突起は普通1 - 2本で、ほぼ棒上でその先端はやや尖る[33]。胸角の基部はやや太く、全体的に直線的で、突起は原名亜種・ヘラクレスよりも基部寄りに位置する[33]。前翅、胸の点刻及び体毛は原名亜種・ヘラクレスとブリュゼニの中間型である[33]。グレナダ島からも本亜種によく似た個体が得られており、今後の再検討が望まれている[33]。
- メスは不明[33]。ブリュゼニと同じ亜種として処理する研究者もいる[33]。
- 亜種名は産地のトリニダード島に由来する[33]。
- ブリュゼニ D. h. bleuzeni (Silvestre and Dechambre, 1995)
- ベネズエラ東部(ボリバル州)に生息する[33]。体長はオス70 - 151 mm、メス55 - 66 mm。
- オスの頭角はやや直線的で、先端突起は長く、先端手前の突起は棒状で、その先端はやや尖る[33]。頭角基部の突起は2本で、その先端は尖る[33]。胸角は基部でやや湾曲し、中央部では直線的[33]。胸角突起は基部寄りに位置し、やや長めの三角形[33]。胸の周辺の点刻は幅広く三つで粗い[33]。前翅の光沢は鈍く、黄土色で黒斑は大きい[33]。体毛は原名亜種・ヘラクレスに準ずる[33]。メスは未調査[33]。
- 前述のように、トリニダーデンシスを本亜種に含める研究者もいる。
- 亜種名はフランス人、Patrick Bleuzen(ブルザン)に由来する[33]。
- パスコアリ D. h. paschoali (Grossi and Arnaud, 1993)
- ブラジル北東部(バイーア州東南部、エスピリトサント州北東部)に生息する[33]。全亜種中もっとも東南部に分布する[33]。
- 体長はオス85 - 149 mm、メス50 - 63 mm。
- オスの頭角は前半部でやや強く湾曲し、先端突起はややフック上で、先端手前の突起は小さな三角形[33]。頭角基部突起はないか、あっても非常に小さい[33]。胸角は直線的で、突起は中央よりやや基部寄りに位置し、点刻は基部において幅広くそして多い[33]。前翅は光沢がやや強く、リーブグリーンで黒紋はないかあっても小さい[33]。体毛は白黄色で尾節板では短い[33]。メスの体毛は白黄色[33]。小楯板はハート形に点刻される[33]。
- 亜種名は、命名者の一人であるブラジル人のGrossiの子息、Paschoal Coelho Grossi(パスコアル)に由来する[33]。
- タカクワイ D. h. takakuwai (Nagai, 2002)
- ブラジル北部(ロンドニア州)に生息する[33]。体長はオス70 - 142.1 mm、メス50 - 65 mm。
- 全亜種中で付属突起の発達が最も弱い[33]。オスの頭角は一様に湾曲し細長く、先端突起も細長い[33]。頭角先端手前の突起はほとんど消失するか棒上で、基部の突起はないかあっても痕跡程度[33]。胸角は一様に湾曲し、基部ではいくらか上反し突起はほとんど消失するか小さい[33]。前翅は褐色を帯びた黄土色でやや黒紋が大きい[33]。胸の点刻はほとんどないかあっても非常に小さい[33]。体毛は赤褐色[33]。メスは2006年現在未知[33]。
- 亜種名は神奈川県立博物館(自然)の高桑正敏博士に由来する[33]。
- モリシマイ D. h. morishimai (Nagai, 2002)
- ボリビア西部(ラパス県中央)に生息する。他にボリビア中央部(コチャバンバ県及びユンガス地方のChapale)からもほぼ同様の個体が得られている[33]。ボリビアの北部及び北東部の低地にはエクアトリアヌスが分布する[33]。
- 体長はオス70 - 143.2 mm、メス50 - 60 mm[33]。
- 一見バウドリー(レイディのバウドリー型とする考え方もある)のように、全体がコンパクトで力強い体つきである[33]。オスの頭角は短く、垂直方向に幅があり、先端突起は短いが強く湾曲し、突起は2 - 4個持ち、先端手前の突起は棒状で、その先端はやや尖り基部は幅広い[33]。胸角は光沢が強く、基半部では明瞭に窪み、非常に強壮で、前方半部では強く下方へ湾曲する[33]。胸角突起は長い三角形で非常に強壮で基部近くに位置する[33]。前翅の光沢は強く、黄色味を帯びた黄土色で黒色の紋は多い[33]。胸の点刻は基部では幅狭く、前縁では幅広い[33]。体毛は全亜種中もっとも黄色みが強い[33]。メスは小型で全体に丸みがあり、黒色である[33]。メスの体毛は黄色味が強い[33]。小楯板の前方半分は密に点刻されるが、後方半分は光沢がある[33]。
- 亜種名は栃木県宇都宮市のアブラムシの生態研究家・森島啓司に由来する[33]。
- トゥクストラエンシス D. h. tuxlaensis (Moron, 1993)
- メキシコ合衆国南部(ベラクルス州のLos Tuxtlas、Santa Marta山塊)に生息する。
- 体長はオス62 - 80 mm、メスは未知[33]。
- 小型の亜種で、全亜種中最も北に分布する[33]。頭角は短く、中央付近で湾曲し、頭角先端突起はやや湾曲する[33]。胸角の基部は明らかに湾曲し、突起は基部に位置しやや大きく、点刻は比較的粗い[33]。前翅は汚黄色で、黒紋は小さい[33]。毛は赤褐色[33]。本亜種の記載以後、記載に使われた2オス以外には本亜種と認められる個体は2006年現在も未だに見ることができていないため[33]、セプテントリオナリスと同亜種とみなす研究者もいる[33]。
- 亜種名は産地、Los Tuxtlasに由来する[33]。
- レイディ D. h. reidi (Chalumeau, 1977)
- セントルシア島(Massacre及びRoseauなど)に生息する。
- 体長はオス60 - 112.6 mm、メス47 - 62 mm[33]。
- オスの頭角は比較的細長く、中央付近からやや強く湾曲し、先端付近は細長く、先端は尖る[33]。頭角先端手前の突起は小さな三角形で、基部突起は消失する[33]。胸角は直線的であるが、小型では若干湾曲し、突起は基部寄りに位置し、やや長い三角形[33]。胸の点刻は基部ではやや幅広い[33]。前翅は原名亜種・ヘラクレスに酷似し、光沢が強く、黒紋は大きい[33]。体毛は原名亜種・ヘラクレスに準ずる[33]。メスは未調査[33]。
- 最近になってバウドリーとの近縁関係が指摘されており、本亜種に統合されバウドリーは本亜種のタイプのひとつとする考えが広まっている[33]。
- バウドリー D. h. baudrii (Pinchon, 1976)
- マルティニーク島に生息する。
- 体長はオス60 - 108 mm、メス50 - 60 mm。
- レイディに比べると体が非常に強壮でオスの頭角は短く、先端突起は非常に小さく先端が丸まり、先端手前の突起は小さな台形または丸々などの特徴を持つ[33]。最近になってレイディとの近縁関係が指摘されており、仮にレイディに統合されると本亜種の名はバウドリータイプ(バウドリー型。レイディのうち、頭角に突起があるタイプ)として残るのみとなる。
一般名 | 胸角の太さ | 胸角突起の位置 | 頭角先端の突起の形状 | 頭角基部の突起の有無 | オス(雄)のギネスサイズ |
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ヘラクレス | かなり太い | 中央 | 尖る | あり | 182.8 mm |
リッキー | 普通 | 基部 | なだらか | あり | 180.4 mm |
エクアトリアヌス | 細い | 基部 | 尖る | あり | 165 mm |
セプテントリオナリス | かなり細い | 基部 | 尖る | あり | 158 mm |
オキシデンタリス | 細い | 基部 | なだらか | あり | 164.2 mm |
トリニダデンシス | 太い | 中央 | 尖る | あり | 154.4 mm |
ブリュゼニ | 太い | 基部 | 尖る | あり | 151 mm |
パスコアリ | 太い | 中央 | 尖る | なし | 149 mm |
タカクワイ | 普通 | 基部 | なし | なし | 142.1 mm |
モリシマイ | 普通 | 中央 | 尖る | あり | 143.2 mm |
トゥクストラエンシス | 細い | 基部 | なだらか | あり | 80 mm |
レイディ | 不明 | なし | なし | なし | 112.6 mm |
バウドリー | 不明 | 不明 | 尖る | なし | 108 mm |
青色の前翅をもつ個体[編集]

以前から前翅が青い個体は「ブルーヘラクレス」などと珍重されオークションなどで高値で取引されてきた。古い標本状態[34]での姿や、アーケードゲーム『甲虫王者ムシキング』で「ヘルクレスリッキーブルー」というムシキングカードが登場してから一般にも広く知れ渡るようになった。「リッキー」は亜種名である上「ブルー」の個体はヘラクレス全亜種に出現するため注意が必要である。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ 清水輝彦 2015, p. 98.
- ^ 海野和男 2006, p. 205.
- ^ 永井信二 2006, p. 8.
- ^ 小林一秀 2022, p. 6.
- ^ a b 清水輝彦 2015, pp. 98–99.
- ^ 清水輝彦 2015, p. 99.
- ^ 小林一秀 2022, p. 44.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 永井信二 2006, p. 22.
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参考文献[編集]
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- 土屋利行(編集)、藤田宏(編集スタッフ・発行)、小林信之・谷角素彦・矢崎克己・飯島和彦・中村裕之・坂本伸嘉(編集スタッフ)、2016年1月26日、「南米のカブトムシ大特集!!」、『BE・KUWA』58号(『月刊むし』2016年3月増刊号)、むし社、ISSN 0388-418X
- 土屋利行(編集)、藤田宏(編集スタッフ・発行)、小林信之・谷角素彦・矢崎克己・飯島和彦・中村裕之・坂本伸嘉・伊敷美穂(編集スタッフ)、2017年5月18日、「南米のカブトムシ大特集!!」、『BE・KUWA』63号(『月刊むし』2017年6月増刊号)、むし社、ISSN 0388-418X
- 小林一秀「ヘラクレスオオカブト大特集!! > ヘラクレスオオカブト大図鑑」『BE・KUWA』第84号、むし社、2022年7月13日、6-39頁、ISSN 0388-418X・国立国会図書館書誌ID:000004340722・全国書誌番号:01004593。 - No.84(2022年夏号)。『月刊むし』2022年8月増刊号。