カブトムシ亜科

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カブトムシ亜科
様々なカブトムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目 (鞘翅目) Coleoptera
亜目 : 多食亜目 Polyphaga
上科 : コガネムシ上科 Scarabaeoidea
: コガネムシ科 Scarabaeidae
亜科 : カブトムシ亜科 Dynastinae
英名
Rhinoceros beetle

カブトムシ亜科(カブトムシあか、Dynastinae)は、昆虫綱コウチュウ目コガネムシ科に属する分類群[8]。単に「カブトムシ」と呼ぶ場合、日本を含む東アジアに生息する標準和名カブトムシ Trypoxylus dichotomus のことだけでなく、カブトムシ亜科およびそれに属する昆虫のことを指す場合もある[9][10]。全世界に約8族、約1,500種が知られている[8]

生息地[編集]

熱帯地域を中心として世界中に分布を広げているが、特に多く見られるのはヘラクレスオオカブトゾウカブト属タテヅノカブト属などが生息する南アメリカ北部、次にアトラスオオカブト属ヒメカブト属などの生息する東南アジアである。これに対し、アフリカに分布する本亜科の内でオオカブトと呼ぶことのできるものはケンタウルスオオカブト属くらいである。代わりにゴライアスオオツノハナムグリを筆頭とするハナムグリ類が繁栄している。

温帯には大型種はあまり見られず、北アメリカに生息するグラントシロカブト、日本のカブトムシなどである。

日本にはカブトムシサイカブト(人為的移入種)、コカブトクロマルコガネヒサマツサイカブト(人為的移入種の可能性有り)の5種が生息している。

特徴[編集]

本亜科の持つ第一の特徴として挙げられるのは、オスのであるが、これは全てのカブトムシにあるわけではない。メスには角はないが、突起のようなものを見ることができるものがあり、これは産卵時に土壌や腐植質を掘り進むのに都合がよいと考えられている。オスには種類によっては頭部だけでなく前胸部にも角がある。角は餌場やメスの奪い合いの際の喧嘩に使われるが、必ずしも全ての種が角を活用しているわけではない。例えばゴホンツノカブトは5本の角を持ついかにも厳めしい姿をしたカブトムシだが、性格は温和で、角を使って争う姿は滅多に見られない。またタテヅノカブト類は細い竹の環境に適応して脚が長く発達した影響からか、喧嘩の際には角を使うよりも前脚で相手をなぎ払おうとする傾向が強い。その一方で角を武器として有効に使う種もあり、ヘラクレスオオカブトは頭角と胸角で相手を挟んで放り投げることができるし、コーカサスオオカブトは3本の角で相手を封じ込める。

成虫の体長は様々で、20 mmほどのものから、150 mmを超える大型種まである。最大はヘラクレスオオカブトの182.8 mm[11]、次いで同属のネプチューンオオカブト、3位にコーカサスオオカブトとなる。最重はゾウカブト類の大型種であり、これらはゴライアスハナムグリに次ぐ重量級の甲虫である。

本亜科を含む甲虫類は独特の翅の構造を持つが、本亜科に属する種はその大きな体のため、飛翔は至極不器用である。ゾウカブト程の大型種ともなると羽音はすさまじい。足場を決めると、上翅を広げ、その下に畳まれていた下翅を伸ばして離陸する。幹にぶつかるように着地するが、脚を広げて飛ぶため、着地の際には木の葉や枝に引っかかってぶら下がる格好となることも珍しくない。尚、ヘクソドン類は上翅が融合し、飛翔能力がない。

飼育[編集]

日本で外国産のカブトムシが飼育され始めるようになったのは、1999年の初解禁時である。オオクワガタを初めとするクワガタムシが、体長1 mmをも争うコアなマニアのものというイメージが強いのに対し、カブトムシはどちらかというと単純に成虫の観賞飼育を楽しみたいと思う人によく飼育されている(ただし、前述のようなマニアも少なからず存在し、単純な体長よりも角の太さや形を追求するなど、クワガタムシと同等かそれ以上にマニアックな飼育者も多い)。クワガタムシは平べったい体で木の裏に隠れてばかりであるが、カブトムシは全長・体高共に大きいため飼育ケース内で目立つ上、日中でも餌を食べていることが多く、観賞に適していると言える。ただし、クワガタムシに比べると寿命が短い種が多く、長期の飼育には適さない。

詳しい飼育方法についてはクワガタムシ#飼育を参照。基本的には幼虫が腐葉土を餌とする種類のクワガタムシの飼育方法と同様と考えればよい。カブトムシは成虫・幼虫共に概して食欲旺盛である。

下位分類[編集]

8族に分けられるが、大型で発達した角を持つ有名なカブトムシの大半(日本のカブトムシヘラクレスオオカブトなど)はカブトムシ族(オオカブト族) Dynastini に分類される[12]。カブトムシ族以外に属する種の大半はオスでも角がなかったり、突起程度の小さい角しか持たない種も少なくない[12]。ここでは主な属と種類を挙げる。

スジコガネモドキ族 Cyclocephalini[編集]

スジコガネモドキ族 Cyclocephalini はクロマルコガネ族に次いで大きい族で[12]コガネカブト族とも呼ばれる[2]。同族の種はオスでも角がほとんど発達せず、コガネムシのように見える種がほとんどである[2]。一方、黄色や黒の斑紋を持つ種などもいる[12]。全世界に15属59種が記録されているが、2属23種を除いた13属495種は南北アメリカに分布する[2]。多くは体長10 - 20 mmの小型種で、成虫は花などにも来る[12]

ヒナカブト族 Agaocephalini[編集]

ヒナカブト族 Agaocephalini はスジコガネモドキ族に近縁だが、ツヤケカブトムシ属 Spodistes などのようにオスが立派な角を持つ種も多い[1]中央アメリカから南アメリカ北部・南東部にかけて13属47種が生息する[3]

パプアカブト族 Oryctoderini[編集]

Oryctoderini 族はミナミカブト族[14][1]パプアカブト族と呼称される。ニューギニアを中心に、その周辺島嶼に10属23種(1999年時点)が分布する族である[14]。体長30 mm程度の小型種が多く、オスでも目立った角を持たない[12]。頭部背面に密かな隆起を有する種は少なくないが、長い角状突起を有する種はブーゲンビル島に生息する種 Chalcasthenes divinus Endrödi のみである[14]

クロマルコガネ族 Pentodontini[編集]

Pentodontini 族はクロマルコガネ族[12]クロマルカブト族と呼称される[15]。同族はカブトムシ亜科では最大の族で、体長10 - 20 mm程度の小型種が多く、角を持つ種はごく少数である[12]。頭部や前胸背板には溝や小突起がある場合もあるが、通常はそれらを欠いている[15]。後脛節の先端は切断状で、発達した歯や棘はない[15]

寒冷な地域を除く全世界に分布するが、特にアフリカオーストラリアに分布する種が多い[12]。約100属、500種以上が知られるが、ほとんどが小型種で、種ごとの特徴が少ないため、分類は難しい[15]

サイカブト族 Oryctini[編集]

ヨーロッパサイカブト Oryctes nasicornis

サイカブト族 Oryctini はクロマルコガネ族、スジコガネモドキ族に注いで3番目に大きな族で[12]、全世界に26属242種67亜種が知られる[5]。世界中の温暖な地域に分布する族で[12]、熱帯・亜熱帯を中心に広く分布する[16]。うち南北アメリカには14属163種18亜種が分布している[5]。オスの短躯で、頭角と胸角が発達した形態は動物のサイを思わせる姿である[5]。熱帯アメリカに生息するパンカブトムシ属 Enama やフタツノヒサシカブトムシ属 Megaceras、熱帯アジアに生息するメンガタカブトムシ属 Trichogomphus など、オスが立派な角を持つ大型種もいる[12]

カブトムシ族 Dynastini[編集]

Dynastini MacLeay, 1819 [6]カブトムシ族[17][9][1][18][8]オオカブト族と呼称される[6]。同族は世界最長の種であるヘラクレスオオカブトや、世界最重量の超大型種を含む族である[19]。カブトムシ亜科の中では最も強く性的二形を示し[8]、全種類のオスに立派な角がある一方、メスには角がない[12]。主な大型のカブトムシ[8]、および大型で角の発達したカブトムシはほとんど同族に分類される[12]。同族および、同族に属するカブトムシを「真正カブトムシ」と呼称する場合もある[20][21]

世界の熱帯・亜熱帯を中心に広く分布し[8]、2015年時点で13属100種70亜種が知られているが、南北アメリカ地域に3属54種20亜種が生息する[6]

南アメリカ大陸に生息するヘラクレスオオカブト属ゾウカブト属タテヅノカブト属東アジア東南アジア(一部オセアニア)に生息するアトラスオオカブト属ゴホンツノカブト属ゴウシュウカブト属ユミツノカブト属サンボンヅノカブト属カブトムシ属サビカブト属シナカブト属アフリカ大陸に生息するケンタウルスオオカブト属がそれぞれ単系統群を形成することが分子系統学的解析から明らかになっており[42], 大陸移動と系統の分化との関係が示唆されてきたが、パンゲア大陸の分裂時期(白亜紀前期)とカブトムシ亜科の化石記録(後期始新世)[43]が一致しなかった。しかしながら、その後の分子系統学に基づく分岐年代推定によりカブトムシ亜科の分岐はパンゲア大陸分裂の直後であったことが示唆された[44]

ヘクソドン族 Hexodontini[編集]

ヘクソドン族 Hexodontiniマダガスカル島にのみ分布する族で、約12種が知られている[12]。雌雄同型で、腐った動植物質を食べると言われている[12]

コカブト族 Phileurini[編集]

コカブト族 Phileurini は全世界に35属257種19亜種が知られるが、うち中南米に22属160種6亜種が分布している[7]コカブトムシ族とも呼ばれる[1]。オスにも角がなく小型のものが多いが、がっしりした体格が特徴である[1]。体はやや平たく、頭部には小突起があるが、ない場合もある[45]。前胸背板の中央には縦溝や凸凹、種によっては特記があることもある[15]。下唇基節は大きく発達し、下唇ひげの基部を覆う[15]

東南アジアに生息するコカブト類はオスの前脚跗節の末端が球状に肥大するが、中南米産のコカブト類はその特徴がないため、外見では雌雄を区別できないことが多い[7]肉食の種もある。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k 海野和男 2006, p. 204.
  2. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 70.
  3. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 75.
  4. ^ 清水輝彦 2015, p. 78.
  5. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 86.
  6. ^ a b c d e f g h i j k 清水輝彦 2015, p. 98.
  7. ^ a b c 清水輝彦 2015, p. 113.
  8. ^ a b c d e f 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 361.
  9. ^ a b 水沼哲郎 1999, p. 109.
  10. ^ 海野和男 2006, p. 2.
  11. ^ はると (2022年7月28日). “【2022年最新版】ヘラクレスオオカブトのギネス記録が更新!190mmも夢ではない!? - ヘラクレスオオカブト専門の飼育情報サイト【ヘラクレス本舗】”. ヘラクレス本舗. 2023年7月6日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 海野和男 2006, p. 205.
  13. ^ a b 清水輝彦 2015, p. 77.
  14. ^ a b c 水沼哲郎 1999, p. 104.
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 363.
  16. ^ a b c d e 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, p. 362.
  17. ^ 水沼哲郎 1999, p. 103.
  18. ^ 永井信二 2007, p. 8.
  19. ^ 清水輝彦 2015, p. 98-99.
  20. ^ 図書館:カブトムシについて”. 三春町公式ホームページ. 三春町 (2012年2月24日). 2023年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月8日閲覧。
  21. ^ キラキラのカブトムシ! 湖東の○○さんが発見 =珍品カブト「みんなも見て」=」『滋賀報知新聞』第14199号、滋賀報知新聞社、2005年9月3日。2023年7月8日閲覧。
  22. ^ 永井信二 2006, p. 8.
  23. ^ 小林一秀 2022, p. 6.
  24. ^ a b BE・KUWA 2016, p. 15.
  25. ^ 水沼哲郎 1999, p. 110.
  26. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 99.
  27. ^ 清水輝彦 2015, pp. 100–102.
  28. ^ はると (2022年7月28日). “【2023年最新版】ヘラクレスオオカブトのギネス記録が更新!190mmも夢ではない!? - ヘラクレスオオカブト専門の飼育情報サイト【ヘラクレス本舗】”. ヘラクレス本舗. 2023年7月17日閲覧。
  29. ^ (編集者)土屋利行(編集スタッフ)藤田宏・小林信之・谷角素彦・矢崎克己・飯島和彦・中村裕之・坂本伸嘉・阪本優介編「カブト・レコード コンテスト」『BE・KUWA』第83号、むし社、2022年5月18日、98-103頁、ISSN 0388-418X国立国会図書館書誌ID:000004340722全国書誌番号:01004593  - No.83(2022年春号)。『月刊むし』2022年6月増刊号。
  30. ^ a b c d e f g 清水輝彦 2015, p. 102.
  31. ^ a b c 清水輝彦 2015, p. 103.
  32. ^ 清水輝彦 2015, p. 104.
  33. ^ a b c d 清水輝彦 2015, p. 105.
  34. ^ a b c d e f g 清水輝彦 2015, p. 106.
  35. ^ 清水輝彦 2015, p. 107.
  36. ^ a b 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 8.
  37. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 9.
  38. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 29.
  39. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 30.
  40. ^ 土屋利行 & 飯島和彦 2018, p. 38.
  41. ^ a b 坪井源幸、内山りゅう、ピーシーズ(写真)『カブト・クワガタ・ハナムグリ300種図鑑』ピーシーズ、2002年7月10日。ISBN 978-4938780685国立国会図書館書誌ID:000004072891全国書誌番号:20385035 
  42. ^ Rowland, J. M., and Miller, K. B. (2012) Phylogeny and systematics of the giant rhinoceros beetles (Scarabaeidae: Dynastini). Insecta Mundi 0263, 1–15.
  43. ^ Krell, F. T. (2007) Catalogue of fossil Scarabaeoidea (Coleoptera: Polyphaga) of the Mesozoic and Tertiary, Version 2007. Denver Museum of Nature & Science Technical Report 2007-8, 1–79
  44. ^ Jin H, Yonezawa T, Zhong Y, Kishino H, Hasegawa M (2016) Cretaceous origin of giant rhinoceros beetles (Dynastini; Coleoptera) and correlation of their evolution with the Pangean breakup. Genes & Genetic Systems 91, 209-215.
  45. ^ 岡島秀治 & 荒谷邦雄 2012, pp. 362–363.

参考文献[編集]

関連項目[編集]