オディシアス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

オディシアス(Oddyseus) [1] [2]アメリカの航空宇宙企業インテュイティブ・マシーンズ着陸ミッションで使用される着陸機。

2024年2月22日、民間企業では世界初[3]、米国では有人のアポロ17号以来となる[4][5]月面着陸に成功した。着陸後、オディシアスは地球へ電波を送信しているものの、本来起立して着陸しているはずだったところ横倒しの姿勢での着陸となった[6]

概要[編集]

ギリシャ神話の英雄オデュッセウスに因み名前が付けられ、英語読みで「オディシアス」[7]である。(アメリカの人工天体であるため、英語読みが正しい)

オディシアスは月の南極域にあるクレーター、マラパートAに着陸する[8]。このクレーターは南緯80度に位置しており、これまでの月着陸ミッションと比べて最も南極に近い緯度への着陸となる[9]。オディシアスが月面着陸に向け降下する際、着陸する30秒ほど前に「イーグルカム」という装置がNova-Cから分離される予定だった。イーグルカムには3台のカメラが取り付けられており、Nova-Cが着陸する様子を外部から写真で捉える計画だった[10]が、これは後述の高度計のトラブルが遠因となって、着陸時の分離・撮影はキャンセルされた[11]。着陸後しばらくしてから分離されたものの、通信がうまくいかずイーグルカムでの撮影には失敗した可能性がある[12]

IM-1に使用される月着陸機Nova-Cは高さ4.3mの小型の月着陸機で最大130kgのペイロードを運ぶことができる。電力は太陽電池によって発電される。メインエンジンは3Dプリンターによって製造され、液体酸素と液体メタンを燃料としている[13]

搭載機器[編集]

マーシャル宇宙飛行センターが開発したルナーノード1測位実証機

オディシアスはNASAが選定した以下の機器を搭載する。

レーザーリトロリフレクターアレイ (LRA)
地球からレーザーを反射することで地球と月の距離を測定することができる。
精密な速度と遠近判定のためのドップラーライダー (NDL)
月着陸の精度を向上させるためのドップラー・ライダー。
ルナーノード1測位実証機 (LN-1)
周回衛星や着陸機に位置情報を提供する測位用のビーコン
月プルームと表面の研究用のステレオカメラ (SCALPSS)
Nova-Cの着陸時に舞い上がったダストを観測する。
月表側表面での光電子シースの電波観測 (ROLSES)
月表面近くの光電子シースの密度を電波で観測する実験。
無線周波数質量ゲージ (RFMG)
燃料の残量を低重力環境で測定する装置。

この他にオディシアスには、人々のメッセージや写真を収録したGLL SpaceのLUNAPRISE、ジェフ・クーンズの芸術作品Moon Phasesなどが搭載されている[13]

月面着陸[編集]

月周回軌道への投入後、オディシアスが月面着陸に使用するレーザー高度計が作動していないことが判明した。そこで顧客の荷物の一つとして搭載していたNASAの観測機器NDLが取得したデータを急遽着陸に用いることになった。この際行ったプログラムの書き換えにより着陸が当初予定より数時間遅れた[6]。ただし結果的にNDLのデータも利用できておらず、慣性と画像データによるおおまかな高度判断になり、不具合含みの着陸につながった[12]

画像外部リンク
民間初の月面着陸「ノバC」、着陸後の写真公開 2024年2月29日

インテュイティブ・マシーンズは着陸後に行われた記者会見でオディシアスは横倒しの姿勢で着陸したことを明らかにした[14]。6本ある脚の一つが折れた、または窪みに入ったことが考えられるとしていた。転倒により月面に面してしまった側面のパネルには観測装置は付いておらず、ジェフ・クーンズの芸術作品のみが取り付けられている[6]。その後少しずつ得られたデータは順次公開され、28日には着陸後の写真も公開された。それによれば着陸時には直立していたものの、着陸脚の一部が破損し、機体が30度ほど傾いた状態だったという[15]

脚注[編集]

  1. ^ YouTube発音サイトOdysseus
  2. ^ NASA動画サイト
  3. ^ 米企業の無人月着陸船 月面着陸成功 民間企業の開発では世界初
  4. ^ Houston-based company on track to be the first private U.S. business to land on the moon” (英語). KHOU 11 (2021年10月13日). 2022年2月9日閲覧。
  5. ^ Lunar Services”. Intuitive Machines. 2022年2月9日閲覧。
  6. ^ a b c IM-1 lunar lander tipped over on its side”. SpaceNews (2024年2月23日). 2024年2月26日閲覧。
  7. ^ NASA動画サイト
  8. ^ Intuitive Machines Lunar Landing Site Moves to South Pole” (英語). NASA (2023年5月25日). 2024年1月14日閲覧。
  9. ^ アメリカ企業の無人船「オディシウス」、月面着陸に成功 民間初
  10. ^ Eagles Complete CubeSat Construction; Next Stop: the Moon” (英語). エンブリー・リドル航空大学 (2021年11月12日). 2022年2月9日閲覧。
  11. ^ 【更新・追記】米民間企業の月着陸船「Nova-C」月面着陸に成功するも横転した状態か”. sorae (2024年2月26日). 2024年2月29日閲覧。
  12. ^ a b 米民間企業の月着陸船「Nova-C」月面で撮影された新たな画像公開 着陸時の詳細も判明”. sorae (2024年2月29日). 2024年3月1日閲覧。
  13. ^ a b IM-1 PRESS KIT”. Intuitive Machines. 2024年2月7日閲覧。
  14. ^ 月面着陸した米企業の無人宇宙船、横倒しの状態に 通信は可能”. ロイター. 2024年2月26日閲覧。
  15. ^ 米月面着陸船の写真公開 2秒かけて転倒もCEO「文句なしの成功」”. 朝日新聞DIGITAL (2024年2月29日). 2024年2月29日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]