尿酸

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尿酸
識別情報
CAS登録番号 69-93-2 チェック
PubChem 1175
ChemSpider 1142 チェック
UNII 268B43MJ25 チェック
EC番号 200-720-7
KEGG C00366 チェック
ChEMBL CHEMBL792
特性
化学式 C5H4N4O3
モル質量 168g/mol
外観 白色結晶
密度 1.87
融点

熱すると分解

沸点

N/A

への溶解度 僅か
酸解離定数 pKa 5.8
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

尿酸(にょうさん、uric acid)は、化学式C5H4N4O3有機化合物である。

代謝経路

尿酸は、キサンチンヒポキサンチンのようなオキシプリンからキサンチンオキシダーゼによって合成される。ヒトや他の霊長類では、尿酸はプリン代謝の酸化最終生成物である。その他のほとんどの哺乳動物では、尿酸オキシダーゼEC 1.7.3.3)によって尿酸はさらにアラントインまで酸化される[2]

尿酸は鳥類と爬虫類の窒素代謝の最終生成物であり、それらの種では固体の尿として排出される。

霊長類進化史と尿酸、ビタミンCとの関係

霊長類では尿酸オキシダーゼが欠損すると共に、霊長類の直鼻猿亜目ではアスコルビン酸ビタミンC)合成も欠損している[3]。これは尿酸が部分的にアスコルビン酸の代用となるためである[3]。尿酸とアスコルビン酸は強力な抗酸化物質還元剤および酸化防止剤)である。ヒトでは、血漿中の約半分の抗酸化物質は尿酸から来ている。

なお、霊長類の進化は約6500万年前、白亜紀末期頃に始まったと考えられている[4]。霊長類は、尿酸オキシダーゼが失活している。霊長類以外の哺乳類は尿酸オキシダーゼの活性を有している[5]。さらに、霊長類でL-グロノラクトンオキシダーゼ(ビタミンC合成酵素)の活性が失われたのは約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし)と曲鼻猿亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時である。ビタミンC合成能力を失った直鼻猿亜目にはメガネザル下目真猿下目サル類人猿ヒト)を含んでいる。ビタミンC合成能力を有する曲鼻猿亜目には、キツネザルなどが含まれる[6]

生体における尿酸

排泄物としての尿酸

尿酸は、鳥類爬虫類タンパク質代謝における最終産物である窒素化合物で、それらの生物から排泄物として体外に出される。

一方、をはじめとする哺乳類両生類軟骨魚類の場合には尿中の主要な窒素化合物は尿素硬骨魚類の場合はアンモニアである[7][8][9]

これは尿酸は尿素に比べ濃縮が可能であり、体内に一時的に保持するにあたって水分をあまり必要としないためだと考えられる。また、硬い殻を持つから生まれることで、発生に伴って生じた窒素化合物を体外へ排出することが出来ないためとも考えられている。硬い(閉鎖卵)を有する卵生の動物では、尿を殻の外に排泄できないため、アンモニアでは有害であり、尿素では浸透圧が高くなりすぎ、水にわずかしか溶けない尿酸の形で排泄することにより有害性と浸透圧の両方の問題を解決している[10](哺乳類でもカモノハシのように原始的な卵生の種は、卵の状態では尿酸の形で輩出している)。尿酸は非水溶性であるため、鳥類や爬虫類のの白い部分は、糞ではなく尿である。

痛風の原因物質

関節液の尿酸結晶
痛風により親指のMP関節にできた関節炎
耳介にできた痛風結節

ヒトではURAT1と呼ばれる尿酸トランスポーターにより近位尿細管で多く(約80%)が尿中から回収される。ヒトの血液中では尿酸濃度は3.6から8.3mg/dLである。菜食主義者は尿酸値が低いという報告がある[11]。血中の尿酸濃度が高くなる病気に高尿酸血症がある。尿酸は、水への溶解度が低いことから、低体温箇所で結晶化しやすくなり、また酸性下でも析出しやすくなり、これが痛風などにも関連する[12]。血液中の尿酸濃度はUAという略号で表されることが多い。

過剰な尿酸は、血管に炎症をもたらすことが近年の研究で判明しており、高尿酸血症は放置すべきではないとの論調が主流を占めつつある[13]。また高インスリン血症メタボリックシンドロームは血中尿酸値を上昇させ、悪影響を来すことも研究がすすみつつある。

血液検査の参考基準値

項目 被験者のタイプ 下限値 上限値 単位 備考
尿酸[14] 0.18[15] 0.48[15] mmol/L
女性 2.0[16] 7.0[16] mg/dL
男性 2.1 [16] 8.5[16] mg/dL

抗酸化物質としての尿酸

尿酸はビタミンCよりもはるかに強力な抗酸化物質であり、体内に一定量存在することにはおおきな意義がある[17][18]。ヒトの血中に最も高濃度で存在する抗酸化物質は尿酸であり[19] 、ヒト血清中の抗酸化物質全体の約半分を占める[20]。尿酸は、運動ストレス時の抗酸化物質として作用する報告がある[21]。また、ショウジョウバエにおいて酸化傷害に対する防御機構として尿酸合成が亢進している可能性を示唆する報告もある[22]

脚注

  1. ^ "Uric Acid." Biological Magnetic Resonance Data Bank. Indicator Information Retrieved on 18 February 2008.
  2. ^ Purine and Pyrimidine Metabolism(Eccles Health Sciences Library)
  3. ^ a b Peter Proctor Similar Functions of Uric Acid and Ascorbate in ManSimilar Functions of Uric Acid and Ascorbate in Man Nature vol 228, 1970, p868.
  4. ^ http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/shinka/keitou/jyu/jyu.html
  5. ^ http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/deg_na.htm
  6. ^ Pollock JI, Mullin RJ (May 1987). “Vitamin C biosynthesis in prosimians: evidence for the anthropoid affinity of Tarsius”. Am. J. Phys. Anthropol. 73 (1): 65–70. doi:10.1002/ajpa.1330730106. PMID 3113259. 
  7. ^ http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/168507/m3u/%E5%B0%BF%E4%B8%AD/
  8. ^ http://ci.nii.ac.jp/naid/110003360889
  9. ^ http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textbiodiv/Chapt1-5.doc
  10. ^ http://pharm.ph.sojo-u.ac.jp/genometalk/genometalk31-40.pdf
  11. ^ Kuo CS, Lai NS, Ho LT et al. "Insulin sensitivity in Chinese ovo-lactovegetarians compared with omnivores" Eur J Clin Nutr 58(2), 2004 Feb, pp312-6. PMID 14749752
  12. ^ http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-shika/until%202003%20HP/yuubyou21.html
  13. ^ 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン http://www.tufu.or.jp/medical/guideline.html
  14. ^ Normal Reference Range Table from The University of Texas Southwestern Medical Center at Dallas. Used in Interactive Case Study Companion to Pathologic basis of disease.
  15. ^ a b Last page of Deepak A. Rao; Le, Tao; Bhushan, Vikas (2007). First Aid for the USMLE Step 1 2008 (First Aid for the Usmle Step 1). McGraw-Hill Medical. ISBN 0-07-149868-0 
  16. ^ a b c d Blood Test Results - Normal Ranges Bloodbook.Com
  17. ^ http://kaken.nii.ac.jp/d/p/19510067
  18. ^ http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/r20091105084732.pdf
  19. ^ Glantzounis G, Tsimoyiannis E, Kappas A, Galaris D (2005). “Uric acid and oxidative stress”. Curr Pharm Des 11 (32): 4145 – 51. doi:10.2174/138161205774913255. PMID 16375736. 
  20. ^ Becker BF (June 1993). “Towards the physiological function of uric acid”. Free Radic. Biol. Med. 14 (6): 615–31. doi:10.1016/0891-5849(93)90143-I. PMID 8325534. 
  21. ^ http://ci.nii.ac.jp/naid/110001949422
  22. ^ http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/19510067

関連項目