コンテンツにスキップ

地震警報システム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。F-mikanBot (会話 | 投稿記録) による 2012年5月24日 (木) 07:54個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (ロボットによる: 秀逸な記事へのリンク fa:سامانه هشدار زمین‌لرزه)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

緊急地震速報システム

地震警報システム(じしんけいほうシステム)とは、「地震が起こった後、震源要素や地震動の分布を迅速に決めて、その情報をいろいろなユーザー(防災関係者、電気、ガス、水道、電話、交通、報道、個人)に伝えて防災に役立てること[1]」の事であり、地震の際に警報を発して被害を最小限に抑えるための安全管理システムである。

各種の地震警報システム

地震警報システムには大きく分けて2種類あり、以下のシステムが稼働している。

早期警戒システム(地震早期警報システム、即時情報)
主要動到達前に警報を発し、未然に被害を抑える。
  • JRユレダス(UrEDAS):事前検知、機器制御を行う。
    • ユレダスとそれを進化させたコンパクトユレダス(システムアンドデータリサーチ開発)が鉄道関係において実用化されている。
  • メキシコの地震警報システム(SAS、Sistema de Alerta Sísmica):地震動の警戒発令を行う。
  • 気象庁緊急地震速報[2]
    • 民間企業による配信事業:一例として鉄道総合技術研究所グループの株式会社ANETがある[3]
    • 早期地震警報システム:緊急地震速報を利用したもので、九州新幹線のほか各鉄道事業者でも導入されている。
  • システムアンドデータリサーチのフレックル(FREQL、Fast Response Equipment against Quake Load):ユレダスやコンパクトユレダスの機能を持つ。P波検知後1秒以内、最短0.1秒で警報を発信し、「世界最速」とされている[4]
  • JR東海の東海道新幹線早期地震警報システム(TERRA-S:テラス):P波を解析し、新幹線への影響度合いを判断して警報を発信する。2008年より緊急地震速報の活用を開始している。
揺れの後(地震後情報、直後情報)
被害等を予測し、適切な防災活動を行えるようにするもの。
  • 東京ガスSIGNAL(シグナル)、SUPREME(シュープリーム):被害把握、機器制御を行う。[5]
  • 横浜高密度強震計ネットワーク(READY):地震後の被害把握を行う。[6]
  • 川崎市震災対策支援システム:地震後の被害把握を行う。[7]
  • 内閣府地震被害早期評価システム(EES):地震後の被害把握を行う。[8]
  • 南カリフォルニアCUBE:地震動直後の情報発信を行う。

仕組み

地震警報システムは、地震の初期微動を観測して、早い段階で対応をとることにより、被害を最小限に抑えようと開発されたシステムである。

地震が起こると、主に2つの地震波が周囲に広がることにより振動が発生する。地震波のうちS波は大きな揺れ(主要動)で被害を引き起こす地震波で、比較的ゆっくり伝わる波である。対するP波は小さな揺れ(初期微動)のため被害を起こす地震波ではないものの、S波の約2倍の速さで伝わるため、このP波を観測してすばやく情報を伝えることで、被害を未然に防ぐことができる[9]

原理自体は極めて単純であり、1900年代初頭にはこれに類似したアイディアが既に存在した[10]。しかし、通信、観測、処理(揺れが地震のものであるか否かの判断を要する)などに多くの知識・技術や資金を要したため、実験・実用に至ったのは1990年代以降である。

鉄道総合技術研究所では、新しい手法を用いた早期警報用地震計の開発を行い、新幹線において運用された。新しいシステムは、P波初動から地震の発生位置やマグニチュードを推定し、大きく揺れはじめる前に警報を出すという点では従来のユレダスと同じだが、その推定方法が異なっている。新システムでは、近くで発生した地震ほどP波初動の傾きが急になるという特徴に注目して震源までの距離を先に推定する。そして、その推定値にもとづいてP波部分の最大振幅からマグニチュードを求める。この新手法によって震源までの距離やマグニチュードの推定精度が向上した。

実用例

  • 新潟県中越地震2004年)の際の新幹線停止(上越新幹線脱線事故)。
    • P波が検出された後、1秒で警報を出し、200km/hで進行中の新幹線に緊急ブレーキをかけた。結果的に脱線をしてしまったが、早期警報システムは計画通りに動いた。
  • 東日本大震災(2011年)の際の新幹線停止。
    • 東北新幹線では架線が倒壊するなどの大きな被害を受け1ヶ月以上運休することとなったが、地震警報システムにより営業列車の脱線は1両も起こらず、死者・負傷者は出なかった。JR東日本は、当時270km/h前後に達していた5本を含む計18本が営業運転中だったが、最初の揺れが到達する約10秒前、最も強い揺れが到達する約70秒前には緊急警報が発せられ、揺れが来る前には30〜170km/h程度減速し、安全に停車できたとしている[11]

関連項目

出典

脚注

  1. ^ 菊池正幸(2003)リアルタイム地震学、東京大学出版会、pp.2022
  2. ^ 「緊急地震速報の本運用開始に係る検討会」中間報告 (PDF) (気象庁)
  3. ^ 株式会社ANET公式サイト
  4. ^ 新世代早期地震警報システム FREQL System and Data Research Co.,Ltd
  5. ^ 技術概要(共同開発者による紹介)、システムを利用した有料サービス(東京ガスの関連会社のサイト)
  6. ^ 横浜市における地震システムについて(横浜市)
  7. ^ 川崎市震災対策支援システムについて(川崎市)
  8. ^ 地震防災情報システムの整備(内閣府)
  9. ^ しばしば、P波を雷光に、S波を雷の音にたとえて説明がなされる。このたとえに従えば、雷光があったらすばやくそれを伝えることで、ゴロゴロという音に備えることができるというわけである。
  10. ^ カリフォルニア州でしばしば発生するサンアンドレアス断層を震源とする地震に対するアイディアなどが知られる。
  11. ^ 乗客犠牲者一人もなし、新幹線の地震対策は?

ウェブ


Template:Link FA