包茎

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包茎
概要
診療科 泌尿器科学
分類および外部参照情報
DiseasesDB 10019
MedlinePlus 423
MeSH D010688
勃起した包茎の陰茎。この状態は日本の医学界では俗に真性包茎とも呼ばれる(本文参照)。

包茎(ほうけい、:phimosis、:Phimose、ギリシャ語:φῑμός〈「口輪」から〉)とは陰茎亀頭包皮に覆われて露出不可能ないし露出に問題が伴う状態である。陰核の同様の状態も指す。この項では以下陰茎のみについて表記する。

概要

陰茎は亀頭部と陰茎体部からなり、陰茎包皮は先端の包皮輪ないし包皮口とよばれる折り返しの部分を境に亀頭に接する内板と普段露出している外板に分かれている。

包茎でない限り、包皮を陰茎の根元側へ寄せると包皮がめくれて外板に続く状態で内板が外向きになり亀頭が露出する。Schoberlein (1966) の調査では通常時には割礼されていない成人の50%において包皮が亀頭を完全に覆っており、42%は包皮が部分的に覆っており残りの8%において亀頭が完全に露出している。

包皮輪が狭い、または癒着のため包皮の翻転ができない場合を包茎と言い罹患率は割礼されていない成人の約1%である。日本ではこれを真性包茎ということがあるが、「真性」は国際的用語[1]では不要である。用手的に(手を用いて)翻転できるが普段は包皮に覆われている状態は日本では仮性包茎 (false phimosis) と呼ばれることがある[2]が、国際的に認められた正式な医学用語ではない[3][4]。この状態が普通である[5][6]ため、国際的には特に用語はなく、強いて言うなら"average normal adult human penis"(平均的な通常の大人の陰茎)[7]、"intact penis"(割礼されていない陰茎)[8]、"natural penis"(自然な陰茎)などである。

出生時には亀頭は包皮に覆われており、通常は成長に伴って亀頭の露出・包皮の翻転が可能となってくるため[* 1][9]、早期に治療を行う例は排尿障害があるもの、嵌頓包茎、亀頭包皮炎を起こすものなどに限られ[10]、後述する包皮翻転指導とステロイド剤が効果をあげていることもあり、2006年現在、小児に対する手術は大きく減少している[* 2][11]。 だが成人後もこれがみられない場合は病気とされ、保険適用治療の対象となる。

包茎(真性包茎)の問題点

衛生

恥垢が亀頭冠状溝と包皮の間に溜まる。だが包茎であると汚染や感染を生じ、尿路感染症陰茎癌[* 3][12]の発生率を高める可能性が指摘されている。清潔にさえすればその心配はない。無理に剥離しようとすると出血の可能性があるため、亀頭包皮炎を起こさない限り無理な剥離はしない方がよい。

性行為

射精自体は可能なものの包皮が引っ張られることにより痛みを生じることが多く、挿入時の摩擦により陰茎が包皮を破り出て傷害を負う危険性もあるので通常の性行為は困難である。また、包皮に裂傷を負う場合もある。

尿路閉塞性疾患

力まないと尿が出ないほどの重度の包茎では尿路閉塞性疾患を起こして膀胱拡張、肉柱形成(膀胱の排尿筋の肥大)、水腎症と進み腎不全になるおそれもある。また、包皮が邪魔で尿がまっすぐ飛ばない場合もある。

嵌頓包茎

包皮口が狭小な場合、包皮を無理に反転させて亀頭を露出した状態にしておくと血管やリンパ管が狭い包皮輪の部分で絞扼されて循環障害を起こし先の包皮が腫脹して激しい痛みを伴うことがある。これを嵌頓包茎(かんとんほうけい)という。根治するには包皮環状切除術が必要である。

HIV感染症予防

HIVレセプターが包皮内板に豊富に存在するため、AIDSが多く見られる国家、地域においてはこれの感染を予防するため、包皮の切除を行っている[12]

治療

特に小児において副腎皮質ホルモン外用剤の局所塗布が有効性を示すが、女性ホルモン製剤では女性化乳房などの副作用もみられる[12][10]。 外科手術の代表的なものに包皮環状切開術と包皮背面切開術がある。背面切開術は主に幼小児に行われる。 嵌頓包茎では用手的整復が不可能な場合、手術を行う。

割礼は主にキリスト教ユダヤ教イスラム教信者が行う。


包皮翻転指導

用手的包皮翻転とも。むきむき体操として、2010年頃から日本で話題になった。 保護者が乳児の包皮を動かし、亀頭を露出して短時間で戻す行為を、おむつの交換時や入浴時に20回ほど毎日繰り返すもの。この体操は1994年頃、厚木市立病院泌尿器科の医師である岩室紳也が提唱し、同医師らの論文によれば、指導を行い継続的に経過を観察できた372例中の全例において平均2ヶ月余で完全露出し、指導に伴う特記すべき合併症はなかったとしている。しかし、子供の包茎に対してどのような処置をすべきかという問題は、小児医療界でも意見が割れている。この体操が話題になった背景には、核家族や少子化が進む現代において、女性が父や夫などの完全に剥けた男性器しか見たことがなく、生まれた我が子の男性器を見て、正常なのかと不安になったことがあったからと分析されている。なお、無理に剥くと包皮が元に戻らなくなることがあり、その状態を継続すると包皮の先端にリンパ液が溜まり、むくんで腫れてしまい、亀頭部に血液が流れなくなるために注意が必要とされる [13][14][15][16][17]

また、この治療法について佐藤裕之[* 4]は、「単に自然軽快の課程を早めるに過ぎない可能性がある」、出血や嵌頓の危険があり「医師が十分に治療法を理解し患者・家族に説明する必要がある」としながらも、基本的には一定の有効性と清潔性を評価している[18]

包茎に対するステロイド治療

小児の包茎は、手術ではなくステロイド軟膏(商品名/リンデロンVG軟膏)を塗布する治療が主流になりつつある。 1歳ぐらいの幼児にステロイド治療をすると、多くは2週間という短期間で包皮がむけてかなりの効果が出る[19]

脚注

  1. ^ 報告によるが、11歳 - 18歳で、63 - 93%は亀頭の露出が可能。欧米では17歳までに包茎は1%未満になるとの報告もなされている(Gairdnerら, 1949)。
  2. ^ 神奈川県立こども医療センター泌尿器科の山崎裕一郎 (2006) によれば、年間350名の小児泌尿器手術中、包茎手術はわずか2件前後。
  3. ^ 陰茎癌患者の25 - 75%は包茎であり、参考文献によればユダヤ人(宗教的習慣により男児の包皮を割礼により切除している)には陰茎癌が皆無である。
  4. ^ 東京都立小児総合医療センター

出典

  1. ^ ステッドマン医学大辞典、他各種の国際的な医学辞典
  2. ^ 小野江為則、小林博、菊池浩吉編著、18章生殖器18.2陰茎の病理(2)包茎、『病理学』、第二版、pp.480-481、理工学社。ISBN:4-8445-5126-4
  3. ^ 紳也's HP”. 包茎 Q&A 包茎・おちんちん. 岩室紳也. 2011年7月15日閲覧。
  4. ^ 石川英二『切ってはいけません!』
  5. ^ Desmond Morris (1986)
  6. ^ ダイヤグラム・グループ(編)、池上智寿子、根岸悦子(訳)、1976(原著), 1981(邦訳)、『マンズ・ボディー』、鎌倉書房 p. J07-10
  7. ^ http://www.cirp.org/pages/anat/
  8. ^ http://www.circumstitions.com/Anatomy.html
  9. ^ 五十嵐 (2011)
  10. ^ a b 山口孝則 (2007). “包茎・埋没陰茎”. 小児外科 第39巻第8号 (東京医学社): 945. 
  11. ^ 山崎雄一郎 (2006). “小児包茎手術”. 小児外科 第38巻第12号 (東京医学社): 1485. 
  12. ^ a b c 宮北英司 (2009). “包茎・埋没陰茎”. 小児外科 第41巻第10号 (東京医学社): 1072. 
  13. ^ 岩室紳也 (1997) 新生児の包茎に対する包皮翻転指導:論文抄録
  14. ^ 週刊ポスト2010年11月19日号
  15. ^ ドクター岩室のむきむき体操講座”. gooベビー. 2011年7月15日閲覧。
  16. ^ “息子のムスコを心配する母親の間で「むきむき体操」が話題”. NEWSポストセブン. (2011年7月15日). http://www.news-postseven.com/archives/20101108_5280.html 2011年2月8日閲覧。 
  17. ^ 『まちがいだらけの包茎知識』 pp.71 -
  18. ^ 五十嵐隆(監修)、佐藤裕之(参考部執筆)、2011、『EMB 小児疾患の治療 2011 - 2012 「IX 腎・泌尿器 9.小児の包茎に対する基本的治療方針は?」』、中外医学社 ISBN 978-4-498-14512-2 pp. 490 -
  19. ^ 包茎に対するステロイド治療”. ふくだ小児クリニック. 2011年8月17日閲覧。 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "fukudaclinic"が異なる内容で複数回定義されています

参考資料

  • 岡島重孝(著、監修)、服部光男(監修)『新版ホームメディカ家庭医学大事典』小学館。ISBN 978-4-09-304-504-9 
  • "包茎". 南山堂医学大事典. 南山堂. 1990. p. 1805. ISBN 4-525-01027-4
  • 後藤稠他, ed. (1996). "包茎". 最新 医学大辞典. 医歯薬出版株式会社. p. 1484. ISBN 4-263-20825-0
  • 伊藤正男 (2009). "包茎". 医学大辞典 第2版. 医学書院. p. 2579. ISBN 978-4-260-00582-1
  • 飛波玄馬、岩室紳也、山本直英 (2000). まちがいだらけの包茎知識. 青弓社. ISBN 4-7872-3176-6 

関連項目