レッツゴードンキ

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2015年桜花賞

レッツゴードンキは日本のサラブレッドである。主な勝ち鞍は2015年の桜花賞[1]

馬名

レッツゴードンキの馬名の由来について、日本中央競馬会では『さあ進もう「ドンキホーテ」のように』の意味であるとしている[2][3]。一般の報道では、この「ドンキホーテ」はスペインの騎士道物語『ドン・キホーテ』ではなく、ディスカウントストアドン・キホーテに由来するとされており、同社の創業者安田隆夫(2015年時点では代表取締役会長[4])と馬主の廣崎利洋とが知己であることから命名されたと報じられている[3][5][6]。日本中央競馬会や日本軽種馬協会が定める公式な馬名のローマ字表記は「Let's Go Donki」であり[7]、「ドンキ」部分の綴りは騎士道物語の「Don Quixote」とは異なり、ドン・キホーテ社が商標登録をしている「DONKI」となっている[8]

なお、日本中央競馬会では施行規程を定めており、同規程第22条(5)では「明らかに営利のための広告宣伝を目的として会社名、商品名等と同じである名称を附したと認められ、かつ、競走馬の馬名としてふさわしくない馬名[9]」は馬名として認められないことになっている[9]

馬主

馬主の廣崎は関西に本拠を置く建築事務所「アスクプランニングセンター」の経営者で[10][11][12][13][14][15][16]、1980年代に都市部でビブレを企画し、日本にファッションビルの概念を創出した人物である[13][12][16][17]。この商業形態は日本のリテール業界に大規模なインパクトを与え、百貨店量販店ビジネスモデル転換をもたらした[16][17]。そのほか、天王洲アイルシーフォートスクエア)、広島のアルパーク、小倉のコレット (百貨店)銀座シャネル大江戸温泉物語など、大規模な都市再開発に携わっている[12][16][18][17]

西宮市で小売業を営む両親のもとで育った廣崎は、学生の頃から商品の配達で阪神競馬場の厩舎に出入りしており、シンザンメイズイの時代から競馬に関心をもっていた[10]。廣崎は神戸の甲南大学へ進学し、在学中には馬術部の友人に馬に乗せてもらうこともあった[10]。廣崎はオリベッティに就職したが、馬券を買うようになってからも阪神競馬場に通っており、こうしたことから阪神競馬場の大レースである桜花賞を最大の目標にするようになった[10]

廣崎は豊田善一野村證券副社長)、細川益男らの紹介で馬主となった[10]。初めて所有した競走馬はアスクヒーローといい、華麗なる一族と呼ばれる牝系の祖マイリーの曾孫に当たる馬だった[10][19]。廣崎はこの馬を800万円で購入し、伊藤雄二調教師に預託した[10]。アスクヒーローは1989年の初夏、その年で最初に行なわれる札幌競馬場の2歳戦[注 1]に出走した[10]。出走馬の中に2億円で購買された外国産馬[注 2]がいて話題を集めていたが、アスクヒーローはこれを負かして1着となり、廣崎は馬主としての初所有馬で初出走で初勝利をあげた[10]

これ以来、廣崎の馬主歴は桜花賞の時点で28年となった[11][5][10]。2014年にシルクロードステークスでの重賞勝利経験はあったが、G1優勝はレッツゴードンキによるものが初めてだった[5]。(G1競走では、2014年にストレイトガールスプリンターズステークス2着、高松宮記念3着、ヴィクトリアマイル3着、香港スプリント3着の経験がある。シルクロードステークスの優勝も同馬によるもの。[20]

生産牧場

レッツゴードンキを生産したのは北海道平取町の清水牧場である[21][1][22]。1967年(昭和42年)創業で、50年間にダイタクヘリオスマイルチャンピオンシップ2勝)、マジェスティバイオ中山大障害中山グランドジャンプ)などを生産してきた[21]。同牧場の生産馬で中央競馬のクラシック競走を勝つのはレッツゴードンキが初めてである[21]

血統

レッツゴードンキの父はキングカメハメハ、母はマルトクである。血統表の5代以内には、ミスタープロスペクター(3×4)、ノーザンダンサー(5×5×5)、スペシャル(5×5)という近親交配がある。これはあくまでも「5代以内」の場合であり、5代前にはノーザンダンサー直仔のニジンスキーノーザンテーストやニジンスキー産駒のグリーンダンサーがおり、6代前まで遡るとノーザンダンサーの近親交配は5×5×5×6×6、7代まで遡ると5×5×7×5×6×6というように、さらに強い近親交配が出現する[23]

母系

レッツゴードンキの母系の4代前が社台グループがアメリカからの輸入した*レディフランダースで[24]、1989年から1990年頃に中距離で活躍したレディゴシップ(1989年クイーンステークス2着)[25]や2009年のエリザベス女王杯優勝馬クィーンスプマンテ(本馬の4代母の孫)が同族である。この系統にノーザンテーストリアルシャダイジェイドロバリー、と代々にわたって社台グループの看板種牡馬を配合されて生まれたエリットビーナス(レッツゴードンキの祖母)が1歳のときに1997年のセリ市[注 3]で745万円で売られ[26]、繁殖入りしたあとにマーベラスサンデーを配合されて、マルトク(レッツゴードンキの母)が誕生した[27]

マルトクは2003年から2007年まで中央競馬に所属し、すべてダートの1000メートルから1400メートルで走り、5勝をあげた[27][28]。重賞出走歴はないが、準オープンクラスで入着したことがある[28]。5代以内には、累代の社台グループ種牡馬経由でヘイルトゥリーズン(4×5)、ノーザンダンサー(4×5×5)、ネイティヴダンサー(5×5×5)という近親交配がある[24]。レッツゴードンキはその4番仔だが、2015年4月時点で兄・姉に中央競馬での勝鞍があるものはなく、半兄のマルトクスパート(現役馬)が兵庫で11勝しているのが勝鞍としては最多である[29]

競走馬として

レッツゴードンキは2歳の夏に札幌競馬場で初出走を果たし、札幌2歳ステークス3着、アルテミスステークス2着を経て、12月の阪神ジュベナイルフィリーズで優勝馬から半馬身差の2着になった[30]。3歳になるとチューリップ賞3着ののち、桜花賞に出走した[30]

2015年桜花賞

桜花賞には重賞を複数勝ったものが1頭しかおらず[31]、キャリアの浅い馬が揃った[32]。その中でルージュバックが1.6倍の人気を集め、唯一頭重賞を2勝していたココロノアイが7.6倍の2番人気だった[1]。レッツゴードンキは出走馬の中では2歳時に最も高いレーティングを獲得していたが[33]、5番人気どまりだった[1]

レッツゴードンキは2013年頃オーストラリアで開発されたトライアビットという新型の特殊なリングハミを装着して出走しており[1]、これは競走馬の発揮する能力を向上させ、特に先行したがる馬に効果的とされている[34][35]。桜花賞は一般に極端なハイペースになる傾向があるとされているが[36]、良馬場であったにもかかわらず[31][37]、先行しようとする馬がレッツゴードンキ以外にいなかったため[31][1]、「稀にみる超スローペース[32]」となった[1][36][31][37][38]。極端なスローペースで逃げているにもかかわらず、2番手以降のどの騎手もレッツゴードンキを追いかけようとしなかったため[36]、レッツゴードンキは楽に先行することができた[36]。ペースが遅すぎたために最後の直線に入ってもどの馬にもたっぷりと余裕が残っており[37][1][36]、最後の直線では各馬が激しく追い込みにかかったが、レッツゴードンキにもじゅうぶんな余力があり、後続馬を逆に突き放して、最後は2着に4馬身差をつけてゴールまで逃げ切った[37][1][36][38][39]

桜花賞を逃げ切って優勝するのは1985年のエルプス以来30年ぶりだったが[37]、エルプスは重馬場をハイペースで逃げ切ったのに対し[40]、レッツゴードンキは良馬場をスローペースで逃げたものであり、走破タイムは全て良馬場で行われた過去6年で最も遅い[37]。2015年の桜花賞を「ハイレベル」(東京スポーツ[41]、4馬身差を「歴史的圧勝」(『サラブレ』ライター小林誠)[42]、などと持ち上げる者もいたが、国際的に競走の格付けや競走馬の評価に用いられる公式指標である日本中央競馬会の評価は105.00ポイントで、2001年に評価が公表されるようになって以来史上最低のレベルであったという公式見解を示している[33][43]。ただしこのレーティングは2着以下の各馬が軒並み低評価だったことが大きな影響を与えており、レッツゴードンキ単独での評価は112ポイントで、これは2001年以降の15回中、2位タイの高評価である[43]。過去に112ポイント以上の評価を受けたのは2009年のブエナビスタ(112)、2014年のハープスター(113)の2頭だけである[43]

なお、2015年4月19日の時点で、2015年10月4日の凱旋門賞の前売り馬券でルージュバックには25倍のオッズが設定されているが、レッツゴードンキにはまだ倍率がついていない[44]

桜花賞のあと

レッツゴードンキはこのあと、優駿牝馬へ駒を進めた。桜花賞の勝ち方からレッツゴードンキへの評価は高まり、「史上14頭目の牝馬二冠達成なるか」という見方が増えていった[45][46][47]。また、優駿牝馬の1週間前に行なわれるヴィクトリアマイルを廣崎の所有馬ストレイトガールが勝ったことで、馬主の廣崎には「2週連続GI優勝」の記録がかかると話題となった[46][47]。こうして周囲の期待が高まるなか、廣崎はもし本当に勝ってしまうと大変なことになると、不安だったと述懐している[10]

最終的にレッツゴードンキは2番人気になった。岩田騎手や調教師によれば体調・状態は万全だったが、桜花賞の時とは違ってスムーズに走ることができず、10着に敗れた[47][48]。馬主の廣崎は10着に敗れて「ホッとした」と述べている[10]

脚注

注釈

  1. ^ 当時の呼称では「3歳新馬戦」である。アスクヒーローが出走したのは1989年1回札幌競馬1日目の新馬戦で、中央競馬のその世代が出走する一番早い機会である。
  2. ^ ドラゴンラリーUSA父シアトルスルーのこと。)
  3. ^ 当時は馬齢表示方法が誕生時を1歳と数える方式だったので「2歳」として売買されているが、新しい馬齢表示方法にしたがって「1歳」とした。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i 『競馬ブック』2015年4月19日号、p134-135「桜花賞の結果」
  2. ^ JRA 競走馬情報 レッツゴードンキ(検索ページで「レッツゴードンキ」を検索)2015年4月19日閲覧。
  3. ^ a b スポニチAnnex 2015年4月13日 ドンキ 馬名の由来はあのディスカウントストア2015年4月19日閲覧。
  4. ^ ドン・キホーテHLDGS 企業概要2015年4月19日閲覧。
  5. ^ a b c デイリースポーツ 2015年4月12日 勝ち馬命名者は『ドン・キホーテ』創業者2015年4月19日閲覧。
  6. ^ スポニチAnnex 2014年9月3日 レッツゴードンキ“殿堂”クラスの美顔と精神力2015年4月19日閲覧。
  7. ^ JBIS レッツゴードンキ基本情報2015年4月19日閲覧。
  8. ^ 独立行政法人 工業所有権情報・研修館 商標出願・登録情報 登録番号5121753 「DONKI」2015年4月19日閲覧。
  9. ^ a b 日本中央競馬会競馬施行規程(平成19年8月31日 理事長達第28号) (PDF) 2015年4月19日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l 『競馬ブック』2015年6月14日号、p161-163「藤村和彦のオーナーインタビュー・桜花賞、ヴィクトリアマイル優勝の廣崎利洋氏」
  11. ^ a b スポニチAnnex 2015年4月13日 ドンキ馬主・廣崎氏 予感めいた“28年目”の悲願2015年4月19日閲覧。
  12. ^ a b c 山田要一(元JRA調教師)ブログ 2014年6月18日 「他の馬の分も稼ぎたい」とお考えの筈2015年4月19日閲覧。
  13. ^ a b 企業家倶楽部 2004年4月号特集第3部 特集第3部編集長インタビユー/アスクプランニングセンター社長 廣崎利洋2015年4月19日閲覧。
  14. ^ 株式会社ASK PLANNING CENTER 経営陣2015年4月19日閲覧。
  15. ^ 株式会社ASK PLANNING CENTER 創業者 廣崎利洋(フィロソフィー)2015年4月19日閲覧。
  16. ^ a b c d 株式会社ASK PLANNING CENTER 廣崎利洋 経歴2015年4月19日閲覧。
  17. ^ a b c ブイネットジャパン 「夢を形にする」ことで、地方再生を実現していく不思議な会社 アスクプランニングセンター2015年4月19日閲覧。
  18. ^ 株式会社ASK PLANNING CENTER 有価証券報告書(2007年) (PDF) 2015年4月19日閲覧。
  19. ^ JBIS アスクヒーロー5代血統表2015年6月11日閲覧。
  20. ^ netkeiba ストレイトガール基本情報2015年4月19日閲覧。
  21. ^ a b c JBIS 重賞ウイナーINFORMATION レッツゴードンキ2015年4月19日閲覧。
  22. ^ netkeiba レッツゴードンキ2015年4月19日閲覧。
  23. ^ JBIS レッツゴードンキ5代血統表2015年4月19日閲覧。
  24. ^ a b JBIS マルトク 5代血統表2015年4月19日閲覧。
  25. ^ JBIS レディゴシップ 基本情報2015年4月19日閲覧。
  26. ^ JBIS エリットビーナス 基本情報2015年4月19日閲覧。
  27. ^ a b JBIS マルトク 基本情報2015年4月19日閲覧。
  28. ^ a b JBIS マルトク 全競走成績2015年4月19日閲覧。
  29. ^ JBIS マルトクスパート 全競走成績2015年4月19日閲覧。
  30. ^ a b JBIS レッツゴードンキ全競走成績2015年4月19日閲覧。
  31. ^ a b c d Number Web 2015年4月13日 例年接戦の桜花賞でなぜ4馬身差が?レッツゴードンキ岩田会心の逃げ戦術。2015年4月19日閲覧。
  32. ^ a b 『競馬ブック』2015年4月19日号、p1「逃げて活路を開いたレッツゴードンキ」
  33. ^ a b JRA 2015年桜花賞レーティング2015年4月19日閲覧。
  34. ^ ジャパン_ギャロップス_インポーター有限会社 H3330-T トライアビット2015年4月19日閲覧。
  35. ^ Iqonic Distribution社 ABOUT THE TRIABIT2015年4月19日閲覧。
  36. ^ a b c d e f 『競馬ブック』2015年4月19日号、p189「観戦記」
  37. ^ a b c d e f Number Web 2015年4月13日 例年接戦の桜花賞でなぜ4馬身差が?レッツゴードンキ岩田会心の逃げ戦術。2ページ目2015年4月19日閲覧。
  38. ^ a b 日本経済新聞 2015年4月12日 レッツゴードンキ優勝、重賞初制覇 競馬の桜花賞2015年4月19日閲覧。
  39. ^ “レッツゴードンキが桜の女王に、梅田師「これでラクティにもいい報告ができます」/桜花賞”. netkeiba.cm. (2015年4月13日). http://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=97411 2015年4月25日閲覧。 
  40. ^ JRA ひたすら桜、一直線 エルプス2015年4月19日閲覧。
  41. ^ netkeiba 重賞データ分析 2015年4月8日 ハイレベルな大接戦!/桜花賞2015年4月19日閲覧。
  42. ^ 東スポWeb 2015年4月13日 レッツゴードンキ “歴史的”4馬身差圧勝も…今後はどうなる?2015年4月19日閲覧。
  43. ^ a b c 桜花賞のレーティングについては参考文献節の日本中央競馬会 重賞競走・オープン特別競走レーティング(桜花賞)2001-2015年を参照。
  44. ^ oddschecker 2015PRIX DE LARC DE TRIOMPHE BETTING ODDS2015年4月19日閲覧。
  45. ^ 時事通信 2015年5月21日 2冠懸かるレッツゴードンキ=24日にオークス-競馬2015年6月11日閲覧。
  46. ^ a b スポニチANNEX 2015年5月21日 【オークス】レッツゴードンキ2冠へ加速「桜花賞より状態いい」2015年6月11日閲覧。
  47. ^ a b c 産経ニュース 2015年5月24日 力尽きたレッツゴードンキ、春2冠ならず2015年6月11日閲覧。
  48. ^ 産経ニュース 2015年5月25日 【オークス】レッツゴードンキ2冠ならず“気合”空回りで10着…2015年6月11日閲覧。

参考文献

  • 『週刊競馬ブック』株式会社競馬ブック
  • 2015年4月19日号(第53巻16号)
  • 2015年6月14日号(第53巻24号)
  • 日本中央競馬会 重賞競走・オープン特別競走レーティング(桜花賞)

外部リンク