ドルビーラボラトリーズ

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ドルビーラボラトリーズのロゴ

ドルビーラボラトリーズ(英語:Dolby Laboratories, Inc.)は、映画テレビ記録メディアその他の音響記録・再生技術の研究、開発を行う米国企業である。現在、サンフランシスコ(本社)、バーバンクニューヨークロンドン東京他にオフィスを持つ。

概要

高校時代、アンペックス社でアルバイトをした事がきっかけで、以来音響研究一筋60年の米国人技術者レイ・ドルビー博士が、1965年ノイズリダクション技術の研究所をロンドンに設立。彼はまた、初期のビデオテープレコーダであるアンペックス社の2インチVTRの開発において、オーディオ記録再生技術を担当した。

同社は装置製造だけでなく、開発した技術を他社に積極的にライセンスすることで収入を得るビジネスモデルを採用している。MPEG-AACのライセンス供給者の1社でもある。

ドルビーエンコードの映画

映画の音響再生で、臨場感を高めるため聞き手の周囲を包む音場を再生する技術で主導的な地位を占める。ドルビーサラウンドドルビーデジタルドルビープロロジックなど各種の方式がある。これらの再生にはそれぞれ専用の再生機(デコーダー)が必要になる。

主な技術・製品

音響用雑音低減方式

Dolby A, Dolby B, Dolby C, Dolby S など
業務用、コンシューマ用など多数の方式がある。
コンシューマ用カセットテープレコーダーにはDolby Bが広く使われて、ほぼ標準のノイズリダクションシステムになっている。

録音時の高域特性を改善する技術

Dolby HX PRO
高域の音声信号は、テープに録音する際の搬送波周波数に近く、の重ね合わせにより録音時にバイアスを微妙に変化させてしまう。Dolby HX PRO は、この変化を自動的に補正し、録音時の高域特性を改善するための技術である。Dolby HX PRO は、録音時の特性を改善するための機能なので、この機能を使用して録音されたテープは、録音したプレーヤー(レコーダー)で再生しても、他のプレーヤーで再生しても、Dolby HX PRO の効果は現れる。

音響高効率符号化方式

音響の高効率符号化(圧縮)方式として、1980年代から研究を行う。

AC-3
米国の地上デジタルテレビジョン放送(DTV)やDVD-Videoに採用されている。
AAC(Advanced Audio Coding)
AC-3に代わる次世代の高効率符号化方式。
MPEG-2 AACは主に日本のBSデジタル放送地上デジタル波放送及びSD-Audioに採用されている。
MPEG-4 AACは、米アップル社のアプリケーションQuickTime』や『iTunes』をはじめ、デジタルオーディオプレーヤーiPod』やソニー・コンピュータエンタテインメントの『PlayStation Portable』などに利用されている。
MLPロスレス
DVDオーディオに採用されたロスレス(可逆型)の圧縮技術。
ドルビーデジタルプラス (Enhanced AC-3またはE-AC-3)
ドルビーデジタルの後継となる規格。HD DVDの必須音声方式、ブルーレイディスクのオプション音声方式として採用されている。最大7.1chサラウンド。
ドルビーTrueHD
Blu-ray Disc、HD DVDよりさらに次の世代の高精細光ディスクを見据えた可逆圧縮音声規格。96kHz/24bitでは最大7.1chサラウンド、192kHz/24bitでは最大5.1chサラウンドまで記録できる。
ドルビーアトモス(ホーム版)
従来のチャンネルベース(5.1ch,7.1ch)のミキシング方式と、オブジェクトベースのダイナミックなオーディオミキシングを組み合わせ、精密な音の定位や移動を表現できることが特徴。スピーカーの配置は5.1.2(5.1chにオーバーヘッド(天井)スピーカー:OHSP×2ch),5.1.4,7.1.2,7.1.4,9.1.2まで可能。(出力されるスピーカーの数はアンプ側による)また天井スピーカーの設置が困難な環境の場合、「ドルビーイネーブルドスピーカー」(ユニットが斜め上を向いたスピーカー)を既存の5.1chのフロントスピーカーの上に設置することで、ユニットから天井に向けて音を出し、反射させることで天井から聴こえるようにする事が可能。記録媒体はBlu-ray Discとなり、ドルビーTrueHD又はドルビーデジタルプラスの拡張規格として記録が可能。ドルビーアトモス非対応のホームシアター機器でも下位互換性があるので、ドルビーTrueHD(7.1ch)、ドルビーデジタルプラス(7.1ch)、ドルビーデジタル(5.1ch,2ch)として再生される。

映画のアナログサラウンド記録再生方式

ドルビーステレオ(アナログ)
センター、左、右、リアの4.0chサラウンドをフィルムにアナログで2.0chステレオ記録する技術。
ドルビースペクトラルレコーディング(Spectral Recording 略:ドルビーSR)(アナログ)
ドルビーステレオで行われていたノイズリダクション効果を強力にし、記録音域もさらに広げて音響のクオリティを向上させている。

映画のデジタルサラウンド記録再生方式

ドルビーデジタル
ドルビー社の音声高効率符号化方式であるAC-3を使った記録方式。AC-3とドルビーデジタルは同じ意味である。ドルビーSRDとも呼ばれる。1chモノラルからマルチチャンネルまで幅広いチャンネルに対応している(ドルビーデジタルは5.1chを指していると思われることがあるが、これは誤りである)。映画フィルムの場合、音声のデジタル情報を二次元コード化し、フィルムのパーフォレーションとパーフォレーションの間に光学的に記録する。
ドルビーデジタルサラウンドEX
家庭用機器ではドルビーデジタルEXと呼ばれる。5.1chトラックの中に、真後ろの方向にあたるサラウンドバック(リアセンターとも言う)チャンネルの音声情報を追加して6.1chサラウンド再生を可能とした方式である。サラウンドバックチャンネルの音声は左右サラウンドトラックにマトリックスエンコード処理することによって記録する。再生時はマトリックスデコード処理でサラウンドバックチャンネルを取り出し、サラウンドバックスピーカーで再生する。上位互換性があるのが特徴で、ドルビーデジタルEX非対応で5.1ch再生環境の場合は5.1chサラウンドとして再生される。この場合サラウンドバック音声は左右サラウンドスピーカーから再生される事になるため、音声情報の欠落は発生しない。
ドルビーサラウンド7.1
8チャンネルのディスクリート音声を使用し、5.1ch音声に新しい2つの独立チャンネルを追加した7.1chサラウンド音声。3D映画に対応。

映画のデジタル上映方式

ドルビーデジタルシネマ
従来のフィルムプリントをデジタルデータに置き換え、色彩表現の向上、ディテール再現、デジタルサラウンドを可能とした上映技術。
ドルビー3Dデジタルシネマ
DLPデジタルシネマ上映館で3D映画の上映を可能とする上映技術。プロジェクタ内部のフィルタホイールで分光した映像を、対応メガネを通して視聴することで、映像が立体化して見える。高価なシルバースクリーンではなく、一般的なホワイトスクリーンを使用可能。また一回の投資で済む上に年間ライセンス料が不要で、コスト削減が可能。
ドルビーアトモス
劇場の広さと設備に応じ最大128個の音響素材を元にリアルタイムレンダリングを実施し、最大64chのスピーカー音響となる。ドルビーアトモスは既存のサラウンドとは異なり、3次元空間を独立した動きのあるサウンド(またはオブジェクト)を、よりクリアで、より正確に配置することが可能。

マトリックスデコード再生技術

ドルビーサラウンド(アナログ)
ドルビーステレオを一般家庭用にした技術。ビデオやレーザーディスク、カセットテープなどの2.0chステレオのみ記録できる媒体に、アナログの3.0chサラウンド(フロント2chとリア1ch)を記録させることができる。専用のデコーダーや機材の無い場合は通常の2.0chステレオ、機材のある場合は3.0chサラウンドを再生させることができる。'90年代に入ってからはTVゲームにも採用された。
代表作は『スーパーダライアス』(PCエンジン)、『ジュラシックパーク』(スーパーファミコン)、『パラサイト・イヴ』(PlayStation)、『スターツインズ』(NINTENDO64)など。
ドルビープロロジック(アナログ)
ドルビーサラウンドの3.0chサラウンドを、5.0chサラウンド(フロント3chとリア2ch)に変換する技術。ドルビーサラウンドとの違いは、「2.0chステレオから位相的に3.0chサラウンド信号成分を抽出するだけの簡易型技術」がドルビーサラウンド、「ロジック(方向性強調)回路により、隣接チャンネルの分離度を高めるよう5.0chサラウンドに変換する技術」がドルビープロロジックである。
ドルビープロロジックII/IIx/IIz
さらに技術を向上させたプロロジックII(2.0chステレオを5.1chサラウンドに拡張)、プロロジックIIx(2.0chステレオや5.1chサラウンドを7.1chサラウンドに拡張)、プロロジックIIz(2.0chステレオや5.1ch~7.1chまでのサラウンドを9.1chサラウンドに拡張)が順次追加されている。
ドルビープロロジックIIは当初はデコード(再生)側だけで5.0ch/5.1ch/6.1ch化する再生オンリーの技術であったが、ドルビープロロジックIIにおいて、ゲーム用にドルビープロロジックIIインタラクティブエンコード技術が開発された。このエンコード技術を用いて、マルチチャンネル音声を2ch音声としても再生できる音声の一部としてマトリックスエンコードし、それをドルビープロロジックII(又はドルビープロロジックIIx/IIz)でデコードする事で、エンコード無しの場合に比べて制作者の意図をより大きく反映する事が可能となった。
なお、このエンコード技術を用いて制作されたゲームソフト(PS2PSPWiiGC)にはドルビープロロジックIIのロゴが表記されている。
ドルビーサラウンド(ドルビーアトモスホーム版)
2.0chや5.1ch、7.1chのコンテンツをホームシアター機器のサラウンド環境に合わせてアップミックスし再生する次世代のサラウンドテクノロジー。ドルビーサラウンドはドルビーアトモスを再生できるシステムだけではなく、従来のスピーカーレイアウトにも互換性がある。

バーチャル技術

ドルビーバーチャルスピーカー
2本のスピーカー(2chステレオ)で5.1chサラウンドを体験することができる技術。
ドルビーヘッドフォン
部屋でのスピーカー再生をシミュレートし、ヘッドフォン(2chステレオ)で5.1chサラウンドを体験することができる技術。ヘッドフォンに起こりがちな頭内定位が解消される利点があり、一部のMDプレーヤーやAVアンプ、PC用DVD/Blu-ray Disc再生ソフト、ほとんどのコードレスサラウンドヘッドフォンに搭載されている。

携帯機器向けサラウンド技術

ドルビーモバイル
携帯電話スマートフォンタブレット端末で高音質な動画や音楽の視聴を可能にする技術。一部製品ではワンセグ放送の音声をヘッドフォン接続時でバーチャル5.1chサラウンド化が可能。
日本ではNTTドコモシャープ富士通LGエレクトロニクスNECカシオMCの携帯電話・スマートフォン・タブレット、ソフトバンクモバイルHTC、シャープ、富士通MC製のスマートフォン、auKDDI沖縄セルラー電話連合)の富士通MC、シャープ製のスマートフォン・タブレットにそれぞれ搭載されている。

パソコン向けサラウンド技術

ドルビーホームシアター
PCの内蔵スピーカーやヘッドフォンでのサラウンドサウンド、音声周波数特性の補整、圧縮音源の音質向上、低音効果の向上、ドルビープロロジックIIx、音声をリアルタイムでドルビーデジタルに変換する機能を搭載。
ドルビーアドバンストオーディオ
ヘッドフォンでのサラウンドサウンド、音声周波数特性の補整、圧縮音源の音質向上、低音効果の向上機能を搭載。ドルビーホームシアターの機能削減版。
ドルビーサウンドルーム
5.1chスピーカーシステムがないような場合での2chステレオサウンド変換再生、強力で高度なデジタル信号処理テクノロジを搭載。ネットブックにも採用されている。

記録用音声技術

ドルビーデジタルレコーディング
DVDレコーダーHDD内蔵ビデオカメラで、2.0chステレオを「ドルビーデジタル」の圧縮信号で記録出来るフォーマット。
ドルビーデジタルステレオクリエーター
2.0chステレオを圧縮信号で記録できるフォーマットで、音声トラックを編集可能。
ドルビーデジタル5.1クリエーター
5.1chサラウンドを比較的容易に記録できるフォーマット。DVDオーサリングソフト、DVDレコーダー、5.1chサラウンド記録対応ビデオカメラ等に採用されている。

脚注


関連項目

外部リンク