ゴールキーパー (サッカー)

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サッカーのゴールキーパー(ワシントン州マッコード空軍基地チームのカレン中尉)

サッカーにおけるゴールキーパーGoalKeeper)は、ポジションの一つである。フィールド上の各チームに1人だけ置かれ、11人の選手の中で唯一、スローイン以外の場合でもボールを扱うことが許されている。キーパーKeeper) やアルファベット2文字でGKと略されることもある。

歴史

多くのスポーツと同様に、フットボールは戦術面における様々な変化を経験しており、新たに作り出されたポジションもあれば消えたポジションもある。ゴールキーパーはサッカーの規則が成文化された時から存在していることが確かな唯一のポジションである。システムがわずかであるか存在しておらず全員が攻撃および守備をするという考えしかなかったフットボールの初期でさえも、ゴールキーパーとしてプレーすることが指定された選手がいた。

選手のポジションについて述べられているフットボールに関する最も初期の文献は1581年のリチャード・マルカスターによるものであるが、ゴールキーパーについては明確に記されていない。ゴールを守ることが具体的に記された最も初期の文献は1602年のコーニッシュ・ハーリング英語版に関するものである。David Wedderburnは1633年に「ゴールを守る」と翻訳されるラテン語を記しているが、必ずしも固定されたゴールキーパーのポジションがあったことを意味するものではない。

当初は、相手のシュートを止めようとする時以外はゴールキーパーは大抵ゴールポストの間でプレーし移動も制限されていた。その後、プレーのシステムが変化したことによってより積極的な役割が求められるようになった。ゴールキーパーは試合中に手でボールを扱える唯一のポジションである。最初の競技規則では、ゴールキーパーは、ピッチの自陣のどこでもボールを手で扱うことが許されていた。この規則は1912年に改訂され、ゴールキーパーが手を使うことができる範囲はペナルティーエリア内に制限された。

1992年、国際サッカー評議会によって競技規則が改訂で意図的に足でバックパスされたボールを手で扱うことが禁止されるようになったことにより(バックパス・ルール)、足下でボールを扱うフィールドプレーヤーとしての能力も求められるようになった。

概要

ゴールキーパーはペナルティエリア内において手でボールに触れ、ゴールにボールを入れさせない役割を担っている。かつてはシュートストップなど、ゴール前での守備に主眼がおかれたが、1980年代末から中盤でのプレスにより守備ラインが上がったことなどで、現在ではスウィーパー的要素も求められる。また1993年のバックパス禁止ルール制定(意図的に足でバックパスされたボールを手で扱うことが禁止されるようになった)により、足下でボールを扱うフィールドプレーヤーとしての能力も求められるようになり、攻撃の起点としての戦術眼、判断力も多く求められる傾向にある。

11人のプレーヤーの中で最も運動量が少なく、全体を見渡せるポジションであるため、DFラインのみに限らず、フィールドプレーヤー全体に指示を行う重要な役割も担っている。またチームを叱咤激励、鼓舞する役割も持つ。

試合終了間際で同点の場合や、1点リードされている場面でゴールキーパーも攻撃参加に転じることがあるが、これはセットプレーの場合に行われることがあり、ゴール前での攻撃人数を増やす目的がある。プロリーグでもまれに見られるが、実際にゴールを挙げたゴールキーパーも少なからず存在する[1]

ルール上の規定

キーパーはフィールドプレーヤーと異なる色のユニフォームを着用しなければならない

ゴールキーパーに関する規定は幾つかの条項、及び通達等に分散している。

  • 第3条「競技者の数」
    • チームを構成する者の内、一人だけゴールキーパーを置かなければならないと規定されている。
  • 第4条「競技者の用具」
    • ゴールキーパーは他のフィールドプレーヤー、審判と見分けが付くように異なる色のユニフォームを着用することが義務付けられている。
    • 以前はホセ・ルイス・チラベルトホルヘ・カンポスのようにオリジナルのユニフォームを着ても問題はなかったが、現在では規定で出来なくなっている。
    • 袖の長さに関する規定はないが、ゴールキーパーのユニフォームの袖は腕を保護するため丈夫な繊維を用いた長袖であることが多い。しかし、近年は天然芝グラウンドの普及や、相手に掴まれたり、汗で腕に袖が張り付く事を避けるため、半袖を着用する選手も増えている。
    • 日中の試合では日よけのため帽子を着用することが許可されている。
    • 膝の保護の点から裾の長いパンツを着用する事が出来る。
  • 第12条「反則と不正行為」
    • GKによる反則で、相手に間接フリーキックが与えられる行為として以下の4つが規定されている。これらの行為はたとえペナルティーエリア内であっても許されていない。
      • ボールを6秒以上手で保持する
      • 保持していたボールを離してから、他の競技者が触れる以前に、再び手で触る
        • 「保持する」とは手でコントロールするという意味であり、いったん手を離れてバウンドさせたボールをつかんだ場合はボールを離したことにはならず反則とはならない。
      • 味方のプレーヤーからキックで返されたボール(バックパス)を手で触れる。
      • 味方のプレーヤーからスローインで返されたボールを手で触れる。
        • 味方からのバックパスについては当該条項・決定3により、頭、ひざ、胸などで返されたボールについてはゴールキーパーは手で触れることが出来る。
  • キーパーチャージ
    • かつてはゴールエリア内での身体的接触からキーパーを保護することを目的とした反則規定(キーパーチャージ)が存在したが、1997年の規則改正により廃止され、現在はフィールドプレーヤーと同等の扱いとなっている。

その他のルールに関する規定

  • キーパーに対するファウル
    • ゴールキーパーは手でボールに触れボールをゴールに入れさせない役割を担っている。そのため、ゴールを狙いにくる選手とのボディーコンタクトに対して、無防備になってしまう事がしばしばある。このため、キーパーチャージが廃止された現在でも、キーパーに対するファウルは厳しく取られる傾向がある。
  • キーパーがいなくなった場合
    • ゴールキーパーは非常に専門性が強いポジションであるため、一人以上のゴールキーパーが控えとしてベンチに配置されることが一般的である。ゴールキーパーの交代の際には、殆どの場合この控えのゴールキーパーが代わりに出場することとなる。
    • ゴールキーパーがレッドカードにより退場処分となった際、ルール上、必ず一人はゴールキーパーを置かなければならないため、フィールドプレーヤーと控えゴールキーパーを交代させなければならない。そのため、交代枠を1つ使ってしまうなどの点で、ゴールキーパーの退場はフィールドプレーヤーのそれ以上に厳しいものとなる。
    • ただし、突発的にゴールキーパーを務められるプレーヤーが存在しない、あるいはできない場合も想定される。控えのゴールキーパーも怪我をしてしまったとき、控えにゴールキーパーを置かなかったとき、交代枠を使い切ってしまった時は、ゴールキーパーを置かなくてはいけないとするルール上、ゴールキーパーとして登録されていないフィールドプレーヤーがゴールキーパーを務めなければならないこととなる。さらに、ゴールキーパーのユニフォームは他のプレーヤーや審判と違う色のものでなくてはならないとする規定も存在するため、この場合フィールドプレーヤー用のユニフォームからゴールキーパー用のユニフォームに着替えてプレーしなければならない(ただし上半身のみで良い。背番号は関係なく退場するGK、または控えのGKからGK用のユニフォームとグローブを借りることになっている)。
  • 背番号
    • ゴールキーパーの背番号は1番が一般的で、現在ではプロアマ問わずゴールキーパー以外のプレーヤーが1番を着用していることは滅多に無い(かつてアルゼンチン代表がアルファベット順に背番号を定めたため、ミッドフィルダーのオズワルド・アルディレスが1番を着用した時代がある)。場合によっては1番はゴールキーパー用と定める大会も存在している。背番号1番はチームの正ゴールキーパーが着用するイメージが一般的であるが、逆にゴールキーパー以外のプレーヤーが好んで着用する傾向にある2番から11番までの背番号をゴールキーパーが着用することも滅多に無く(かつてオランダ代表が前述のアルゼンチン代表同様アルファベット順に背番号を定めたためワールドカップ西ドイツ大会ヤン・ヨンクブルートが背番号8を付けた事例がある。また同じく西ドイツ大会でポーランド代表ヤン・トマシェフスキが背番号2を付けた事例がある)、Jリーグにおいては規約により禁止されている[2]
  • 怪我の治療
    • キーパーが怪我をした際は、フィールド上で治療が行われ、その間プレーは停止する。この間に要した時間はアディショナルタイムに加算される。

技術

能力

相手フリーキック時に味方ディフェンスに対して指示を出すゴールキーパー

ポジショニング、シュートに対するセーブ力、ゴール前に上がってくるハイボールの処理、さまざまな状況における的確な判断力が必須である。

身体能力としてはまずは高い身長と長い手足が求められる。単純にボールを止められる範囲が広がり、ハイボールの処理もしやすくなるためである。プロレベルであれば概ね180cm以上が求められる。170cm台はかなり珍しい存在(菅野孝憲など)であり、ホルヘ・カンポス(身長168cm)のような160cm台は極小の例外である。さらに、ゴール前で混戦となった時に競り負けない強靱さと頑丈さも必要とされる。またシュートに対して瞬時に反応できる動体視力と反射神経、瞬発力なども求められる。声の大きさも重要な能力である。

キックするキーパー

近年のサッカー戦術では攻撃時にはディフェンダーの押し上げが要求されることから、高く上がったディフェンダーの後ろのスペースをペナルティエリアを飛び出して守るスィーパー的な役割がゴールキーパーに求められることが多くなってきている。攻撃の起点として見られるようになり、フィードの精度など、フィールドプレイヤー的な技術も大きく評価されるようになった。キックの精度が非常に高いゴールキーパーも大勢存在し、そういった選手は攻撃の起点としても機能するほか、ホセ・ルイス・チラベルトやロジェリオ・セニのようにゴールキーパーでフリーキックペナルティーキックを蹴る者もいる。また、ゴールキーパーの蹴った自陣からのフリーキックやクリアボールが直接相手のゴールに入ることもまれにある。また、ゲーム終盤に守備を度外視してでも1点が欲しい場合、パワープレイの一環でゴールキーパーが相手ペナルティエリアまで上がることもある。

フィールドプレーヤーにも言えるが、特にゴールキーパーの場合コミュニケーション能力が強く求められ、それは「神の声」とも呼ばれるほどである。一番後ろで相手の攻撃フォーメーションを見通して、ディフェンスラインに対応のための指示を与えることもゴールキーパーの重要な仕事であるため、なるべくならディフェンスラインと言語を共通にしていることが望ましい。日本のJリーグにおいても開幕から間もない頃はシジマールジルマールなど外国籍のGKも所属していたが、最近では前述の理由によりほとんど所属しなくなっており、2003年ヴァンズワムジュビロ磐田を退団してから2007年ジウバーニセレッソ大阪に入団するまで4年間外国籍のゴールキーパーがJリーグに所属していなかった。JFLFC琉球には南アフリカW杯アルジェリア代表にも選ばれたライス・エンボリが在籍していたが、アフリカ人GKが日本でプレーするのは極めて稀である。現在は2009年にセレッソ大阪に入団した金鎮鉉をはじめ韓国人選手が正GKを務めるチームが増えてきているが、その他の国のGKは数は少ない。[3][3]

ただし、経済的に最も成功しているとされるイングランド・プレミアリーグでは優秀な外国人ゴールキーパーを世界から集めた結果、イングランド人ゴールキーパーの出場機会が極端に減少し、育成と代表選出に困難をきたしているという[4]

ポジション争い

上述のように、フィールドプレーヤーと比較して非常に専門性が強いポジションである。ピッチに立てるGKはチームで一人だけであり、体力の消耗の少ないポジションのため怪我などのアクシデントが起きない限り途中出場する機会は滅多に与えられない。故に、クラブ、代表とも、チーム内でのポジション争いは熾烈を極める。ひとたびポジションを失えば、挽回のチャンスが一度たりともやってこない事すら有り得る。また、第3・第4以下のGKともなれば、ベンチにすら入れないために、モチベーションの維持に悩まされかねず、一度も公式試合に出ることなく引退する選手も少なくない。

フィールドプレーヤーよりも選手寿命が長く、経験がモノを言うポジションでもあるため、若いGKがチャンスを得るのは難しい。プロ契約から数年を経てもリーグ戦出場経験がほとんどないGKも多い。強豪国の代表クラスを除けば、出場機会を求めてディヴィジョンを跨いだ移籍をするケースも珍しくない。

代表チームではトップクラブのGK同士のプライドがぶつかり合ってしまう事もある。フランス代表でのファビアン・バルテスグレゴリー・クーペドイツ代表でのオリバー・カーンイェンス・レーマンイタリア代表でのフランチェスコ・トルドジャンルイジ・ブッフォンなどといった正GK争いをめぐる相克もあった。

日本代表でも1998年から2010年までの12年間、川口能活楢崎正剛が正GKの座を争い続けたが川島永嗣の台頭によって終止符が打たれた。

著名なゴールキーパー

IFFHS選定20世紀のゴールキーパー

IFFHSは2006年に20世紀で最も偉大なゴールキーパーを選定した。この内上位20人は以下の様になっている。[5]

  1. ソビエト連邦の旗 レフ・ヤシン
  2. イングランドの旗 ゴードン・バンクス
  3. イタリアの旗 ディノ・ゾフ
  4. ドイツの旗 ゼップ・マイヤー
  5. スペインの旗 リカルド・サモラ
  6. パラグアイの旗 ホセ・ルイス・チラベルト
  7. デンマークの旗 ピーター・シュマイケル
  8. イングランドの旗 ピーター・シルトン
  9. チェコの旗 フランティシェク・プラニチカ
  10. アルゼンチンの旗 アマデオ・カリーソ
  11. ブラジルの旗 ジウマール・ドス・サントス・ネヴェス
  12. ウルグアイの旗 ラディスラオ・マズルキヴィッチ
  13. 北アイルランドの旗 パット・ジェニングス
  14. アルゼンチンの旗 ウバルド・フィジョール
  15. メキシコの旗 アントニオ・カルバハル
  16. ベルギーの旗 ジャン・マリー・プファフ
  17. ソビエト連邦の旗 リナト・ダサエフ
  18. ハンガリーの旗 グロシチ・ジュラ
  19. スウェーデンの旗 トーマス・ラヴェリ
  20. イタリアの旗 ワルター・ゼンガ

IFFHS選定年間最優秀ゴールキーパー

1987年以降IFFHSが選定した年間最優秀ゴールキーパーは以下の通りである。[6]

脚注

  1. ^ 近年では2014年11月30日J1昇格プレーオフ準決勝ジュビロ磐田モンテディオ山形戦において山形の山岸範宏が後半アディショナルタイムにヘディングでゴールを挙げている。
  2. ^ Jリーグ公式サイト Jリーグ規約・規程集 ユニフォーム要項第3条4項 2011年4月20日閲覧
  3. ^ a b Twitter, Trends (2015年6月16日). “[www.trendsmania.com/trends/キーパー キーパー Latest News Updates]”. Trendsmania. 2015年6月16日閲覧。
  4. ^ プレミアが生んだ悲劇 イングランドの弱点は… スポーツニッポン2010年1月26日
  5. ^ The World's best Goalkeeper of the 20th Century
  6. ^ IFFHS' World's Best Goalkeeper of the Year - RSSSFによる記録

関連項目