アンネの日記破損事件
アンネの日記破損事件 | |
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場所 | 杉並区立図書館 他 |
標的 | 「アンネの日記」 およびその関連図書 |
日付 | 2014年2月 |
概要 | 都内の図書館および書店の「アンネの日記」およびその関連図書が破られる |
損害 | 「アンネの日記」およびその関連図書 |
犯人 | 東京都の36歳の男 |
対処 | 男を不起訴処分 |
管轄 |
警視庁 杉並警察署 |
アンネの日記破損事件(アンネのにっきはそんじけん)とは、2014年2月に東京都内の図書館などでアンネ・フランクに関する書籍が破られた事件。警視庁の名称はアンネ・フランク関連図書を狙った連続器物損壊事件[1]。
事件
自治体・店名 | 被害館・店数 | 被害冊数 |
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杉並区[2][3] | 11館 | 121冊 |
中野区[4] | 5館 | 54冊 |
練馬区[5] | 9館 | 44冊 |
新宿区[4][6] | 3館 | 39冊 |
豊島区[4][7] | 12冊 | |
武蔵野市[8] | 2館 | 17冊 |
西東京市[9] | 3館 | 10冊 |
東久留米市[10] | 4館 | 13冊 |
横浜市[11] | 2館 | 2冊 |
ジュンク堂書店[12] | 1店 | 8冊 |
2014年2月20日、東京都内の公立図書館が所蔵する「アンネの日記」とその関連図書が何者かによってページを破られる被害に遭っていたことが判明した[13][14]。
被害に遭ったのはいずれも東京23区北西部とそれに隣接する杉並区・中野区・練馬区・新宿区・豊島区・武蔵野市・西東京市・東久留米市にある公立図書館が所蔵する「アンネの日記」やその研究本、ホロコースト関連書籍などで、一般書・児童書・外国語本など幅広いジャンルに及んだ[15]。なお、中にはいずれも一部のページをカッター[16]や手でちぎり取るような形で損壊されており、このうち豊島区では2013年2月の時点で破損が発見されていた[15]。この事件を受けて各自治体は器物損壊容疑での被害届を警視庁に提出し[15]、警備員や職員による巡回を強化する一方[17]、一部の都立図書館では「アンネの日記」の開架を取り止める動きも見られた[15]。また、後に神奈川県横浜市の横浜市中央図書館と神奈川図書館[11]、ジュンク堂書店池袋本店[18]でも同様の被害があったことが判明した。
捜査
警視庁捜査一課は杉並警察署に本件に関する特別捜査本部を設置、本格的捜査を開始し[19][20]、3月14日、杉並区の区立南荻窪図書館で関連本23冊を破った器物損壊容疑で当時36歳の東京都小平市の無職の男を逮捕した[21]。同年4月4日に杉並区荻窪の中央図書館で関連本20冊を破った器物損壊容疑で再逮捕された[22][23]。
捜査関係者によると、2月19日と22日に手塚治虫の写真が添えられた上で「アシスタントとゴーストライターは違います」などと意味不明の文言が手書きされたビラを貼りつける目的で被害のあったジュンク堂書店池袋本店に立ち入った建造物侵入容疑で3月7日に逮捕した際に、男がアンネ関連の書籍を破ったことを自供したという[24][25]。男は「破った本の紙片は捨てた」と供述し、供述通りの場所から紙片が見つかったことから秘密の暴露と判断され、器物損壊容疑での逮捕につながった[26]。また、男は「アンネ自身が書いたものではないと批判したかった」と犯行動機を語っている(2014年当時は「アンネの日記」はアンネ・フランクの単独著作物であるとされていたことから、このような主張は「以前から繰り返し語られる、有名な陰謀論」と解されていた。その後2015年に至り、アンネ・フランク財団が「オットー・フランクは「日記」の共著者である」との見解を示している[要出典])[27]。また、2013年の2月や5月にも同様の犯行を行っていたという[28]。
男は「防犯カメラに写らないように位置を確認していた」「自転車で移動した」と供述している[22]。また、男は都内38図書館での関与を認める供述をしているが、横浜市の図書館での被害については関与を否定しているという[29]。
男は精神科への通院歴があり、逮捕時から意味不明な供述を繰り返している[30]。刑事責任能力に問題があったため、本件の器物損壊罪での逮捕以降も男に対する匿名報道が続いた。3月19日の衆議院内閣委員会において、古屋圭司国家公安委員長は「(逮捕された男は)日本国籍である」と答弁している[31]。4月16日から6月16日まで専門家による精神鑑定が実施されていた[32]。
6月20日、東京地方検察庁は被疑者が犯行当時心神喪失の状態にあったとして不起訴とした[33]。東京地検は「人種差別的な思想に基づくとは認められなかった」としている[34]。
反響とその後
菅義偉内閣官房長官は2月21日の記者会見で本件について「わが国として受け入れられるものではない。極めて遺憾なことであり、恥ずべきことだ」と述べた[35][36]。
国外ではオランダ・アムステルダムの博物館「アンネ・フランクの家」が「ショックを受けており、詳細な事実を知りたい」とのコメントを出したほか[37]、ユダヤ系団体のサイモン・ウィーゼンタール・センターは、事件はホロコーストに関する記憶を侮辱する組織的な試みであると非難し、捜査と実行者の特定を求める声明を発表した[38]。
下村博文文部科学大臣は2月28日の記者会見で本件について「断固許されるべきことでない」と非難している[39]。
この被害を受けた図書館に対し、イスラエル大使館、日本ユダヤ教団が約300冊のアンネやホロコーストに関する書籍の寄贈を行った[40]ほか、アンネ・フランク・ハウス財団も図録とアンネの隠れ家の模型を寄贈した[41]。また、個人からの寄贈も相次いでおり、「杉原千畝」[42]や「キュアハッピー 星空みゆき」[43][44](アニメ『スマイルプリキュア!』の主人公)名義での寄贈もなされている。
兵庫県神戸市の11の図書館はこの事件を受け、「アンネの日記」などの本を並べたコーナーを設けた。中央図書館によると、このようなケースは珍しいという[45]。
メディア史学者の佐藤卓己は、本件の犯人像や動機が不明な段階から「ネオナチによる犯行」「日本の右傾化が背景」などとメディアが画一的な報道を行ったことに関して、ウォルター・リップマンの『世論』を引用しつつ批判している。ただし佐藤は「図書の破損はそれが何であれ厳しく追及されるべき犯罪」と述べ、事件の行為が犯罪であるとの認識ではメディアの論調に同調している[46]。
安倍晋三内閣総理大臣は、3月23日にアムステルダムのアンネ・フランクの家を訪問し、今般の事件に際して「大変残念で、二度と起こらないように希望する」と語り[47]、「アンネ・フランクの家」から日本の図書館に対して同館の図録・模型の寄贈を受けたことに対して深く感謝していることを伝えている[48]。
出典
- ^ “「事件だるま2014」警視庁から帰る-「黒子のバスケ」など戒名背負う”. 高崎前橋経済新聞. (2014年12月4日)
- ^ “アンネ・フランク関連書籍の破損被害について”. 杉並区立図書館. (2014年2月25日)
- ^ “オランダ大使が「アンネ・フランク展」を視察 /東京”. THEPAGE. (2014年5月8日)
- ^ a b c “都内の公立図書館「アンネの日記」265冊が切り裂きなど被害”. スポニチアネックス. (2014年2月21日). オリジナルの2014年3月4日時点におけるアーカイブ。
- ^ “「アンネの日記」等の破損被害について”. 練馬区立図書館. (2014年3月7日). オリジナルの2014年3月8日時点におけるアーカイブ。
- ^ “新宿区立図書館でのアンネ・フランク等関連書籍の破損被害について”. 新宿区. (2014年2月25日)
- ^ “豊島区立図書館で発見されたアンネ・フランク関連の毀損本を中央図書館で展示中”. 豊島区. (2014年9月3日)
- ^ “「アンネ・フランク」関連図書等の破損被害について”. 武蔵野市立図書館. (2014年3月10日). オリジナルの2014年3月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ “アンネ・フランク関連書籍の破損被害について”. 西東京市図書館. (2014年3月1日)
- ^ “「アンネの日記」と関連する書籍の毀損被害について”. 東久留米市立図書館. (2014年2月26日). オリジナルの2014年3月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b “「アンネの日記」破損事件、横浜の2図書館でも/神奈川”. 神奈川新聞. (2014年2月26日). オリジナルの2014年3月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ “アンネ本私が破った 書店侵入男が供述”. 日刊スポーツ. (2014年3月14日). オリジナルの2014年3月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ “「アンネの日記」破損相次ぐ 都内図書館で200冊超”. スポニチアネックス. (2014年2月20日). オリジナルの2014年3月7日時点におけるアーカイブ。 2015年10月25日閲覧。
- ^ “「アンネの日記」破損被害相次ぐ 都内各地の公立図書館”. 朝日新聞. (2014年2月21日). オリジナルの2014年2月21日時点におけるアーカイブ。 2015年9月11日閲覧。
- ^ a b c d “アンネの日記:関連本破損、東京の3市5区で294冊被害”. 毎日新聞. (2014年2月21日). オリジナルの2014年2月25日時点におけるアーカイブ。 2015年7月3日閲覧。
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- ^ “『アンネの日記』事件についに決着か? 防犯カメラに映っていた男性が自供”. ガジェット通信. (2014年3月13日)
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- ^ “アンネの日記:破損容疑者「日記はアンネが書いてない」”. 毎日新聞. (2014年3月14日). オリジナルの2014年3月14日時点におけるアーカイブ。
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- ^ “アンネ本「都内38図書館で破った」 容疑者が供述”. 朝日新聞. (2014年4月4日). オリジナルの2014年4月4日時点におけるアーカイブ。
- ^ “「たくさん本を破った」男、器物損壊で再逮捕へ”. 読売新聞. (2014年3月14日). オリジナルの2014年3月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ “内閣委員会議録第六号” (PDF). 衆議院事務局. p. 28 (2014年3月19日). 2015年10月21日閲覧。
- ^ “容疑の男「心神喪失」…アンネ本破損、不起訴へ”. 読売新聞. (2014年6月19日). オリジナルの2014年6月19日時点におけるアーカイブ。
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- ^ “アンネの日記破損:36歳男「心神喪失状態」で不起訴処分”. 毎日新聞. (2014年6月20日). オリジナルの2014年6月21日時点におけるアーカイブ。
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- ^ “イスラエル大使館など関連書籍を寄贈”. 産経新聞. (2014年2月27日). オリジナルの2014年2月27日時点におけるアーカイブ。
- ^ “「アンネの日記」被害最多の区に、財団が贈り物”. 読売新聞. (2014年3月10日). オリジナルの2014年3月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ “アンネの日記:書籍寄贈相次ぐ 「杉原千畝」名の送り主も”. 毎日新聞. (2014年2月27日). オリジナルの2014年2月28日時点におけるアーカイブ。
- ^ “プリキュア主人公が横浜の区役所にアンネ本”. 日刊スポーツ. (2014年3月3日). オリジナルの2014年3月7日時点におけるアーカイブ。 2015年10月25日閲覧。
- ^ “アンネの伝記など届く 3回目の匿名寄付 神奈川図書館に寄贈”. 東京新聞. (2014年3月4日). オリジナルの2014年3月19日時点におけるアーカイブ。
- ^ “神戸の11図書館で「アンネコーナー」 書籍破損事件後”. 神戸新聞. (2014年3月13日) 2015年9月26日閲覧。
- ^ “画一的なアンネ本破損報道 京都大学大学院教育学研究科准教授・佐藤卓己”. 産経新聞. (2014年3月23日). オリジナルの2014年3月23日時点におけるアーカイブ。 2015年7月3日閲覧。
- ^ “安倍首相、アムステルダムで「アンネの家」を訪問”. 産経ニュース. (2014年3月24日) 2015年9月6日閲覧。
- ^ “安倍総理大臣のアンネ・フランクの家訪問”. 日本国外務省 (2014年3月23日). 2015年10月30日閲覧。